トリウム系列は、放射性崩壊系列の中で「4n系列」と呼ばれる特徴的な系列です。この系列に属する全ての核種の質量数は4で割り切れる数になっており、トリウム232(Th-232)を親核種として始まります。最終的には安定核種である鉛208(Pb-208)に到達するまで、複数の放射性崩壊を繰り返します。
参考)【絶対に合格する放射化学Part3】出題された核種の半減期と…
質量数の規則性を覚えることが、トリウム系列を理解する第一歩となります。例えば、トリウム232、ラジウム228、ラドン220、鉛208など、系列中の全ての核種の質量数を4で割ると余りが0になります。この特徴により、他の崩壊系列(ウラン系列4n+2、アクチニウム系列4n+3、ネプツニウム系列4n+1)と明確に区別することができます。
参考)壊変系列、崩壊系列 - SIRABE
トリウム232の半減期は約1.4×10¹⁰年(140億年)と非常に長く、これは系列中で最も長い半減期です。この長い半減期のため、トリウム鉱石などでは系列中の全核種が放射平衡の状態にあることが多いという特徴があります。二番目に半減期が長い核種はラジウム228で5.76年であり、生成後約60年を経過したトリウム鉱では全核種の間に永続平衡が成り立ちます。
トリウム系列における崩壊の回数を正確に把握することが、効率的な記憶につながります。この系列では、α崩壊が6回、β崩壊が4回発生します。α崩壊では質量数が4減少し、原子番号が2減少します。一方、β崩壊では質量数は変化せず、原子番号が1増加します。
参考)https://contest.japias.jp/tqj14/140054/doitai.html
質量数の変化を計算すると、トリウム232から鉛208への変化がα崩壊だけで説明できることがわかります。質量数の減少は232-208=24であり、これをα崩壊1回あたりの減少量4で割ると、24÷4=6回となります。この計算方法は「上から攻める」と呼ばれ、まず質量数の変化からα崩壊の回数を求める手順です。
参考)【高校物理】「放射性同位体の崩壊」(練習編)
原子番号の変化からβ崩壊の回数を求めることができます。トリウムの原子番号は90、鉛の原子番号は82で、その差は8です。α崩壊6回により原子番号は12減少するはずですが、実際の減少は8なので、β崩壊により4増加したことになります。したがって、β崩壊の回数は4回と計算できます。この「α崩壊で2減って、β崩壊で1増える」という関係を理解することが重要です。
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トリウム系列の主要な核種とその半減期を覚えるには、特徴的な核種に注目する方法が効果的です。親核種のトリウム232は半減期が約140億年と極めて長く、これは地球の年齢(約46億年)よりも長いため、現在でも天然に豊富に存在しています。
参考)トリウム - Wikipedia
ラジウム228は半減期が約5.76年で、トリウム系列の中で2番目に長い半減期を持ちます。このラジウム228の特徴を活用して、ウラン系列のラジウム226(半減期約1600年)と対比させて記憶することができます。ラジウム228の半減期が短いため、沿岸海水と外洋海水の判別に利用されるという実用的な側面もあります。
参考)コース: 崩壊系列_ウラン系列&トリウム系列
トリウム228はラジオトリウムとも呼ばれ、半減期は約1.92年です。この核種から鉛212、ビスマス212などの短寿命放射能が生じ、最終的に鉛208に到達します。系列の終点である鉛208は、陽子数82という「魔法数」を持つ安定核種であり、これ以上崩壊しない終着点となります。魔法数は原子核の安定性を説明する重要な概念で、放射性崩壊系列の終点は全て魔法数を持つ鉛またはタリウムの同位体となっています。
参考)トリウム-232(232Th)
トリウム系列を他の天然放射性崩壊系列と比較することで、各系列の特徴がより明確になります。天然の崩壊系列には、トリウム系列(4n)、ウラン系列(4n+2)、アクチニウム系列(4n+3)の3つが存在し、人工放射性核種を含めるとネプツニウム系列(4n+1)も加わります。
参考)崩壊系列(ホウカイケイレツ)とは? 意味や使い方 - コトバ…
ウラン系列は親核種がウラン238で、質量数が全て4n+2の形になります。この系列は8回のα崩壊と6回のβ崩壊を経て、最終的に鉛206に到達します。トリウム系列と比べると、α崩壊の回数が2回多く、質量数の減少も大きいという違いがあります。また、ウラン系列にはラドン222という有名な核種が含まれており、環境放射能の観点から重要視されています。
参考)魔法数|放射性元素の終着点 href="https://www.tanaakk.com/2025/03/14/magic-number/" target="_blank">https://www.tanaakk.com/2025/03/14/magic-number/amp;#8211; TANAAKK
アクチニウム系列は親核種がウラン235で、質量数が全て4n+3の形になります。この系列は7回のα崩壊と4回のβ崩壊を経て、鉛207に到達します。ウラン235とウラン238の存在比は約0.7:9で一定であり、海水中の濃度も均一に存在しています。ネプツニウム系列(4n+1)は親核種がネプツニウム237で、半減期が214万年と短いため、地球生成から46億年を経た現在では天然には痕跡レベルでしか存在せず、消滅天然放射性核種とされています。
トリウム系列を効率的に記憶するには、実用的な応用例や独自の記憶術を組み合わせることが有効です。語呂合わせを活用した記憶法は、複雑な情報を短時間で覚えるのに適しています。例えば、4つの崩壊系列の頭文字を取って「取る盗むあげる(トリウムのT、ネプツニウムのN、ウランのU、アクチニウムのA)」という語呂合わせが提案されています。
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トリウム系列の実用的な側面として、海洋学での応用があります。トリウム232から生成するラジウム228は半減期が約6年と短く、ウラン238から生成するラジウム226は半減期が1600年と長いため、これらの同位体の割合を測定することで、外洋海水なのか沿岸海水(河川の影響を受けた履歴がある)なのかを判別することができます。このような実用例を知ることで、単なる暗記ではなく理解に基づいた記憶が可能になります。
参考)コース: 崩壊系列_ウラン系列&トリウム系列
トリウム系列の核種には、かつて特殊な仮称が使われていた歴史があります。ラジウム228はメソトリウム1、トリウム228はラジオトリウム、ラドン220はトロン(トリウムエマネーション)などと呼ばれていましたが、現在は使用されていません。こうした歴史的な名称を知ることも、系列の理解を深める一助となります。また、トリウム系列は地殻中に10ppm前後と豊富に存在する一方、水に溶けにくく海水中には少ないという化学的特性も、他の系列と区別する記憶のポイントになります。
参考)トリウム系列(トリウムケイレツ)とは? 意味や使い方 - コ…
トリウム系列の詳細な崩壊図と各核種の半減期データ - ATOMICA(日本原子力研究開発機構)
壊変系列・崩壊系列の定義と4つの系列の比較表 - SIRABE(量子科学技術研究開発機構)
診療放射線技師国家試験における放射化学・崩壊系列の出題傾向と対策 - 診療放射線技師国家試験対策ノート