ニトロソアミン食品量と健康リスク低減策

加工肉や魚介類に含まれるニトロソアミン。その含有量は食品によって大きく異なり、調理方法でも変化します。発がん性が指摘されるこの物質について、私たちはどれだけ摂取しても安全なのでしょうか?

ニトロソアミン食品量

📊 この記事で分かること
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ニトロソアミンの含有実態

加工肉や魚介類など、どの食品にどれくらい含まれているかを詳しく解説

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健康への影響

発がん性リスクと許容摂取量の基準について科学的根拠を基に説明

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低減する調理法

家庭でできる簡単な調理の工夫でニトロソアミンを減らす方法

ニトロソアミンが検出される食品の種類と含有量

 

ニトロソアミン類は、私たちが日常的に口にする様々な食品に含まれています。特に亜硝酸ナトリウムや硝酸塩を使用する加工肉製品では、その含有量が比較的高くなる傾向があります。欧州食品安全機関(EFSA)の調査によれば、食品からの主な摂取源は畜肉及び畜肉製品であり、魚介類からの摂取も無視できない量となっています。

 

参考)ニトロソアミン類とは:農林水産省

具体的な含有量を見ると、牛肉製品ではシークカバブで20.87μg/kg、バーガーパティで20.44μg/kg、ステーキで15.84μg/kgのニトロソアミンが検出されています。スペインの商業用発酵ソーセージと乾燥ハムの調査では、最大で5.4μg/kgの揮発性ニトロソアミン(VNA)が確認されました。日本国内の調査では、ソーセージ16品目で平均2.55mg/kgの亜硝酸ナトリウムが検出されており、ベーコン5品目では平均7.0mg/kgとなっています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8898760/

魚介類については、日本における食品の平均的な1日摂取量から計算すると、ニトロソアミンの摂取量全体の88%が魚介類に由来すると推定されています。魚類中の最大濃度は0.0004μg/g、貝類では0.0001μg/g未満とされ、これらの平均一日摂取量(魚類等61.3g/人/日、貝類2.8g/人/日)から摂取量が算出されています。

 

参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20250206ki1amp;fileId=320

ニトロソアミン摂取量の基準値と許容範囲

ニトロソアミン類の安全性を評価するため、国際機関や各国の規制当局は許容摂取量を設定しています。世界保健機関(WHO)が示した主要なニトロソアミン類の許容一日摂取量は以下の通りです。N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)は96.0ng/日、N-ニトロソジエチルアミン(NDEA)は26.5ng/日、N-ニトロソメチルブチルアミン(NMBA)は96.0ng/日となっています。

 

参考)ニトロソアミン類試験|医薬品品質試験・局方試験|【分析】|試…

日本における調査では、ニトロソアミンの1日摂取量は0.5μg/人/日(500ng/日)と推定されており、N-ニトロソジメチルアミン単体では、マーケットバスケット方式で0.0540~0.087μg/日、陰膳方式で同様の範囲が報告されています。農林水産省のリスクプロファイルシートによれば、年齢層別の推定摂取量は幼児(12-35ヶ月)で5,100~15,000ng/日、子供(3-9歳)で6,900~60,000ng/日、青年(10-17歳)で8,600~45,000ng/日となっています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_chem-56.pdf

欧州食品安全機関(EFSA)のリスク評価では、限られたデータであるものの、全ての年齢層で多食者に健康上の懸念があると評価されています。特にばく露マージン(MOE)値が10,000を有意に下回る場合があり、既存の科学的不確実性を考慮しても、ニトロソアミンへの食事性ばく露はすべての年齢層で健康リスクを示す可能性が非常に高いと結論されました。

 

参考)食品安全関係情報詳細

ニトロソアミンの発がん性と健康リスク

ニトロソアミン類の最も深刻な健康リスクは、その発がん性にあります。国際がん研究機関(IARC)は、ニトロソアミン類のうちN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)とN-ニトロソジエチルアミン(NDEA)を「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類しています。実際、300種類以上のN-ニトロソ化合物(NOC)の90%以上に発がん性があると報告されています。

 

参考)https://www.env.go.jp/content/900411529.pdf

動物実験では、N-ニトロソジメチルアミンの発がん性が特に強力であることが確認されています。わずか0.0001~0.0005%をえさや飲料水に混ぜてラットに与えた実験で、肝臓や腎臓にがんが認められました。このような遺伝毒性および発がん性を持つニトロソアミンは、体内でチトクロームP450酵素系により代謝されると、変異原性および発がん性のある化合物に変換されます。

 

参考)ハム・ベーコン・ソーセージは絶対NG!猛毒の化学物質含有、強…

2015年には世界保健機関(WHO)/国際がん研究機関(IARC)が、亜硝酸やニトロソアミンを含有する加工肉を発がん性が確実だとされるグループ1に指定し、赤肉はおそらく可能性があるという2Aに分類しました。疫学研究では、ニトロソアミン摂取と胃がんや上部消化管がん、脳腫瘍との関連性が示唆されており、特に大腸がんのリスク上昇との関連が指摘されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11409079/

ニトロソアミン量を低減する調理方法

家庭での調理方法を工夫することで、食品中のニトロソアミンやその前駆物質である硝酸態窒素を効果的に低減できます。最も効果的な方法の一つは、葉物野菜を茹でる調理法です。ホウレンソウや小松菜、チンゲン菜などの葉菜類は、多めのお湯でサッと茹でることで、葉に含まれた硝酸態窒素が水に溶け出します。

 

参考)硝酸態窒素・亜硝酸態窒素とは?なるべく身体に取り入れない方法…

茹でる際のポイントは3つあります。1つ目は、たっぷりの湯を沸かし、沸騰したら野菜を入れてサッと茹でること。2つ目は、ごく少量の塩を入れることで、鮮やかな緑に茹で上がるだけでなく、浸透圧のため旨味が抜けにくくなります。3つ目は、茹でた野菜を流水で冷やし、よく絞ることです。これらの工程で約50%もの硝酸態窒素をカットできるとされています。

また、葉物野菜の塩漬けを水洗いする方法も有効です。塩漬けにしたものを水洗いすることで、硝酸態窒素を約30%低減できます。この調理法のメリットは、加熱しないため熱に弱い栄養分もそのまま摂取できることです。

肉類の調理では、調理温度が重要な要素となります。100℃以下での調理ではニトロソアミンはほぼ増えることはありませんが、高温調理ではその量が増える傾向があります。実験では、電子レンジを使用するとその増加量をかなり抑えられる結果となりました。さらに、ハンバーグを調理する際には糖濃度が微妙にニトロソアミン生成に影響を与え、0.7%以上の糖濃度がニトロソアミン生成を低減するのに有効であることが分かっています。

 

参考)ニトロソアミン - Wikipedia

ニトロソアミン検出における測定技術の進歩

ニトロソアミン類の正確な検出と定量は、食品安全管理において極めて重要な課題です。現代の分析技術では、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)や液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)が主流となっています。米国食品医薬品局(FDA)のガイダンスでは、ニトロソアミン類は定量下限0.03ppm以下の分析法を用いることが求められており、これにより微量なニトロソアミンでも正確に検出できるようになっています。

 

参考)医薬品中のニトロソアミン類化合物の分析 : 株式会社島津テク…

具体的な分析手法として、固相マイクロ抽出(SPME)に続くタンデム四重極ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-QQQ-MS)が用いられています。この方法により、8種類の揮発性ニトロソアミン(VNA)のうち5種類を食品サンプルから同定・定量することが可能です。検出限界(LOD)は0.05~0.3μg/kg、定量限界(LOQ)は0.85~1.5μg/kgの範囲にあります。

抽出方法も重要な要素で、3つの異なる方法が比較されています。超音波抽出法の平均回収率は73%、オートクレーブ10分処理では85%、オートクレーブ20分処理では62%となっており、オートクレーブ10分処理が最も効率的な抽出方法とされています。在線样品制备技術(オンラインSPE、管内SPME、乱流クロマトグラフィー)と液体クロマトグラフィー質量分析システムを組み合わせることで、自動化分析が実現し、人為的誤差を減らし、精度と再現性を向上させることができます。

 

参考)301 Moved Permanently

<参考リンク>
農林水産省のニトロソアミン類に関する公式情報では、食品中の含有実態と健康リスクについて詳しく解説されています。

 

農林水産省「ニトロソアミン類とは」
食品安全委員会による令和6年度の評価検討資料では、日本国内のニトロソアミン摂取量の最新データが公開されています。

 

食品安全委員会「令和6年度検討資料」
ドイツ連邦リスク評価研究所の報告では、EFSAによる最新のリスク評価の詳細が記載されています。

 

食品安全委員会「食品安全関係情報詳細」

 

 


【ICH M7 変異原性不純物(品質パート)】パージファクター活用(スコアリングと判定基準)及びニトロソアミン類のリスク評価