ミョウバンは薬局やスーパーで手軽に購入できる身近な物質ですが、実は透明で美しい正八面体の結晶を作ることができます。料理のアク抜きや漬物の色みをよくする働きを持つミョウバンですが、科学実験の材料としても非常に優れています。この記事では、鉱石愛好家の視点から、ミョウバン結晶の作り方を基礎から応用まで詳しく解説していきます。
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種結晶はミョウバン結晶を大きく育てるための核となる重要な部分です。まず、きれいに洗った容器に60~70℃程度に温めたお湯100mlを入れ、ミョウバンを15g程度、少しずつ加えてスプーンでかき混ぜながら溶かします。溶液が溶け残りで白く濁っている場合は、500Wの電子レンジで20秒ほど加熱し、再度かき混ぜることで透明になります。
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溶け残りが無くなったら、溶液をプラスチック容器やシャーレに3mm程度の深さに流し込み、半日から1日ほど静かに放置します。この際、振動を与えないよう十分注意してください。溶液の温度が下がると、容器の底に小さな結晶が現れます。
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容器の底にできた結晶の中から、形がよく透き通った欠けのないものを選びます。これが種結晶となります。種結晶は透明度が高く、できるだけ正八面体に近い形のものを選ぶことが、美しい結晶を育てるための重要なポイントです。選んだ種結晶は、ナイロンテグス(0.3~0.6号くらいの細いもの)でくくり、反対側を割りばしに結びつけます。
ミョウバン結晶の成長には主に二つの方法が利用されます。温度降下法は溶液の温度低下による溶解度の減少を利用し、比較的速い初期成長を促します。一方、溶媒蒸発法は水分の蒸発によって溶液の濃度を徐々に高め、長期的に安定した成長を可能にします。
種結晶を成長させる際は、残りの溶液を再度あたためて、容器の底にできていた残りの結晶を全て溶かします。きれいに洗ったなべにミョウバン約80gを入れ、水を約400ml加えて火にかけ、完全に溶けたら火からおろします。別のなべに上澄み液300mlを移し、23gのミョウバンを足し入れ、再び熱して溶かします。
溶けたら、その液の一部(20mlくらい)をコップに取り、残りを耐熱ガラス製容器に静かにそそぎ入れます。コップを水に入れて液を冷やすと細かい結晶が出てくるので、このときの温度を測ってメモします(約35℃くらいになります)。耐熱ガラス製容器の液はそのまま放置し、メモの温度に5℃足した温度(約40℃になるはずです)くらいまで冷えるのを待ちます。
容器の底に再び小さな結晶ができ始めたタイミング(40℃弱ぐらい)で、溶液中に種結晶をつるします。溶液の液面と容器の底との中間の位置にくるように、種結晶の位置を調整してください。まだ溶液が熱い状態(50℃以上)だと種結晶が溶けたり歪んだりする可能性があり、白濁してきた場合は過飽和が強くて小さな結晶が爆誕し、成長が不均一になります。
保温の重要性について、結晶成長の全期間を通じて、溶液の温度がゆっくりと下がるようにすることが極めて重要です。急激な温度の変化をさけるため、発泡スチロールの容器やクーラーボックスに結晶の入った容器を入れ、そのまま2日ほど放置します。ゆっくりと温度を下げることで、過飽和状態が穏やかに維持され、溶質分子が種結晶の表面に規則正しく結合するのに十分な時間が与えられます。
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ミョウバン結晶が美しい正八面体になる理由は、その分子構造に由来しています。ミョウバンは正式には「硫酸カリウムアルミニウム12水和物」といい、化学式はKAl(SO₄)₂・12H₂Oで表されます。この結晶の中で、Al³⁺(アルミニウムイオン)は6個の水分子に囲まれ、正八面体の水和構造[Al(H₂O)₆]³⁺をとります。
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この[Al(H₂O)₆]³⁺が、K⁺(カリウムイオン)やSO₄²⁻(硫酸イオン)とともに規則正しく立方晶系に配列します。立方晶系では、原子(またはイオン)が等間隔で三次元的に並び、[Al(H₂O)₆]³⁺、K⁺、SO₄²⁻が繰り返し並ぶことで高い対称性を持ち、結晶全体が正八面体形状に成長しやすくなります。
しかし実際には、ミョウバンの結晶は分子構造通りに正八面体にはなりにくく、これまで正八面体のミョウバン結晶を作るにはどのようにしたら良いのかという数多くの実験が行われてきました。ゆっくりとした結晶成長と適切な温度管理により、より完璧で整然とした結晶構造が形成され、透明で形の整った美しい正八面体結晶が育つのです。
ミョウバン結晶作りでよくある失敗例として、焼きミョウバンを使用していたケースがあります。焼きミョウバンは結晶水を焼き飛ばしている白い粉状のもので、結晶カリミョウバンとは異なります。焼きミョウバンでも結晶は作れますが、扱いにくく、よく溶かしてから使う必要があります。
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失敗パターンの一つとして、70度に温めた水にミョウバンを溶かし、コーヒーフィルターで濾して発泡スチロールの箱に入れて放置したものの、翌日何もできなかったという例があります。これは溶液の濃度が薄すぎたか、温度管理が適切でなかった可能性があります。
また、残っていた結晶を70度のお湯に溶かし、育った結晶をつけて一晩おいたところ、メインの結晶が小さくなり穴が空いてしまったという失敗例もあります。これは溶液の温度が高すぎたため、種結晶が溶けてしまったことが原因です。種結晶を入れるときの温度は40℃前後が適切で、50℃以上だと種結晶が溶ける可能性が大きくなります。
透明のきれいな結晶にならず、白く濁ったものになってしまう原因として、なべやコップが汚れていたり、種結晶やナイロンテグスにほこりが付いていることが挙げられます。実験を始める前に、使用する容器や道具は事前にきれいに洗っておくことが重要です。また、ミョウバンの溶液をプラスチック容器に入れたら、ほこりが入らないようにふたをすることも大切です。
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種結晶よりも、コップの下の方に大きな結晶がたくさんできてしまう失敗もよくあります。これは種結晶を入れるときの温度を正確に測っていなかったり、コップの中のミョウバンの溶液が急激に冷えたことが原因です。底や液面に発生した結晶とくっつかないよう、種結晶は溶液の中央に吊るし、急激な温度変化を防ぐために発泡スチロールの容器やクーラーボックスの中にすぐに入れることが対策になります。
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綺麗にできた透明度の高いミョウバンの結晶も、保存方法を間違ってしまうと時間が経つにつれて白く濁ったり、ひび割れができたりします。ミョウバンの結晶は正確には「硫酸カリウムアルミニウム12水和物」といい、結晶の中に水分子を含んでいます。この結晶水が空気中に放出されると、結晶が白く濁ったり、ひび割れができる現象(風解といいます)が起こります。
参考)https://www.edu.city.kyoto.jp/science/online/labo/45/index.html
良かれと思い、乾燥剤と一緒に保管してしまうと、より早く白く濁り、ヒビが入ってきます。そこでミョウバン結晶を保管するときには、なるべく密閉できる容器に入れることが重要です。綿などのクッションを下にして、ガラス瓶、アクリル瓶など、透明な蓋付き容器に密閉するだけでよく、ほぼ半永久保存ができます。
参考)ミョウバンの結晶ができたのですが保管の仕方を教えてください。…
結晶を成長させている最中のお手入れも大切です。水溶液の量が減ってきたら足してください。小さなおじゃま結晶が出てきたら、取り除きます。残したい結晶を別の容器に入れ、溶液(上澄み)だけを注ぐ方法が簡単です。析出した小さな結晶は飽和溶液を入れた密栓容器に入れて、カップは洗っておきます。
参考)簡単・放置 宝石みたいなみょうばん結晶の作り方!
気温が急に高くなるとせっかく成長した結晶が小さくなります。できるだけ温度変化の少ない場所で作りましょう(冷蔵庫や冷暗所がおすすめです)。濾した"ミョウバン水"は捨てずに瓶に保存しておくと、後から追加で使用できて便利です。
ミョウバン結晶に色をつけて、より美しく個性的な結晶を作ることも可能です。最も単純な方法は、食用色素を混ぜて結晶をつくる方法です。例えば青色の食用色素を使えば、青い正八面体の結晶を作ることができます。カリミョウバン飽和水溶液300mlにカリミョウバン粉末15gを加え、加熱攪拌し溶解させ、これを100mlビーカー3個に分け、それぞれに色素を加えます。
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参考)https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/pdf/h23_07.pdf
しかし、食用色素による着色では、色が均一にならないという問題があります。色素分子の構造がミョウバンの結晶構造と異なるため、結晶の中に均一に取り込まれにくいのです。より均一な色付きの結晶を作るためには、分子構造がミョウバンに似た物質を使用する必要があります。
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その解決策として、クロムミョウバン(硫酸カリウムクロム12水和物)を使用する方法があります。クロムミョウバンはカリミョウバンと同じ結晶構造を持つため、カリミョウバンの溶液にクロムミョウバンを少量混ぜることで、紫色に均一に着色された美しい混晶を作ることができます。クロムイオンが結晶の部品として使われているため、全体が同じ色になります。
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虹のように七色のミョウバン結晶をつくることも可能で、適切な色素を選ぶことで、様々な色のコレクションを作ることができます。生徒実験の場合、1g程度の色つきミョウバン結晶を作ることができ、クラブ活動などでは5~10gの大きな色つき結晶を育てることも可能です。湯の温度が47℃付近にまで下がったら、割り箸に吊るした種結晶を2個入れ、2日後には種結晶が5~10g程度に成長します。
ミョウバン結晶の成長は温度降下法と溶媒蒸発法を組み合わせることで、より大きく美しい結晶を作ることができます。最初は温度降下で成長し、溶液の温度が気温と等しくなってから、徐々に溶媒の蒸発で成長していきます。60℃くらいに加熱した精製水にミョウバンを飽和するまで溶かし、種結晶をつるして徐々に温度を下げると結晶が成長し、40℃付近で種結晶をいれて室温に下がるまでに大きく育てることができます。
参考)ミョウバンの結晶 作り方 きれいで 大きい 結晶の作り方を…
ミョウバン結晶作りは、科学の基礎を学ぶだけでなく、鉱物や結晶の美しさを実感できる素晴らしい実験です。温度管理や清潔な環境を保つことで、宝石のように美しい透明な正八面体結晶を育てることができます。じっくり時間をかければ、数センチメートルの大きな結晶を実らせることも可能です。夏休みの自由研究としても人気が高く、何日かかけて大きな結晶を育ててみるのは非常に面白い体験となるでしょう。
ネックレスなどのアクセサリーとして加工することもでき、結晶にくくったナイロンテグスを利用して、好みのビーズやパーツを組み合わせて完成させることも可能です。完成した結晶は水洗いして水分をふき取り、密閉容器で保存すれば、長期間その美しさを楽しむことができます。
NGKサイエンスサイト - キッチンで育てる大きな結晶
詳しい実験手順と写真付きの解説が掲載されており、初心者でも分かりやすく結晶作りを学べます。
増進堂 - ミョウバンの結晶づくりで自由研究の進め方を学ぼう
自由研究としてのまとめ方や観察のポイントが詳しく解説されており、実験の記録方法も学べます。
note - ミョウバン結晶育成の科学的解説
結晶形成と成長のメカニズムについて、科学的な視点から詳しく説明されており、より深い理解が得られます。