脱灰とは、虫歯菌が作り出した酸によって歯の表面のエナメル質からカルシウムやリン酸などのミネラル成分が溶け出してしまう現象です。食事をすると、食べ物に含まれる糖質により、わずか3分ほどで虫歯菌が歯の表面を溶かし始めます。この脱灰が進行すると、初期虫歯として認識される「ホワイトスポット(白い斑点)」が歯の表面に現れます。
参考)むし歯
ホワイトスポットの特徴は「表層下脱灰」と呼ばれる現象です。虫歯菌が作り出す酸によって歯のリンやカルシウムが溶け出すと、脱灰によって細かい空洞がたくさんできて軽石のような状態になります。この段階ではまだ歯に穴は開いておらず、光の屈折率や透過性の違いにより白く見えるのです。白い斑点が見られる場合、虫歯の初期段階にある可能性が高いため、早めの対策が必要です。
参考)https://www.komai-shika.com/menu/whitespot.html
初期虫歯の段階では、歯に実質的な欠損がなく、適切なケアと予防措置によって進行を止めることが可能です。しかし、脱灰がさらに進行してしまうと歯の表面に穴が開き、う窩形成性う蝕という状態になります。この段階になると、削って詰める治療が必要になり、元に戻すことはできません。
参考)初期虫歯はどのように治せますか?家庭でできる予防法も知りたい…
再石灰化とは、脱灰によって溶け出したカルシウムやリン酸が唾液によって再び歯に取り込まれ、歯が元に戻る現象です。唾液にはカルシウムやリンなどのミネラルが含まれており、これらのミネラルが脱灰した部分を修復してくれます。唾液の働きにより、食後に酸性に傾いたpHがアルカリ性に戻ると、溶けた歯が補修されます。
参考)https://www.earth.jp/mondahmin/column/07/
お口の中では脱灰と再石灰化が日常的に繰り返されており、このバランスが取れていれば健康な状態を保つことができます。食事の度に脱灰が起こるにもかかわらず、虫歯で治療する人が続出しないのは、唾液の働きによって元の健康な状態に戻すことができるからです。脱灰を促す因子(細菌や糖)の攻撃力と再石灰化を促す因子(唾液やフッ化物)の防御力のバランスが重要になります。
参考)脱灰と再石灰化|スタッフブログ|痛みの少ない歯医者さん|さか…
残念ながら虫歯を放置しても治ることはありませんが、初期のむし歯(表層化脱灰)の状態にある時は、脱灰が進行しないような手段を取ることで虫歯の進行を停止させることができます。また、再石灰化を促進させる手段を講じることで虫歯を治すことが可能です。進行して穴の開いてしまった虫歯は元のように戻すことはできませんが、初期の段階であれば適切な処置をすることでむし歯を治すことができます。
参考)虫歯から歯を守る再石灰化療法|新神戸アート歯科・矯正歯科
唾液は虫歯予防において非常に重要な役割を果たしています。唾液の主な作用として、ミネラルの供給源という機能があります。唾液にはカルシウムやリンなどのミネラルが含まれており、歯の表面のpHが中性に近い時には、唾液がこれらのミネラルを供給して再石灰化が生じます。
参考)唾液にはどんな虫歯予防効果がありますか?|茨木クローバー歯科…
唾液の働きは再石灰化の促進だけではありません。脱灰したエナメル質は唾液の力によってカルシウムイオンやリン酸イオンの取り込みを行い、エナメル質を再構築することができます。また、唾液には浄化作用があり、口腔内を清潔に保つことで虫歯の発生リスクを低減させます。
参考)歯科医師によるフッ素塗布の効果や安全性|公益社団法人神奈川県…
唾液の分泌量が減少すると、再石灰化の能力が低下し、脱灰が進みやすくなります。ガムなどを噛むことで咀嚼が行われ、唾液分泌が促進されます。唾液にはカルシウム成分が多く含まれており、歯の表面成分と同じものです。唾液分泌が促進されることで口の中のカルシウム成分濃度が高くなり、再石灰化時に効果を大きく発揮してくれます。日頃からよく噛んで食べることで唾液の分泌を促し、自然な再石灰化のプロセスをサポートすることが大切です。
参考)虫歯予防キシリトールガム
フッ素塗布は初期虫歯や脱灰した歯を治すために非常に効果的な方法です。フッ素には主に3つの優れた効果があります。1つ目は脱灰抑制作用です。歯のエナメル質の結晶内にフッ化物が取り込まれると、「フルオロアパタイト」「フッ化ハイドロキシアパタイト」と呼ばれる物質になり、元の歯よりも酸に対して溶けにくくなります。
参考)歯医者で行うフッ素塗布って?
2つ目の効果は再石灰化の促進です。脱灰したエナメル質は唾液の力によってカルシウムイオンやリン酸イオンの取り込みを行いますが、フッ素はこのプロセスを促進します。フッ素には脱灰してしまったエナメル質中のカルシウムやリンの再石灰化を促進する成分が含まれており、脱灰が優勢となる前にフッ素を歯の表面に塗布することで効果的な虫歯予防となります。
参考)フッ素塗布 |予防歯科・歯周病専門医|福岡市南区大橋・井尻の…
3つ目の効果は細菌の酸生産の抑制です。フッ素がプラークの中に取り込まれると、細菌の代謝を邪魔して糖の分解を抑え、酸の産生も抑制します。歯科医院で行うフッ素塗布は市販の歯磨き粉に含まれるフッ素よりも高濃度であり、より高い効果が期待できます。フッ素塗布は継続することで真価を発揮するため、定期的な歯科医院での施術が推奨されます。
歯科医師によるフッ素塗布の詳細な効果と安全性について(日本歯科医師会)
食生活は脱灰と虫歯のリスクに大きく影響します。最も重要なのは、ダラダラ食べや頻繁な間食を避けることです。ダラダラ食べ続けていたり、間食が多いと「脱灰」ばかりが進むようになり、治療が必要な虫歯になりやすくなります。食べ物や飲み物を口にすると、酸が発生して歯の表面が溶けかける(脱灰)状態になりますが、唾液の力によって再石灰化が起こり、歯は自然に修復されます。
参考)不規則な食生活とむし歯の関係|おしだ歯科医院
しかし、糖分を過度に摂り過ぎると口腔内のバランスが崩れて酸が増え、再石灰化が追いつかなくなります。砂糖の摂取が口腔内の細菌の活動を増加させ、酸性環境を促進し、歯のエナメル質を脱灰させることが虫歯の発生と進行に深く関与しています。特に、甘い食べ物や飲み物を頻繁に摂取する場合、口腔内の酸性環境が頻繁に形成され、歯のエナメル質が攻撃される頻度が高まります。
参考)歯のメカニズム~お口の中は脱灰・再石灰化の繰り返し−北秋田市…
食事のタイミングも重要です。規則正しい食事を心がけ、食後は30分から1時間以内に歯磨きをすることで、酸性に傾いている時間を短くし、脱灰を最小限に抑えることができます。また、砂糖を控え、適切な口腔衛生を実践することが虫歯予防の重要な手段となります。甘いものが食べたいときには、キシリトールガムやタブレットを選ぶと良いでしょう。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10746458/
キシリトールは虫歯予防と再石灰化の促進に非常に有効な甘味料です。キシリトールが虫歯の予防に有効な理由は主に2つあります。1つ目は、虫歯を発生させる菌の増殖を防ぎ、脱灰を少なくしてくれることです。キシリトールは砂糖のように甘みがありますが、虫歯菌が酸を作り出せないため、虫歯になりにくい甘味料です。選択的に虫歯を発生させない菌が多い状態にしてくれるので、酸を発生させる量も少なくなり脱灰が起こりにくくなります。
参考)脱灰と再石灰化のバランスを保ち、虫歯を予防しよう
2つ目は、たくさんの唾液を分泌して再石灰化を促進してくれることです。ガムなどでキシリトールを口の中に含むと、咀嚼が行われ唾液分泌が促進されます。唾液分泌が促進されることで口の中のカルシウム成分濃度が高くなり、再石灰化時に効果を大きく発揮します。また、ガムを噛むことで溶けた歯面を修復する再石灰化にも役立ちます。
参考)虫歯だけじゃない、キシリトール入りガムを噛んで歯周病予防がで…
キシリトールガムを噛み始めるタイミングは、食後が望ましいとされています。食事の後は歯面が脱灰しやすい環境になりますが、唾液によって溶けた歯面を修復できるためです。キシリトール入りの歯科医院専用ガムは糖分を含んでおらず、虫歯の原因となる酸などを作らないことから虫歯の発生を防ぐ効果があります。キシリトールは再石灰化を促進し、プラークの付着を防ぐ効果もあるため、日常的に取り入れることで脱灰予防に役立ちます。
自宅で行うセルフケアは脱灰予防と再石灰化促進において非常に重要です。最も基本となるのは正しい歯磨きです。歯の汚れを丁寧に落とし、細菌のエサになる食べカスなどをお口に残さないようにすることで再石灰化を促すことができます。食べたら歯を磨く習慣をつけ、歯間ブラシやフロスを使って、歯磨きだけでは取り切れないプラークをしっかり取り除くことが大切です。
参考)初期のむし歯は自然に治る?歯を修復する「再石灰化」を促す効果…
初期虫歯対策では、こまめな口内ケアが重要です。虫歯を進行させないためには、歯垢をしっかり落とすことはもちろん、エサとなる食べカスを口内に放置しないよう、食後の歯磨きなど、日頃からオーラルケアを行って口内環境を整えることがポイントです。まずは正しい歯磨きを行い、食生活を改善することが最も大切です。
フッ素配合の歯磨き粉や洗口液を使用することも効果的です。フッ素は再石灰化を助け、歯質を強化するため、虫歯のリスクを減らすことができます。フッ素やMIペーストのようなケア製品を使用すると、溶け出したリンやカルシウムが再び沈着し、再石灰化により初期う蝕はほぼ健全な歯質に戻ります。定期的に歯科医院に通院し、プロフェッショナルクリーニングとフッ素塗布を受けることで、虫歯の進行を止め、むし歯のない健康な状態を維持することができます。
初期むし歯の修復とホームケアの詳細(アース製薬)