『からくりサーカス』は藤田和日郎氏による累計発行部数1500万部を誇る人気漫画作品で、2018年にはアニメ化も実現しました。物語の核心には「あるるかん」という懸糸傀儡(マリオネット)が登場し、主人公しろがねが操る最古の人形として重要な役割を果たしています。この作品名にもなっている「からくり」の要素と、道化師を意味する「アルルカン」には、実は深いヨーロッパ文化の繋がりが存在するのです。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%82%93
あるるかんは中国の錬金術師・白銀が弟子の才賀正二と共に製作した最古の懸糸傀儡です。「あるるかん(Arlequin)」はフランス語で「道化師」を意味し、英語読みではハーレクインとなります。この名称の由来は、16世紀にイタリアで発祥した即興喜劇「コメディア・デラルテ」の登場人物「アルレッキーノ」から来ています。アルレッキーノは猫の面をかぶり、赤・青・緑のまだら模様の衣装を着た、ずる賢くて人気者のキャラクターとして知られていました。
参考)ハーレクイン。「道化師」という意味の品種のうさぎとは? | …
作中のあるるかんは強力な戦闘能力を持ち、腰部から歯車と突起を露出させて上半身を高速回転させる必殺技を使用します。しろがねの代名詞ともいえるこの人形は、才賀アンジェリーナから才賀エレオノールへと受け継がれ、物語の最終決戦まで活躍を続けました。最終局面では別個体の白いあるるかんも登場し、宇宙ステーションの軌道を変えるという壮大な役割を担っています。
参考)からくりサーカス - Wikipedia
道化師を表す言葉には、ピエロ、クラウン、フール、ブッフォン、そしてハーレクイン(アルルカン)など様々な呼び名があります。アルルカンの語源は、中世フランスの説話に現れるいたずら悪魔「エルルカン」や「エルカン」だと言われています。16世紀頃、イタリアの喜劇役者ザン・ガナッサがフランス巡業の際に道化役にアルルカンの名を与え、イタリアに持ち帰ってアルレッキーノという典型的な道化役を創造しました。
参考)アルレッキーノとは? 意味や使い方 - コトバンク
コメディア・デラルテは約200年にわたってヨーロッパ全土で演じられ、宮廷や劇場で人気を博しました。最も有名なアルレッキーノは、ミラノ・ピッコロ・テアトロのジョルジョ・ストレーレル演出『二人の主人を一度にもつと』の道化役でしょう。空腹を抱えながらも舞台狭しと飛び回り、持ち前の機転で窮地を切り抜けるアルレッキーノは、イタリアの民衆精神の象徴とも言われています。
参考)劇場文化:アルルカン、天狗に出会う
ドイツの名窯マイセンは、今から300年以上前に誕生したヨーロッパ初の磁器ブランドです。交差した2本の剣をシンボルマークとし、ノーブルな白磁と絢爛な絵付けが特徴となっています。マイセンの造型の基礎を築いたのが、天才造型師ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーです。彼は「宮廷の光景」「羊飼いシーン」「イタリア・コメディ」といった魅力的なテーマを題材に、数多くの傑作フィギュリンを生み出しました。
中でもケンドラー原作の「ジョッキを掲げるアルルカン」は、躍動感溢れるイタリアンコメディーの代表作として知られています。ジョッキを高らかに掲げる道化師の姿には何とも言えぬ愉快さが感じられ、マイセンの双剣マークが存分に目立つ造りになっています。肌の色、瞳、手足、顔の表情、衣服の模様やリボンといった装飾品にいたるまで細部までこだわり抜いて制作されており、完成までに数ヶ月間かかることも珍しくありません。
参考)マイセン フィギュリン 『ジョッキを掲げるアルルカン』 買取…
マイセン アルルカン フィギュリンの参考買取価格と詳細解説(緑和堂)
この作品の参考買取価格は55,000円で、専用の箱に入れられ割れ跡がない状態であれば高い評価を得られます。道化師人形はマイセンコレクターの中でも上級者に好まれており、近年価格が高騰して入手が難しくなっている現状があります。
参考)https://www.comfortor-satoh.com/395/99482919.shtm
スペインの高級磁器製品メーカー「リヤドロ」は、1953年にリヤドロ三兄弟(フアン、ホセ、ビセンテ)によってバレンシア州アルマセラで創設されました。ポーセリンアートと呼ばれる精巧なつくりの美しい磁器人形(フィギュリン)で知られ、磁器ならではの落ち着いた質感、ほっそりとした洗練されたシルエット、豊かな表情が特長です。
リヤドロの製品づくりは創立以来、手作業による分業を基本としています。企画・デザイン・彫刻・塑像・絵付け・釉薬・焼成と、各部門の専門家が高度な技術と知識を持ち寄って作品を作り上げるのです。モチーフは神話の登場人物や天使、女神、シェイクスピア作品の登場人物、女性、動物など多岐にわたり、その表情やポーズは写実的なものからメルヘンチックなものまで様々です。
参考)芸術的な磁器人形で知られる「リヤドロ」。その歴史と作品の価値…
リヤドロの道化師(ピエロ)人形も人気が高く、「子犬とボールを持つピエロ」などの作品は中古市場でも5,000円程度で取引されています。リヤドロといえば磁器の人形が有名ですが、その他にも陶花(陶器で作った造花)や花瓶、オブジェ、飾り皿、オーナメント、時計、装飾品、茶器、照明器具、鏡、チェスの駒、酒器など、さまざまな製品が製造されています。
参考)リヤドロ(Lladro) ピエロ 陶器の人形 高価買取! -…
2019年1月、ヴィジュアル系バンド「アルルカン」と舞台劇「からくりサーカス」のコラボ企画が実現しました。原作キャラクター「あるるかん」とバンド名の由来に深く関わりのあるこのバンドが、劇中での楽曲提供やミニライブを開催したのです。このコラボレーションは、道化師という共通モチーフが生み出した興味深い文化的交流と言えるでしょう。
参考)https://barks.jp/news/832994
また、からくりサーカスのグッズ展開では、「あるるかん 機械式腕時計」といった本格的なコレクターズアイテムも販売されました。作中に登場する懸糸傀儡の造形美と、ヨーロッパ陶器芸術の伝統的な道化師フィギュリンには、精緻な手仕事と芸術性という共通点があります。マイセンやリヤドロの職人たちが生涯をかけて人形制作に打ち込む姿勢は、からくりサーカスで描かれる人形繰りたちの情熱と重なる部分があるのです。
参考)301 Moved Permanently
ブランド陶器に興味を持つ方にとって、からくりサーカスという作品は単なるエンターテインメントを超えて、ヨーロッパ文化と東洋の技術が融合した「人形芸術」の深い世界を垣間見る入り口となるでしょう。マイセンのケンドラーが磁器に西洋の「形」を取り入れた先駆者であったように、からくりサーカスもまた日本の漫画文化に西洋の道化師文化を見事に融合させた作品なのです。
ブランド | 創業年 | 発祥地 | 特徴 | アルルカン作品参考価格 |
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マイセン | 約300年前 | ドイツ | 双剣マーク、ケンドラーの造型 | 55,000円 |
リヤドロ | 1953年 | スペイン バレンシア | 手作業の分業制、優雅な表現 | 5,000円〜 |
からくりサーカスの「あるるかん」という名前の選択は、単なる偶然ではありません。作者の藤田和日郎氏は、ヨーロッパの道化師文化と日本のからくり文化を融合させることで、普遍的な「人形と人間」というテーマを描き出しました。白銀と白金の兄弟がそれぞれ「あるるかん」と「アルレッキーノ」「ハーレクイン」という名の人形を作り出したことは、この作品における道化師モチーフの重要性を象徴しています。
参考)あるるかん(からくりサーカス) - アニヲタWiki(仮) …
ブランド陶器のコレクターにとって、道化師フィギュリンは特別な存在です。マイセンの道化師人形は上級者向けのアイテムとされ、価格も高騰傾向にあります。これらの作品は単なる装飾品ではなく、職人の魂が込められた芸術品であり、時代を超えた永遠の命が吹き込まれているのです。からくりサーカスを通じて道化師文化に触れることで、ヨーロッパ陶器芸術への理解も深まるでしょう。
物語の中で「あるるかん」がアンジェリーナとエレオノールを守り抜いたように、ブランド陶器の道化師人形も所有者にとって特別な守り神のような存在となり得ます。精緻な造形美と深い文化的背景を持つこれらの人形は、単なるコレクションを超えて、所有者の人生に寄り添う芸術作品なのです。