昭和28年(1953年)から昭和47年(1972年)にかけて国内で製造された変圧器やコンデンサには、絶縁油として高濃度のPCBが使用されたものがあります。この期間は、PCBが優れた電気絶縁性と不燃性を持つことから、電気機器に広く採用されていた時代です。しかし1968年のカネミ油症事件を契機にPCBの毒性が社会問題となり、1972年以降は製造が中止されました。
参考)PCBが含まれるかどうかの判別方法について - 岡山県ホーム…
高濃度PCB使用機器かどうかは、機器の銘板に記載された製造年月や型式から判別できます。銘板に「不燃性油入」「不燃性絶縁油入」「カネクロール油入」「富士シンクロール油入」「Askarel」などの表示がある場合、それはPCB使用機器を示しています。製造メーカーごとに独自の型式記号も存在するため、判別が難しい場合はメーカーへの問い合わせが推奨されます。
参考)PCB含有の有無の判別方法 - 高崎市公式ホームページ
1953年以前に製造された電気機器についてはPCBの国内製造自体がなかったため、PCB混入の心配はありません。一方で1972年までの製造品については、特に慎重な確認が必要です。
参考)PCB混入状況‐絶縁油中PCB分析/内藤環境管理株式会社
1973年から1989年に製造された変圧器などの絶縁油入り機器には、低濃度(微量)のPCB混入の可能性を完全に否定できません。この期間に製造された機器については、絶縁油を採取してPCB濃度を測定する分析が必要です。
参考)油入変圧器(2000kVAを超えるもの)
絶縁油中の微量PCB分析には、環境省が公表した測定マニュアルに基づく方法が用いられます。主な分析法には「簡易定量法」と「精密定量法」があり、簡易定量法では高濃度硫酸処理/シリカゲルカラム分画/ガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD)法や、溶媒希釈/ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析(GC/HRMS)法などが採用されています。
参考)絶縁油中の微量PCB分析 : 株式会社島津テクノリサーチ
廃棄物処理法では、絶縁油中のPCB濃度が0.5mg/kgを超えるものは規制対象とされ、厳格な管理・処分が義務付けられています。PCB分析の結果が出るまでには通常2週間から1ヶ月程度の期間を要するため、処理期限を考慮すると早めの分析実施が推奨されます。
参考)PCB分析は2025年の実施を推奨|電気機器の絶縁油を必ず確…
分析機関については、一般社団法人日本電機工業会(JEMA)のウェブサイトで確認できます。
一般社団法人日本電機工業会 - PCB検査機関の案内
電気機器の銘板には、PCB使用の有無を判別するための重要な情報が記載されています。銘板に記載されている型式、製造番号、製造年月などの情報をもとに、メーカーに問い合わせることで正確な判別が可能です。
参考)https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/046/hanbetutorakon.pdf
変圧器の場合、銘板に記載された型式の中に特定の記号が含まれているかどうかが判別のポイントになります。たとえば三菱電機製の変圧器では、1955年から1972年製造品で銘板内または銘板近傍に「不燃性油入」の表示があるものが高濃度PCB使用変圧器です。また日立製作所のコンデンサでは、型式の中に「TPB(ティー、ピー、ビー)」が含まれるものがPCB使用機器となります。
参考)https://www.hitachi.co.jp/products/energy/information/pcb/
コンデンサについては、絶縁油の入れ替えができない構造のため、1991年(平成3年)以降に製造されたものにはPCBは使われていません。一方で変圧器などの絶縁油メンテナンスができる電気機器は、保守作業で絶縁油の交換や継ぎ足しが行われているとPCBに汚染されている可能性があります。
参考)PCB汚染の有無を判別する方法:PCB処理について
銘板の確認には専門知識が必要な場合もあるため、通電中の設備を調査する際は感電の恐れがあり、必ず電気主任技術者に相談することが推奨されます。
参考)高濃度PCB廃棄物の調査方法(参考) - 神奈川県ホームペー…
PCB廃棄物は濃度によって「高濃度PCB廃棄物」と「低濃度PCB廃棄物」に分類され、それぞれ処理方法と期限が異なります。高濃度PCBとは、PCB濃度が5,000mg/kg以上のものを指し、主に1953年から1972年に製造された変圧器やコンデンサに使用されていました。
低濃度PCBの処分期限が過ぎたらどうなる?罰則と期限延長の可…
PCBは脂肪に溶けやすい性質があり、慢性的な摂取により体内に徐々に蓄積して様々な症状を引き起こすことが報告されています。一般的なPCB中毒症状としては、目やに、爪や口腔粘膜の色素沈着、座瘡様皮疹(塩素ニキビ)、爪の変形、まぶたや関節の腫れなどが挙げられます。また発がん性の疑いも報告されており、PCBは現在、人体に有害な化学物質として広く認識されています。
参考)PCBの人体への影響と適切な処置方法を解説!PCB廃棄物は早…
PCBの毒性が社会問題化したきっかけは、1968年(昭和43年)に西日本を中心に発生した「カネミ油症事件」です。この事件では、食用の米ぬか油の製造過程で脱臭工程の熱媒体として使用されていたPCBが誤って製品に混入し、その油を摂取した人々に深刻な健康被害が発生しました。患者数は約1万3,000人にも上り、吹出物や色素沈着などの皮膚症状のほか、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振など全身に及ぶ症状が報告されています。
参考)環境省_エコジン 2017年10・11月号 VOLUME.6…
さらに深刻なのは、この事件では直接油を摂取した本人だけでなく、胎児の健康にまで影響を及ぼしたことです。現在でも症状が継続している方がおり、PCBは環境や人体に悪影響を及ぼす危険性の高い化学物質として、製造・輸入ともに禁止されています。
参考)PCBとは?主な特徴・危険性・処理期限などをわかりやすく解説…
環境省 - PCB廃棄物の適正なb.html">環境省 - PCB廃棄物の適正な処理の推進について