星の砂の正体は、海洋環境に生息する単細胞生物・有孔虫の殻です。その大部分を占めるのはバキュロジプシナ(Baculogypsina)とカルカリナ(Calcarina)の2属で、両者は異なる生態的特性を持ちながら、サンゴ礁の石灰質堆積物を形成する重要な役割を担っています。バキュロジプシナは幼年期から既に殻に突起を持っており、それを維持したまま成長していきます。有孔虫に特徴的な螺旋状の室形成を経た後、突起部を含む殻の全面を覆うようにドーム状の室が形成され、この成長プロセスの結果として特徴的な星型が形作られるのです。一方、カルカリナはバキュロジプシナと比べて中央部が球に近く、突起の先端が丸みを帯びています。この形態的な違いから、カルカリナを「太陽の砂」と呼び分けることもあり、観察者の目にも明確な区別が可能です。
生きているバキュロジプシナは、突起の先端から網状仮足を伸ばし、移動や基物への付着、摂食などを行っています。餌は海藻の断片や微細藻類などですが、興味深いことに、エネルギー収支としては共生藻の光合成産物に依存する割合が高いとされています。この共生関係は、星の砂が単なる砂粒ではなく、生態系の一部として機能していることを示唆しています。浮遊性有孔虫はプランクトンや有機物を食べ、底生有孔虫は、それ以外にバクテリアも食べるという異なる栄養戦略を有しており、星の砂は底生有孔虫に分類されます。中央部の海域では、タイドプール内に極めて高密度で生息しており、1平方センチメートルあたり4,000〜6,000個体に達することもあるほどです。このような高密度生息環境は、海洋の微観的スケールでの生命の営みがいかに活発であるかを物語っています。
星の砂の形成には、長期の地質学的プロセスが関わっています。現在の海域で見られるような星の砂を構成する有孔虫は、鮮新世(500〜160万年前)ごろから出現しており、したがって星の砂には現生の有孔虫の殻と共に、数万年前のもの(化石)が混入している場合もあります。バキュロジプシナの寿命は約1.5年と言われており、この比較的短い寿命の中で、複雑な殻構造を形成していきます。有孔虫の有性生殖と無性生殖について考えると、無性生殖時には成熟した大型の個体が泡状の生殖室を形成し、そこから幼生が大量(平均769個体)放出されます。ただし無性生殖を行う個体の割合は非常に小さく(個体群の0.01%)、多くの場合は配偶子の塊を放出する有性生殖が行われるという、ユニークな生殖戦略が採用されています。このメカニズムにより、星の砂は絶え間なく海底に蓄積され続けているのです。
沖縄県では小瓶に詰めた星の砂が土産物として販売されており、特に西表島の星砂の浜、竹富島のカイジ浜、鳩間島などが採集地として有名です。しかし近年、数が減少しており、その原因として土産物とするための乱獲や、日焼け止めオイルによる海水汚染の影響が指摘されています。星の砂は炭酸カルシウムでできているため、酸性環境に弱く、保存環境の管理が重要です。また、大型有孔虫に属する星の砂は、サンゴ礁生態系における炭素循環において極めて重要な役割を果たしており、その炭酸固定量は700g(約800,000個体相当)/m²/年と見積もられています。これは造礁サンゴや石灰藻に次ぐ量であり、生態系の中での位置づけが高いことを示しています。採集時には、生態系への影響を最小限にとどめるよう配慮する必要があり、無制限の採集は避けるべき行為なのです。
星の砂と太陽の砂は、単なる土産物ではなく、科学研究の重要な対象です。有孔虫の殻に含まれる酸素同位体比(18O/16O)を調べることにより、古水温や古塩分濃度が推定でき、気候変動と大気中の二酸化炭素濃度との関係も分かります。さらに、地層の対比に利用され、昔から石油探査にも役立っており、地質学の分野では必須の研究対象とされてきました。古生代カンブリア紀に出現した有孔虫は、多様な進化をとげて現在に至っており、化石種として有名なものはフズリナ(紡錘虫)や貨幣石(ヌンムリテス)があります。これらの化石は日本国内の地層からも発見されており、地球の過去の環境復元に大きく貢献しています。星の砂と太陽の砂は、過去と現在を結ぶ生物学的な橋渡しとして、古生物学的にも現代の海洋生物学的にも、極めて貴重な資料なのです。
参考:星の砂の生態や形成メカニズムについては、東京大学大気海洋研究所の研究成果が参考になります。
https://co.aori.u-tokyo.ac.jp/
参考:有孔虫の詳細な分類や化石の処理方法については、以下のリソースが詳しく解説しています。
https://apec.aichi-c.ed.jp/
参考:星の砂の採集可能地域や沖縄の海岸生態系については、以下が参考になります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E3%81%AE%E7%A0%82