ヤングの実験近似計算と波長測定スリット間隔鉱石構造解析

ヤングの実験では近似式を用いた計算で光の波長を精密に測定できます。この干渉現象は鉱石の結晶構造解析にも応用され、X線回折と同じ原理で格子間隔を求められますが、どう活用できるのでしょうか?

ヤングの実験近似計算

📊 ヤングの実験の計算要素
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近似式の適用条件

スリット間隔dがスクリーン距離Lに比べて十分小さい時、三平方の定理を簡略化して計算可能

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波長と干渉縞

明線間隔Δxから逆算して光の波長λを測定でき、色による縞間隔の違いも観察可能

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鉱石への応用

X線回折による結晶構造解析は同じ干渉原理を利用し、原子配列を精密に測定

ヤングの実験における光路差の近似式導出

 

ヤングの干渉実験では、二重スリットを通過した光がスクリーン上で干渉縞を形成します。この現象を定量的に扱うために、光路差を計算する必要がありますが、正確に計算すると複雑な式になるため、特定の条件下で近似式が使われます。

 

参考)ヤングの実験(公式と証明、応用パターン)

スリット間隔をddd、スクリーンまでの距離をLLL、スクリーン中心からの距離をxxxとすると、2つのスリットからある点までの距離r1r_1r1とr2r_2r2は三平方の定理により次のように表されます:
参考)光の二重スリット干渉実験【ヤングの実験】

r1=L2+(xd2)2r_1 = \sqrt{L^2 + \left(x - \frac{d}{2}\right)^2}r1=L2+(x−2d)2
r2=L2+(x+d2)2r_2 = \sqrt{L^2 + \left(x + \frac{d}{2}\right)^2}r2=L2+(x+2d)2
ここでxxxやdddがLLLに比べて十分小さいという条件のもとで、二項定理の近似式(1+a)n1+na(1 + a)^n \approx 1 + na(1+a)n≈1+na(a1a \ll 1a≪1のとき)を適用します。具体的には次のように展開できます:
参考)ヤングの干渉実験 ■わかりやすい高校物理の部屋■

r1L+12L(xd2)2r_1 \approx L + \frac{1}{2L}\left(x - \frac{d}{2}\right)^2r1≈L+2L1(x−2d)2
r2L+12L(x+d2)2r_2 \approx L + \frac{1}{2L}\left(x + \frac{d}{2}\right)^2r2≈L+2L1(x+2d)2
両者の差である光路差は、これらを引き算することで得られます:
参考)ヤングの実験

r2r1dxLr_2 - r_1 \approx \frac{dx}{L}r2−r1≈Ldx
この近似式により、複雑な平方根の計算を避けて、シンプルな線形の関係式で光路差を表現できるのです。

ヤングの実験による波長測定の計算手順


光路差が求まれば、干渉の条件から波長を計算できます。明線が現れる条件は、光路差が波長λ\lambdaλの整数倍になることです:
参考)ヤングの干渉実験


dxL=mλ\frac{dx}{L} = m\lambdaLdx=mλ
ここでmmmは0、1、2...の整数です。隣接する明線間の距離Δx\Delta xΔxは、mmm番目とm+1m+1m+1番目の明線位置の差から求められます:​
Δx=Lλd\Delta x = \frac{L\lambda}{d}Δx=dLλ
この式を変形すれば、測定可能な量から波長を逆算できます。
λ=dΔxL\lambda = \frac{d \cdot \Delta x}{L}λ=Ld⋅Δx
例えば、スリット間隔d=4.0×104d = 4.0 \times 10^{-4}d=4.0×10−4m、スクリーン距離L=2.0L = 2.0L=2.0m、明線間隔Δx=3.0×103\Delta x = 3.0 \times 10^{-3}Δx=3.0×10−3mの場合、波長は次のように計算されます:youtube​​
λ=4.0×104×3.0×1032.0=6.0×107m=600nm\lambda = \frac{4.0 \times 10^{-4} \times 3.0 \times 10^{-3}}{2.0} = 6.0 \times 10^{-7}\text{m} = 600\text{nm}λ=2.04.0×10−4×3.0×10−3=6.0×10−7m=600nm
これは橙色の光に相当する波長です。また、赤・緑・紫の光では波長が異なるため、明線間隔も異なり、波長が長い赤色光ほど縞間隔が広くなります。

参考)【高校物理】「ヤングの実験」

ヤングの実験における干渉縞の特性と計算例

干渉縞には興味深い性質があります。まず、明線の間隔はmmmの値に依存せず等間隔である点です。これは式Δx=Lλd\Delta x = \frac{L\lambda}{d}Δx=dLλに整数mmmが含まれないことから明らかです。

また、スクリーン中心(x=0x = 0x=0)では常に明線が現れます。これはm=0m = 0m=0の条件で光路差がゼロになり、両スリットからの光が同位相で到達するためです。中心から離れるほど、mmmの絶対値が大きい明線が順番に現れます。

参考)ヤングの干渉実験ってなに?わかりやすく解説

単色光の色を変えると干渉縞の間隔が変化します。波長λ\lambdaλが長いほど縞間隔Δx\Delta xΔxが広くなるため、赤→緑→紫の順で縞間隔が狭くなります。
youtube​​
一つの単スリットを通して位相を揃えてから二重スリットに光を入射することで、2つのスリットから発する光の位相が一致し、明瞭な干渉縞が得られます。単スリットがない場合、光源の各点から出る光の位相がばらばらになり、干渉縞がぼやけてしまいます。

参考)光の干渉 〜ヤングの実験〜

実際の計算では、スリット位置がずれた場合や、スリット幅が異なる場合など、より複雑な状況も扱えます。非対称な幅の二重スリットでは、フラウンホーファー回折パターンと干渉縞が重なり合った複雑なパターンが観察されます。

 

参考)新しい二重スリット実験

鉱石結晶構造解析への応用:ブラッグの法則との関係

ヤングの実験と同じ干渉の原理は、鉱石や結晶の内部構造を調べるX線回折実験に応用されています。結晶内では原子が規則正しく配列しており、この原子配列が回折格子のように働きます。

 

参考)https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st14_02.html

X線が結晶に入射すると、結晶面で反射されたX線同士が干渉し、特定の角度で強い回折ピークが現れます。この条件を表すのがブラッグの法則です:
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B0%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

2dsinθ=nλ2d\sin\theta = n\lambda2dsinθ=nλ
ここでdddは結晶面の間隔、θ\thetaθは結晶面とX線のなす角度、λ\lambdaλはX線の波長、nnnは整数です。この式はヤングの実験の干渉条件と同じ形をしており、波長の整数倍という条件で強め合いが起こる点が共通しています。

X線回折法では、多数のブラッグ反射の強度を測定し解析することで、原子がどのように配列しているかを明らかにできます。これを結晶構造解析と呼び、鉱物学や材料科学で広く用いられています。

鉱石に含まれる結晶の種類によって回折パターンが異なるため、X線回折は鉱物の同定にも利用されます。例えば、宝石の鑑別では屈折率測定と併せてX線回折が用いられることがあります。ダイヤモンドやルビー、サファイアなどの宝石は特有の結晶構造を持ち、その格子間隔から物質を特定できます。

参考)宝石鑑別で1番重要!屈折率を調べる「屈折計」の使い方

ヤングの実験と鉱石分析の独自視点:波長選択と測定精度

ヤングの実験を鉱石の分析に応用する際、あまり知られていない重要な点があります。それは使用する光の波長選択と測定精度の関係です。

 

可視光を用いたヤングの実験では、波長が約400~700nmの範囲ですが、X線回折では波長が0.1nm程度の短い電磁波を使います。これは結晶の格子間隔が原子サイズ(約0.1~0.3nm)であるため、それに近い波長のX線でなければ回折が起こらないためです。

 

参考)https://www.hs.chuo-u.ac.jp/contents/wp-content/themes/chu-fu/pdf/bulletin/issue31/issue31_pdf06.pdf

逆に、可視光レベルの波長で干渉を起こすには、スリット間隔を数百μm程度にする必要があります。このスケールの違いにより、ヤングの実験は光学的な波動性の証明に、X線回折は原子レベルの構造解析に適しています。

興味深いことに、一部の鉱石は可視光領域でも特異な光学特性を示します。複屈折を持つ鉱物(方解石、ルチル、スフェーンなど)では、入射した光が2つの光線に分かれて進みます。この性質は屈折率測定で観察でき、宝石鑑別の重要な指標となっています。スフェーンの屈折率は1.9~2.0とダイヤモンド(2.419)に匹敵し、強い複屈折により独特の輝きを放ちます。

 

参考)“屈折率と分散度”が高い代表的な宝石まとめ【宝石豆知識】

また、近年の研究では、二次元材料(グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなど)における光の干渉・回折現象が注目されています。これらの材料は原子数層の厚さしかないため、従来の光学系とは異なる量子的な振る舞いを示し、次世代のナノフォトニクスデバイスへの応用が期待されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10471760/

理系ラボ - ヤングの実験(公式と証明、応用パターン)
ヤングの実験の詳細な計算手順と応用問題が解説されています。

 

京都産業大学 - 物質の変化をミクロな結晶構造から探るX線の目
X線回折による結晶構造解析の原理と実際の応用例が紹介されています。

 

 


ヤングマガジン (2025年11月10日号)