ウラン238半減期と地球、崩壊系列から鉛206まで

ウラン238の半減期は45億年と極めて長く、地球誕生とほぼ同時期から現在まで存在しています。天然ウランの99%以上を占めるこの同位体は、どのようにして最終的に安定した鉛206へと変化していくのでしょうか。

ウラン238半減期と崩壊

ウラン238の基本特性
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半減期45億年の意味

ウラン238が半分の量になるまでに要する時間で、地球の年齢46億年とほぼ同等

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天然存在比99.3%

天然ウランのほとんどを占め、ウラン235は0.7%のみ

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アルファ崩壊による変化

アルファ線を放出してトリウム234へと崩壊し、最終的には鉛206になる

ウラン238の半減期45億年という時間スケール

 

ウラン238の半減期は44億6800万年(4.468×10⁹年)で、これは地球の年齢である約46億年とほぼ同じ長さです。この極めて長い半減期は、地球が誕生したときに存在したウラン238が現在ようやく半分になったところであることを意味しています。半減期とは、放射性同位体の原子数が元の半分になるまでにかかる時間を指し、ウラン238の場合は数十億年という天文学的な時間スケールとなっています。

 

参考)環境省_長い半減期の原子核

天然ウランの同位体比を見ると、ウラン238が99.3%、ウラン235が0.7%という割合で存在しています。この存在比の違いは、両者の半減期の差によって説明されます。ウラン235の半減期は7億年とウラン238の約6分の1の長さであるため、地球誕生以来より早く崩壊が進み、現在まで残った量が少なくなったのです。ウラン1000個のうち約7個がウラン235で、残りの約990個がウラン238という計算になります。

 

参考)https://www.ies.or.jp/ri_online/radiation/radiation02-8.html
youtube​
半減期の長さは放射線強度(比放射能)と反比例の関係にあります。ウラン235の比放射能は80,000ベクレル/グラムであるのに対し、半減期が約6倍長いウラン238は12,400ベクレル/グラムと低い値を示します。つまり、ウラン238は半減期が極めて長いため、単位時間あたりに放出される放射線の量は比較的少ないという特徴があります。

 

参考)第10章 それぞれの放射性物質について考えよう

ウラン238のアルファ崩壊とトリウム234への変化

ウラン238はアルファ崩壊によって娘核種であるトリウム234へと変化します。アルファ崩壊とは、原子核から2個の陽子と2個の中性子からなるアルファ粒子(ヘリウム原子核)を放出する現象です。この崩壊によって、原子番号が92から90へと2つ減少し、質量数が238から234へと4つ減少します。

 

参考)ウラン-238(238U)

トリウム234の半減期は24.10日と非常に短く、歴史的には「ウランX1(UX₁)」と呼ばれていました。トリウム234は次にベータ崩壊してプロトアクチニウム234m(半減期1.17分)となり、さらにベータ崩壊を経てウラン234(半減期24万5500年)へと変化していきます。

 

参考)ウラン系列 - Wikipedia

海水中の例を見ると、ウラン238がトリウム234に崩壊すると、トリウムは粒子に吸着しやすい性質があるため海水から除去されます。しかしトリウム234の半減期は数十日と短いため、すぐにウラン234に崩壊していきます。この崩壊系列における各核種の化学的性質の違いが、自然環境中での挙動に影響を与えています。

 

参考)コース: 崩壊系列_ウラン系列&トリウム系列

ウラン238崩壊系列と最終核種の鉛206

ウラン238から始まる崩壊系列は「ウラン系列」または「ラジウム系列」と呼ばれ、質量数が4n+2(nは整数)で表される特徴から「4n+2系列」とも称されます。この系列では、ウラン238を起点として最終的に安定核種である鉛206に至るまで、複数の放射性元素を経由します。

 

参考)ウラン238 - Wikipedia

崩壊系列の中で比較的半減期が長い核種として、ウラン234(24万5500年)、トリウム230(7万5380年)、ラジウム226(1600年)が存在します。これらの核種は、ウラン238の崩壊によって常に供給されるため、自然界で微量ながら確認できる放射性同位体となっています。特にラジウム226は「特にラジウム」として知られ、その娘核種であるラドン222(半減期3.824日)は気体であるため大気中に放出される特性があります。

 

参考)劣化ウラン - Wikipedia

ウラン系列全体では、アルファ崩壊とベータ崩壊を繰り返しながら約18回の崩壊過程を経て、最終的に鉛206という安定した核種に到達します。鉛206は放射線を出さない安定状態であり、そこでウラン系列の長い放射性崩壊の旅は終わります。この崩壊系列における各核種の崩壊定数や親核種と娘核種の比率を用いることで、地質学的な放射年代測定を行うことが可能となっています。

 

参考)放射性物質の減衰、崩壊について

ウラン238と核分裂、プルトニウム239の生成

ウラン238は核分裂を起こしにくい性質を持っていますが、中性子を吸収することによって核分裂性物質であるプルトニウム239に変化するという重要な特性があります。ウラン238が中性子を捕獲すると、まずウラン239(半減期23.45分)が生成されます。このウラン239は不安定でベータ崩壊してネプツニウム239(半減期2.356日)となり、さらにベータ崩壊を経てプルトニウム239が生成されます。

 

参考)プルトニウム239 - Wikipedia

プルトニウム239は半減期24,110年を持ち、ウラン235と同様に高い核分裂性を有するため、原子炉の燃料として利用できる3つの同位体の1つとなっています。実際、原子力発電所の運転中には、燃料中のウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239が生まれ、このプルトニウム239もウラン235と同じように核分裂を起こしてエネルギーを発生させています。

 

参考)リサイクル可能な燃料 − 原子燃料サイクル|電気事業連合会

ウラン238が核分裂を起こすためには、100万電子ボルト以上の高エネルギーを持つ中性子が必要です。しかし、高エネルギー中性子がウラン238原子核に衝突しても、必ずしも核分裂を起こすとは限らず、非弾性衝突によって中性子のエネルギーが急速に低下してしまうという問題があります。エネルギーが100万電子ボルト以下に落ちた中性子は、ウラン238原子核を絶対に分裂させることができないため、天然ウランでの連鎖反応の実現を困難にしています。

 

参考)これでは連鎖反応が起きない…じつは、ウラン238が「二次中性…

劣化ウランと濃縮ウラン、ウラン238の工業的利用

劣化ウランとは、核兵器の製造や原子力発電で使用される天然ウランを濃縮する過程で生じる放射性廃棄物で、天然ウランよりウラン235の割合が少なくウラン238の割合が高くなったものです。劣化ウランの成分の約99.8%はウラン238で構成され、その放射能が半分になるまでの半減期は45億年という極めて長い時間を要します。

 

参考)劣化ウラン弾はどういうものですか(FAQID-5801)|広…

天然ウランの同位体比はウラン238が約99.3%、ウラン235が約0.7%ですが、濃縮ウランは天然ウランを濃縮してウラン235の濃度を高めたものです。核兵器製造においては、ウラン238は中性子の捕獲率が高く、結果としてウラン235の核分裂反応を妨げるため、兵器級濃縮ウランを製造する際にはウラン238の割合が低くなるように配慮されます。広島に投下された原子爆弾では、ウラン235が80%、ウラン238が20%という比率でした。

劣化ウランは密度が高い物質で極めて重いという物理的特性を持つため、戦車の厚い装甲を破壊する砲弾や戦車の装甲などに軍事利用されています。また、六フッ化ウラン(UF₆)は固体でありながら気体になる唯一のウラン化合物であり、ウランの同位体分離プロセスで重要な役割を果たしています。

地球の歴史とウラン238、鉱石採掘と存在

地球におけるウランは、その存在量のほとんど(約10¹⁷kg)が地殻の表層付近(地表から20km以内)に存在していると言われています。地球でウランが表層付近に濃縮されているのは、ウランが不適合元素であるためと説明されています。天然ウラン中のウラン238は、地球が誕生した初期から存在し続けている代表的な天然放射能です。

 

参考)ウラン - Wikipedia

ウランは宇宙のビッグバン(約138億年前)の直後には存在せず、水素とヘリウムしかありませんでした。地球のウランは、ビッグバン後の中性子星の合体や超新星爆発によって合成され、それらが再び集まって太陽系を形成した際に地球に含まれるようになりました。地球が出来上がった時期は約46億年前であり、ウラン238の半減期45億年を考慮すると、地球誕生時に存在したウラン238の約半分が現在も地球上に残っていることになります。
youtube​
参考)https://www.enetalk21.gr.jp/kouenroku/20091021_atomic1_03.html

ウラン鉱石の主な産地として、カナダ、南アフリカ共和国、オーストラリア、アメリカなどがありますが、最近はカザフスタンが注目されています。世界の可採確定埋蔵量は480万トンといわれていますが、採掘可能年代が100年程度という見積もりには不確実性があります。興味深いことに、海水中にも大量のウランが存在しており、海水の体積13.7億km³にウラン濃度3.3トン/km³を掛けると、総量45億トンという膨大な量になります。この海水中のウランの回収利用については、過去に話題になったこともありました。

 

 


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