ウジェニー・ド・モンティジョは、フランス皇帝ナポレオン3世の皇后として1826年から1920年まで生きた歴史的人物です。スペイン貴族の家に生まれ、パリで教育を受けた彼女は、その美しさと貴族的気品で知られ、「モードの女帝」と称されるほどファッション界に大きな影響を与えました。舞踏会やレセプション、旅行が頻繁に行われるようになったことで、豪華な衣装を収納するトランクの需要が高まり、当時荷造り用木箱製造職人だったルイ・ヴィトンに白羽の矢が立ちました。
参考)https://louisvuitton-navi.jp/story/eugenie.html
ウジェニーは最初、複数の業者に荷造りを依頼していましたが、やがてルイ・ヴィトンだけにこの重要な仕事を任せるようになります。エリゼ宮へ定期的に足を運び、皇后の華麗な衣装の梱包を担当したことで、ルイ・ヴィトンは名声を手に入れました。この皇室御用達という地位が、後のルイ・ヴィトンブランドの成功の礎となったのです。現代でも、ウジェニーの名前は「ポルトフォイユ・ウジェニ」という財布コレクションや、「ウジェニーピンク」というカラー名として製品に受け継がれています。
参考)https://louisvuitton-navi.jp/wallet/louis_vuitton-ss-07.html
ウジェニー皇后は、ファッションだけでなく食器や陶器の分野でも優れた審美眼を持っていました。1863年に創業したリモージュの名窯ベルナルドは、ウジェニーが愛用したことでナポレオン3世皇室御用達となり、150年以上の歴史を誇る伝統ブランドとして確立されました。このディナーセットを購入したことが、ベルナルドの名声を高めるきっかけとなったのです。
参考)https://wabbey.net/blogs/blog/eugenie
また、ハンガリーの名窯ヘレンドが1867年のパリ万国博覧会に出品した「インドの華」シリーズも、ウジェニーが購入したことで一気に人気が高まりました。このシリーズは日本の柿右衛門様式をモチーフにしており、ウジェニーがオーストリア・ハンガリー帝国の皇帝を食事に招待した際、自らこのヘレンド製ディナーセットでもてなしたという逸話が残っています。皇后の選択は、単なる個人の趣味を超えて、ヨーロッパ全体の陶器文化に影響を与える力を持っていました。
参考)ヘレンド商品 インドの華
ウジェニーが流行の先駆けとなったものは数知れず、化粧品メーカーのゲランも彼女の結婚祝いに香水を献上して王室御用達の地位を得ました。このように、彼女が支持したブランドは必ず成功を収めるという構図が、19世紀のヨーロッパ社交界に存在していたのです。
現代のルイ・ヴィトンは、ウジェニー皇后の美意識を受け継ぎ、高級テーブルウェアコレクションを展開しています。2023年に発表されたテーブルウェアコレクションは、フランスの陶磁器の町として有名なリモージュで製造される磁器を使用しており、メゾンのアイコニックなモノグラム・フラワーをモダンなタッチで表現しています。
参考)新年を優美に彩る!ルイ・ヴィトンの「磁器製プレートとカップ」…
「モノグラム・フラワー タイル」シリーズは、ブルーとホワイトのベーシックな配色で、磁器の持つシンプルかつタイムレスなエレガンスを体現しています。リモージュ製の磁器プレート4枚セットやティーカップ&ソーサーなど、ティータイムからディナーまであらゆるシーンに対応するラインナップが揃います。各カップの口と底には上品なゴールドの縁取りが施され、専用のレザーケースに収納されているのも特徴です。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001018.000060591.html
2024年10月には「アート オブ ダイニング」コレクションとして新作が発売され、「コンステラシオン」と「スプランドゥール」という2種類の磁器セットに加え、初となるカトラリー・セット「リベット」が登場しました。点描画法風のデザインでモノグラム・フラワーを表現した「コンステラシオン」は、プレートやティーポット、マグ、ボウルなど13のアイテムで構成されています。
参考)【ルイ・ヴィトン】新作テーブルウェア・コレクションを発売|@…
ウジェニーの名前は、ルイ・ヴィトンの製品カラーとしても現代に生き続けています。2025年8月に発売されたビューティライン「ラ・ボーテ ルイ・ヴィトン」では、「200 ローズ ウジェニー」という名前のリップスティックが登場し、皇后ウジェニーに敬意を表した色として特別な位置づけを与えられています。
参考)発売間近! ラ・ボーテ ルイ・ヴィトン、洗練の色彩。(フィガ…
また、モノグラムアンプラント素材を使用した財布やキーケースには、「ウジェニーピンク」というフェミニンなカラーがライニングに採用されています。このピンクは、モノグラム・キャンバスの象徴的なデザインに華やかさを添え、開けるたびに目に飛び込む鮮やかな色彩が特徴です。ウジェニーピンクは、財布だけでなくキーケースの「ミュルティクレ 4」などにも使用され、ルイ・ヴィトンの定番カラーの一つとなっています。
参考)ルイヴィトン キーケース モノグラム ミュルティクレ 4 ピ…
興味深いのは、ウジェニー皇后自身がマリー・アントワネットに強い憧れを抱いていたという点です。彼女はマリー・アントワネットの肖像画や遺品をコレクションし、展覧会まで開催していました。この歴史的な美意識の継承が、現代のルイ・ヴィトンのデザイン哲学にも影響を与えているといえるでしょう。
ルイ・ヴィトンのテーブルウェアコレクションは、実用性とデザイン性を兼ね備えた逸品です。食器洗浄機に対応しているため日常使いも可能ですが、電子レンジの使用は不可となっています。リモージュ磁器特有の透き通るような白さと、クラシックで優雅な絵付けが特徴で、和食にも洋食にも似合うデザイン性が魅力です。
参考)ルイ・ヴィトン、モノグラムの食器で何をいただく?|Lifes…
テーブルウェアコレクションの価格帯は、サイドプレート2枚セットが33,000円、ティーカップ&ソーサー2客セットが69,300円、グラス4客セットが143,000円となっています。専用のレザーケースに収納されているため、ジュエリーディッシュとしてインテリアのアクセントに使用することも可能です。置いておくだけで空間をエレガントな雰囲気に包む美しさは、ギフトとしても最適です。
使用上の注意点として、磁器の繊細さを保つために丁寧な扱いが推奨されます。各アイテムは一流の職人による手作業で絵付けされており、同じシリーズであっても絵の位置や色、形が微妙に異なるため、世界に二つと同じものがない逸品といえます。この個性こそが、ルイ・ヴィトンのテーブルウェアが持つ真の価値なのです。
参考)https://item.rakuten.co.jp/nihonnotsurugi/071005/
ウジェニー皇后と日本文化の接点は、1867年のパリ万国博覧会にまで遡ります。この博覧会は日本が初めて参加した国際イベントで、浮世絵や漆器がヨーロッパに日本ブームを巻き起こすきっかけとなりました。ウジェニーはこの博覧会の主催者として、日本文化のヨーロッパへの紹介に重要な役割を果たしたのです。
興味深いことに、ヘレンドの「インドの華」シリーズは、日本の有田焼・柿右衛門様式の写しです。しかし「インド」という名称がついているのは、当時東洋の物産がすべてインドに拠点を持つ東インド会社の船で運ばれたため、日本の柿右衛門にもヨーロッパ向け出港国であるインドの名が冠せられたという歴史的背景があります。ウジェニーがこのシリーズを愛用したことで、日本の陶器芸術がヨーロッパ上流階級に広まる契機となりました。
参考)https://nihonnotsurugi.jp/?pid=152651472
現代のルイ・ヴィトンのテーブルウェアも、和食にも洋食にも似合うデザイン性を持っており、日本市場を意識した展開がなされています。モノグラム・フラワーの水彩画のような繊細なエフェクトは、日本の伝統的な美意識とも通じるものがあり、日本の食卓に自然に溶け込むデザインといえるでしょう。ウジェニー皇后が築いた日仏文化交流の伝統が、現代のルイ・ヴィトン製品にも息づいているのです。