トルエンは常圧(760mmHg、1気圧)において110.6℃の沸点を持つ芳香族炭化水素です。分子式C7H8、分子量92.14の無色透明な液体で、融点は-95℃、密度は0.867g/cm³(20℃)という物理的性質を示します。トルエンは水に難溶性で、油などを溶かす性質を持つため、有機溶媒として広く利用されています。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/report/h14-05/chap01/03/24.pdf
常圧での蒸留では110℃以上に加熱する必要がありますが、この温度では熱に弱い物質が混在する場合に分解や変質のリスクが高まります。そのため、不揮発性物質が混入したトルエンを精製する際には、減圧蒸留が有効な手段となります。
参考)化学について二点質問です。不揮発性の物質が混入したトルエンを…
液体の沸点は、その蒸気圧が外圧(周囲の圧力)と等しくなる温度として定義されます。減圧蒸留では、装置内の圧力を大気圧よりも低く設定することで、トルエンの蒸気圧が外圧に達する温度を低下させることができます。
参考)減圧蒸留方式(げんあつじょうりゅうほうしき)
この原理は、高所で水の沸点が100℃より低くなる現象と同じです。圧力を下げることで分子が液体表面から脱出しやすくなり、より低い温度でも沸騰が起こります。トルエンの場合、200mmHg、100mmHg、10mmHgと圧力を下げるにつれて、沸点は段階的に低下していきます。
参考)トルエンを真空減圧して蒸留するとします。200mmHg、10…
アントワーヌの式を用いることで、特定の圧力におけるトルエンの沸点を精密に計算できます。トルエンのアントワーヌ定数は、A=4.07827、B=1343.943、C=-53.773であり、これらを用いて蒸気圧と温度の関係を求めることが可能です。
参考)アントワン定数より沸点⇔蒸気圧の算出
実際の減圧蒸留では、目的に応じて最適な圧力と温度を選択します。一般的な減圧蒸留装置では、30~100mmHg程度まで圧力を下げることで、熱分解を防ぎながら高沸点留分を効率的に分離できます。
参考)減圧蒸留装置 - Wikipedia
ノモグラフ(計算図表)を使用すると、通常沸点から減圧下の沸点を実践的に推算できます。例えば、通常沸点が220℃の物質を100℃で蒸留したい場合、約2.1kPa(16mmHg)まで減圧すれば良いと推定されます。トルエンの場合も同様に、所望の蒸留温度から必要な減圧度を逆算することができます。
参考)種々のデータ:種々の液体の蒸気圧
工業的な減圧蒸留装置では、加熱炉で原料油を350~400℃に加熱し、減圧蒸留塔内を30~100mmHg程度に保持することで、効率的な分離を実現しています。ただし、トルエンのような比較的低沸点の物質では、これほど高温にする必要はなく、より穏和な条件で蒸留が可能です。
減圧蒸留装置は、いくつかの重要な構成要素から成り立っています。まず、加熱器で液体を加熱して蒸発を促進します。次に蒸留塔で成分を効率よく分離し、コンデンサーで蒸気を冷却して再凝縮させます。
参考)減圧蒸留とは? 仕組みやメリット、活用例を徹底解説 - 兼松…
減圧ポンプは減圧蒸留の中核的な装置であり、装置内の気圧を下げることで液体の沸点を低下させます。アスピレーターと呼ばれる減圧装置を使用し、蒸留装置との間に圧力計を設置して圧力を監視します。圧力計により、目標とする減圧度が正確に維持されているかを常時確認できます。
youtube
減圧蒸留塔は常圧蒸留塔よりも大きな直径を必要とします。これは、圧力が低いために内部の気体の体積が大きくなるためです。塔内には棚段(トレイ)または蒸留用充填物(パッキング)が設置され、気液接触効率を高めています。
真空排気設備として水蒸気駆動エジェクタを用いることで、塔内を低圧に保つためにガスを連続的に排出します。また、塔底部に水蒸気を導入して水蒸気蒸留とすることもあり、これによりさらに沸点を下げることができます。
トルエンの減圧蒸留において、鉱石処理や化学合成の副産物として得られる粗トルエンを精製する場合、従来の温度・圧力管理だけでなく、段階的減圧法という独自のアプローチが効果的です。
この方法では、最初は比較的高い圧力(例えば200mmHg)で粗留分を除去し、その後段階的に圧力を下げていくことで、トルエンの熱履歴を最小限に抑えながら高純度品を得ることができます。特に、トルエンを合成原料として使用する場合、わずかな不純物でも後の反応に影響を与えるため、この段階的アプローチは純度管理において重要です。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0045.html
実際の工業プロセスでは、減圧濃縮機を用いて微量のトルエンを除去する際、82℃程度での濃縮中に異常反応が起こるリスクも報告されています。このため、温度管理だけでなく、濃縮速度や残存トルエン濃度のモニタリングが安全操作の鍵となります。
参考)化学物質DB/Webkis-Plus 化学物質詳細情報
鉱石からの精製プロセスでは、高沸点物質濃度が約50重量%になるまで減圧下でトルエンを除去する方法が採用されることもあります。この際、流下フィルム蒸発器を使用することで、効率的な熱伝達と短い滞留時間を実現し、製品品質を維持しています。
参考)https://patents.google.com/patent/JPH09241223A/ja
実用的な減圧蒸留では、目的に応じた温度と圧力の最適化が重要です。トルエンの精製において、アニリンとの混合液を分離する場合、トルエンの沸点110.6℃とアニリンの沸点184℃の差を利用します。温度計が160~170℃を示すまで加熱を続け、トルエンが完全に留出した後、アニリン本留の留出前で加熱を停止します。
参考)https://aue.repo.nii.ac.jp/record/759/files/kenshi404350.pdf
減圧蒸留方式の主なメリットは、加熱温度を抑えながら蒸留できることです。圧力を下げることで沸点が低くなり、熱に弱い成分の変質を防ぎながら分離が可能になります。また、エネルギー消費を抑えられるため、コスト効率にも優れています。
参考)減圧蒸留とは?技術の特徴や原理、メリットを分かりやすく解説
沸点換算図表を活用することで、減圧の沸点から常圧の沸点を計算することも可能です。例えば、定規を右端の圧力(例えば1mmHg)に合わせて真ん中の沸点(例えば400℃)と結ぶと、その400℃沸点の化合物は1mmHgの時に190℃で沸騰することが分かります。
参考)https://www.tcichemicals.com/assets/cms-pdfs/pressure-temperature-j.pdf
トルエンは染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、甘味料、漂白剤、TDI、テレフタル酸、合成繊維、可塑剤などの合成原料として使用されるため、高純度のトルエンを得ることは工業的に非常に重要です。減圧蒸留により、これらの用途に適した高品質なトルエンを効率的に製造できます。
環境省:トルエンの物理化学的性質と環境基準に関する詳細データ
兼松エンジニアリング:減圧蒸留技術の原理と産業応用の包括的解説
日本化学会:トルエンの気体PVT関係と蒸気圧測定に関する学術論文

メタルクリーナー#770[16L] 三協化学 脱脂 速乾 洗浄剤 トルエン キシレン シンナー アセトン ガソリン 塩化メチレン ジクロロメタン トリクロロエチレン トリクレン パークロロエチレン ベンジン ヘキサン 代替 代わり 変更 有機則 有規則 特化則 PRTR 消防法 非該当 特定化学物質障害予防規則 有機溶剤中毒予防規則