天然砥石の種類と色の特徴と産地の見分け方

天然砥石には産地や層によって多様な種類と色があり、それぞれ異なる特徴と研ぎ味を持っています。白、黄、黒、青など色の違いが何を意味するのか、どう選べばよいのでしょうか?

天然砥石の種類と色の特徴

天然砥石の色と層による分類
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巣板系(すいたけい)

白・黄・卵色が特徴で、吸い付くような研ぎ感と強い研磨力を持つ仕上げ砥石

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浅黄・青砥系(あさぎ・あおと)

水色や青灰色の色調で、硬度が高く細かい仕上がりが得られる層

合砥・戸前系(あわせど・ともえ)

色物・梨地など多様な色を持ち、粒子が細かく微密な仕上がりが特徴

天然砥石の層と色による分類

 

天然砥石は地層の違いによって色や硬度、研ぎ味が大きく異なります。代表的な層の種類として、**巣板(すいた)**は白色、黄色、卵色などの明るい色調が特徴で、吸い付くような研ぎ感と強い研磨力を持ちます。巣板系は研ぎやすく早く仕上がり、地金の研ぎムラが少なく目詰まりしにくいため、料理人や大工など現場での使用に最適です。

 

参考)丸尾山の天然砥石

**合砥(あわせど)**は巣板に比べて硬度が高めで、色物・梨地・浅黄・ナマズ・いきむらさきなど多様な色と模様を持ちます。粒子がより細かく、巣板よりも微密な仕上がりが得られるため、最終仕上げや鉋の薄削りにも対応します。合砥の中でも大上、戸前、八枚、千枚など細かく分類され、それぞれ異なる特性を持っています。

**浅黄(あさぎ)**は水色に黄色を足したような色調が特徴で、非常に硬い砥石として知られています。天然砥石では硬いほど細かく研ぎ上げられるため、浅黄系は高度な仕上げに適しています。ただし硬度が高いため使いこなしには技術が必要で、上級者向けの砥石とされることが多いです。

 

参考)砥石浅黄系の特徴は? - 天然砥石にハマり、黄板系の砥石,梨…

天然砥石の主要産地と特徴

京都府は日本を代表する天然砥石の産地で、特に山城合砥は最高級の仕上げ砥石として世界的に評価されています。京都の梅ヶ畑地区には尾崎、向ノ地、中山、菖蒲谷、奥殿、大突、木津山など多数の鉱山があり、それぞれ独自の特徴を持つ砥石を産出していました。中山の天然砥石は均一な粒子分布を持ち、一貫した研ぎ結果と美しい仕上げが得られることで特に有名です。

 

参考)天然砥石 - Wikipedia

丹波地方(京都府船井郡)では青砥や佐伯砥などが産出され、中砥石として広く使用されていました。丹波青砥は刃物の中仕上げ用として優れており、日本刀の艶出しにも使用される目の細かさが特徴です。また丹波地方には大内、八木の島、三号山、若狭などの鉱山があり、多様な砥石が採掘されていました。
参考)https://kinomemocho.com/hamono_tennentoishi.html

愛媛県の伊予砥は柔らかめで研ぎやすい中砥石として知られ、日本刀の研ぎにも使用されていました。熊本県の天草砥は現在も採掘が続いており、天然砥石としては流通量が多く、人造砥と変わらない手頃な価格で入手できます。天草砥は等級によって「上白(備水)」「中白」「虎(赤虎)」に分類され、それぞれ異なる色と特性を持ちます。

 

参考)「天然砥石」産地や種類の選び方を徹底解説 - 堺一文字光秀 …

天然砥石の色が示す硬度と粒度の関係

天然砥石の色は硬度や粒度と密接な関係があり、選択の重要な指標となります。一般的に白色や黄色系の砥石は比較的柔らかく、研ぎやすい特徴を持ちます。白巣板や黄色巣板は吸水性に優れ、研ぎ汁の出がよく、スッキリと仕上げられるため初心者にも扱いやすいです。

 

参考)天然砥石のおすすめ12選。人造砥石との違いも解説

青灰色や浅黄色の砥石は硬度が高く、より細かい粒度を持つ傾向があります。硬い砥石は水の吸い込みが遅く、叩くとキンキンと高い音がします。硬度が高いほど目が詰まっており、手に持つと重たく感じられます。浅黄系や浅葱色の砥石は非常に硬く、細密な仕上げが可能ですが、使いこなすには熟練が必要です。
参考)鎌倉彫道友会 道具道楽 天然砥石の部屋

褐色や黒色系の砥石は中間的な硬度を持ち、名倉との組み合わせで性能が大きく変化します。黒蓮華や褐色系のマルカなどは、使用する名倉によって刃付きの塩梅が極端に変化し、適切な名倉を選べば驚くほど効率的に研げます。一方で柔らかい砥石は水を早く吸い込み、叩くとボトボトと低い音がしますが、軽い力で研げる利点があります。​

天然砥石の用途別の種類と選び方

天然砥石は粒度によって荒砥石、中砥石、仕上げ砥石の3種類に分類されます。荒砥石は粒度#100〜600前後で、刃こぼれの修正や刃の形状を整える初期研磨に使用します。人造砥石の品質向上により、荒砥石と中砥石は人造で十分な場合が多いですが、仕上げ砥石だけは天然にしか出せない切れ味があると言われています。

 

参考)https://www.toishiya.com/cube/html/contents/index.html

中砥石は粒度#1000前後で、日常的な包丁研ぎに最も使用頻度が高い砥石です。天草砥、伊予砥、丹波青砥などが代表的な中砥石で、それぞれ柔らかさや研ぎ味が異なります。天草砥は流通量が多く手頃な価格で入手でき、伊予砥は柔らかめで研ぎやすく、丹波青砥は少し目が細かく中仕上げに適しています。

 

参考)https://togibu.com/blogs/toishi-no-arekore/tennentoishimatome

仕上げ砥石は粒度#3000以上で、刃物を最終段階で研ぎ上げます。京都の山城合砥は最高級の仕上げ砥石として知られ、粒度は#7000〜#9000、研ぎ込むほど細かくなり#20000レベルに達します。仕上げ砥石の選択には、巣板系は研磨力が強く現場向き、合砥系は粒子が細かく微密な仕上がり、という特徴を考慮します。刀剣研磨には天上巣板など特殊な層が使用され、内曇効果により刃紋を浮き出させます。

 

参考)仕上げ天然砥石

天然砥石の色から読み取る品質と研ぎ味の秘密

天然砥石の色は単なる見た目ではなく、内部の鉱物組成と研磨性能を反映しています。玉杢模様や梨地模様は砥石の品質を示す重要な指標で、均一で美しい模様は粒子の均一性を示唆します。黄色い玉杢模様がぼんやりと揺らぐ褐色系の砥石は、マルカなど高品質なものに見られ、適切な名倉との組み合わせで優れた刃付きを実現します。

 

参考)https://daiku-dougu.jp/3-tennenn-toishi.htm

蓮華模様やナマズ模様も天然砥石の特徴的な色彩パターンです。黒蓮華の巣板は独特の模様を持ち、強い研磨力と早い刃付きで知られています。これらの模様は地層の形成過程で生じた鉱物の分布パターンであり、研ぎ味に直接影響します。ただし筋(スジ)がある場合は、刃物に当たらなければ品質に問題ありませんが、刃に引っかかる筋は避けるべきです。​
色の変化は水に濡らすことでより顕著になります。乾燥時は褐色だった砥石が水に濡らすと急に明るい発色になり、黄色が目立つようになるケースがあります。この変化は砥石の吸水性と内部構造を反映しており、研ぎ汁の出方や研削力に影響します。白物系のコマ(最も粒子が細かい層)は、グレーの細かい斑点が特徴で、極めて細密な仕上げが可能です。墨流し系の目白はグレーの色調で純白系より粗い粒度ですが、硬度が高く研磨力も強いという独自の特性を持ちます。

天然砥石の選び方の詳細ガイド - 京都の砥石専門店による解説
天然砥石の産地と種類の完全解説 - 包丁専門店一文字による詳細情報
天然砥石種類別まとめとプロが選ぶおすすめ産地 - 研師による実践的アドバイス

 

 


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