大気汚染防止法では、工場や事業場からの排出規制、自動車排出ガスの許容限度設定などによって大気汚染の防止を図っています。規制対象となる物質は、ばい煙(硫黄酸化物、ばいじん、有害物質5種)、粉じん(一般粉じん、特定粉じん)、自動車排出ガス、特定物質(28物質)、有害大気汚染物質(248種類、うち指定物質3物質)、揮発性有機化合物(VOC)などに分類されます。
参考)大気汚染物質の種類|大気汚染の原因|大気汚染の現状と対策|大…
環境基準が設定されている主要な大気汚染物質として、二酸化硫黄(SO₂)、一酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO₂)、浮遊粒子状物質(SPM)、光化学オキシダント(Ox)、微小粒子状物質(PM2.5)があります。これらの物質は常時監視の対象となっており、テレメータシステムにより継続的に測定されています。
大気汚染物質の発生源は、工場・事業場などの固定発生源と、自動車・船舶・航空機などの移動発生源の2つに大別されます。固定発生源からは主に硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじんが排出され、移動発生源の自動車からは窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)が主要な汚染物質として排出されています。
参考)私たちのくらし:車|わたしたちの生活と大気環境|大気環境の情…
ばい煙として分類される有害物質には、窒素酸化物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、塩素・塩化水素、フッ素・フッ化水素などがあり、施設ごとに濃度基準が設定されています。カドミウムの排出基準は1.0mg/Nm³、鉛は10~30mg/Nm³と定められており、銅・亜鉛・鉛の精錬施設における燃焼や化学的処理が主な発生形態です。
参考)工場及び事業場から排出される大気汚染物質に対する規制方式とそ…
揮発性有機化合物(VOC)は、大気中に排出されると光化学オキシダントやSPM(浮遊粒子状物質)の原因物質となります。主な物質としてトルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、酢酸エチル、メタノール、ジクロロメタンなど100種類以上が該当し、化学製品製造・塗装・接着・印刷における乾燥施設、吹付塗装施設、洗浄施設などから排出されます。
参考)揮発性有機化合物(VOC)に該当する主な物質|横須賀市
大気汚染による健康影響は、眼や鼻などの粘膜への刺激症状もありますが、最も大きな影響は呼吸器系統に対するものです。関連する呼吸器疾患には、感冒などの上気道性疾患、気管支炎、気管支ぜん息、肺気腫、気管支拡張症、肺繊維症、肺がん、肺性心などがあります。
参考)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/s44/11276.html
急性曝露による影響として喘鳴、咳、痰、呼吸器感染症などの急性症状や肺機能などの生理的変化が見られます。慢性曝露では呼吸器・心血管系の死亡リスク増加、慢性の呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性疾患)が報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsci/53/5/53_19/_pdf/-char/ja
微小粒子状物質PM2.5は、粒径2.5μm以下の物質で、浮遊粒子状物質(SPM)より粒径が小さいため体内の深部まで入り込みやすく、より大きな健康影響があると言われています。国際がん研究機関(IARC)はPM2.5をグループ1の発がん物質に分類しており、人に対する十分な発がん性の証拠が得られています。
参考)http://www.taiki-kansi.pref.saitama.lg.jp/kankyo/html/Taikikankyoyougosyuu.html
二酸化硫黄や二酸化窒素は、のどや肺を刺激し、気管支炎や上気道炎などを引き起こします。光化学オキシダントは、大気中の窒素酸化物と炭化水素が太陽光(紫外線)の作用を受けて二次的に生成される汚染物質の集合体で、光化学スモッグの原因となり、目やのどなどを強く刺激します。
重金属は自然界に存在する地殻成分であると同時に、持続的な環境汚染物質でもあります。人への重金属曝露は、空気・粉塵粒子の吸入、汚染された水や土壌の摂取、食物連鎖を通じて起こります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11742009/
カドミウムは人体にとって有害な重金属で、長期間の曝露により腎臓、肺、肝臓に障害を生じることが知られています。特にカルシウム代謝を阻害し、栄養上の欠落などの要因と相まって健康被害をもたらします。カドミウムの生物学的半減期は人体で16~30年に及び、ゆっくりとした中毒症状を引き起こします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10537762/
大気中へのカドミウム放出は、精錬、石炭や廃棄物の燃焼によって起こります。カドミウムを含む製品の生産工程や使用過程においても大気中に飛散する可能性があり、空気中に放出されたカドミウム粒子は長距離移動すると考えられています。カドミウムは地殻の表層部に重量比で0.00005%程度存在し、クラーク数で62番目に多い元素です。
参考)カドミウム及びその化合物(第二種特定有害物質)について|土壌…
PM2.5に結合した重金属類の健康リスク評価では、カドミウムによる生涯発がんリスク(ILCR)が子供で1.19×10⁻⁴、成人で4.81×10⁻⁴となり、人間におけるがん発症の高リスクが示されています。重金属類は体内に蓄積すると、酸化ストレスの誘発、カルシウムシグナル伝達の破壊、細胞シグナル経路への干渉、エピジェネティック修飾など、様々な生化学的・分子的メカニズムを通じて広範な毒性影響を及ぼします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11209188/
鉱業活動は環境に数々の悪影響を及ぼしており、地下水・地上水供給の汚染、生物多様性の損失、そして人間の健康に有害な微粉塵粒子の放出による大気汚染が含まれます。採掘作業は近年改良されてきましたが、大気汚染は依然として採掘活動に関連する主要な環境問題の一つです。
参考)https://www.wipo.int/documents/d/ipday/ipday2020_casestudy_1.pdf-3
リチウム採掘を例にとると、この作業は土壌の劣化、水質・大気の汚染、地域社会や生態系、食糧生産に害を及ぼす可能性があると報告されています。リチウムは電気自動車のバッテリーなどに使用されるため、脱炭素化に向けた需要が急増していますが、1日あたり約2,100万リットルもの大量の水を地下から汲み上げて消費・汚染し、近隣地域の希少な水資源を枯渇させるという環境負荷が問題となっています。
参考)これは神秘なんかじゃない。リチウム採掘場の脅威と美。
銅、亜鉛、鉛の精錬施設は、カドミウムやその化合物、鉛やその化合物などの有害物質を大気中に排出する主要な発生源とされています。これらの金属精錬過程における燃焼や化学的処理によって、重金属を含む粒子状物質が大気中に放出されます。カドミウムは亜鉛鉱石に多く含まれて産出するため、亜鉛精錬施設からのカドミウム排出は特に注意が必要です。
参考)https://www.georhizome.co.jp/soil_contamination/hazardous-substances/type2and3/
鉱業地帯周辺では、採掘・精錬作業に伴う粉塵の発生、鉱石や廃棄物に含まれる重金属類の飛散、燃焼プロセスからの排出ガスなど、複合的な大気汚染が発生します。ペルーのような鉱物産出国では、銅、亜鉛などの鉱物が世界でも有数の産出量を誇りますが、同時に採掘作業に関連する大気汚染への対応が課題となっています。
大気汚染物質の常時監視は、環境基準が設定されている二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、二酸化窒素、微小粒子状物質について実施されています。測定はテレメータシステムによって行われ、遠隔地の測定データを1時間ごとに自動的に収集して大気の汚染状況を常時監視するとともに、収集した各種の測定データを総合的に処理解析して汚染の未然防止に役立てています。
参考)大気の常時監視について|沖縄県公式ホームページ
環境基準は「人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準」として定められており、行政上の政策目標となっています。これは人の健康等を維持するための最低限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい目標として、その確保を図っていこうとするものです。
工場及び事業場から排出される大気汚染物質に対しては、物質ごとに異なる規制方式が適用されています。硫黄酸化物は排出口の高さと地域ごとに定める定数に応じた許容排出量、季節による燃料使用基準、総量規制が設定されています。ばいじんは施設・規模ごとの排出基準(濃度)として一般排出基準0.04~0.5g/Nm³、特別排出基準0.03~0.2g/Nm³が定められています。
環境再生保全機構の大気汚染物質の種類についての詳細解説
大気汚染物質の分類、規制物質、発生形態、規制基準などが体系的にまとめられています。
環境省の大気汚染防止法に関する情報
工場及び事業場からの排出規制、自動車排出ガス規制、測定・監視体制などの法的枠組みが説明されています。
有害大気汚染物質については、248物質(群)が対象とされ、このうち「優先取組物質」として23物質が指定されています。事業者及び国民の排出抑制等自主的取組、国の科学的知見の充実、自治体の汚染状況把握などが各主体の責務として規定されており、知見の集積が進められています。
自動車排出ガスについては、車両ごとに許容限度が設定され、保安基準(道路運送車両法)で考慮されます。車両検査や整備命令などによって規制が実施されています。現在の日本では、移動発生源である自動車から排出される窒素酸化物や粒子状物質による環境基準の達成が思わしくないのが現状です。
参考)日本の大気汚染の原因と対策|アピステコラム|冷却・防塵・放熱…
大気汚染防止法では、都道府県は条例で国の基準より厳しい上乗せ基準を設定することができるとされており、地域の実情に応じた規制強化が可能となっています。また、環境基準は常に新しい科学的知見の収集に努め、適切な科学的判断が加えられていかなければならないものとされています。

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