双晶水晶とは、2個以上の水晶結晶が結晶学的な規則性をもって接合したものを指します。単なる結晶の集合体とは異なり、双晶を構成する結晶軸方位の間には一定の法則性があり、天然または人工的にしばしば再現されるという3つの特徴を持っています。水晶の双晶は十数種類あるといわれており、代表的なものには日本式双晶、ドフィーネ式双晶、ブラジル式双晶などがあります。
参考)結晶美術館 - 水晶の双晶
双晶は結晶成長のプロセスにおいて、過飽和度の高い環境で核形成が行われるときに生じやすくなります。核の元となる粒子が互いに接近遭遇し、単晶の核を作る関係で結合するばかりでなく、双晶の核を作る関係でも結合する確率が高まるのです。このため、産地によって双晶の出現頻度は大きく異なります。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery14/997twins.html
日本式双晶は、2つの水晶結晶が1つの結晶面を共有し、約85度(正確には84度34分)の角度で接合している水晶の双晶です。この特徴的な角度により、外観はV字型、ハート型、軍配型の3つのパターンに分類されます。接合部には細かなヒビや液体包有物が存在しているのが一般的です。
参考)https://www.istone.org/nippon-q.html
日本式双晶を形成している結晶には3つの特徴があります。第一に、双晶となる結晶は単結晶のものよりも大きく成長する傾向があります。第二に、色彩は無色透明なものがほとんどですが、一部の産地では紫水晶のものも産出します。第三に、板状の形態を取ることが多く、これがハート型に見える要因となっています。
参考)https://plaza.rakuten.co.jp/voidmark/diary/200506120001/
日本式双晶はc軸(長軸)に対して傾いて2つの水晶が合体しているため、双晶であることが明確に分かりやすい特徴があります。特に角度によってはハート形に見えることもあり、コレクターの間で人気が高い理由の一つとなっています。
参考)地学メモ:水晶の種類|松井耕介
ドフィーネ式双晶は、右水晶同士あるいは左水晶同士が同軸上に双晶となる構造を持っています。この双晶は周囲に対して180度回転した構造を持った領域を含んでおり、r面の領域にz面の領域の特徴が現れるのが特徴です。
参考)双晶 - Wikipedia
外観上は単結晶にしか見えないため、一目では判別しにくい双晶です。しかし水晶の柱面の隅には小さな面(平行四辺形)ができることがあり、この面が柱面ごとに左右どちらか同じ方向に連続して現れる場合、ドフィーネ式双晶である可能性が高くなります。
参考)左右水晶・双晶・レコードキーパーについて
肉眼観察では、表面光沢と条線の波打ちを注意深く見ることで双晶だと気付くことができます。c軸(長軸)は完全に同一方向を向き、a軸が互いに60度ずれた2つの結晶の集合となっています。フッ酸処理によって食像を作って初めて確実に判明するケースも多く、多くの水晶は外観上単結晶と同じに見えても実際には貫入型の双晶となっています。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery13/972dbtwins.html
ブラジル式双晶は、完全に鏡像の関係にある右水晶と左水晶が合わさった双晶です。ドフィーネ式双晶が同じ向きの水晶同士の双晶であるのに対し、ブラジル式双晶は右と左という向きの違う水晶から構成される点が大きな特徴です。
この双晶も外観上は普通の1つの水晶に見えるため、肉眼で判定するのは困難です。c軸が完全に平行なので、ドフィーネ式双晶と同様に単結晶のように見えます。右水晶と左水晶の平行四辺形がどちらも出ている結晶の場合、右水晶と左水晶の双晶である証拠となります。
興味深いことに、ブラジル式双晶はドフィーネ式双晶よりも珍しいとされています。ブラジル産の水晶を検証した結果によれば、30個に1個程度の割合で見つかる程度の出現頻度です。さらに特殊なのは、スモーキークォーツにはほとんどブラジル式双晶が現れないという報告もあり、ブラジル式双晶のスモーキークォーツは珍しいとされています。
日本式双晶の産地として有名なのは、山梨県乙女鉱山・水晶峠、長崎県奈留島、大分県尾平鉱山、宮崎県木浦鉱山などです。これらの産地からは数センチから最大数十センチまでのものが産出しています。特に乙女鉱山産のものは、19世紀にドイツ人コレクターのゴールドシュミットが名前をつけてドイツで人気が出たため、大量にドイツへ輸出され、それが後に日本に戻ってきたものも存在します。
参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/58_12_03.pdf
長野県大深山産の水晶クラスターからは、大小様々な日本式双晶が無数に群生する極めて稀有な標本が産出しています。海外ではアメリカのアリゾナ州、ブルガリア、ロシアのダルネゴルスクなどからも日本式双晶が産出しており、アリゾナ産では両翼が6cmにも及ぶ大型の標本も知られています。
参考)https://www.natural-soma.com/?mode=grpamp;gid=2725307amp;sort=n
産出頻度は土地によって大きく異なり、通常の形態の水晶に交じって稀に産する場合もあれば、場所によっては夥しく産出することもあります。同じ鉱脈内でも、坑口付近では乳白色の両錐形、奥に進むと半透明の両頭柱状晶、さらに奥では透明柱状晶と傾軸式双晶というように、産状が変化する例も報告されています。
日本に産する世界的著名鉱物(GSJ地質調査総合センター)- 日本式双晶の詳細な産地情報と特徴
双晶水晶を見分けるには、まず結晶面に現れる小面(x面やs面)の配置を観察する方法があります。これらの面が識別できれば、外観によって右手水晶か左手水晶かを判別でき、同様に双晶であるかどうかも判別が可能です。
ドフィーネ式双晶とブラジル式双晶の区別は、錐面に現れるr面とz面の特徴から行います。ドフィーネ式双晶ではr面の領域にz面の領域が現れ、ブラジル式双晶では右手水晶の領域と左手水晶の領域が混合しています。最も確実な方法は、フッ酸処理によって食像(エッチング模様)を作ることで、対掌関係にある食像形状を含む水晶はブラジル双晶として解釈されます。
天然水晶と合成水晶を区別する際にも双晶構造が重要な手がかりとなります。天然クォーツは双晶構造を認めますが、合成クォーツは双晶ではない結晶構造を持っています。人工ガラスは単屈折で気泡が入り結晶構造を持っていませんが、天然クォーツは双晶構造を持つという違いがあります。
参考)水晶丸玉 顛末記 3通 人口ガラス 合成ロッククリスタル 天…
表面を観察して結晶が成長した模様が残っているかどうかも重要なポイントです。このような成長模様は人工的に作ることができないため、天然双晶である証拠となります。日本式双晶の場合、板状であっても厚みがあって透明度が良いものは特に価値が高く、博物館に収めてもよいレベルの標本として評価されることもあります。
参考)日本式双晶の水晶 2点|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京
日本式双晶は稀産であるため、コレクターの間で非常に人気が高く、特に大きなサイズのものは数が少ないため高い評価を受けます。見事な大型の日本式双晶は、そのサイズになると非常に数が少なく、透明度も良く厚みがあるものは専門家からも高く評価されています。実際に鑑定番組では、優れた日本式双晶の標本に130万円の評価額がつけられた事例もあります。
参考)日本式双晶の水晶|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京
双晶の魅力は、その形成プロセスの興味深さにもあります。一本の結晶に見えても複数の結晶がくっついて成長した双晶の場合があり、その成長の仕方によって様々な種類が存在します。水晶には右水晶と左水晶が存在し、通常は50%ずつと言われていますが、産地によって若干差があることも興味深い点です。
コレクターにとっては、双晶探しそのものが楽しみの一つとなります。特に大小様々な日本式双晶が無数に群生するクラスターは、独特の美しいフォルムの日本式双晶が思い思いに咲き乱れる自由な姿と、胸踊る双晶探しを存分に楽しめる贅沢な標本として珍重されています。
双晶は標本として以外に価値はないとされることもありますが、所有することの嬉しさを感じられる鉱物として、多くのコレクターに愛されています。ブルガリア産のスファレライト上に群生するシャープな日本式双晶や、ロシアのダルネゴルスク産のグロースインターフェレンスクォーツに盛り込まれた日本式双晶など、産地ごとの特徴も楽しむことができます。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery14/1005crossing.html
開運!なんでも鑑定団(テレビ東京)- 日本式双晶のんでも鑑定団(テレビ東京)- 日本式双晶の鑑定事例と評価基準