シュツルンツ分類と化学組成に基づく鉱物の分類体系

鉱物コレクターや研究者にとって重要なシュツルンツ分類は、化学組成に基づいた体系的な分類法です。ダナ分類との違いや、10族の分類構造、実際の鉱物同定への応用について詳しく解説します。この分類法があなたの鉱物理解をどのように深めるのでしょうか?

シュツルンツ分類と鉱物学の体系

シュツルンツ分類の重要ポイント
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化学組成に基づく分類

陰イオンを基準とした10族の体系的分類法で、鉱物の本質的性質を理解できる

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国際標準として採用

IMA(国際鉱物学連合)が支持し、世界中の鉱物学者が利用する分類体系

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階層的な番号体系

族・門・科・群・系の5階層で構成され、精密な鉱物同定が可能

シュツルンツ分類の成立と歴史的背景

シュツルンツ分類は、ドイツの鉱物学者カール・フーゴ・シュツルンツが1941年に『Mineralogische Tabellen』(鉱物学表)で発表した鉱物分類法です。フリードリヒ・ヴィルヘルム大学(現在のフンボルト大学ベルリン)の鉱物学博物館で学芸員を務めていたシュツルンツは、鉱物の化学的性質に基づいた体系的な分類を構築しました。

 

参考)シュツルンツ分類 - Wikipedia

1941年の初版以降、この分類体系は数々の改訂が加えられてきました。1966年には第4版が刊行され、クリステル・テニゾンが編集に参加しています。同年にはA・S・ポヴァレニアクによる修正を経てロシア語版が、1972年には英語版が出版され、国際的な広がりを見せました。2001年には第9版が国際鉱物学連合(IMA)に採用され、現在は第10版(ニコル・シュツルンツ分類)が開発されています。

 

参考)シュツルンツ分類とは - わかりやすく解説 Weblio辞書

この分類法は、それまで主流だったダナ分類を再構成し、化学組成と結晶構造の両方を考慮した細分化を実現しました。国際鉱物学連合の新規鉱物命名分類委員会(IMA/CNMNC)は、ニコル・シュツルンツのデータベースを公式に支持しており、現在では世界標準の鉱物分類体系として認識されています。

 

参考)19セイコー機構のメモ

シュツルンツ分類における10族の分類構造

シュツルンツ分類の最大の特徴は、鉱物の化学組成、特に陰イオンに基づいて10のclass(族)に分類する点です。各族の構成は以下の通りです:​

  • 01族: 元素鉱物(自然金、ダイヤモンドなど)
  • 02族: 硫化鉱物と硫塩鉱物(閃亜鉛鉱、硫砒銅鉱など)
  • 03族: ハロゲン化鉱物(蛍石、岩塩など)
  • 04族: 酸化鉱物、亜砒酸塩鉱物(スピネル、磁鉄鉱など)
  • 05族: 炭酸塩鉱物、硝酸塩鉱物(方解石、孔雀石など)
  • 06族: 硼酸塩鉱物(ホウ砂、曹灰硼石など)
  • 07族: 硫酸塩鉱物、クロム酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物(石膏、紅鉛鉱など)
  • 08族: 燐酸塩鉱物、砒酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物(褐鉛鉱、トルコ石など)
  • 09族: 珪酸塩鉱物(トルマリン、カオリナイトなど)
  • 10族: 有機鉱物(蜜蝋石、カルパチア石など)

第10版の分類では、各族がさらに門(A、B、C...)、科、群、系と細分化されます。例えば閃亜鉛鉱(ZnS)は「2.CB.05a」という分類符号を持ち、これは2族(硫化鉱物)のC門、B科、05群、a系を意味します。この階層構造により、化学的に類似した鉱物を体系的にグループ化でき、新しい鉱物の位置づけも明確になります。

 

参考)https://ameblo.jp/putoneword/entry-12660016252.html

シュツルンツ分類とダナ分類の違い

シュツルンツ分類とダナ分類は、どちらも化学組成を基準とする点では共通していますが、分類の詳細度と構造に大きな違いがあります。ダナ分類はアメリカの鉱物学者ジェームス・ドワイト・ダナによって開発された分類法で、主に結晶構造を重視しています。

 

参考)鉱物の分類方法を徹底解説|色・硬度・組成でわかる種類と見分け…

シュツルンツは、ダナのカテゴリーを再構成し、化学組成と結晶構造の両方に基づいて細分化したシステムを開発しました。シュツルンツ分類は陰イオンを主要な分類基準とし、10族という比較的シンプルな大分類から、門・科・群・系という5階層の細分類へと展開します。

一方、ダナ分類も広く使用されており、特に北米の博物館や教育機関では伝統的にダナ分類が採用されてきました。しかし、近年では国際鉱物学連合(IMA)がニコル・シュツルンツ分類を支持していることから、国際標準としてはシュツルンツ分類が優位に立っています。日本の鉱物図鑑でも、シュツルンツ分類を主体として採用しているものが増えています。

 

参考)https://www.scj.go.jp/ja/int/chosahyo_pdf/ima-s.pdf

シュツルンツ分類による鉱物同定の実践方法

シュツルンツ分類を利用した鉱物同定では、まず化学組成を分析して該当する族を特定します。例えば、硫化物であれば02族、酸化物であれば04族、珪酸塩であれば09族に分類されます。

現代の鉱物同定では、蛍光X線分析装置(XRF)やQEMScanなどの最新機器を使用して、鉱物の化学組成を精密に測定します。得られた化学式から、シュツルンツ分類の階層構造を辿って詳細な分類番号を特定していきます。石英(SiO₂)の場合、化学式から珪酸塩鉱物である09族に属し、さらに詳細な分類により「4.DA.05」という番号が与えられています。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2014-05/MRv44n1-02.pdf

実際の同定作業では、シュツルンツ分類番号が記載された鉱物図鑑やデータベースを参照することで、類似鉱物との比較や系統的な理解が容易になります。博物館の鉱物展示でも、シュツルンツ分類に従って標本が配置されることが多く、体系的な学習に役立ちます。この分類法は、鉱物の本質的な化学的性質を反映しているため、産地や外観が異なる標本でも確実に同定できる利点があります。

 

参考)https://www.museum.tohoku.ac.jp/pdf/press_info/news_letter/omnividens_no61.pdf

シュツルンツ分類が鉱物コレクターにもたらす価値

鉱物コレクターにとって、シュツルンツ分類は単なる学術的な体系ではなく、コレクションを整理し理解を深める実用的なツールとなっています。この分類法を理解することで、所有する標本の化学的な特性や他の鉱物との関係性を把握でき、コレクションに新たな深みを加えることができます。

 

参考)http://ruchka-info.stelklara.net

例えば、「ルーチカ図鑑 鉱物Ⅰ」では、シュツルンツ分類の10族の中から03族のハロゲン化鉱物と05族の炭酸塩鉱物を取り上げ、体系的に解説しています。このように族ごとにコレクションを構成することで、化学的に関連する鉱物群を網羅的に収集する楽しみが生まれます。

また、シュツルンツ分類は国際的に標準化された体系であるため、海外の鉱物展示や文献を理解する際にも役立ちます。国際鉱物学連合(IMA)が承認する新鉱物も、すべてシュツルンツ分類に基づいて位置づけられるため、最新の鉱物情報にアクセスする際の共通言語として機能します。鉱物の化学組成を理解することで、産地による色や形態の違いを超えた本質的な鉱物の性質を学ぶことができ、より科学的なアプローチでのコレクション活動が可能になります。

参考リンク(国際鉱物学連合の新鉱物承認情報):
https://scj.go.jp/ja/member/iinkai/kokusai/pdf23/siryo73-1.pdf
参考リンク(日本で発見された新鉱物とシュツルンツ分類の関係):
https://mdcl.issp.u-tokyo.ac.jp/ja/activities/lecture-2/