真空ポンプ仕組み油の役割と選び方から鉱石精錬応用まで

真空ポンプの仕組みにおいて油は潤滑・シール・冷却という重要な役割を担い、適切な粘度選択と定期交換が性能維持の鍵となります。鉱石精錬など産業分野での応用から日常メンテナンスまで、油回転真空ポンプの全容を知りたくありませんか?

真空ポンプ仕組みと油

油回転真空ポンプの基本構造と油の3大機能
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潤滑機能

ローターとケーシング間の摺動部分を滑らかに保ち、機械的摩擦を低減

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シール機能

部品間の隙間を油膜で埋めて気密を確保し、高圧部から低圧部への気体逆流を防止

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冷却機能

圧縮による発熱を吸収し、ポンプ内部の温度上昇を抑制

真空ポンプ油回転式の基本原理と構造

 

油回転真空ポンプは、ロータリーポンプとも呼ばれ、大気圧から中真空領域(10⁵〜10⁻¹Pa程度)まで幅広く対応できる真空装置です。ケーシング内部でローターが回転することで、気体の吸入・圧縮・排気のサイクルを繰り返し、容器内の気体を外部へ輸送する仕組みになっています。

 

参考)真空ポンプの種類[仕組み(動作原理、構造)と特長]

真空ポンプとは?代表的な種類と仕組み・選び方を分かりやすく解説 - アズサイエンス
油回転式真空ポンプの詳細な仕組みと各種真空ポンプの比較が掲載されています。

 

この仕組みの中核を担うのが真空ポンプ油です。油はケーシングとローターの間に満たされることで気密性を高め、ローターの回転に伴う潤滑だけでなく、隙間を埋めて気体の逆流を防ぐシール材としても機能します。これにより高い排気効率と安定した真空状態を実現できるのです。

 

参考)真空ポンプとは?代表的な種類と仕組み・選び方を分かりやすく解…

油回転真空ポンプの構造には、主に回転翼型(1回転で2回排気)と偏心ローター型(1回転で1回排気)の2種類があります。いずれの形式でも、油による気密保持と潤滑が不可欠であり、油の状態がポンプ性能を大きく左右します。

 

参考)油回転真空ポンプの技術的解説

真空ポンプオイルの役割と重要性

真空ポンプ油は単なる潤滑剤ではなく、ポンプ性能を決定する最重要要素です。一般的な油の役割として潤滑・気密・冷却・洗浄・防錆の5つがありますが、油回転真空ポンプでは特にシール機能が性能の鍵を握ります。

 

参考)油回転真空ポンプのオイルの役割と交換|真空ポンプの基礎知識|…

油によるシール機能は、ケースとローター間を含む全ての摺動部の隙間を油膜で覆い、高圧部から低圧部への気体逆流を物理的に遮断します。この気密性が損なわれると、真空度が低下し排気効率が著しく悪化してしまいます。

 

参考)真空ポンプの真空度が上がらない?それってオイルで解決できるか…

また、冷却機能も見逃せません。圧縮工程では気体が圧縮されることで温度が上昇しますが、油がこの熱を吸収することでポンプ内部の過熱を防ぎます。適切な温度管理ができないと、油自体の劣化が加速し、さらなる性能低下を招く悪循環に陥ります。

 

参考)サービスV-log - 適切な真空ポンプオイルの選択方法 …

油回転真空ポンプのオイルの役割と交換 - ULVAC SHOWCASE
真空ポンプオイルが持つ5つの役割について、各機能の詳細な解説があります。

 

意外な点として、油には防錆機能もあります。油回転真空ポンプは水蒸気を含む気体を扱うことが多く、内部に水分が侵入すると錆が発生する可能性があります。適切な油を使用することで、この錆の発生を抑制できるのです。

 

参考)減圧装置 ・真空ポンプとは?

真空ポンプオイル劣化の原因と症状

真空ポンプ油の劣化は、ポンプ性能に直結する重大な問題です。主な劣化原因は4つに分類されます。

 

参考)油回転真空ポンプのオイル劣化の原因は?|アルバックテクノ

第一に水分の混入があります。水蒸気が多い気体を排気すると、オイル中に大量の水分が混入し、白濁した状態になります。この状態では油の粘度や蒸気圧が変化し、シール性が著しく低下します。対策としてガスバラストバルブ(GB)を開き、圧縮・加圧時に空気や窒素ガスを導入して水蒸気の凝縮を防ぐ方法が有効です。

第二に異物混入による劣化です。有機物等の異物が多い空間の気体を排気すると、ポンプ内に異物が堆積し、そこから放出ガスが発生してオイル自体が劣化します。この場合、ポンプケース内をクリーニングした上でオイル交換を行う必要があります。

 

参考)油回転真空ポンプのオイル劣化について考えられる主な原因は何で…

第三に酸化劣化があります。ポンプを高温下で長時間使用したり、長期間放置したりすると、オイルが酸化して粘度が変化し、本来の茶色から黒色に変色します。定期的にオイルの色相を確認し、必要に応じて交換することが重要です。

 

参考)ロータリーベーン真空ポンプのメンテナンスとオイル交換 - L…

第四にプロセスガスの影響があります。CVD装置やエッチング装置で使用されるポンプは、プロセスで使用されるガスの影響でオイル劣化が早まります。このような過酷な環境では、定期的なオイル交換だけでなく、オーバーホールの実施も必要になります。

劣化したオイルを使い続けると、ポンプが起動しない、排気性能が低下する、油漏れが発生するなどの深刻なトラブルにつながります。

真空ポンプオイル交換時期と管理方法

真空ポンプの性能を維持するには、適切なタイミングでのオイル交換が不可欠です。一般的な交換周期の目安として、通常使用では2〜3ヶ月に1回、または300時間の運転ごとに交換が推奨されています。

 

参考)https://www.package-mall.com/VPPage/kohnyumae/oilChng.pdf

ただし、運転条件によってオイルが良好な状態を維持できる期間は大きく変動するため、厳密なルールを一律に適用することは困難です。そのため、オイルサイドグラス(オイルレベルゲージ)を使った視覚的な確認が重要になります。

  • 元の薄茶色が保たれている:正常な状態
  • 経年変化によるこげ茶色や黒色:交換が必要
  • 白濁している:水分混入により交換が必要
  • フレークが形成されている:腐食保護剤を使い切っており交換が必要

ロータリーベーン真空ポンプのメンテナンスとオイル交換 - Leybold
オイル交換の判断基準と具体的な手順について、写真付きで詳しく説明されています。

 

特に注意すべきは、冷媒・水分・溶剤等を吸引した場合です。これらはオイルを急速に劣化させるため、通常の交換周期を待たずに即座にオイル交換を実施する必要があります。

 

参考)真空ポンプオイル(夏場用)MR-200

また、古いオイルを入れたまま長時間放置すると、再使用時に起動不良を起こすことがあります。使用頻度が低い場合でも、定期的にポンプを稼働させることが推奨されます。

初回交換については特別な配慮が必要です。ギヤオイルの場合、初回1ヶ月(約250時間運転)で交換し、2回目以降は6ヶ月(約1500時間運転)で交換するのが標準的です。これは初期摩耗対策として重要なステップです。

 

参考)日々のポンプメンテナンスについて

真空ポンプ用途における鉱石精錬分野への応用

真空ポンプは鉱石精錬や金属製造の分野で不可欠な役割を果たしています。特に鉄鋼製造では、真空脱ガス装置による二次精錬が品質向上の鍵となっています。

 

参考)https://www.jisf.or.jp/info/book/documents/tetsugadekirumade.pdf

製鋼プロセスでは、転炉または電気炉で炭素を減らす精錬を行った後、真空脱ガス装置で不要な元素のほとんどを取り除きます。この工程で液封式真空ポンプや蒸気エゼクタが活躍し、溶鋼から不純物を効率的に除去します。

 

参考)鉄鋼・非鉄金属|ソリューション|液封式ポンプ|鶴見製作所-ツ…

  • 製鋼脱ガス:溶鋼中の水素や窒素などの気体不純物を除去
  • 真空含侵:金属部品の微細な気孔に樹脂を浸透させる処理
  • 真空溶解・真空鋳造:不純物の混入を防ぎながら金属を溶解・鋳造
  • 真空焼鈍:酸化を防ぎながら金属を熱処理
  • 非鉄金属精錬:ニッケル・アルミナ・チタンなどの精錬設備

より高度な応用として、真空処理中に真空槽へ鉱石や焼結鉱などの酸素源を加えて脱炭・脱リンを行う技術も開発されています。これには大型真空ポンプと真空処理設備、溶鋼攪拌手段が必要となり、高度な制御技術が求められます。

 

参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/63/5/KJ00003569514.pdf

液封式真空ポンプは、液滴やダストを含むガスの吸引において高い耐久性を発揮するため、鉄鋼・非鉄金属産業での実績が豊富です。油回転真空ポンプとは異なる構造ですが、過酷な環境下での排気作業に適しています。

鉄鋼・非鉄金属|ソリューション - ツルミポンプ
鉄鋼・非鉄金属分野における真空ポンプの具体的な用途例と実績が紹介されています。

 

半導体製造でも真空技術は欠かせません。成膜や加工などの工程では不純物を混ぜたくないため、真空下での作業が必須となります。プラズマCVDによる薄膜形成、プラズマドライエッチング、プラズマクリーニングなど、多様なプロセスで真空ポンプが活用されています。

 

参考)半導体製造における真空ポンプの必要性とは

意外な応用例として、シリコン精製における真空蒸発法があります。真空および水素・ヘリウム・アルゴンなどの減圧雰囲気下で液体シリコンからリンを選択的に除去する研究が進められており、効果的なリン除去と最小限のシリコン損失を両立する技術開発が行われています。

 

参考)https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.langmuir.1c00876

真空ポンプオイル粘度の選び方と推奨範囲

真空ポンプオイルの粘度選択は、ポンプ性能を最大限に引き出すための最重要ポイントです。液体の粘度は液体流の抵抗または内部摩擦を表し、粘度が大きすぎると各部品の移動速度の抵抗が増加し、温度上昇と動力損失が発生します。一方、粘度が小さすぎるとポンプの密封性が悪化し、ガス漏れや真空度低下を招きます。

 

参考)真空油の粘度選択の原理と範囲 - 知識 - IKS PVD…

オイル粘度選択の基本原則は以下の通りです:​

  • ポンプの速度が速いほど、低粘度のオイルを選択
  • ポンプローターの運動線速度が大きいほど、低粘度のオイルを選択
  • ポンプ部品の加工精度が高い、または摩擦部材間の隙間が小さいほど、低粘度のオイルを選択
  • 高温状態で真空ポンプを使用する場合は、高粘度のオイルが適切
  • 冷却水循環式の真空ポンプでは、低粘度のオイルを選択

各ポンプタイプに推奨される粘度範囲は次の通りです:
参考)ニュース - 適切な真空ポンプオイルの選び方?

ポンプタイプ 推奨ISO粘度グレード 用途・特徴
ピストン真空ポンプ(W型) V100、V150 一般機械油使用可能
ロータリーベーン真空ポンプ(2X型) V68、V100 標準的な油回転式ポンプ
直結型ロータリーベーン真空ポンプ(2XZ型) V46、V68 高速回転タイプ
スライドバルブ真空ポンプ(H型) V68、V100 大型ポンプに適用
ルーツ真空ポンプ(ギヤ部) V32、V46 メカニカルブースターポンプのギヤ伝動システム

真空ポンプオイルの種類としては、主に鉱物油、エステル油、合成油の3種類があります。鉱物油は蒸気を伴うアプリケーションやそれほど過酷ではないプロセスに適しており、優れた耐熱性と耐薬品性を備えた手頃な価格のオプションです。

ISO粘度グレード68が最も一般的で、冷凍・空調サービス機器用の夏場用オイルとして広く使用されています。使用環境の温度や湿度、処理する気体の種類に応じて、適切な粘度グレードと油種を選定することが長期的な性能維持につながります。

真空ポンプトラブルシューティングと対処法

真空ポンプの故障や異常は、早期発見と適切な対処により深刻化を防ぐことができます。代表的なトラブルと対処法を理解しておくことで、ダウンタイムを最小限に抑えられます。

 

最も頻繁に発生する問題は潤滑油不足による焼き付きです。油量ゲージを確認し、不足している場合は指定の潤滑油を補充します。オイルの劣化が確認された場合は、すみやかに全量を交換する必要があります。定期的にオイル漏れや配管の緩みがないかもチェックすべきです。

 

参考)真空ポンプでよくある故障原因7選!対処法や故障を減らす選択肢…

ポンプが回転しない場合、油の汚れや水分混入が原因であることが多くあります。油が汚れていれば新しい油と交換し、水分が混入している場合も同様に油を交換します。冬期の場合には、ポンプ内の油を暖めて(室温を上げる等)手でプーリーを回してみることが推奨されます。

 

参考)油回転真空ポンプ|トラブルシューティング|HOW TO|UL…

真空度が上がらない問題については、以下の原因が考えられます。

  • 油の劣化や不足によるシール性の低下
  • ガスケットやシールの劣化による漏れ
  • 排気バルブの異常
  • 真空配管の接続不良

外部への油漏れは、シールやガスケットの劣化、または締め付け不良が原因です。該当箇所を特定し、部品交換や増し締めを行います。

異常音が発生する場合、ベアリングの摩耗、異物の混入、または油量不足が考えられます。音の発生源を特定し、必要に応じて部品交換やクリーニングを実施します。

ポンプが異常に熱くなる場合は、冷却不足によるオーバーヒートの可能性があります。冷却水の流量確認、冷却ファンの動作チェック、周囲の通風状態を確認します。排気経路の詰まりも発熱の原因となるため、定期的な清掃が必要です。

真空槽側に油が逆流した場合、すぐに真空槽側を大気圧にし、そのままポンプを運転して油をポンプに戻します。油が戻ったらポンプを停止し、真空槽や配管を洗浄します。油が減っている場合は必ず補充してください。

油回転真空ポンプ|トラブルシューティング - ULVAC SHOWCASE
各種トラブルのチェック項目と対処方法が体系的に整理されています。

 

意外な盲点として、真空ポンプの交換やメンテナンスを怠ると、オイルの乳化や炭化が起こり、シリンダの磨耗、オイル配管やオイルフィルタの詰まりなどが連鎖的に発生します。オイルミストセパレータが目詰まりすると、ポンプ本体内に注入されたガスが排出されにくくなり、ポンプ本体の内圧が高まって排気速度が低下し、真空度が悪化します。

予防保全の観点から、運転前の点検を習慣化し、オイルサイドグラスの確認、異音の有無、異常振動のチェックを行うことで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。必ず純正オイルを使用することも、長期的な信頼性確保に不可欠です。

 

 


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