真珠層は軟体動物の貝殻内側に形成される美しい光沢を持つ層で、炭酸カルシウムの平板状アラゴナイト結晶が有機質タンパク質(コンキオリン)とともに規則的に積層した構造を持ちます。この構造は数百ナノメートルの厚さの層が何層にも重なることで形成され、光が透過・反射する際に干渉色と呼ばれる虹色の輝きを生み出します。真珠層の元は外套膜を構成する上皮細胞から分泌され、貝殻の内側に堆積することで真珠層となります。
参考)https://edu.jaxa.jp/contents/other/if/pdf/in_vivo.pdf
真珠養殖に使用される真珠貝は海水産二枚貝4種(アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、マベ)、淡水産二枚貝4種(イケチョウガイ、ヒレイケチョウガイ、カラスガイ、マルドブガイ)、海水産巻貝1種(エゾアワビ)の合計9種類があり、それぞれが異なる特徴の真珠層を形成します。貝の種類によって真珠層の厚さ、色、光沢が大きく異なり、アコヤガイは年間約0.35mmの厚さの真珠層を作ると言われています。
参考)GSTV 宝石の科学—生命から作られた宝石—真珠
真珠層の役割は貝殻の内面を滑らかにすることで、軟体動物の柔らかい表皮と貝殻との間に隙間ができないようにし、寄生虫や異物が挟まることを防ぐことです。この自然の防御機構が、結果として宝石のような美しさを生み出しているのです。
参考)真珠層 - Wikipedia
海水産真珠貝の代表格であるアコヤガイは、5cm程度の比較的小さな二枚貝で、インド洋から西太平洋に広く分布するベニコチョウガイの日本種です。アコヤガイから産出される真珠は「養殖真珠の元祖」とも呼ばれ、真珠層がきめ細やかで他の真珠では見られない透明感と上品な光沢を持つことが最大の特徴です。標準的なアコヤ真珠の大きさは6~7mmほどで、9mm以上のものは非常に稀少とされています。
参考)真珠(パール)はなぜできる?仕組み、種類、養殖と天然の違い
シロチョウガイは白蝶真珠の母貝として知られ、アコヤガイよりも大きく、中には30cm以上になるものもあります。生息区域は主に赤道近くの熱帯の海で、その真珠貝自身の大きさから直径19mmくらいまで育つ真珠を生産できます。白蝶真珠はシルバーやゴールドの色が多く、大粒で存在感のある真珠が特徴です。
参考)真珠(パール)の種類・評価について
クロチョウガイは直径15センチ程度で、大きなものは30センチに達するものもあります。グリーン、ブルー、ブラウン系の黒真珠が主ですが、虹色のピーコックカラー(孔雀色)のものが最高と評価され、真珠のサイズは8~16ミリあたりまでが養殖されています。マベガイは熱帯、亜熱帯海域、日本では奄美大島より南の琉球列島に生息し、光沢と色彩ともに美しく独特の虹色を呈する半円真珠を産出します。
参考)http://www.iko-pearl.sakura.ne.jp/page005.html
淡水産真珠貝はイシガイ科に属する数種類が真珠養殖に利用されており、代表的なものとしてイケチョウガイ、ヒレイケチョウガイ、カラスガイ、ヌマガイ(ドブガイ)などがあります。淡水パールは使われる貝がアコヤ貝よりも大きく、比較的早く真珠が形成される傾向があり、貝が大きいことから一つの貝から複数の真珠を養殖することが可能です。
参考)https://antiquesanastasia.com/gemstones_amp;_jewelry/references/jewelry_materials/gemstones/perles/general_info_1.html
霞ヶ浦真珠の母貝として知られるのは、ヒレイケチョウガイとイケチョウガイが交配されたもので、この種の貝から作られた真珠は独特なカラーバリエーションを持ち、多様な色彩の真珠が養殖されています。淡水産の真珠貝から産出される真珠は色や形のバリエーションが豊富で、イエロー系からホワイト系まで幅広い色彩を楽しむことができます。
参考)【本物?ニセモノ?】真珠の違いと見分け方
淡水真珠の特徴は海水産真珠に比べて光沢は控えめですが、その分色のバリエーションと形の多様性に富んでいる点にあります。また核を入れずに外套膜の切片のみで養殖されることも多く、全体が真珠層で構成される真珠も産出されます。
参考)アコヤ真珠の神秘と魅力に迫る完全ガイド #真珠アコヤ #真珠…
真珠層の形成は外套膜の上皮細胞から分泌される物質によって行われ、血流により運ばれたカルシウムイオンがタンパク質の媒介のもとに炭酸イオンと合体し、炭酸カルシウム結晶として沈着することで形成されます。この過程はバイオミネラリゼーションと呼ばれ、下等な生物から高等な生物まで普遍的に見られる現象です。
参考)https://tv.he.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/11782/10/notes/en/lecture.pdf
真珠層は有機質でコーティングされた炭酸カルシウムの平板状アラゴナイト結晶が積層した構造を持ち、一つの真珠には真珠層が千層にも重なって約1~2mmの美しい層を形成します。この多重層構造こそが、真珠の美しい光沢と干渉色を生み出す源となっています。
参考)真珠の輝きについて|伊勢志摩の真珠のお店 パールファルコ
真珠のまき厚測定値は、真珠をレントゲン撮影して核の外周と真珠の外周との距離を計測する方法や、超音波をあてて真珠層に当たって返ってきた波と核に当たって返ってきた波の差から測定する方法があります。真珠科学研究所の花珠合格基準は0.4mm以上と設定されており、これは強い光を真珠に当てた時にも核の縞模様が浮き出すことがないという検証結果から設定されたものです。薄まき珠のまき厚測定値は0.25mm以下と言われ、真珠層の厚さは真珠の品質と耐久性を大きく左右する重要な要素となっています。
参考)真珠のまき厚測定値は大きいほどキレイ?
真珠の光沢で最も重要な要素は「テリ」と呼ばれるもので、テリが強ければ強いほど商品価値は高くなります。真珠層はレンガのような構造になっており、その隙間を埋めているのは貝の分泌物であるタンパク質で、このタンパク質に含まれる色素が真珠の実体色と言われる本体の色を作り出しています。
テリは真珠層の巻きの厚さと密接な関係があり、きめ細やかで緻密に積み重なっているほど透明感と輝きが生まれます。幾重にも重なった真珠層が光を反射したり通り抜けたりする時に、内側からピンクとグリーンの色が浮かび上がり、これを干渉色と呼びます。上質な真珠はテリが強く干渉色もはっきりと表れ、真珠の表面に映る像がはっきり見えるものほどテリが良いと言われています。
参考)真珠のてり(照り)とは
真珠の美しさは「干渉色」「多層構造」「球体」という3つの要素から生まれ、極々薄い真珠層において何千回と光が干渉を繰り返すことで、複雑で豊かな色合いの輝きが生み出されます。真珠層が厚くても不揃いであれば、テリや干渉色も弱くなりぼやけた印象の真珠になってしまうため、真珠層の均一性も美しさの重要な要素です。
真珠層は真珠としてだけでなく、螺鈿細工などの伝統工芸にも活用されており、貝殻の真珠層を用いた漆器や装飾品の加飾方法として古くから親しまれています。螺鈿とは「螺」が巻き貝を表し、「鈿」が貝や宝石を施した飾りを意味する言葉で、夜光貝やアワビ貝などの美しい貝殻を薄く加工して装飾として施す技法です。
参考)螺鈿(らでん)とは?神秘的な輝きを秘めた伝統的な加飾方法をご…
螺鈿には「厚貝」と「薄貝」の二種類があり、厚貝は貝を厚めに切って使う加飾方法で美しい乳白色が基調となり、薄貝は約0.09mm~0.3mmの極薄に削った貝を漆面に貼り付ける技法で、青や赤のグラデーションを表現することが可能です。アワビの貝殻の内側はまるで金属のような美しい真珠光沢があり、西洋では「ヴィーナス(美の女神)の耳」とも呼ばれています。
参考)https://www.blueparrot.jp/?mode=f11amp;sort=n
鉱石や真珠に興味を持つコレクターの間では、真珠層を持つ貝殻そのものも観賞用や装飾材料として価値が認められており、磨いたアワビの貝殻は金ぴかになり、裏面のキラキラした真珠層は見る者を魅了する色合いになります。天然真珠の真珠層はアラゴナイト結晶層とタンパク質コンキオリンが交互に積み重なった同心円の多重層構造からなり、平坦で大きな結晶により成長した真珠には光沢が強く美しいピンク色の混じった干渉色が見られます。
参考)GSTV 宝石の科学—煌き輝きを保ち続ける天然真珠
JAXAによる真珠層形成機構の詳細解説(貝殻構造と外套膜の関係について専門的な図解と説明)
真珠貝の種類と特徴の一覧(各真珠貝の詳細な説明と画像)