遮断周波数(カットオフ周波数)とは、フィルタ回路において信号が通過する帯域と減衰される帯域の境界となる周波数のことです。この周波数は、ゲイン(利得)が通常値から3dB低下する点として定義されており、これは出力電圧の振幅が入力電圧の約70.7%(正確には1/√2)になる周波数を意味します。
参考)『カットオフ周波数(遮断周波数)』とは?【フィルタ回路】 -…
グラフ上で遮断周波数を識別する際には、横軸に周波数、縦軸にゲインをプロットした周波数特性グラフを使用します。通過域では信号がほぼ減衰せずに通過し、ゲインが0dB付近で平坦な特性を示しますが、遮断周波数を超えると信号が徐々に減衰していきます。具体的には、グラフ上で通過域のゲインから-3dB下がった点の周波数を読み取ることで、遮断周波数を特定できます。
参考)カットオフ周波数(遮断周波数) - エヌエフ回路設計ブロック
なぜ-3dBなのかというと、これは電力が半分になる点に相当するためです。電力は電圧の2乗に比例するため、電圧が1/√2倍(約0.707倍)になると、電力は(1/√2)² = 1/2となり、ちょうど半分の電力になります。この物理的な意味合いから、-3dBが遮断周波数の定義として広く採用されています。
参考)ボード線図(ゲイン線図・位相線図) - 電気主任技術者のナレ…
ボード線図を用いた解析では、周波数軸を対数スケールで表示することで、広い周波数範囲にわたる特性を一目で把握できます。ボード線図では遮断周波数より低い周波数では減衰がほぼ0dBで平坦ですが、遮断周波数を超えると-20dB/decade(10倍周波数あたり-20dB)の傾きで減衰していく特徴的な折れ線グラフとなります。この折れ曲がる点が遮断周波数であり、グラフから視覚的に判断しやすくなっています。
参考)周波数特性とボード線図 - わかりやすい!入門サイト
RC回路における遮断周波数の計算式は、抵抗値R[Ω]とコンデンサ容量C[F]を用いて以下のように表されます:
参考)カットオフ周波数の求め方 【Analogista】
fc = 1 / (2πRC) [Hz]
この公式は、角周波数ωc = 2πfcを用いると、ωc = 1 / (RC)とも表現できます。
参考)ボード線図 - Wikipedia
具体的な計算例を見てみましょう。R=1kΩ(1000Ω)、C=1μF(0.000001F)のローパスフィルタの場合、遮断周波数は次のように計算されます:
fc = 1 / (2π × 1000 × 0.000001) = 1 / (2π × 0.001) ≒ 159Hz
別の例として、R=10Ω、L=100μHのRLローパスフィルタでは、fc = R / (2πL) = 10 / (2π × 0.0001) ≒ 15.9kHzとなります。
計算時の単位換算には注意が必要です。抵抗値がkΩで与えられている場合は1000倍、コンデンサ容量がμFの場合は10⁻⁶倍、pF(ピコファラド)の場合は10⁻¹²倍に換算して計算します。例えば、R=10kΩ、C=0.1μFの場合、時定数τ = RC = 10000 × 0.0000001 = 0.001秒 = 1msecとなります。
参考)RCローパスフィルタの波形の遅れ時間の計算方法は?時定数の考…
周波数特性のグラフで表現すると、ゲイン|G(jω)|は以下の式で表されます。
|G(jω)| = 1 / √(1 + (2πfCR)²)
この式から分かるように、周波数fが遮断周波数fcに等しいとき、すなわちf=fcのとき、(2πfcCR)² = 1となり、ゲインは1/√2 ≒ 0.707となります。これがまさに-3dBに相当する減衰です。
参考)RCローパスフィルタの『伝達関数』や『周波数特性』について
デシベル表示では、ゲインGdB(jω) = 20log₁₀(1/√(1+(2πfCR)²)) [dB]となり、遮断周波数でちょうど-3dBとなることが数式からも確認できます。
ボード線図は、周波数伝達関数の振幅(ゲイン)と位相を周波数を横軸として描画するグラフで、システムの入出力における増幅率と位相変化量を周波数ごとに確認できる強力なツールです。ボード線図には「ゲイン線図」と「位相線図」の2種類があり、遮断周波数の測定には主にゲイン線図を使用します。
参考)ボード線図を用いた周波数解析
測定手順は以下の通りです。まず、横軸に周波数を対数スケールで、縦軸にゲインをデシベル[dB]でプロットします。通過域では信号がほぼ減衰せず、ゲインが0dB付近で平坦な特性を示します。次に、この平坦な部分から-3dB下がった点を見つけます。その点の周波数座標が遮断周波数fcとなります。
ボード線図の特徴として、遮断周波数より十分低い周波数では減衰が0dBで、遮断周波数を超えると周波数が10倍になるごとに-20dB(これを「-20dB/decade」と表現します)の割合で減衰していきます。この折れ線近似により、遮断周波数の位置が視覚的に非常に分かりやすくなっています。
実際の測定では、LTspiceなどの回路シミュレータを使って「.ac解析」を実行することで、周波数特性を自動的にボード線図として描画できます。例えば、R=1kΩ、C=1μFのRCローパスフィルタをシミュレーションすると、理論値通り約159Hzで-3dBの減衰が確認できます。
参考)ハイパスフィルターとローパスフィルターの違いを波形で確認して…
周波数軸の正規化も重要な技術です。横軸を遮断周波数ωcで割った比率(ω/ωc)で表現することで、周波数の単位を使わず無次元化したグラフを作成できます。この正規化により、異なる回路定数のフィルタでも同じグラフ上で比較しやすくなります。
位相線図も併せて確認すると、遮断周波数において位相が-45度になることが分かります。これも遮断周波数の判定に利用できる指標です。
RC回路の遮断周波数を実験で測定する際、理論値 fc = 1/(2πCR) で求めた値と、実際に周波数特性グラフから読み取った測定値(電圧が1/√2になる周波数)との間に誤差が生じることがあります。この誤差の主な原因として、回路の配線や接続部分に存在する微小な抵抗成分が挙げられます。
参考)RC直列回路の遮断周波数についてRC直列回路の実遮断周波数に…
配線の寄生抵抗により、実際の回路の抵抗値が理論計算で使用した値よりも大きくなるため、計算式 fc = 1/(2πCR) において分母のRが増加し、結果として実測の遮断周波数が理論値よりも低くなる傾向があります。さらに、配線のストレー容量(浮遊容量)や、水晶振動子を使用する場合はホルダと端子間のキャパシタンスも誤差要因となります。
参考)Radio Experimenter's Blog: 201…
実務的な対策としては、以下のような方法が有効です。
帯域幅が狭い高周波フィルタでは、結合容量が小さくなるため、配線のストレー容量の影響が相対的に大きくなり、より慎重な補正が必要です。
また、周波数測定装置自体の特性も誤差要因となります。測定器には帯域幅があり、遮断周波数を超えた周波数では測定器自体も減衰するため、正確な測定が困難になる場合があります。デジタル測定器の場合、サンプリング周波数の制限により高周波帯域での精度が低下することもあります。
参考)https://www.toyo-sokki.co.jp/document/%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E7%89%B9%E6%80%A7%E3%80%81%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%BF%E7%89%B9%E6%80%A7%E3%80%81%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%AA%E3%83%95%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E3%81%AB/
理論値と実測値の差を最小化するには、事前にシミュレーションソフト(LTspiceなど)で寄生成分を含めた回路モデルを作成し、実測前に誤差を予測しておくことが推奨されます。これにより、実測時に予想される誤差の範囲を把握でき、測定結果の妥当性を判断しやすくなります。
電子回路における周波数選択には、鉱物結晶の特性を活用した水晶フィルタが広く使用されています。水晶(石英:SiO₂)は圧電効果を持つ鉱物で、機械的振動と電気信号を相互変換する性質があります。この特性を利用した水晶発振子(水晶振動子、水晶共振子)を複数組み合わせることで、特定の周波数帯域のみを通過させる高性能なバンドパスフィルタ(BPF)を構成できます。
参考)新・エレクトロニクス工作室/第3回 10.000MHzクリス…
ラダー型クリスタルフィルタでは、同じ周波数の水晶発振子を梯子状(ラダー状)に配置します。アマチュア無線の自作では、SSB通信用の帯域幅2~3kHzのフィルタや、CW通信用の帯域幅数100Hzの狭帯域フィルタが主な製作対象となっています。
水晶フィルタの設計において重要なパラメータは、水晶の無負荷Q(Qu)です。Quが高い水晶振動子ほど、急峻で理想的な周波数特性が得られます。例えば、3579.545kHzのアナログカラーTV用水晶発振子は高いQuを持つため、音質の良いCWフィルタの製作に適しています。
設計プロセスでは、水晶定数(直列共振周波数、並列共振周波数、Quなど)を実測し、その値をLT-Spiceなどのシミュレータに入力して周波数特性を予測します。直列共振周波数は9.996,666MHz、並列共振周波数はそれよりわずかに高い値となり、この差が水晶のホルダ容量によって生じます。
通過帯域の中心周波数と帯域幅を決定したら、各水晶間の「結合容量(Cjk)」を設計プログラムで計算します。ただし、高周波で帯域幅が広いフィルタでは、配線のストレー容量と水晶のホルダ容量を測定し、設計値から差し引く補正が必要です。
実際のフィルタ特性は、Quが理想値より小さいことで通過帯域のエッジが丸くなる(ダレる)現象が生じます。これを見越して、設計段階で通過帯域の外側に向かって持ち上がるような特性を意図的に設定し、実測時に理想的な平坦特性となるよう調整します。
水晶フィルタは、10MHzのクリスタルを使用した例では、直列共振周波数9.996,666MHzを中心に500Hz程度の狭帯域を実現できます。ただし、同じロットでも直列共振周波数が4kHzずれる個体差があるため、事前選別が重要です。
参考リンク:ラダー型クリスタルフィルタの設計と製作の詳細解説(水晶定数の測定方法とシミュレーション手順)
RC回路の時定数τ(タウ)は、コンデンサCと抵抗Rの積で表され、τ = CR [秒]という関係式で定義されます。この時定数は、過渡現象(電圧や電流が変化する際の一時的な挙動)がどのくらいの時間続くかを表す重要な指標です。
参考)【RC回路の時定数】求め方や単位などを詳しく解説!
時定数と遮断周波数の間には、以下の密接な関係があります:
参考)医療工学解説−フィルタ(濾波器)
fc = 1 / (2πτ) = 1 / (2πCR) ≈ 1 / (6τ) [Hz]
この近似式から、時定数τが分かれば遮断周波数fcをおよそfc ≈ 1/(6τ)で簡易的に求められます。逆に、遮断周波数から時定数を推定することも可能です。
時定数の物理的意味は、RC回路に急激な電圧変化(ステップ入力)を加えたとき、出力電圧が最終値の約63%に達するまでの時間を表します。具体的には、Low状態からHigh状態に切り替わる際、時定数τが経過すると電源電圧の約63%のレベルに到達し、2τの時間では約86%、3τでは約95%に達します。
実用的な計算例を見てみましょう。R=10kΩ、C=0.1μFの直列回路の場合:
時定数τ = R × C = 10000 × 0.1 × 10⁻⁶ = 0.001秒 = 1msec
この回路の遮断周波数は。
fc = 1 / (2π × 0.001) ≈ 159Hz または fc ≈ 1 / (6 × 0.001) ≈ 167Hz
波形の立ち上がり時間を評価する際、時定数は非常に有用です。例えば、1msecの時定数を持つローパスフィルタに矩形波を入力すると、出力波形の立ち上がりは約1msecかけて緩やかに上昇します。これは高周波成分がカットされるためで、時定数が大きいほど波形はなまった形になります。
単位換算の確認も重要です。時定数の単位は、[F]×[Ω] = [秒]となります。これは、ファラド[F]がクーロン毎ボルト[C/V]、オーム[Ω]がボルト毎アンペア[V/A]であり、アンペア[A]がクーロン毎秒[C/s]であることから、[F]×[Ω] = (C/V)×(V/(C/s)) = [s]と導出できます。
実測では、オシロスコープを用いてステップ応答波形を観測し、立ち上がり時間から時定数を直接測定することができます。この実測値から遮断周波数を逆算すれば、周波数掃引を行わずとも遮断周波数の概算値が得られます。
参考リンク:CR回路の応答特性と遮断周波数の関係についての測定器メーカーによる解説

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