三酸化アンチモン規制REACHと企業対応・代替物質

三酸化アンチモンはREACH規制により2010年に登録され、EU域内での使用に制限が設けられています。難燃剤として広く使用されるこの化学物質について、企業はどのような対応が求められているのでしょうか。

三酸化アンチモン規制REACH概要

この記事で分かること
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REACH規則とは

欧州化学物質規制の仕組みと三酸化アンチモンの位置づけ

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規制内容と影響

企業が遵守すべき具体的な規制要件と期限

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代替物質の検討

三酸化アンチモンに代わる難燃剤の選択肢と課題

三酸化アンチモンREACH登録の経緯

三酸化アンチモン(Sb₂O₃)は、2010年9月にREACH規則に基づく登録が完了し、EU域内での化学物質規制に適合しています。国際アンチモン協会(i2a)の会員企業は、2010年を登録期限として金属アンチモン、三酸化アンチモン(ATO)、ヘキサヒドロキソアンチモン酸ソーダ(SHHA)の登録を首尾よく開始しました。REACH登録番号は01-2119475613-35-xxxxで管理されており、この登録により使用に関連するリスクがないことが確認されています。

 

参考)第8回 酸化アンチモン - 月刊化学物質管理

REACH規則(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)は、EU域内で製造または輸入される化学物質の安全性評価と管理を目的とした包括的な規制です。この規則は電子・電気機器業界に限定されたRoHS指令と異なり、ほぼすべての産業界に適用される点が特徴です。三酸化アンチモンは2000年10月にEUの既存物質規則793/93/ECの第4次優先物質に指定され、スウェーデンが報告書作成担当当局として詳細なリスクアセスメントを実施しました。

 

参考)href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/lt;bhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/gt;欧州の化学品規制(REACH href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/lt;/bhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/gt;href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/lt;bhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/gt;規則) href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/51/1/51_30/_article/-char/ja/lt;…

三酸化アンチモンREACH規制の具体的要件

REACH規則における三酸化アンチモンの規制は、登録、評価、認可、制限という4つの主要な枠組みで構成されています。登録された化学物質の中から、環境や健康に有害な物質が制限対象物質、認可対象物質、高懸念物質(SVHC)に指定され、使用の禁止または制限が加えられます。三酸化アンチモンは現在、EU域内において法律で定められた鉛とヒ素の純度レベルを満たす必要があり、不純物としてのヒ素は0.50%未満であることが求められています。

 

参考)Redirecting to https://www.nih…

EU以外の国際的な動きとして、OECD加盟国も2008年10月14日の会議でスクリーニングデータセット初期評価プロファイル(SIAP)を受諾しました。これにより、すべてのOECD加盟国が環境及び健康基準の設定や三酸化アンチモンの評価に際してこのファイルを利用することに合意しています。カリフォルニア州では、2024年1月1日より三酸化アンチモンの吸入経路による曝露について、1日当たり0.13マイクログラムの重大なリスクなしレベル(NSRL)が採用されました。

 

参考)https://www.nihonseiko.co.jp/application/files/6915/4278/3701/i2a-news-0901.pdf

三酸化アンチモン規制と日本国内法令

日本国内では、平成29年(2017年)3月に労働安全衛生法施行令と特定化学物質障害予防規則が改正され、三酸化二アンチモンが特定化学物質(管理第2類物質)に追加されました。これは厚生労働省が実施した「化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価」により、リスクが高く規制が必要であるとの結論に至ったためです。平成29年6月1日から施行され、作業環境測定の実施、発散抑制措置、特殊健康診断の実施等が義務付けられています。

 

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001413788.pdf

管理濃度はアンチモンとして0.1mg/㎥と設定され、三酸化二アンチモンを含む製剤の製造や取扱い業務(樹脂等により固形化された物を取り扱う業務を除く)が規制対象となっています。また、三酸化二アンチモンはヒトに対して発がん性の可能性があることを勘案し、特化則の特別管理物質に指定され、作業の記録の保存(30年間)等も義務付けられました。日本国内では劇物として毒物劇物取締法にも規定されており、原体のみが対象で製剤は除外されています。

 

参考)https://www.frcj.jp/docs/3-1.pdf

三酸化アンチモン企業対応と代替物質の現状

三酸化アンチモンは難燃剤として広く使用されており、特に臭素系難燃剤との併用で相乗効果を発揮します。しかし、代替品で同等の効果を持つ物質は現時点で見つかっておらず、企業にとって大きな課題となっています。業界関係者からは、日本だけが先行規制される場合、国内での管理費用やコスト負担上昇から、三酸化アンチモン約1万トン/年が海外へ移行し、難燃剤を使用した加工自体(推定20~40万トン)も海外へシフトする可能性が指摘されています。

 

参考)三酸化アンチモンの難燃機構

日本国内では、中国からの三酸化アンチモンの輸入減少に対応するため、リン系難燃剤(赤リンや有機リン化合物)などの代替難燃剤が検討されています。代替供給源としては、ベルギーのCampine社製品が注目されており、同社の製品はすでに日本市場に流通し、総代理店を通じた安定的な調達が可能です。経済産業省もアンチモン供給の安定化による価格変動の抑制に向けた情報提供や代替供給源の模索を進めています。企業は粉塵対策として、マスターペレット化による取扱いの安全性向上や、湿体化・スラリー化による飛散性の抑制などの措置を実施しています。

 

参考)アンチモンの輸出規制により価格が上昇?今後の展望について徹底…

三酸化アンチモン用途と今後の展望

三酸化アンチモンの主要な用途は、プラスチックや繊維の難燃助剤として、ハロゲン系難燃剤と組み合わせて使用されることです。この組み合わせにより難燃効果の相乗作用が得られ、トータルの難燃助剤の添加量を減らすことが可能となり、プラスチックの機能特性を損なうことなく難燃化を実現できます。また、ポリエステル系樹脂製造時の重合触媒としても重要な役割を果たしており、低価格で高品質なポリエステルの製造に貢献しています。

 

参考)三酸化アンチモン|非鉄金属材料商社・工業製品製造|山中産業株…

その他の用途としては、バリスタ原料(複合酸化物)、光学レンズの清澄剤、顔料などがあります。ペットボトルの触媒として使用された場合でも、三酸化アンチモンはプラスチック内に包埋されており、ヒトの体内に侵入するおそれは小さいとされています。今後の展望として、2025年8月に公布されたREACH規則の附属書XVII改訂では、18種類のCMR物質(発がん性・変異原性・生殖毒性物質)が新たに追加されており、化学物質規制はさらに厳格化される傾向にあります。企業は継続的な規制動向の監視と、代替物質の研究開発への投資が求められています。

 

参考)【ニュース】EU REACH規則を改訂 ・ 18のCMR物質…

厚生労働省による三酸化二アンチモン規制強化の概要資料。労働安全衛生法改正の詳細な内容と企業が実施すべき措置が記載されています。
情報機構の月刊化学物質管理における三酸化アンチモンの詳細解説。法規制の一覧表や曝露対策の具体的な方法が掲載されています。
日本精鉱による三酸化アンチモンの難燃機構の解説。ハロゲン系難燃剤との相乗効果のメカニズムが詳しく説明されています。