硫酸マグネシウム点滴の効果と妊娠高血圧症候群での使用

硫酸マグネシウム点滴は子癇予防や不整脈治療など多様な医療効果を持つ薬剤です。血中マグネシウム濃度の管理と副作用への注意が重要ですが、具体的にどのような効果と注意点があるのでしょうか?

硫酸マグネシウム点滴の効果

この記事でわかること
💉
子癇予防効果

妊娠高血圧症候群における痙攣発作の発症抑制

🫀
不整脈治療

心室頻拍や心房細動への抗不整脈作用

⚠️
適切な投与管理

血中濃度モニタリングと副作用対策の重要性

硫酸マグネシウム点滴の基本的な作用機序

 

硫酸マグネシウムを静注すると、血中のマグネシウムイオン(Mg²⁺)が増加し、カルシウムイオン(Ca²⁺)との平衡が崩れることで中枢神経系の抑制と骨格筋弛緩が起こります。この作用は「天然のカルシウム拮抗薬」として働くことで知られ、神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害し、神経インパルスの伝達を遮断します。マグネシウムは神経伝達物質の受容体であるNMDA受容体を阻害することで、神経の過剰な興奮を抑制する効果を発揮します。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11021848/

投与された硫酸マグネシウムは血清中で最高濃度に達するまで1~2時間を要し、その後骨、腎臓、筋肉、肝臓、肺の順に分布していきます。電解質補液の補正用として使用される場合は、体内の水分や電解質の不足に応じて適切な濃度で投与されます。この薬理作用により、様々な医療現場で治療薬として活用されています。

 

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051281.pdf

硫酸マグネシウム点滴の妊娠高血圧症候群における効果

妊娠高血圧症候群、特に重症例では子癇と呼ばれる痙攣発作のリスクが高まりますが、硫酸マグネシウムの投与により子癇の発症リスクを半分以上低減できることが大規模臨床試験で証明されています。MAGPIE試験では、妊娠高血圧症候群の女性において子癇の発生率が58%減少し(相対リスク0.42)、母体死亡率も減少傾向を示しました。日本では重症妊娠高血圧症候群に対して、初回量として4gを20分以上かけて静脈内投与した後、毎時1gで持続投与する方法が標準的です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6034206/

子癇予防のメカニズムとして、硫酸マグネシウムは血液脳関門の保護作用と神経炎症の抑制効果を持つことが動物実験で明らかになっています。重症妊娠高血圧症候群のモデル動物では、マグネシウム投与により微小グリア細胞の活性化が35%から6%に低下し、痙攣閾値が上昇しました。また、妊娠32週未満の早産児に対する胎児神経保護効果も認められており、国際的なガイドラインでも推奨されています。

 

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2018.00247/pdf

KEGGデータベース:マグネゾールの詳細情報(子癇治療における用法・薬理作用について)

硫酸マグネシウム点滴の不整脈治療における効果

硫酸マグネシウムは心室頻拍や心房細動などの不整脈治療にも有効性が示されています。急性心房細動患者を対象とした研究では、通常治療に加えて3gの硫酸マグネシウムを投与することで、12時間以内に心拍数を110回/分未満に低下させる効果が確認されました。マグネシウムイオンは心筋細胞の電気的興奮性を調整し、カルシウムチャネルを阻害することで不整脈の発生を抑制します。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8636973/

心臓手術や整形外科手術などの周術期においても、硫酸マグネシウムの投与は麻酔薬使用量の削減や術後疼痛の軽減に貢献します。整形外科手術患者では、術中に硫酸マグネシウム50mg/kgを初回投与後、15mg/kg/時で持続投与することで、レミフェンタニルの使用量が減少し、術後早期の痛みスコアが低下しました。この鎮痛効果はNMDA受容体拮抗作用による痛覚伝達の抑制に基づくものと考えられています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11066664/

硫酸マグネシウム点滴の血中濃度管理と副作用

硫酸マグネシウム投与時には血中マグネシウム濃度の適切な管理が極めて重要です。治療域は通常4~7mEq/Lとされ、膝蓋腱反射の消失は血中濃度が10mEq/L前後で出現し、呼吸停止や心停止は10mEq/L以上で発生するリスクが高まります。そのため投与中は定期的に血清マグネシウム濃度、膝蓋腱反射、呼吸機能、尿量をモニタリングする必要があります。

 

参考)助産師が知っておきたいマグセントの基礎知識|薬効・副作用・観…

主な副作用として、熱感、潮紅、血圧低下、悪心、嘔吐などが報告されています。重篤な副作用としては、過量投与による高マグネシウム血症が母体や新生児に呼吸麻痺、心機能抑制、骨格筋弛緩を引き起こす可能性があります。妊娠中に長期投与した場合、胎児に一過性の骨化障害や新生児に高マグネシウム血症、低カルシウム血症が生じることも報告されており注意が必要です。万が一マグネシウム中毒が発生した場合には、解毒薬としてカルシウム製剤を静注します。

 

参考)静注用マグネゾール20mLの効果・効能・副作用

PMDA:硫酸マグネシウムの安全性情報(副作用と血中濃度管理について)

硫酸マグネシウム点滴の電解質補正以外の臨床応用

電解質補正という本来の適応以外にも、硫酸マグネシウムは様々な臨床場面で応用されています。喘息重積発作では、気管支平滑筋の弛緩作用により呼吸状態の改善が期待でき、実際に小児の喘息発作患者において症状改善効果が報告されています。投与前後で血清総マグネシウム値と血漿イオン化マグネシウム値を測定することで、適切な治療効果と安全性の確認が可能です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8983002/

整形外科手術では神経筋遮断薬の効果を増強させる特性があり、非脱分極性筋弛緩薬の作用持続時間を延長させます。乳癌根治術などの全身麻酔下手術では、術中の硫酸マグネシウム持続投与により覚醒時の興奮状態(emergence agitation)の発生率が有意に減少しました。この多様な薬理作用により、硫酸マグネシウムは周術期管理における有用な補助薬として位置づけられています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10521581/

硫酸マグネシウム点滴と鉱物としてのマグネシウムの関連性

硫酸マグネシウムの原料となるマグネシウムは、地殻中に豊富に存在する鉱物の一つです。天然の硫酸マグネシウム水和物は「エプソム塩」として知られ、温泉地などで採取される鉱物資源でもあります。医療用の硫酸マグネシウムは化学式MgSO₄・7H₂Oで表され、無色または白色の結晶で苦味と清涼感のある味が特徴です。

 

参考)医療用医薬品 : マグネゾール (静注用マグネゾール20mL…

マグネシウムイオンは生体内で300種類以上の酵素反応に関与し、DNA合成、タンパク質合成、心臓の興奮性調節など多様な生理機能を担っています。鉱物学的には、マグネシウムを含む鉱物にはドロマイト(苦灰石)、マグネサイト(菱苦土鉱)などがあり、これらから工業的にマグネシウム化合物が製造されます。地球の地殻や海水中に広く分布するマグネシウムが、精製・加工を経て医療用の硫酸マグネシウム注射液として活用される過程は、鉱物資源と医療の深い結びつきを示す興味深い例といえるでしょう。

 

参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/12/3/752/pdf?version=1674009651

 

 


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