硫化銅は銅と硫黄から成る無機化合物で、主に硫化銅(I)(Cu₂S)と硫化銅(II)(CuS)の2種類が存在します。硫化銅(I)は組成式Cu₂Sで表され、鉄灰色の金属光沢を持つ結晶として知られています。一方、硫化銅(II)は黒色粉末または青黒色結晶として存在し、組成式CuSで表されます。
参考)硫化銅(リュウカドウ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
硫化銅(I)の化学式Cu₂Sは、銅原子2個と硫黄原子1個から構成されています。比重は5.6 g/cm³で融点は1130℃と高く、温かい希硝酸には溶けますが水には不溶です。電気の良導体としての性質を持ち、天然には輝銅鉱(chalcocite)として産出します。
参考)硫化銅 - Wikipedia
硫化銅(II)の組成式CuSは、実際の結晶構造が単純ではありません。結晶中には銅(II)イオンと硫化物イオン(S²⁻)に加えて、酸化還元反応で生じた銅(I)イオンと二硫化物イオン(S₂²⁻)を含んでおり、Cu(I)ₙCu(II)ₘSₙ(S₂)ₘの形式となっています。比重は4.64 g/cm³で、220℃以上で分解してCu₂Sとなります。
参考)硫化銅とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書
硫化銅の詳細な化学的性質と結晶構造について - Wikipedia
銅と硫黄が化合すると硫化銅が生成され、この反応は化学反応式Cu + S → CuSで表されます。銅の元素記号はCu、硫黄の元素記号はSで、これらが結合して硫化銅CuSが形成されます。銅原子と硫黄原子は1:1の比率で化合しますが、銅原子1個の質量は硫黄原子1個の質量の約2倍であるため、実験では銅:硫黄=2:1の質量比で反応させるのが適切です。
参考)「硫化銅」とはどのようなもの? 化学反応式や化学用語、実験方…
実験室での硫化銅の生成には複数の方法があります。代表的な方法として、銅粉末と硫黄粉末を混合して加熱する方法と、硫黄を加熱して発生させた硫黄の蒸気に銅線を接触させる方法があります。銅粉末4.0gと硫黄粉末2.0gを混合して加熱すると、発熱反応により黒色の硫化銅が生成されます。この反応は非常に速く、1秒程度で完了し、反応熱により未反応の混合物にも反応が連鎖していきます。
参考)銅と硫黄の化合実験 - 第四中学校
銅と硫黄の化合実験の詳細な手順と観察結果 - 豊中市立第四中学校
硫化銅(I)は鉄灰色の金属光沢を持つ結晶で、細粉に砕くと青色を示す特徴があります。六方晶系の結晶構造を持ち、500℃以下で安定です。電気伝導性が高く、熱硝酸やシアン化カリウム溶液に溶けますが、水や希酸にはほとんど不溶です。
参考)硫化銅(Ⅰ)
硫化銅(II)は黒色粉末または青黒色結晶として存在し、やはり電気の良導体です。水に不溶ですが濃硝酸には溶け、湿った空気中では徐々に酸化を受けて硫酸銅(II)CuSO₄となります。天然には銅藍(covellite、コベリン)として産出し、美しい青色の金属光沢を持つことで鉱物収集家に人気があります。
参考)日本精鉱(株)の金属硫化物SULMICSシリーズの開発につい…
モース硬度は硫化銅(I)が2.5-3、硫化銅(II)が1.5-2と比較的低く、ビッカース硬度は硫化銅(I)が84-87HV、硫化銅(II)が128-138HVです。両者とも脆く崩れやすい性質を持っています。
硫化銅は天然に複数の鉱物として産出します。最も一般的なのは輝銅鉱(chalcocite、Cu₂S)で、黒色から鉛灰色の金属光沢を持つ鉱物です。銅の含有率が高く、重要な銅鉱石として利用されています。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery9/631digenite.html
銅藍(covellite、CuS)は藍色の美しい金属光沢を持つ鉱物で、地表近くで産する二次的鉱物です。他にも方輝銅鉱(digenite、Cu₉S₅)やデュルレ鉱(djurleite、Cu₇.₂S₄)など、銅と硫黄の組成比が異なる複数の硫化銅鉱物が知られています。これらは多く低温性鉱床に認められ、互いに相伴って硫化鉱床の二次富鉱帯に普通に発見されます。
参考)元素別鉱石(銅鉱):山口大学工学部 学術資料展示館
黄銅鉱(CuFeS₂)を焙焼すると硫化銅(I)が生じ、ここで得られる混合物からスラグを除いた後に空気中の酸素で処理すると金属銅が得られます。この方法は銅の工業的製錬プロセスとして重要です。
銅鉱物の種類と産出状況について - 山口大学工学部学術資料展示館
硫化銅は多様な工業用途を持つ重要な材料です。最も特徴的な用途は固体潤滑剤としての利用で、自動車のブレーキパッドや軸受けに使用されています。潤滑性を持つ硫化銅は、高温や高圧環境でも安定した性能を発揮します。
排水処理剤としても重要な役割を果たし、重金属回収に用いられています。硫化銅は重金属イオンと反応して不溶性の硫化物を形成し、効率的に有害金属を除去できます。
近年では太陽電池の光吸収層材料としての研究が進められています。硫化銅はp型半導体の性質を持ち、硫化銅ナノ粒子はホールの集団振動に由来する局在表面プラズモン共鳴吸収を赤外域に示すため、赤外域の太陽光を効率的に捕集できます。リチウムイオン電池や全固体電池の材料としても研究が進められており、次世代エネルギー貯蔵デバイスへの応用が期待されています。
参考)https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-10/221019_sakamoto-c6a23b8a9c8aa621655e646a49749171.pdf
硫化銅の産業用途と技術資料 - 日本精鉱株式会社
硫化銅は触媒としても機能し、硫黄や銅の製造プロセスに利用されるほか、帯電防止繊維の製造や蛍光塗料にも応用されています。電極材料やX線回折の標準試料、未知鉱物の同定のためのマイクロプローブ標準試料としても使用され、分析化学の分野でも重要な役割を果たしています。