硫化亜鉛は化学式ZnSで表される無機化合物であり、亜鉛(Zn)と硫黄(S)が1:1の比率で結合した物質です。分子量は97.45で、組成式としてZnSと表記されます。この化合物は共有結合性を持ち、通常は白色または黄色の粉末、あるいは結晶として存在します。
参考)硫化亜鉛 - Wikipedia
硫化亜鉛は天然には閃亜鉛鉱(スファレライト)として産出し、まれにウルツ鉱としても発見されます。これらの鉱物は二元系化合物の代表的な例であり、亜鉛と硫黄という2つの元素から構成されるシンプルな組成が特徴です。化学式ZnSは、硫化物系鉱物の中でも基本的な構造を持つため、化学や材料科学の教育現場でもよく取り上げられます。
参考)テストによくでる化学式一覧【中学 理科】|かめのこブログ
硫化亜鉛の密度は約4.09 g/cm³であり、融点は1,850℃(昇華点1,180℃)と高温で安定な物質です。通常状態では安定した化合物ですが、高温環境では分解や酸化が起こり、亜鉛蒸気や硫黄蒸気を発生させる可能性があります。また、塩酸や硝酸などの酸に溶解する際には硫化水素を発生するため、取り扱いには注意が必要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000166982.pdf
硫化亜鉛には主に2つの結晶構造が存在し、この現象は多形性(ポリモーフィズム)の典型例として知られています。立方晶系の閃亜鉛鉱型構造(α-ZnS、zinc blende構造)と、六方晶系のウルツ鉱型構造(β-ZnS、wurtzite構造)があり、いずれの形態でも亜鉛と硫黄の配位形状は四面体です。
参考)閃亜鉛鉱型構造とウルツ鉱型構造:半導体を支える結晶構造 - …
閃亜鉛鉱型構造は立方晶系に属し、面心立方構造の四面体間隙の半分が占有された構造を持ちます。格子定数はa = 5.420Åで、常温で最も安定な結晶形態です。一方、ウルツ鉱型構造は六方晶系に属し、格子定数はa軸=3.814Å、c軸=6.258Åとなっています。この構造は高温で安定であり、最密充填構造の四面体間隙に別元素が入った形態を取ります。
参考)http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/phychem/maeda/kougi/CHEM2/2013/16OCT13.pdf
両構造の違いは原子の積層パターンにあります。閃亜鉛鉱型はABCABC型の積層であり、ウルツ鉱型はABABAB型の積層構造を持ちます。これらの構造は互いによく似ており、四面体が頂点を共有して形成される点では共通していますが、原子配列の周期性が異なるため、物理的・化学的性質にも微妙な違いが生じます。各形態において、ZnとSは4配位の四面体構造を取り、結合距離や角度は厳密に規定されています。
硫化亜鉛の製造方法には複数のアプローチがありますが、最も基本的な方法は硫黄と亜鉛の直接化合反応です。この方法では、高温条件下で両元素を反応させることで硫化亜鉛が生成されます。
より実用的な製法として、亜鉛イオンを含む水溶液に硫化水素ガスを吹き込む湿式法が広く採用されています。この反応は比較的穏和な条件で進行し、硫化亜鉛の沈殿が得られます。反応式は以下の通りです:
Zn²⁺ + H₂S → ZnS↓ + 2H⁺
硫化ナトリウム水溶液と塩化亜鉛水溶液を混合する方法も有効です。この反応では、以下の化学反応が進行します:
参考)https://patents.google.com/patent/JPH03232722A/ja
Na₂S + ZnCl₂ → ZnS↓ + 2NaCl
この方法では、両者の水溶液を攪拌しながら混合することで、硫化亜鉛の微細な粉末が生成します。製造後の硫化亜鉛は濾過、洗浄、乾燥の工程を経て精製されます。特に高純度の硫化亜鉛が必要な場合は、水素ガス雰囲気下で600℃程度の熱処理を施すことで、残留硫黄や酸化亜鉛を除去できます。
近年では、ナノ粒子合成法も開発されており、亜鉛イオンと硫化イオンを含む溶液を均等に混合し、金属イオンを添加することで特定の発光特性を持つ硫化亜鉛ナノ粒子を製造する技術も確立されています。この方法は低コストで環境に優しく、希土類元素を使用する従来の方法に代わる新しいアプローチとして注目されています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2014201744A/ja
特許庁の資料 - 硫化亜鉛粉末の詳細な製造プロセスと反応条件
硫化亜鉛は白色から淡黄色の固体として存在し、密度は4.08~4.09 g/cm³と比較的高い値を示します。融点は1,718℃(50気圧の加圧環境下)ですが、通常圧力では1,180℃で昇華します。この高い昇華点は、硫化亜鉛の結晶構造が非常に安定していることを示しています。
参考)http://www.neotron.co.jp/crystal/6/ZnS.html
ヌープ硬度は180~205 kg/mm²で、機械的強度にも優れています。ポアソン比は0.270、ヤング率は82.0 GPaと、弾性特性も良好です。熱伝導率は0.272 W/cm/℃(20℃)で、比熱は0.525 J/g/℃という熱的特性を持ちます。これらの物性値は、硫化亜鉛が光学素子や半導体デバイスとして利用される際の重要な設計パラメータとなります。
化学的性質として、硫化亜鉛は水にはほとんど不溶ですが、酸には溶解します。特に塩酸、硝酸、硫酸などの強酸と反応する際には硫化水素ガスを発生するため、換気の良い環境での取り扱いが必要です。通常状態では安定な化合物ですが、高温の火災環境下では分解または酸化し、亜鉛蒸気、硫黄蒸気、酸化亜鉛、硫黄酸化物などを発生する可能性があります。
半導体としての性質では、硫化亜鉛はⅡ-Ⅵ族化合物半導体に分類され、約3.6 eVという大きなバンドギャップを持ちます。この広いバンドギャップにより、硫化亜鉛は可視光から12μm以上の波長を透過する光学材料としても機能します。価電子数の和が8でオクテット則を満たすため、安定な電子構造を持つことも特徴です。
硫化亜鉛の最も注目すべき特性の一つが、優れた発光性能です。純粋な硫化亜鉛も発光しますが、銅やマンガンなどの金属イオンを添加することで、様々な色の発光が可能になります。特にマンガンを添加した硫化亜鉛は、600~650 nmの波長範囲で赤色光を発光するため、ディスプレイや照明用の蛍光体として広く利用されています。
参考)材料科学産業における硫化亜鉛の用途は何ですか? - ブログ
硫化亜鉛は発光材料として多くの分野で実用化されており、その用途は幅広く展開されています。テレビのブラウン管、蛍光灯、エレクトロルミネッセンス(EL)素子、光センサーなど、様々なデバイスに組み込まれています。励起方法は用途によって異なりますが、基本的には母体物質である硫化亜鉛の結晶構造内に添加された活性化剤が発光中心として機能します。
参考)https://shizuoka.repo.nii.ac.jp/record/5142/files/K0670.pdf
硫化亜鉛ナノ粒子を用いた温白光蛍光膜の製造技術も開発されています。この技術では、金属イオンを添加した硫化亜鉛ナノ粒子、青色光有機材料、酸化亜鉛ナノ粒子を組み合わせて有機/無機ハイブリッド薄膜を製造し、紫外線照射により青色光、緑色光、赤色光を同時に発光させます。この方法により、照明に適した低色温度の温白光を生成でき、演色性に優れた白色光を実現できます。
あまり知られていない興味深い特性として、硫化亜鉛を3原子程度の厚さで他の半導体材料の表面に成長させる精密合成技術があります。この技術により、界面での格子定数の整合が起こり、欠陥のない高品質な構造を作製できるため、次世代の高効率発光デバイスや量子ドット材料への応用が期待されています。
参考)https://nimsnow.nims.go.jp/research/2024no2_r04/
物質・材料研究機構(NIMS)- 硫化亜鉛ナノ粒子の精密合成技術に関する最新研究
硫化亜鉛は材料科学産業において多様な用途で活用されており、その応用範囲は年々拡大しています。最もよく知られた用途は蛍光体の製造ですが、それ以外にも光学コーティング、顔料、高機能プラスチックの添加剤など、様々な産業分野で重要な役割を果たしています。
半導体材料としての硫化亜鉛は、Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体として、光センサーや発光ダイオード(LED)の基板材料に利用されています。3.6 eVという大きなバンドギャップを持つため、ワイドバンドギャップ半導体として高温動作や高電圧動作が可能なデバイスへの応用が期待されています。また、可視光から赤外光まで透過する特性を活かし、赤外光用の光学素子としても活用されています。
光学コーティング分野では、硫化亜鉛の高い屈折率と広い透過波長範囲を利用した反射防止膜や保護膜として使用されています。特に赤外線光学系では、硫化亜鉛コーティングが標準的な材料の一つとなっています。さらに、顔料としての用途では、その白色性と隠蔽力の高さから、塗料やプラスチック製品の着色剤として採用されています。
診断補助薬としての医療用途も報告されており、特定の医療検査において造影剤や標識材料として利用されています。このように、硫化亜鉛は基礎的な無機化合物でありながら、現代の先端技術から日常生活まで幅広い分野で不可欠な材料として機能しています。
参考)KEGG DRUG: 硫化亜鉛
| 用途分野 | 具体的な応用 | 特徴 |
|---|---|---|
| 🔬 発光材料 | 蛍光灯、EL素子、ディスプレイ | 金属添加により多色発光可能 |
| 💻 半導体 | 光センサー、LED基板、透明電極 | ワイドバンドギャップ3.6 eV |
| 🔭 光学材料 | 赤外線光学素子、反射防止膜 | 可視光~12μm以上を透過 |
| 🎨 顔料・塗料 | 白色顔料、プラスチック添加剤 | 高い隠蔽力と安定性 |
| 🏥 医療用途 | 診断補助薬 | 造影剤として使用 |
半導体材料データベース - 閃亜鉛鉱型とウルツ鉱型構造の詳細比較

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