米国の量子コンピュータ市場は、2025年から2032年にかけて年平均27.5%という驚異的な成長率で拡大すると予測されています。市場規模は2025年の3億310万ドルから2032年には16億5750万ドルに達する見込みで、投資家にとって大きな成長機会となっています。 この急成長の背景には、AI技術との融合や政府による研究開発支援、機関投資家の本格参入などが挙げられます。
参考)https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%87%8F%E5%AD%90%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E5%B8%82%E5%A0%B4-107727
量子コンピュータ市場では複数の技術方式が並行して開発されており、それぞれ異なる強みと課題を持っています。現在主流となっているのは超伝導方式、イオントラップ方式、量子アニーリング方式の3つです。 超伝導方式はIBMやGoogleなどの大手企業が採用し、高速なゲート操作が可能である一方、絶対零度に近い極低温環境が必要という課題があります。
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2025年10月には、トランプ政権が量子コンピュータ企業への政府資金供与と引き換えに株式取得を検討しているとの報道があり、IonQ、Rigetti Computing、D-Wave Quantumなどが協議に入っていることが明らかになりました。 この動きは、量子コンピュータ技術が国家安全保障上の重要技術として位置づけられていることを示しており、今後の市場拡大を後押しする要因となっています。
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米国市場に上場している量子コンピュータ関連銘柄の中で、特に注目されているのがIonQ(NYSE: IONQ)、Rigetti Computing(Nasdaq: RGTI)、D-Wave Quantum(NYSE: QBTS)の3社です。 これらの企業はそれぞれ異なる技術アプローチを採用しており、投資家にとって多様な選択肢を提供しています。
IonQ(イオンキュー) は、イオントラップ技術を活用したトラップイオン方式の量子コンピュータを開発している企業です。 同社の強みは、高精度なゲート操作とモジュール型設計による拡張性にあります。主要製品には11量子ビットのHarmony(2024年9月廃止)、25量子ビットのAria、そして最高性能のForteがあります。 IonQは、Amazon BraketやMicrosoft Azureといった大手クラウドプラットフォームと統合しており、開発者が手軽にテストやPoC(概念実証)を行える環境を提供している点が特徴です。
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Rigetti Computing(リゲッティ) は、超伝導量子ビット方式を採用し、チップ製造から制御システム、クラウド運用までを垂直統合する「フルスタック型」の企業です。 超伝導技術は高速なゲート操作が可能で、IBMやGoogleといった大手企業と同じアプローチを取っています。主要製品にはNOVERA QPUやAspenシリーズプロセッサがあり、DARPA(国防高等研究計画局)や米国エネルギー省などの政府機関を主な顧客としています。
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D-Wave Quantum(ディーウェーブ) は、他の2社とは異なり「量子アニーリング」方式を採用するユニークな企業です。 量子アニーリングは複雑な選択肢の中から最適な答えを見つけ出す「最適化問題」に特化しており、AI、物流、金融、材料科学など幅広い産業での早期商業化において大きなアドバンテージを持っています。最大5000量子ビットを持つAdvantage Systemを提供し、クラウド経由で利用できるLeap Quantum Cloudサービスも展開しています。 2025年第2四半期の売上高は前年同期比42%増、総予約額は92%増と、ビジネスは着実に拡大しています。
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IBM(アイビーエム)も量子コンピュータ分野で重要な位置を占めています。同社は2016年からIBM Cloud経由で量子ハードウェアへのアクセスを提供しており、世界初のアクセス可能な量子コンピュータを実現しました。 サイバーセキュリティ企業のパロ・アルト・ネットワークス(PANW)も、量子コンピューティング時代のセキュリティ対策として注目されています。
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各企業の株価は2025年に入って大きな変動を見せています。特に3月のエヌビディアの「量子の日」や業界における技術的ブレークスルーにより、量子コンピュータセクターは急速に反発しました。 IonQの株価は2025年10月14日時点で年初来80%超の上昇を記録しており、投資家の関心の高さを示しています。
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| 企業名 | ティッカー | 技術方式 | 主な強み | 主要顧客 |
|---|---|---|---|---|
| IonQ | NYSE: IONQ | イオントラップ | 高精度、クラウド連携 | Airbus、Hyundai、米空軍研究所 |
| Rigetti Computing | Nasdaq: RGTI | 超伝導 | フルスタック型、高速ゲート | DARPA、米エネルギー省 |
| D-Wave Quantum | NYSE: QBTS | 量子アニーリング | 最適化問題特化、早期商用化 | Volkswagen、DENSO、Toyota |
| IBM | NYSE: IBM | 超伝導 | 長年の実績、エコシステム | 企業・研究機関多数 |
米国の量子コンピュータ企業は、技術開発と商業化の両面で独自の成長戦略を展開しています。IonQの成長戦略で最も注目されるのは、早期からのクラウド連携です。Amazon BraketやMicrosoft Azureとの統合により、開発者コミュニティを活性化し、ユーザーが手軽にテスト・PoC(概念実証)を行える環境を整えています。 イオントラップ方式のゲート型量子コンピュータとして、スケーラビリティとゲート操作の精度においてバランスが良く、汎用性が高いという特徴があります。
Rigettiは超伝導技術のポテンシャルを活かし、速度と安定性で優位を得ることで大型契約の獲得を目指しています。 同社の垂直統合アプローチは、チップ製造から制御システム、クラウド運用まで一貫して管理することで、開発スピードを引き上げています。 自社クラウドサービスでの開発者コミュニティ形成は、他の大手企業とは異なるユニークな差別化要因となっています。
D-Waveの戦略は、量子アニーリング方式の特性を活かした早期商用化の実績にあります。既に一部企業が業務課題で利用しており、実用化の糸口が具体的に見えている点が強みです。 また、量子コンピュータと従来の古典計算を組み合わせるハイブリッドアプローチにより、顧客に実用的な価値を訴求しています。 次世代システムとして7000量子ビットを超えるAdvantage2の開発も進めており、さらにゲートモデルの量子コンピュータも開発中です。
参考)href="https://www.hpcwire.jp/archives/72262" target="_blank">https://www.hpcwire.jp/archives/72262amp;raquo; 量子コンピュータのRigetti社、上場廃止…
米国政府の支援も成長を後押ししています。2025年10月の報道によれば、トランプ政権は複数の量子コンピュータ企業に対し、政府資金の供与と引き換えに株式を取得する方針を示しており、これはインテルや複数のレアアース採掘企業と結んだ取引に類似しています。 この動きは、量子技術が国家安全保障上の重要分野として認識されていることを示しており、長期的な市場安定性と成長を支える要因となっています。
投資家の観点から見ると、現在の動きの早さ、技術の汎用性、クラウド連携の進捗という観点からIonQが最も成長性が高い可能性があります。 イオントラップ方式は汎用ゲート型の一種であり、拡張性と精度のバランスが良く、Amazon BraketやAzureとの共同で開発者ベースを強力に拡大している点が評価されています。ただし、超伝導方式(IBMなど)や光方式(PsiQuantumなど)との競争は今後激化する見込みで、技術的優位性の維持が課題となります。
量子コンピュータの技術開発において、鉱石や特殊素材が重要な役割を果たしているという事実は、多くの投資家にとって意外な情報かもしれません。実際、量子コンピュータの性能を左右する重要な要素として、希土類元素や特殊な半導体材料が不可欠となっています。
超伝導量子コンピュータでは、タンタル(Ta)やニオブ(Nb)といった希少金属が重要な役割を果たしています。 最近の研究では、ニオブをタンタルに置き換えることで量子ビットの寿命(T1)が大幅に向上することが明らかになりました。これはタンタルの表面酸化物がニオブよりも損失が少ないためと考えられています。 タンタル表面酸化物はニオブ酸化物と比較してサブオキサイド(低次酸化物)が少なく、Ta2O5からTaへの酸化状態の遷移が急激であるのに対し、ニオブではNb2O5、NbO2などの段階的な遷移が見られます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11295204/
希土類元素も量子コンピュータ技術において重要な位置を占めています。希土類元素を含む化合物では、局在的な開殻4f電子により、ネオジム磁石のような強力な永久磁石や高輝度な蛍光剤などの機能性が現れます。 量子コンピュータの分野では、窒化物などの半導体に注入した希土類元素を量子ビットや単一光子源として制御する量子デバイスの開発が進められています。 これらの希土類量子デバイスは、室温・狭線幅・近赤外の単一光子源を実現するため、GaNフォトニック結晶やナノ構造と組み合わされています。
参考)希土類量子デバイスグループ - 量子科学技術研究開発機構
半導体材料としては、シリコンとダイヤモンドが量子コンピュータの理想的な母材料として注目されています。 特に核スピンのない安定同位体(^28Si、^30Si、^12C)で構成されたシリコンやダイヤモンド結晶は、スピン量子ビットのコヒーレント特性が核スピンによって乱されないため、量子コンピューティングや量子センシングに理想的な環境を提供します。 シリコン量子ビットの研究は、当初GaAs(ガリウムヒ素)系を主流として進められてきましたが、GaAsは100%核スピンを持つためスピン量子ビットに影響を及ぼすことが判明し、現在はシリコン系への移行が進んでいます。
参考)https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/3E3632E92A5002BFBEE1FF65741C4B54/S2159685914000329a.pdf/div-class-title-isotope-engineering-of-silicon-and-diamond-for-quantum-computing-and-sensing-applications-div.pdf
半導体量子ドットを用いたスピン量子コンピュータは、シリコンやゲルマニウムといった既存プロセスで製造可能であり、高いスケーラビリティを持つことが特徴です。 既存のCMOS製造ラインと統合できるため、従来の半導体産業との親和性が極めて高く、大規模化への道が開けています。さらに、Si28(シリコン28同位体)やHe3(ヘリウム3)などの新素材の商用化も期待されており、これらの材料は量子コンピュータの性能をさらに高める可能性を秘めています。
参考)半導体産業と量子コンピュータが完全に融合 - 半導体量子コン…
冷却技術においても特殊な材料が必要とされます。超伝導量子ビットは絶対零度に近い温度で動作するため、希釈冷凍機によって数mKまで冷却する必要があります。 この冷却プロセスでは、ヘリウム3とヘリウム4という希少な同位体が使用され、混合室において濃厚相から希薄相へとヘリウム3が溶け出すプロセスで冷却が行われます。
参考)https://zenn.dev/qsrh/articles/quantum-computer-and-fridge-20241220
これらの素材や鉱石は、量子コンピュータの性能向上において不可欠であり、今後の市場拡大に伴って需要が急増すると予想されます。投資家にとって、量子コンピュータ企業への投資だけでなく、これらの素材を供給する鉱山会社や精製企業への投資も、間接的な量子技術投資の選択肢として検討する価値があります。
2025年下半期における量子コンピュータ関連株は、技術的ブレークスルーと商業化の進展による追い風が続くと予想されています。 米国政府の規制整備や機関投資家の本格参入が進み、これらの分野への資金流入がさらに加速する見込みです。特にAIと量子コンピューティングの融合が注目されており、投資家の関心が集中しています。
技術面では、量子ビット数の増加が重要な競争軸となっています。IonQはForteシステムで30量子ビットの性能を達成し、全ての量子ビットペア(435ペア)に対して直接ランダム化ベンチマークを実施しています。 D-Waveは7000量子ビットを超える次世代Advantage2システムの開発を進めており、さらにゲートモデルの量子コンピュータも開発中です。 これらの技術進歩により、量子コンピュータが実用的な問題解決に応用できる範囲が着実に拡大しています。
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半導体技術との融合も加速しています。2024年以降、「半導体量子ドット」というアプローチが量子コンピュータ開発の主役として台頭してきており、電子のスピンを量子ビットとして利用する技術は、従来の半導体製造技術との親和性が極めて高いことが特徴です。 シリコン方式の量子コンピュータは、既存の半導体集積化技術を応用できるため、将来の有望技術として期待されており、複雑な演算に使えるゲート型の量子コンピュータの実用化に向けた開発が進んでいます。
参考)量子コンピューター開発に新手法、半導体製造技術で巻き返す日本…
商業化の面では、各企業が異なる戦略でアプローチしています。IonQはクラウドプラットフォームとの連携を強化し、Hyundai MotorsやAirbusなどの大手企業との協業を拡大しています。 D-Waveは、Volkswagen、Toyota、DENSOなどの自動車産業をはじめ、金融、材料科学など幅広い分野で早期の商業化実績を積み重ねています。 Rigettiは政府機関との関係を強化し、国防・エネルギー分野での応用を進めています。
応用分野も拡大しています。量子化学のシミュレーション、金融ポートフォリオの最適化、材料科学、AIモデリング、ロジスティクスとルート最適化、機械学習のパラメータ最適化、新材料設計など、多岐にわたる分野で量子コンピュータの実用化が進んでいます。 特に、量子コンピュータと古典計算を組み合わせるハイブリッドアプローチは、現時点での実用性を高める重要な戦略となっています。
今後の課題としては、量子ビットのエラー率の低減、スケーラブルな量子プロセッサの実現、より多くの量子ビット間の相互作用の制御などが挙げられます。 これらの技術的課題を克服することで、量子アドバンテージ(量子コンピュータが古典コンピュータを上回る優位性)の実現に近づくことができます。投資家にとっては、これらの技術開発動向を注視しながら、長期的な視点での投資判断が求められます。
量子コンピュータ産業の発展において、従来見過ごされがちだった重要な側面があります。それは、半導体産業と量子コンピュータ技術の完全融合が、既に始まっているという事実です。この融合は単なる技術的な親和性ではなく、産業構造そのものを変革する大きな流れとなっています。
従来、量子コンピュータといえば超伝導方式やイオントラップ方式が主流でしたが、2024年以降、半導体量子ドットを用いたスピン量子コンピュータが急速に台頭しています。 この技術の最大の特徴は、既存の半導体製造インフラをそのまま活用できる点にあります。産総研ではCOLOMODE(未踏デバイス試作共用ライン)において、シリコン量子ビット素子を含むさまざまな半導体電子デバイスの開発が進められており、半導体研究者が量子技術の開発に関わるようになっています。
参考)半導体量子コンピュータ=半導体産業に
この流れは投資家にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、量子コンピュータの大規模化において最大のボトルネックとなっていた製造技術の問題が、半導体産業の既存インフラで解決できる可能性が高まっているからです。 CMOSラインとの統合が可能になれば、量子ビット数の増加が他方式より現実的となり、化学シミュレーション、最適化、量子AIなどでの実用化が一気に進む可能性があります。
さらに注目すべきは、半導体産業における人材とノウハウの移転です。大学で量子関係のセミナーを開くと、多数の学生が参加しているという報告があり、 次世代の技術者層が着実に育成されています。半導体製造技術の成熟度と、量子技術の革新性が融合することで、2025年から始まる商用展開は20世紀の「シリコン革命」に匹敵するインパクトを持つ可能性があります。
参考)「技術開発」「社会価値創出」両輪で進む量子技術の産業化
投資の観点では、純粋な量子コンピュータ企業だけでなく、半導体製造装置メーカーや半導体素材供給企業にも投資機会が広がっています。既存の半導体企業が量子技術分野に参入する動きも加速しており、IntelやAMDといった従来の半導体大手も量子コンピュータ関連技術の開発を進めています。 この産業融合のトレンドを理解することが、今後の投資判断において重要な要素となるでしょう。
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D-Wave社の量子システム製品情報 - 最大5000量子ビットのAdvantage Systemの詳細と技術仕様
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