
ルネサンス様式とは、14世紀から17世紀初頭までイタリアのフィレンツェを中心にヨーロッパに広まった建築及び装飾の様式です。「ルネサンス」という言葉自体には「再生」や「復活」という意味があり、古代ギリシャやローマの古典文化への回帰を志向した思潮に基づいています。メディチ家など巨万の富を築いた人々が競って芸術に莫大な費用を投じたことが功を奏し、芸術文化の華が咲きました。ルネサンス建築は、垂直を強調したゴシック様式への批判から生まれ、古代建築の研究を通じて新しい表現や技術を展開し、その成果は後世に大きな影響を与えました。
参考)https://www.token.co.jp/estate/useful/archipedia/word.php?jid=00016amp;wid=30675amp;wdid=01
ルネサンス建築の最も特徴的な要素の一つがシンメトリー(左右対称性)です。建物全体が左右対称に設計され、バランスと調和が保たれました。円と正方形、シンメトリーや等間隔といった数学的均衡が重視され、幾何学的な美しさが追求されたことが大きな特徴です。ウィトルウィウスはその著書『建築十書』の中で神殿建築におけるシンメトリーとプロポーション(比例)の重要性を記しており、これがルネサンス芸術の調和の基盤となりました。黄金比(約1:1.618)を基にした構成方法は、視覚的に最も調和が取れているとされ、ルネサンス時代の建築家が建物のデザインに積極的に取り入れました。
参考)ルネサンス建築(15世紀) ミケランジェロやブルネレスキの名…
ルネサンス建築では、古代ローマ建築を手本とした列柱(コロネード)やアーチが装飾・構造双方の観点から多用されます。オーダーとは、古典主義建築の基本単位となる円柱と梁の構成法で、独立円柱(礎盤、柱身、柱頭)と水平梁(エンタブラチュア)から成ります。ドーリア式、イオニア式、コリント式の柱が、装飾や構造として積極的に用いられ、建物全体の調和を生み出す役割を果たしました。ルネサンスの時代に古典建築が「再発見」されると、オーダーは再び注目されるようになり、建築美の究極の姿として権威化されました。列柱は建物の均衡と格式を強調し、空間のリズムと秩序感を創出する役割を担っています。
参考)オーダー (建築) - Wikipedia
ルネサンス建築において革新的な技術として登場したのが、フィリッポ・ブルネレスキが考案した二重殻構造のクーポラ(ドーム)です。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の赤いクーポラは、石積みのドームとしては現在でも世界最大の規模を誇ります。従来の工法ではクーポラを地上で造ってから載せる必要があり、大きなクーポラは造れませんでしたが、ブルネレスキは古代ローマの技法を学び、『二重殻工法』という前代未聞の工法を考案しました。内側の天井と外側の屋根の間が空洞になっており、建築材の重さを軽減するとともに、弧の間に階段が組まれて頂上へと続く構造になっています。この革新的な発想により、梁を使わずに巨大な空間を作り上げることに成功し、「建築史上最高峰の美しさ」と称されています。
参考)ルネサンス?バロック?建築様式はどう違う? - 海外旅行のお…
ルネサンス様式の建築では、建築内部に木製パネルを利用したり、大きなタペストリーを置いたりするなど、装飾にも特徴があります。端正で威厳のある装飾性が特徴であり、過度に装飾を施すのではなく、古典に基づく端正さと精神性を重視し、安定感や威厳を建物に与えた点も大きな特色です。建築装飾における調和の追求は、同時代の陶器や食器のデザインにも影響を与えました。ルネサンス期の家具は古典的な装飾が施され、シンメトリーを重視した配置が多くなり、古代ローマの柱や彫刻の要素がデザインに取り入れられています。豪華な装飾と繊細な彫刻が特徴で、機能性重視の傾向が高まったことも特筆すべき点です。陶器や食器に興味がある方にとって、ルネサンス建築の装飾美学は、器のデザインや空間との調和を考える上で重要な参考となります。
参考)ルネサンス様式の建築と家具の特徴とは?代表作品を画像で解説【…
ルネサンス様式の代表的な建築物として、まずフィレンツェ歴史地区が挙げられます。フィレンツェ中心部が世界遺産に登録されており、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、ヴェッキオ宮殿、ウフィツィ美術館などが代表的です。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は3つの建物から構成され、ドゥオーモという建物の上部の大きなドームが特徴です。ヴェッキオ宮殿はもともと14世紀初めごろに建てられたゴシック様式の建物ですが、16世紀半ばにルネサンス様式に改装され、上の方に大きく突き出た「アルノルフォの塔」が特徴となっています。ウフィツィ美術館は、もともとトスカーナ大公国の政府庁舎として使用され、1階にあるドーリア式の大きな列柱が特徴的です。また、スペインのウベダとバエーサのルネサンス様式の記念碑的建造物群も世界遺産に登録されており、16世紀初頭のスペインにおけるルネサンス建築と都市計画が見られる最初期の例として評価されています。
参考)世界遺産の建築シリーズヨーロッパ編② ルネサンス様式の特徴と…
イタリアで華咲いたルネサンスは、西欧諸国に多大な影響を及ぼしました。英国に伝わった建築様式は、古代ギリシャやローマ建築よりもむしろイタリア・ルネサンスの方が色濃く表れており、特にアンドレア・パラディオの与えた影響は大きいとされています。パラディオの名作「ヴィラ・ロトンダ」を模したバーリントン公のチズィック・ハウスに始まり、イニゴ・ジョーンズ設計のクイーンズ・ハウスやホワイトホール宮殿のバンケティング・ハウスは、まさにイタリア・ルネサンスが英国へ飛び火した形となっています。ドイツ北部のブレーメン市庁舎は、15世紀の初めごろにゴシック様式で建てられましたが、17世紀にルネサンス様式に改築され、非常に優雅な外観の建物として知られています。ルネサンス様式は、ゴシック様式では垂直線を強調したデザインが多く見られましたが、水平線や半円などを取り入れたデザインが多いのが特徴であり、この対比が各地の建築改修に影響を与えました。
参考)ルネサンス建築 - 英国ニュース、求人、イベント、コラム、レ…
東建コーポレーション|建築用語辞書:ルネサンス様式の定義と代表建築家についての詳細解説
自然屋|ルネサンス建築の主な特徴と代表建築物の一覧表
世界遺産オンラインガイド|ルネサンス建築の円と正方形を用いた数学的均衡の解説
美術用語辞典|ルネサンスの黄金比構成と視覚的調和の原理