ローソン石と特徴、産地、コレクション

ローソン石は高圧低温条件下で形成される貴重な変成鉱物で、青色片岩の指標として知られています。希少な標本価値や日本国内外の産地、鉱物コレクターが注目する魅力とは?

ローソン石の特徴と産地

この記事のポイント
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高圧低温環境で誕生

地下10kmの圧力下、比較的低い温度で形成される特殊な変成鉱物

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環太平洋に分布

沈み込み帯の青色片岩中に産出し、日本を含む世界各地に産地が存在

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地球科学の鍵

プレート運動や水の循環を解明する重要な指標鉱物として研究される

ローソン石の鉱物学的特徴と化学組成

 

ローソン石(Lawsonite)は化学式CaAl2Si2O7(OH)2·H2Oで表される含水ソロケイ酸塩鉱物です。直方晶系に属し、四角柱状あるいは卓状の結晶形態をとることが特徴で、長石に似ていますが光沢が強く脂ぎって見える独特の外観を持っています。硬度は6から8と比較的硬く、比重は3.1と大きい値を示します。これは高圧環境下で生成されるためで、組成に水分子が2つ加わっているのは比較的低温だったことを物語っています。

 

参考)ローソン石 - Wikipedia

色は無色、白色、帯青色、帯桃色などがあり、ガラス光沢から脂肪光沢を示します。劈開は二方向に完全で、条痕は白色です。組成的には灰長石CaAl2Si2O8に水が2分子加わったものに相当し、650℃以上に加熱するとこの2つの鉱物に分解する性質があります。組成変化に乏しく、クロムが不純物として含まれることがあります。

 

参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery7/494lawson.html

注目すべき点として、ローソン石は単位モル量当たり12重量%のH2Oを含んでいるため、ローソン石青色片岩の含水量は5重量%程度になることが確認されています。この水を運ぶ能力により、ローソン石は沈み込む先に大量の水を運搬できることが地球科学的に重要視されています。

 

参考)http://www.j-hss.org/journal/back_number/vol68_pdf/vol68no3_159_167.pdf

ローソン石の形成条件と青色片岩との関係

ローソン石は低温高圧条件の指標鉱物として知られ、冷たい海洋地殻が海溝からマントルに沈み込む場所で最も一般的に見られます。具体的には地下約10kmという高圧の下で比較的低い温度で形成され、藍閃石、白雲母(フェンジャイト)、ソーダ雲母、石英、ひすい輝石、アルマンディン、緑泥石などと共生します。

 

参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/mineral44/epx-mineral/henkoukenbikyou-koumoku/henkoukenbi%20zougankoubutu/micro%20lawsonite.htm

青色片岩はローソン石エクロジャイトへ相転移する可能性があり、約300℃以下でもローソン石エクロジャイト化が始まることが明らかになっています。冷たい沈み込み帯では、緑泥石とパンペリー石を含む変質玄武岩が直接ローソン石エクロジャイト化するという仮説も提唱されています。スラブ(海洋プレートが沈み込んだ部分)の初期温度が低く、流体が同時に沈み込むため周囲のマントルより温度が低くなり、低温高圧の条件が達成されます。

 

参考)https://tatsukix.netlify.app/pdf/%E5%9C%B0%E8%B3%AA%E6%8A%80%E8%A1%930(2006)56-64.pdf

藍閃石、藍晶石、灰簾石は青色片岩相の主要鉱物でありローソン石と共存することが多く、この鉱物組み合わせは青色片岩相の指標となります。ローソン石は青色片岩相の典型的な変成鉱物で、変質した斑れい岩や閃緑岩中の二次鉱物としても生成します。青色片岩が地下50km以上に沈み込むと、ざくろ石やCa-Na輝石などの無水鉱物から成るエクロジャイトと呼ばれる岩石群に変化し、この過程で多量の脱水流体が放出されます。

 

参考)ローソン石とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

ローソン石の世界的産地分布と日本の産出地

ローソン石は非常に広範に分布し、主に環太平洋火山帯などの沈み込み帯で生じることが知られています。世界的には、ローソン石は発見地であるアメリカ合衆国カリフォルニア州マリン郡のティブロン半島が最も有名で、1895年にここで発見され、カリフォルニア大学の地質学者アンドリュー・ローソンにちなんで命名されました。カリフォルニア州の青色片岩中のものはしばしば数mmから長さ約5cmに達する斑状変晶をなすことで知られています。

 

参考)ローソン石(ろーそんせき)とは? 意味や使い方 - コトバン…

その他の重要な産地としては、セレベス島、中国、キューバ、フランス、イタリア、日本、ニューカレドニア、ニュージーランド、トルコなどが挙げられ、環太平洋造山帯沿いでも発見されています。

 

参考)ローソナイト宝石:特性、意味、価値など

日本国内では、神居古潭変成帯中の北海道雨竜郡幌加内町、黒瀬川帯中の高知市周辺などから産出します。埼玉県越生町の麦原入口付近の越辺川の川床も有名な産地で、蛇紋岩に伴う結晶質片岩中に含まれて肉眼的な結晶が見出されます。東京都日の出町坂本でも藍閃石中に脈状のローソン石が産出し、紫色のローソン石も報告されています。日本のローソン石の産地は64ヶ所が記録されており、三波川結晶片岩帯と似たような地質条件のところに限って産出することが知られています。

 

参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/64_05_09.pdf

国立研究開発法人産業技術総合研究所地質標本館のローソン石藍閃石片岩標本
ローソン石藍閃石片岩の実際の標本画像と詳細情報が確認できます。

 

ローソン石コレクションと標本の価値

ローソン石は市場に出回る機会が少ない希少な鉱物標本として、コレクターから高い関心を集めています。1950年代まではアメリカのカリフォルニア州でたくさん採集されていましたが、最近ではほとんど市場に出回らなくなっていました。興味深いエピソードとして、2004年のツーソン・ショーで約200点の標本が突如出現し耳目を集めました。これはすべて一人のコレクターが1952年から1956年の間に採集し貯めたもので、1970年に彼が亡くなってからサンフランシスコの自宅ガレージに古新聞に包まれて埋もれていたものでした。

標本としてのローソン石は、藍閃石に伴って柱状結晶が成長している様子がよく観察できます。藍閃石とローソン石はともにストレス鉱物と呼ばれ、断層帯など圧力のかかる領域で変成作用によって生じますが、両者の共存は緑簾石と藍閃石が共存する場合に比べて、より低温環境での生成を物語っているという科学的価値があります。

青色片岩中には微小な他形の粒や、断面が長方形に近い0.数mmから3mm程度の斑状変晶をなすものが見られ、肉眼では一見曹長石の斑状変晶に似ていますが、顕微鏡下ではローソン石は屈折率や干渉色が高いことで区別できます。塊状で産出するものもあり、不純物によって色が着いたローソン石の中でも紫色のローソン石は特に珍しく、コレクターが探し求める逸品とされています。

 

参考)日の出町坂本の藍閃石とローソン石 - axiniteの日記

ローソン石が明かす地球深部の水循環メカニズム

ローソン石は地球深部における水の循環を理解する上で極めて重要な役割を果たしています。玄武岩から青色片岩への変化は吸水作用が進行したとみなすことができ、特にローソン石と緑泥石は単位モル量当たり12重量%のH2Oを含んでいるため、ローソン石青色片岩は水の貯蔵庫として機能します。

水の貯蔵庫であるローソン石青色片岩は緑簾石青色片岩やエクロジャイトへと転移する際、周囲に多量の水を供給するとされています。ローソン石が分解するときにかなりの量の水が放出され、これはローソン石が沈み込む先に大量の水を運べることを意味します。水を運ぶ能力に影響を与えるのは温度と圧力が変化したときの応答なので、蛇紋石、滑石、フェンジャイト、十字石、緑簾石のような含水鉱物と同様に、温度圧力条件を変える実験が盛んに行われています。

 

参考)https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jpgu2018/SMP37-01/public/pdf?type=inamp;lang=ja

さらに注目すべき点として、ローソン石の脱水分解が生じる近傍では深部低周波微動など特異な地震活動が活発であることが観察されています。この現象は、ローソン石から放出される水が地震活動に影響を与えている可能性を示唆しており、地震発生メカニズムの解明にもつながる重要な研究対象となっています。マントルウエッジへの水の供給源としてのローソン石青色片岩の役割は、プレートテクトニクスと地球内部の水循環を理解する上で欠かせない要素です。

 

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/02ed25b32e13fc63515b56c4bae955d3235323f2

北海道幌加内地域に産する神居古潭変成岩類では、ローソン石が分解し緑簾石青色片岩が形成される累進変成作用を経験したとされており、ローソン石の脱水分解に伴う大規模な流体活動が研究されています。このような研究を通じて、冷たい沈み込み帯における水の挙動とその地質学的影響が次々と明らかになっています。

ローソン石と類縁鉱物の関係性

ローソン石は緑簾石グループと関連する組成、構造を持つ変成鉱物です。緑簾石やパンペリー石、タンザナイトやゾイサイトといったソロケイ酸塩鉱物と類縁関係にあります。ローソン石は温度が高くなると緑簾石やパンペリー石に変化する性質があり、藍閃石はローソン石よりも高い温度まで安定領域が広がっています。

ゲーレン石や異極鉱もソロケイ酸塩鉱物に含まれ、これらは一方向に完全な劈開を持っており、加工には技術が必要です。エピドート(緑簾石)などの類縁鉱物はもっぱらコレクター向けに原石のまま、あるいはルースにカットされて流通しています。

ローソン石の灰長石CaAl2Si2O8との関係も興味深く、ローソン石のほうが密度が高くAlの結合様式が異なります。これらの鉱物学的特性の違いは、形成される圧力条件の違いを反映しており、変成作用の過程を理解する手がかりとなっています。

超高圧変成岩の最高圧力時(約3GPa)の変成温度は650℃以下と非常に低く、その条件下ではローソン石が安定に存在すると推測されています。このような極限環境下での鉱物の安定性を研究することで、地球深部の物質科学的な理解が深まっています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/123/9/123_2017.0020/_pdf/-char/ja

ローソン石を含む変成鉱物の研究は、地球のプレート運動、水の循環、地震発生メカニズムなど、地球科学の根幹に関わる重要なテーマに貢献しています。希少な標本価値だけでなく、科学的価値の高さからも、ローソン石は今後も多くの研究者やコレクターの価値の高さからも、ローソン石は今後も多くの研究者やコレクターの関心を集め続けるでしょう。

 

 


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