六価クロムの基準値は複数の法律で厳格に定められています。水質汚濁防止法では、令和6年4月1日から排水基準が従来の0.5mg/Lから0.2mg/Lへと強化されました。この改正は令和3年10月に六価クロムの環境基準値が変更されたことに伴うもので、環境基準は0.05mg/L以下と設定されています。
参考)水濁法改正「六価クロムの規制強化」
土壌汚染対策法における土壌環境基準では、検液1Lあたり0.05mg以下という基準が設けられています。これは地下水や土壌からの溶出を想定した厳しい数値です。労働安全衛生法では作業環境評価基準として0.05mg/m³以下が定められ、作業者の健康を守るための規制も徹底されています。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/49482/
排水基準は環境基準の10倍に設定されるのが原則で、放流後に少なくとも10倍程度に希釈されると想定されているためです。電気めっき業に属する特定事業場には暫定排水基準として従来の0.5mg/Lが3年間適用される経過措置がありますが、他の業種では令和6年10月1日または令和7年4月1日から新基準が実質的に適用されます。
参考)水質汚濁防止法施行規則等の一部を改正する省令の公布について
陶磁器食器における基準値は、実は六価クロムではなく鉛とカドミウムの溶出量が規制対象となっています。食品衛生法では陶磁器の形状や容量に応じて鉛とカドミウムの基準値を細かく設定しており、深さ2.5cm未満の浅型容器では鉛が17μg/cm²以下、1.1リットル未満の深型容器では5.0mg/L以下と定められています。
参考)食に安全な印刷とは?安心・安全にもこだわったオリジナル陶器の…
釉薬に使用される酸化クロムは三価クロムであり、土壌汚染物質である六価クロムとは異なります。クロムには無害な三価、有害な四価、六価の3種類があり、陶芸で緑色を出すために使われる酸化クロムは三価です。六価クロムは高温(1000℃以上)や強酸化環境下でのみ発生するため、通常の陶磁器製造過程では生成されません。
参考)https://www.georhizome.co.jp/soil_contamination/opportunity/glaze/
食品衛生検査では陶器の中に酢酸を満たして24時間常温で放置し、最も多くの鉛とカドミウムが溶出する条件下で検査を行います。この厳格な検査により、実際の使用条件下では溶出する有害物質は検査結果よりもさらに少ない数値になると考えられます。
六価クロムによる土壌汚染は主に工業活動に起因します。ガラス製造業やクロムめっき業では六価クロムによる汚染の可能性があり、窯業の原料にクロム酸が使用されている場合に土壌から検出されます。土壌環境基準の0.05mg/L以下という基準値は、環境庁告示46号溶出試験で測定され、この数値を超えると土壌汚染対策が必要になります。
参考)窯業から見つかる土壌汚染~ガラス製造で注意が必要な土壌汚染調…
セメント系固化材を使用した地盤改良工事では、六価クロムの発生が懸念されています。2003年2月に土壌汚染対策法が施行されて以降、六価クロムが発生した場合は土地所有者が浄化義務を負うことになりました。六価クロム溶出試験では環境庁告示46号の方法に従い、土塊を2mm以下に粗砕した土壌を6時間連続振とうした後に溶出量を測定します。
参考)https://www.mlit.go.jp/tec/kankyou/6cr/siken.pdf
タンクリーチング試験では塊状にサンプリングした試料を溶媒水中に静置して六価クロム溶出量を確認する方法もあり、施工後の改良土からの実際の溶出状況を把握できます。土壌汚染対策法に違反した場合、都道府県知事から汚染除去を命じる措置命令が出され、従わない場合は罰則が科される可能性があります。
参考)六価クロムの影響、地盤改良の今とは - 在住ビジネス株式会社
六価クロムは強い毒性を持ち、人体に深刻な影響を及ぼします。皮膚に付着するとアレルギーや皮膚炎を引き起こし、吸引すると呼吸器系の障害や肺がんのリスクを高めることが知られています。クロム酸工場の労働者に鼻中隔穿孔が多発した事例では、六価クロムの粉末を長期間鼻腔から吸収し続けた結果、鼻中核に慢性的な潰瘍が生じました。
参考)知って得する地盤の知識 【土壌汚染に注意】
食品安全委員会は六価クロムの一日耐容摂取量(TDI)を1.1μg/kg体重/日と評価しています。実験動物では小腸の損傷や貧血などの毒性が確認され、最も低い観察値はマウスの十二指腸粘膜上皮のびまん性過形成でした。水道水質基準では六価クロムの基準値が0.05mg/L以下に設定され、飲料水からの摂取リスクを最小限に抑える措置が取られています。
参考)https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001599181.pdf
消化器系にも影響があり、長期的な摂取は肝臓障害、貧血、大腸癌、胃癌などの原因になりえます。汚染された土壌から六価クロムが地下水に溶け出し、周辺の井戸水や河川を汚染した場合、人の健康や生態系に深刻なダメージを与える可能性があるため、基準値の遵守が重要です。
安全な食器を選ぶには素材の特性を理解することが大切です。ステンレス製食器では304ステンレス鋼(18/8または18/10)が最も一般的な食品グレードで、18%のクロムと約8〜10%のニッケルを含みます。ステンレスに含まれるクロムから六価クロムが生成される条件は高温(1000℃以上)や強酸化環境であり、家庭用調理器具ではこれらの条件を満たすことはほぼありません。
陶磁器食器を選ぶ際は、食品衛生法の基準をクリアした製品かどうかを確認しましょう。日本国内で販売されている陶磁器は厳しい検査基準をクリアしており、SGマークが付与されている製品は安全性が担保されています。高濃度の塩分や酸性食品を長時間保存すると金属成分が溶け出す可能性があるため、調理後は速やかに別の容器に移すことが推奨されます。
参考)私たちにとって身近な食品衛生法とは?~セラミック食器~
環境負荷の少ない代替技術として、六価クロムを使わない三価クロムめっきや無電解ニッケルめっきが採用されています。三価クロムは自然界や人体にも存在するミネラルの一種で、六価クロムに比べて毒性が低く、外観性や機能性においても従来技術と同等です。食器選びでは素材の安全性だけでなく、正しい使い方を守ることで健康リスクを最小限に抑えることができます。
参考)六価クロムの代替となるめっきの種類(三価クロムめっきなど)や…
六価クロムの排水基準改正に関する詳細情報(株式会社ミズノ)
六価クロムの用途と規制に関する設計時の注意点(ミスミ)
食品衛生法におけるセラミック食器の規格基準(中京化成工業)