レンツの法則とファラデーの法則の違いと電磁誘導の原理

電磁誘導を説明する二つの法則、レンツの法則とファラデーの法則にはどんな違いがあるのでしょうか。誘導起電力の大きさと向き、それぞれが示す物理的意味を詳しく解説します。鉱石や磁石との関係も理解できますか?

レンツの法則とファラデーの法則の違い

レンツの法則とファラデーの法則の基本的な違い
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ファラデーの法則:誘導起電力の大きさ

磁束の変化率とコイルの巻数に比例して誘導起電力が生じる

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レンツの法則:誘導起電力の向き

磁束の変化を妨げる方向に誘導起電力が発生する

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統合された理解

両法則を組み合わせることで電磁誘導現象を完全に記述できる

電磁誘導を理解する上で重要な二つの法則が、ファラデーの法則とレンツの法則です。ファラデーの法則は1831年にイギリスの物理学者マイケル・ファラデーによって発見され、誘導起電力の大きさに関する法則を示しています。一方、レンツの法則は1834年にロシアの物理学者ハインリヒ・レンツが発見し、誘導起電力の向きについて定義した法則です。

これら二つの法則は相補的な関係にあり、ファラデーの法則が「どれくらいの起電力が発生するか」を定量的に示すのに対し、レンツの法則は「どの向きに起電力が発生するか」を定性的に示します。両者を統合することで、電磁誘導現象を完全に記述できるのです。

レンツの法則における誘導起電力の向き

 

レンツの法則は、電磁誘導によって生じる起電力は元の磁束の変化を妨げる向きに生じるという原理を示しています。コイルに磁石を近づけると、コイルを貫く磁束が増加します。このとき、レンツの法則に従い、磁束の増加を打ち消すような向きに誘導電流が流れ、その方向に誘導起電力が発生するのです。

具体的には、磁石のN極をコイルに近づけた場合、コイルには磁石を反発する向き、つまりコイル側にもN極ができるように誘導電流が流れます。逆に磁石を遠ざけると、磁束が減少するため、今度は磁石を引き付ける向き、つまりコイル側にS極ができるように誘導電流が流れます。この法則は、エネルギー保存の法則に基づいており、磁場の変化に対抗してエネルギーの過剰な流入を防ぐ役割を果たしています。

レンツの法則により、電磁誘導の方向を判断する際には、右手の法則やアンペールの右ねじの法則を併用します。コイルを貫く磁束が増えるときは、それを打ち消す方向に磁束が生じるように電流の方向が決まります。この現象は、電動機やブレーキシステムなど、実用的な応用において重要な役割を果たしています。

ファラデーの法則における誘導起電力の大きさ

ファラデーの法則は、回路と鎖交する磁束が時間的に変化する場合、回路に鎖交する磁束の変化の割合に比例した起電力が生じるという法則です。数式で表すと、N巻きのコイルを貫く磁束がΔt秒間にΔΦだけ変化するとき、コイルに発生する誘導起電力Vの大きさは、V=NΔΦΔtV = N \frac{\Delta\Phi}{\Delta t}V=NΔtΔΦとなります。

参考)【高校物理】「ファラデーの法則(誘導起電力)」

この法則から分かる重要なポイントは二つあります。第一に、磁束の変化が大きいほど、誘導起電力も大きくなるということです。例えば、コイルに磁石をゆっくり近づけた場合は磁束の変化が小さいため、発生する誘導起電力も小さくなります。逆に磁石を素早く近づけると、磁束の変化が大きくなるため、誘導起電力も大きくなります。

 

参考)http://www.ztv.ne.jp/urnzpaqe/634.pdf

第二に、コイルの巻数Nと誘導起電力の大きさが比例するということです。コイルがN回巻のときは、1巻のコイルをN個直列につないだことになり、起電力はN倍になります。この性質は、変圧器の設計において電圧を変換する際に利用されています。

 

参考)電磁誘導とは?仕組みやコイルとの関連性、事例のご紹介! - …

ファラデーの法則には、レンツの法則を統合した形でマイナス記号が付けられることがあります。つまり、V=NΔΦΔtV = -N \frac{\Delta\Phi}{\Delta t}V=−NΔtΔΦという形で表現され、このマイナス符号は誘導起電力が磁束の変化を妨げる方向に発生することを示しています。

参考)誘導起電力とは?公式や向きの求め方を理解するためのポイントを…

誘導起電力の計算方法とファラデーの法則の詳細な数式展開について参考になります

電磁誘導と磁束変化の関係

電磁誘導は、コイルを貫く磁束が変化することでコイルに起電力が生じる現象です。磁束の変化には、磁石をコイルに近づけたり遠ざけたりする方法や、コイルを磁場の中で動かす方法があります。重要なのは、磁束が変化している時だけ起電力が発生するという点です。

 

参考)電磁誘導とファラデーの法則

磁束Φは、磁束密度Bとコイルの断面積Sの積で表され、Φ=BS\Phi = BSΦ=BSという関係があります。磁石とコイルの距離が変わると、コイルを貫く磁束が変化し、その変化率に応じて誘導起電力が発生します。実験では、ネオジム磁石などの強力な磁石を使用することで、より大きな磁束の変化を得ることができます。

参考)電磁誘導 ■わかりやすい高校物理の部屋■
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磁石の速さと誘導起電力の関係を調べる実験では、磁石を落下させる距離を変えることで速度を変化させ、それに対応する誘導起電力の変化を測定します。実験結果から、磁石の速さと誘導起電力はほぼ比例関係にあることが確認されています。これは、ファラデーの法則において磁束の変化率が大きいほど誘導起電力が大きくなるという理論と一致します。

電磁誘導は、導体が変動する磁場にさらされることで導体内に渦電流が発生する現象とも関連しています。金属板のような導体が変動する磁場にさらされると、導体内部を通過する磁束が時間とともに変化し、ファラデーの法則に従って起電力が誘導され、渦電流が発生します。

コイルの巻数と誘導起電力の比例関係

コイルの巻数Nは、誘導起電力の大きさを決定する重要な要素です。ファラデーの法則によれば、誘導起電力の大きさはコイルの巻数に比例します。これは、N巻きのコイルを1巻きに変形して考えると、1巻きのコイルに対してN本の磁力線が貫いている状態に等価であるためです。
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例えば、3巻きのコイルに1本の磁力線が貫いている状況を考えてみましょう。このコイルを1巻きに変形すると、1巻きのコイルに3本の磁力線が貫いている状態になります。電磁誘導の法則では、誘導起電力はコイルの巻数Nに比例しますが、それは1巻に戻した時にコイルを貫く磁力線の数がN倍になるからと考えることもできます。
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実際の変圧器では、この巻数比を利用して電圧を変換しています。一次コイルと二次コイルの巻数比を変えることで、一次側の電圧を二次側で昇圧または降圧することができます。この仕組みは、電力送電システムにおいて非常に重要な役割を果たしており、発電所で生成された電気を高電圧で送電し、家庭に届ける際に低電圧に変換する際に利用されています。

 

参考)変圧器回路を理解する: 変圧器回路の仕組みと数学的枠組み -…

コイルの巻数が多いほど、コイルと磁場の接触面積が大きくなり、磁気電圧も増加します。これにより、より大きな誘導起電力を得ることができるため、効率的なエネルギー変換が可能になります。

 

参考)自己誘導の基礎知識:インダクタンスとコイルの働き - Dad…

コイルの巻数と誘導起電力の関係を視覚的に理解できる実験動画が参考になります

鉱石と磁石における磁束の理解

磁石の起源は、自然界に存在する磁鉄鉱という鉱石に遡ります。磁鉄鉱は鉄鉱石の一種であり、落雷などの影響で着磁することで天然の磁石となります。古代ギリシャでは、金属の道具にくっ付いた鉱物が磁石の始まりだったと言われています。

 

参考)https://www.nipponsteel.com/company/publications/quarterly-nipponsteel/nipponsteel/pdf/2020_04-04_09.pdf

磁石は微粒子状の磁石一つひとつで形成されており、微粒子全てがN極とS極が同じ方向に向いていることで磁力を保ち続けます。磁石内部では、規則正しく並んだ粒子状の磁石のN極とS極が互いに打ち消し合っているため、磁石の両端にのみN極とS極が現れます。磁石を切断すると、新たにN極とS極が生まれて2つの磁石になるのも、この内部構造によるものです。

 

参考)磁石とは

現代では、ネオジム磁石などの希土類磁石が広く使用されています。ネオジム磁石は、ネオジムという希土類元素を主成分とする非常に強力な永久磁石です。純粋なネオジムの鉱石は存在しないため、原石となる鉱石を精製してから使用するケースが大半です。近年ではネオジムの需要が高まっているため、価格は上昇傾向にあります。

 

参考)磁石ナビ

鉱石から作られた磁石には、アルミニウムやニッケル、コバルトといった鉱石から作られたアルニコ磁石もあります。これらは20世紀半ば頃まで永久磁石の主流として使用されていました。磁鉄鉱のような天然の磁性鉱物は、地球の磁場や地質学的なプロセスによって形成され、地球表面の様々な環境に広く分布しています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4426601/

電磁誘導の実用応用と変圧器

電磁誘導の原理は、発電機、変圧器、電動機など、現代社会を支える多くの電気機器の基本となっています。発電機では、回転するコイルが磁場の中を通過することで電流が生成されます。水力発電所や火力発電所では、タービンを回転させることでコイルを磁場の中で動かし、電磁誘導により電気を発生させています。

変圧器は、電磁誘導を利用して電圧を変換する装置です。変圧器では、一次コイルに交流電流を流すと、時間とともに変化する磁場が生成されます。この磁場は鉄心を通過し、二次コイルに電圧を誘導します。一次コイルと二次コイルの巻数比を調整することで、電圧を昇圧または降圧することができます。

変圧器の鉄心は、磁場を集中させて方向付け、誘導プロセス中のエネルギー損失を減らす役割を果たしています。また、鉄心は積層構造のため渦電流損失を減らし、鉄心内の誘導電流を制限します。この効率的なエネルギー変換により、電力システムでは長距離送電の際に高電圧で送電し、家庭に届ける際に低電圧に変換することが可能になっています。

電動機は、電磁誘導の逆の原理を利用して、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換します。コイルに電流を流すことで磁場が発生し、その磁場と永久磁石または電磁石との相互作用によって回転力が生まれます。この原理は、家電製品や産業機械など、様々な場面で利用されています。

電磁誘導は、誘導加熱や非接触充電などの技術にも応用されています。誘導加熱では、高周波の交流磁場を金属に当てることで渦電流を発生させ、その渦電流による抵抗熱で金属を加熱します。非接触充電では、送電側のコイルに交流電流を流すことで磁場を発生させ、受電側のコイルに誘導起電力を生じさせて充電を行います。

 

電磁誘導の実用応用と変圧器の詳しい仕組みについて解説されています用応用と変圧器の詳しい仕組みについて解説されています

 

 


☆ ヴォイツェク ダントンの死 レンツ ビューヒナー 岩淵達治 岩波文庫