オーステナイトは、鉄鋼材料において高温で安定する相であり、面心立方格子(FCC)構造を持っています。この構造では、立方体の8つの角と6つの各面の中央に原子が配置され、合計14個の原子が存在します。面心立方格子の空間充填率は74%と高く、原子間の空隙が体心立方格子よりも大きいため、炭素などの原子が入り込みやすい特性があります。
参考)https://www.nipponsteel.com/company/publications/monthly-nsc/pdf/2005_12_154_13_16.pdf
オーステナイトは通常911℃以上の高温で形成され、この温度範囲でフェライトから相変態を起こします。炭素含有量が増加すると、オーステナイト領域の温度範囲が上下に広がり、熱力学的に安定化します。この面心立方格子構造により、オーステナイトは非磁性を示します。M殻のd軌道に存在する6個の電子が2個ずつ全てペアになっており、磁性を打ち消し合っているためです。
参考)オーステナイト - Wikipedia
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304やSUS316など)は、この構造を室温でも維持するためにニッケルを添加しています。これにより、高い延性、靱性、耐食性を兼ね備えた材料となり、化学処理機械や原子炉などの用途に広く使用されています。体心立方格子の原子充填率が68%であるのに対し、面心立方格子は74%と高いため、加熱時には体積が減少し、冷却時には体積が増加する特性があります。
参考)マルテンサイト系 vs.. オーステナイト系ステンレス鋼 –…
マルテンサイトは、オーステナイトを急冷することで形成される組織で、体心正方格子(BCT)構造を持ちます。通常のフェライトは体心立方格子ですが、マルテンサイトでは炭素が侵入しているため、結晶構造が縦長の体心正方格子に変化します。炭素量が多くなるほど、この結晶構造はより縦長になる傾向があります。
参考)マルテンサイトの結晶構造・TTT曲線:金属材料基礎講座(その…
この体心正方格子構造は、鉄鋼材料の組織の中で最も硬く脆い特性を持ちます。マルテンサイトの高硬度の理由は複数あります。まず、急冷によるせん断変形によって結晶構造が変化する無拡散変態であるため、一つのマルテンサイト晶の大きさは母相結晶粒よりも小さくなり、結晶粒微細化強化がもたらされます。さらに、マルテンサイト晶内には多くの転位などの格子欠陥が導入されるため、硬さが上昇します。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0110020020
マルテンサイト系ステンレス鋼は、鉄の結晶構造が体心立方格子(BCC)から体心正方格子(BCT)へ変化することで、硬度が高くなり、磁性を持つようになります。炭素原子がオーステナイトの格子内に閉じ込められ、拡散する時間がないため、結晶構造が歪んだマルテンサイトが形成され、この歪みによって高い硬度と強度が生じます。マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410、SUS420J2、SUS440Cなど)は、約1.2%の炭素を含み、クロムは11.5~18%含有しています。
参考)熱処理におけるマルテンサイトとは?
オーステナイトからマルテンサイトへの変態は、マルテンサイト変態と呼ばれる特殊な相変態プロセスです。この変態は拡散を伴わず、鋼内の炭素原子が不安定な位置に閉じ込められるため、非常に硬い組織が形成されます。高温のオーステナイト(面心立方格子構造)を冷却すると、通常はフェライト相(体心立方格子構造)に変態しようとしますが、拡散が十分に起きない速さで急冷すると、炭素が体心立方格子の一軸を引き伸ばし、そこへ炭素が侵入した準安定状態の結晶構造となります。
参考)マルテンサイト - Wikipedia
この変態プロセスの第一段階は、鋼材をオーステナイト化温度(約900℃~1000℃)まで加熱することです。この加熱により、鋼材の内部構造が変化し、オーステナイトが形成されます。次に、このオーステナイト状態から水、油、ガスなどの冷却媒体を用いて急速に冷却することで、マルテンサイトに変態します。
参考)熱処理におけるマルテンサイト変態とは?
新潟県工業技術総合研究所による焼入れの詳細なメカニズム解説
マルテンサイト変態では、結晶粒の大きさも重要な因子となります。細かい結晶粒は、マルテンサイトの強度と靭性を向上させますが、大きな結晶粒は脆性を高める可能性があります。また、急冷によって得られたマルテンサイト組織は脆さが増すため、適切な温度で再加熱(焼戻し)を行い、靭性を向上させる処理が一般的に行われます。
参考)http://www.iri.pref.niigata.jp/25new33.html
ステンレス鋼は、内部の結晶構造によってオーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系の3つに大別されます。オーステナイト系ステンレス鋼は、ニッケルを多く含むことで室温でもオーステナイト構造を保ち、磁石に付かず、靱性が高い特徴があります。代表的なSUS304やSUS316は、加工しやすく溶接もしやすいことから広く使用されています。
参考)ステンレス鋼のオーステナイト系とマルテンサイト系の違いは何で…
マルテンサイト系ステンレス鋼は、オーステナイト系に比べて炭素含有量が高く(約1.2%)、焼入れによってマルテンサイト組織に変換できるため高硬度を実現できます。炭素濃度が高いと硬度が増加する一方で耐食性が低下するため、マルテンサイト系ステンレス鋼はオーステナイト系鋼よりも腐食しやすく、硬度が高い特性を持ちます。磁石に付き、刃物のように非常に硬くできますが、その分靱性や耐食性はオーステナイト系ほど高くありません。
オーステナイト系ステンレス鋼の詳細な特性と用途
マルテンサイト系ステンレス鋼の特性と産業応用
耐食性に関しては、オーステナイト系が最も優れており、フェライト系が中程度、マルテンサイト系がやや劣ります。しかし、マルテンサイト系は大気中で加熱した場合の耐酸化性に優れ、500℃程度までの温度下でも強度があまり低下しないため、耐熱性も良好です。このため、刃物、工具、軸受、バルブなど、高硬度が要求される用途に広く使用されています。
参考)マルテンサイトとは?ステンレス鋼の種類と特徴についてご説明 …
なお、オーステナイト系は非磁性とされますが、加工によって一部マルテンサイト化(加工硬化)すると磁性を帯びることがあります。また、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れでは、全体的にマルテンサイト組織には変態せず、ある程度のオーステナイトが残留(残留オーステナイト)する点に注意が必要です。
参考)マルテンサイト系ステンレス鋼の基礎知識まとめ|金属加工総合メ…
結晶構造の違いは、単に材料の硬度や耐食性だけでなく、様々な物性に影響を及ぼします。オーステナイトの面心立方格子構造は、材料に高い延性(伸びやすさ)と靱性(強さ)をもたらすだけでなく、耐食性にも寄与します。一方、マルテンサイトの体心正方格子構造は、炭素が侵入することで格子が歪み、この歪みが高い硬度と強度を生み出します。
参考)オーステナイトとは?ステンレス鋼の種類と特徴についてご説明 …
近年の研究では、複相組織を利用した材料開発が進んでいます。例えば、フェライト-マルテンサイト複合組織鋼(Dual Phase鋼、DP鋼)は、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトを組み合わせることで、高強度と高延性を両立させています。自動車産業では、車体の軽量化と安全性向上のため、このような複合組織鋼の需要が高まっています。
参考)Dual-Phase鋼の引張特性に及ぼすマルテンサイト分率の…
表で見る結晶構造の比較:
| 項目 | オーステナイト | マルテンサイト |
|---|---|---|
| 結晶構造 | 面心立方格子(FCC) | 体心正方格子(BCT) |
| 空間充填率 | 74% | 変動(炭素量依存) |
| 磁性 | 非磁性 | 磁性あり |
| 硬度 | 中程度 | 非常に高い |
| 延性 | 高い | 低い(脆い) |
| 耐食性 | 優れる | やや劣る |
| 形成温度 |
911℃以上 |
急冷時に形成 |
また、チタン合金におけるα'マルテンサイトや、ニッケル-マンガン-ガリウム系合金における変調マルテンサイト構造など、鉄鋼以外の材料系でもマルテンサイト変態が研究されています。これらの材料では、形状記憶効果や磁場誘起ひずみなど、従来の鉄鋼材料とは異なる機能性が発現します。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/adfm.202307322
日本金属学会によるマルテンサイト変態の現象論的理論の詳細
結晶構造の理解は、材料の特性を予測し、用途に応じた最適な材料を選択するために不可欠です。オーステナイトとマルテンサイトの結晶構造の違いを理解することで、熱処理条件の最適化や新しい合金設計への応用が可能となり、より高性能な材料の開発につながっています。特に、ナノスケールでの組織制御技術の発展により、従来とは異なる特性を持つヘテロナノ組織などの新しい材料形態が実現されつつあります。
参考)冷間強圧延によりヘテロナノ組織を付与した二相ステンレス鋼の疲…

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