二クロム酸カリウムK2Cr2O7は代表的な酸化剤として知られており、硫酸酸性条件下で電子を受け取る還元反応を起こします。この反応を半反応式で表すと、Cr2O72−+14H++6e−→2Cr3++7H2Oとなります。半反応式とは、酸化還元反応において電子の授受を明示的に示した化学式のことで、酸化剤がどれだけの電子を受け取るか、還元剤がどれだけの電子を放出するかを定量的に理解できます。
参考)二クロム酸カリウムの半反応式の作り方
二クロム酸イオンCr2O72−では、クロム原子の酸化数が+6ですが、反応後のCr3+では+3になります。この酸化数の変化から、クロム原子1個あたり3個の電子を受け取り、2個のクロム原子では合計6個の電子を受け取ることが分かります。電子の授受を正確に追跡することで、酸化還元反応の量的関係を計算できるようになります。
参考)化学です。二クロム酸カリウムの半反応式の作り方を教えて下さい…
💡 ポイント
参考)⑥酸化還元反応:電子のやり取り
半反応式を作成する際は、体系的な5つのステップに従うことで確実に正しい式を導けます。STEP1では、酸化剤が「何から何になるのか」を書きます。二クロム酸カリウムの場合、Cr2O72−→Cr3+と記述します。この最初の変化は暗記が必要な部分であり、酸性条件下での反応形態として覚えておく必要があります。
STEP2では、両辺についてOとH以外の原子数を合わせます。左辺にクロム原子が2個あるため、右辺も2Cr3+とします。STEP3では、酸素原子の数をH2Oを用いて合わせます。左辺に酸素が7個あるため、右辺に7H2Oを加えてCr2O72−→2Cr3++7H2Oとします。youtube
STEP4では、水素原子の数をH+を用いて合わせます。右辺に水素が14個(7×2)あるため、左辺に14H+を加えてCr2O72−+14H+→2Cr3++7H2Oとします。STEP5では、両辺の電荷を電子e−を用いて合わせます。左辺の電荷は−2+14=+12、右辺は+6なので、左辺に6e−を加えて電荷を揃えます。
📋 作成手順まとめ
二クロム酸カリウムの特徴的な性質として、酸化還元反応に伴う顕著な色変化があります。二クロム酸イオンCr2O72−は赤橙色(オレンジ色)を示しますが、還元されてCr3+イオンになると緑色に変化します。この色変化は酸化還元反応の進行を視覚的に確認できる重要な指標となります。
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参考)二クロム酸カリウムの酸化還元の色の変化を教えてください - …
ただし、Cr3+イオンの色は反応条件や共存するイオンによって変化することがあります。通常は緑色を示しますが、水分子が6個配位した[Cr(H2O)6]3+の形態では紫色になることもあります。また、還元力の強いシュウ酸と反応させた場合には紫色を示し、塩化物イオンが共存すると青っぽい色になるなど、配位子の種類によって色調が変わります。
参考)やさしい基礎化学 : ニクロム酸カリウムと過酸化水素水の反応…
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実験的には、硫酸酸性条件下で二クロム酸カリウム水溶液に還元剤を加えると、赤橙色の溶液が徐々に緑色に変化していく様子が観察できます。この色変化は酸化還元滴定の終点判定にも利用され、特に過マンガン酸カリウムのように自己指示薬として機能する酸化剤と組み合わせることで、指示薬を用いずに滴定を行うことも可能です。
参考)https://toin.ac.jp/topics/wp-content/uploads/sites/2/2015/12/c031e0b4cff06381b810490fcb87d819.pdf
🎨 色変化の特徴
二クロム酸カリウムの半反応式は、酸化還元滴定において量的関係を計算する基礎となります。例えば、過マンガン酸カリウムとシュウ酸の反応では、それぞれの半反応式から電子数を揃えて全体の反応式を作成します。過マンガン酸イオンの半反応式MnO4−+8H++5e−→Mn2++4H2Oとシュウ酸の半反応式(COOH)2→2CO2+2H++2e−を組み合わせ、電子数の最小公倍数である10で揃えます。
参考)二クロム酸カリウム滴定のための窒素雰囲気下における定量的な鉄…
二クロム酸カリウムを用いた実際の分析では、鉄鉱石中の全鉄定量などの工業分析に応用されています。この方法では、試料を分解して得られた鉄(III)イオンをまず還元剤で鉄(II)イオンに還元し、その後二クロム酸カリウム標準溶液で滴定します。液電位の変化を追跡することで、反応の進行状況を正確に把握できます。
また、二クロム酸酸化法は土壌や肥料中の有機炭素量を測定する方法としても長年利用されてきました。試料中の有機物を二クロム酸カリウムの強い酸化力で酸化し、消費された二クロム酸の量から有機炭素量を算出します。ただし、二クロム酸カリウムは劇物指定されており環境毒性が強いため、現在では燃焼法などの代替手法への移行が進んでいます。
参考)http://www.famic.go.jp/ffis/fert/rrf/obj/rrf6-02.pdf
実験を行う際の注意点として、二クロム酸カリウムは必ず硫酸酸性条件下で使用します。これは、中性や塩基性条件では酸化力が大幅に低下し、Cr2O72−→CrO42−という異なる反応になってしまうためです。硫酸酸性にすることで、H+イオンが反応に関与し、強力な酸化剤としての性質を発揮できます。
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二クロム酸カリウム滴定における窒素雰囲気下での定量的な鉄分析法に関する詳細な研究論文で、液電位測定による反応追跡の実際が解説されています
⚠️ 実験上の注意
二クロム酸カリウムは過マンガン酸カリウムと並んで、高校化学で頻出する代表的な酸化剤です。両者の違いを理解することで、酸化還元反応の理解が深まります。過マンガン酸カリウムKMnO4の半反応式はMnO4−+8H++5e−→Mn2++4H2Oであり、5個の電子を受け取ります。一方、二クロム酸カリウムは6個の電子を受け取るため、等モル反応させる還元剤の量が異なります。
参考)詳説!!酸化剤、還元剤と半反応式をマスターしよう! - キミ…
還元剤としては、シュウ酸(COOH)2、金属単体、ヨウ化カリウム、硫化水素、二酸化硫黄などが試験で頻出します。シュウ酸の半反応式は(COOH)2→2CO2+2H++2e−であり、2個の電子を放出します。二クロム酸カリウムとシュウ酸を反応させる場合、電子数の最小公倍数6に合わせるため、二クロム酸イオン1個に対してシュウ酸3個が反応します。
参考)(大至急)過マンガン酸カリウムおよびシュウ酸の半反応式から、…
過マンガン酸カリウムは紫色から無色(厳密には淡いピンク色のMn2+)に変化するため、自己指示薬として利用できますが、二クロム酸カリウムは赤橙色から緑色への変化であり、終点判定がやや難しくなります。そのため、実際の滴定では別の指示薬や電位差測定を併用することが多くあります。
鉱石分析の観点では、二クロム酸カリウムの原料となる重クロム酸塩は、クロム鉄鉱を高温で炭酸ナトリウムと反応させて製造されます。このプロセスでは、鉱石中のクロム成分が酸化されてクロム酸ナトリウムとなり、さらに処理されて二クロム酸塩が得られます。このように、鉱石から酸化剤としての二クロム酸カリウムが製造される過程自体が、大規模な酸化還元反応の応用例となっています。
参考)https://www.nippon-chem.co.jp/dcms_media/other/cre2004-5.pdf
📊 酸化剤・還元剤の比較表
| 物質名 | 半反応式の電子数 | 色変化 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 二クロム酸カリウム | 6e⁻ | 赤橙→緑 | 強力な酸化剤 |
|
過マンガン酸カリウム |
5e⁻ | 紫→無色 | 自己指示薬 |
|
シュウ酸 |
2e⁻(放出) | - | 代表的還元剤 |
| 過酸化水素 | 2e⁻ | - | 酸化剤・還元剤両用 |