ニッケル水素電池は、正極にニッケル水酸化物、負極に水素吸蔵合金を使用した二次電池です。充電時には負極で水素が吸蔵され、放電時に吸蔵していた水素を放出する仕組みで動作します。エネルギー密度は比較的低く、同じ容量の電池を作る場合、リチウムイオン電池に比べて重く大きくなる傾向があります。電解液には水酸化カリウム(KOH)を主体とした水溶液を使用しており、有害物質を含まないため環境にやさしい特徴を持ちます。
参考)リチウムイオン電池とニッケル水素電池の違い
電圧は1セルあたり1.2ボルトと、リチウムイオン電池の3.6ボルトよりも低い値で動作します。ただし、高放電能力により一時的な大電力供給が可能で、瞬間的に高い電流を必要とする機器に適しています。また、単三や単四などの規格化された形状で提供されるため、互換性が高く、さまざまな機器で流用できる利点があります。
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リチウムイオン電池は、他の二次電池と比較して圧倒的に高いエネルギー密度を誇ります。ニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)正極を使用したリチウムイオン電池は、最大160Wh/kgのエネルギー密度を実現しており、これはニッケル水素電池の約2倍以上の値です。同じ体積や重量で比較した場合、より多くのエネルギーを蓄えることができるため、スマートフォン、ノートパソコン、電気自動車などの軽量・小型化が求められる機器に最適です。
参考)電池の種類がわからない方
正極にリチウム遷移金属酸化物、負極に黒鉛系炭素材料を使用し、電解質にはリチウム塩を含む有機溶媒を用いています。充放電時にはリチウムイオンが正極と負極の間を移動することで電気エネルギーを蓄えたり放出したりします。また、メモリー効果がないため、継ぎ足し充電が可能で、従来のニカド電池やニッケル水素電池のように放電機を必要としません。
充電サイクル寿命において、リチウムイオン電池は1,000回以上、特にリン酸鉄リチウム(LiFePO₄)では4,000回と長寿命を実現しています。一日一回の充放電を繰り返した場合、使用期間は10年以上に相当します。一方、ニッケル水素電池のサイクル回数は500~1,000回程度で、使用期間に換算すると1~3年となり、リチウムイオン電池よりも短くなります。
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ニッケル水素電池には「メモリー効果」という特性があり、まだ容量が残っている状態で継ぎ足し充電を繰り返すと、次の放電時に電圧が降下してしまう現象が発生します。この現象により、電池本来の性能を発揮できなくなる場合があります。ただし、最近のニッケル水素電池充電器には充電前に自動的に放電を行うリフレッシュ機能が備わっており、メモリー効果が起こりにくくなっています。
参考)メモリー効果とは?
製造コストの観点では、ニッケル水素電池が圧倒的に有利です。単三型のニッケル水素充電池は4本セットで2,000円少々で購入でき、秋葉原などでは一世代前の製品が1,000円程度で入手可能です。これに対して、リチウムイオン充電池は単体で4,000~5,000円と高額になります。
参考)https://allabout.co.jp/gm/gc/54407/2/
大容量蓄電池の導入コストを見ると、ニッケル水素電池は1kWhあたり10万円、リチウムイオン電池は1kWhあたり20万円と、リチウムイオン電池の方が2倍のコストがかかります。リチウムイオン電池の高コストは、高価なレアメタルを使用していることや、充電時の膨張を抑えるためにカーボンナノチューブなど高価な材料を利用していること、さらに安全性を確保するためのICコントローラーを搭載していることなどが要因です。
参考)蓄電池の導入コスト|蓄電池バンク
ただし、長期的な使用を考慮した場合、リチウムイオン電池は寿命が長いため、トータルコストでは優れる場合もあります。用途や使用期間、必要な性能を総合的に判断してコスト評価を行うことが重要です。
安全性の面では、ニッケル水素電池の方が優位に立ちます。ニッケル水素電池は過充電・過放電に強く、取り扱いが容易で、発火や爆発のリスクが低い特性を持っています。また、電池材料に有害物質を含んでおらず、環境にやさしい二次電池として評価されています。
参考)リチウムイオン電池の種類は?材料・形状の特徴と安全性・用途を…
一方、リチウムイオン電池は充電時に膨張する特性があり、適切な管理を行わないと発火や爆発の危険性があります。特に粗雑な製品ではICコントローラーなどの安全装置を搭載していないため、事故のリスクが高まります。高ニッケル含有量のリチウムイオン電池(Ni≥80%)では、熱暴走特性に関する課題があり、安全性向上のための電解質エンジニアリングが重要視されています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/advs.202305753
環境負荷の観点では、ニッケル水素電池は有害なカドミウムを使用しないため、ニカド電池に代わる環境配慮型の二次電池として普及しました。リチウムイオン電池は希少なリチウム、コバルト、ニッケルなどの鉱物資源を使用するため、資源の入手可能性や採掘時の環境影響が課題となっています。
参考)https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsmaterialsau.3c00049
ニッケル水素電池は、単三などの市販電池として、リモコン、おもちゃ、懐中電灯、時計、電動工具など身近な製品で広く使用されています。また、ハイレート放電性が良好なことから、瞬間的に大きな電力を必要とするハイブリッド車(HV)のエネルギー源としても採用されています。規格化された形状により、すでにニッケル水素充電池セットを持っているユーザーは複数の機器で流用できるメリットがあります。
参考)ニッケル水素電池とリチウムイオン電池の違いとは? - 金属・…
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度と軽量性を活かして、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽プレーヤー、ノートパソコン、電動アシスト自転車、電動工具、携帯ゲーム機など、幅広い電子機器に使用されています。特に電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)では、その高いエネルギー密度と急速充電性能が重視され、主流の蓄電池となっています。
参考)https://www.mdpi.com/1996-1073/5/8/2952/pdf?version=1426593986
選び方のポイントとしては、以下の基準が有効です。
低価格のデジタルカメラでは、製造コストを抑えるためにニッケル水素電池対応とし、アルカリ電池を同梱する方式が採用されることがあります。一方、コンパクトスタイルで軽量小型が求められる機器ではリチウムイオン電池を採用するという使い分けは、合理的な理由に基づいています。
鉱石に興味を持つ方にとって、二次電池の原料となる鉱物資源は魅力的なテーマです。ニッケル水素電池の主要材料であるニッケルは、カナダ、ロシア、オーストラリアなどで産出されるニッケル鉱石(硫化ニッケル鉱や酸化ニッケル鉱)から精錬されます。負極に使用される水素吸蔵合金には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ニッケル(Ni)などの希土類元素が含まれており、これらは中国やオーストラリアで産出されるモナザイトやバストネサイトといった希土類鉱石から得られます。
リチウムイオン電池の原料となるリチウムは、南米のリチウム三角地帯(チリ、アルゼンチン、ボリビア)の塩湖や、オーストラリアのリシア輝石(スポジュメン)鉱床から採掘されます。正極材料に使用されるコバルトは、コンゴ民主共和国が世界生産量の約70%を占めており、コバルト鉱石として産出されます。ニッケルは正極材料としても使用され、特に高ニッケル系リチウムイオン電池(Ni≥80%)では大量のニッケルが必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10848762/
これらの鉱物資源の入手可能性や価格変動は、電池のコストや供給に直接影響を与えます。リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなどは「クリティカル・エレメント(重要元素)」として認識されており、持続可能性の観点から課題となっています。ナトリウムイオン電池(SIB)など、これらの希少元素を使用しない代替技術の研究も進められています。
参考)http://arxiv.org/pdf/2411.10095.pdf
鉱物愛好家の視点では、電池技術の進化は鉱物資源の需要を大きく変化させており、従来は産業的価値が低かった鉱物が重要資源になるという興味深い現象が起きています。リチウムを含むペグマタイト鉱床や、希土類元素を含む鉱石の探査・開発が活発化しており、鉱物学の知識が新しいエネルギー社の知識が新しいエネルギー社会を支える基盤となっています。

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