波佐見町湯無田郷とは|波佐見焼産地の陶器歴史と窯元を巡る

長崎県波佐見町の湯無田郷は、波佐見焼の産地として栄えた地域です。歴史文化交流館や窯元が集まる陶器の町として、どのような特徴を持つのでしょうか?

波佐見町湯無田郷とは

この記事のポイント
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波佐見焼の中心地

湯無田郷は波佐見焼の窯元や工房が集まる陶器産地の中核エリアです

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歴史と文化の交流拠点

波佐見町歴史文化交流館で400年の陶磁器の歴史を学べます

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金鉱脈発見の歴史

明治時代には金山として栄え、町の発展に大きく寄与しました

湯無田郷(ゆむたごう)は、長崎県東彼杵郡波佐見町に位置する地域で、郵便番号は〒859-3702です。この地域は波佐見焼の産地として知られ、陶磁器の窯元や工房、ショップが点在する焼き物の中心地となっています。人口は約1,515人、世帯数は582世帯で、面積は約4.29平方キロメートルです。
参考)長崎県東彼杵郡波佐見町湯無田郷の住所一覧 - NAVITIM…

波佐見町全体が約400年の歴史を持つ波佐見焼の産地ですが、その中でも湯無田郷は陶磁器産業の重要な拠点であり、白山陶器の本社ショールームや藍染窯など有名な窯元が集まっています。また、2021年7月に開館した波佐見町歴史文化交流館(波佐見ミュージアム)が湯無田郷1010-1に位置し、波佐見焼の歴史と文化を学べる施設として町民と観光客の交流の場になっています。
参考)長崎県波佐見のおすすめスポット9選!焼き物とグルメをご紹介!

明治時代には、湯無田郷の山中で金鉱脈が発見され、波佐見金山として大いに栄えた歴史もあります。現在も陶器産地としての景観を残しながら、伝統工芸と現代の暮らしが調和した地域となっています。
参考)https://www.town.hasami.lg.jp/rekishi/kiji0031893/index.html

波佐見町湯無田郷の歴史と金山の繁栄

 

湯無田郷は、陶磁器産業だけでなく、金鉱山の歴史という意外な一面を持っています。1896年(明治29年)に山本作左衛門が湯無田郷の山中で金鉱脈を発見したことから、波佐見金山の歴史が始まりました。翌年から鹿児島の実業家・祁答院重義が試掘を開始し、1900年(明治33年)には精錬所が建設されました。
参考)波佐見鉱山 - 廃墟検索地図

最盛期には従業員が1,000人を超える一大産業となり、金16キログラム、銀13キログラムを採掘する成果を上げました。坑道は西側に朝日坑をはじめ5坑、東側に3坑など複数設けられ、鉱石は電車で精錬所(現在の白山陶器の場所)まで運ばれて金銀を取り出していました。電力供給のために川上水力発電所から送電線が引かれ、1907年(明治40年)には波佐見まで送電が開始され、電灯が灯りトロッコが走る近代的な鉱山となりました。
参考)波佐見金山跡 東彼杵郡波佐見町湯無田郷

波佐見町公式サイトの歴史ページでは、明治時代の金山開発が町の近代化に果たした役割について詳しく解説されています。
金山の繁栄は1910年(明治43年)に日本興業銀行が経営に乗り出し「波佐見鉱業株式会社」が設立された時期に頂点を迎えました。しかし、1914年(大正3年)に貧鉱となり突然閉山を迎えました。その後は三菱鉱業の手に移り、大東亜戦争中には大村空廠が疎開して坑道に地下工場を設けるなど、異なる用途で利用されました。現在も坑道跡の一部が残されており、湯無田郷の知られざる歴史を物語っています。
参考)『麦わら、波佐見金山を歩く👒』... - 長崎県波佐見町地域…

波佐見焼の産地としての湯無田郷の特徴

湯無田郷は波佐見焼の産地として、多くの窯元と工房が集積する地域です。波佐見焼は約400年の歴史を持つ陶磁器で、透けるような白磁の美しさと呉須(藍色)で絵付けされた「染付」の繊細な味わいが特徴です。江戸時代には「くらわんか碗」と呼ばれる庶民向けの日用食器を大量生産し、日本中に流通させました。
参考)甲州印伝

波佐見焼の製作は独特の分業体制で成り立っています。「型屋」が石膏型を作り、「生地屋」が成形を行い、「窯元」が絵付けや焼成を担当するという専門分化が進んでおり、各工程の職人が高度な技術を持つことで、波佐見焼全体の品質が向上しています。この分業体制により、良質な製品をお手頃価格で提供できることが波佐見焼の大きな魅力となっています。
参考)波佐見焼の特徴や歴史とは?有田焼との違い、オススメの窯元を徹…

湯無田郷にある代表的な窯元として、白山陶器の本社ショールーム(湯無田郷1334)があり、展示製品を特別割引で購入できます。また、藍染窯(湯無田郷1026-3)では波佐見焼の一連の製造工程を見学でき、絵付け体験も可能です。窯元のカフェ&ショップ「NO.1210」(湯無田郷1210)も人気の立ち寄りスポットとなっています。
参考){移住}移住前のリサーチに。お試し住宅で、波佐見の暮らしを体…

波佐見町観光協会の湯無田郷散策コースでは、陶芸の館をスタート地点に、歴史文化交流館や藍染窯などを巡るガイドツアーが案内されています。
波佐見焼の原料となる陶石は、もともと波佐見町の三股地区で発見された三股陶石が使われていましたが、現在は主に熊本県産の天草陶石が使用されています。天草陶石は白磁特有の透明感と強度を生む優れた原料で、1630年代に三股で陶石が発見されて以降、波佐見では本格的に磁器生産へと移行しました。
参考)【波佐見焼とは?】白磁と藍が織りなす用の美、長崎が誇る暮らし…

波佐見町歴史文化交流館で学ぶ陶磁器の歴史

2021年7月21日に開館した波佐見町歴史文化交流館(愛称:波佐見ミュージアム)は、湯無田郷1010-1に位置する歴史と文化の学びの場です。昭和47年(1972年)に建築された旧橋本萬次邸を改修した建物で、昭和の時代に波佐見焼の窯元として大いに栄えた旧橋本家住宅の家屋と広大な庭を活用しています。
参考)https://www.town.hasami.lg.jp/rekishi/kiji0031886/index.html

館内には常設展示室と特別展示室、交流スペースが設けられており、「波佐見はいつの時代も世界とつながっていた」をキーワードに、石器時代から現代に至るまでの波佐見の長い歴史と多彩な文化を学べます。波佐見焼の歴史資料はもちろん、町で出土した陶磁器や貴重な歴史的資料が分かりやすく展示されています。
参考)学びと交流の場所『波佐見ミュージアム』OPEN! href="https://hasamilife.com/blogs/blog/hasami-museum-open" target="_blank">https://hasamilife.com/blogs/blog/hasami-museum-openamp;ndas…

波佐見町歴史文化交流館の公式ページでは、施設の概要や展示内容について詳細な情報が提供されています。
開館時間は9:00~17:00(最終入館16:30)で、定休日は火曜日です。学芸員が常駐しており、学校教育や生涯学習の場としても活用されています。館内にはカフェや休憩室も設置され、広い芝生の庭があるため、町民にも観光客にも楽しめる交流拠点となっています。
参考)Hasami Life presents『みる・しる・つかう…

湯無田郷散策コースでは、陶芸の館をスタート地点に2階資料館で波佐見焼の歴史展示を見学した後、この歴史文化交流館や藍染窯などを巡ることができます。歴史文化交流館は照日観音とともに、湯無田郷の重要な文化施設として位置づけられています。
参考)湯無田郷散策コース

波佐見焼の白磁と染付技法の魅力

波佐見焼の最大の魅力は、白磁の上品さと藍色の染付が織りなす柔らかな表情にあります。白磁は陶石と呼ばれる岩石の粉を高温で焼き上げた磁器で、粘土で作る陶器に比べて丈夫で割れにくく、軽くて耐久性も高いという特徴があります。吸水性がほとんどないため汚れにくく、日常使いに最適な実用的な器として長年愛されてきました。
参考)【決定版】波佐見焼めぐりでおすすめの店15選!その魅力を知る…

染付は白磁に呉須(藍色の顔料)を使って絵付けする技法で、波佐見焼の代表的な装飾方法です。17世紀以降、中国の青花磁器の影響を受けて広く使われるようになり、焼成前に白磁に模様を描いた後、釉薬をかけて焼成すると藍色が鮮やかに発色します。透かし彫りや編目模様の優雅さは波佐見焼ならではのもので、庶民の器として誕生しながらも、長い歴史の中ですばらしい伝統美を培ってきました。
参考)波佐見焼(はさみやき)の特徴 や歴史- KOGEI JAPA…

波佐見焼は時代のニーズに応じて改良され続け、現在では日用和食器の出荷額全国3位を誇る窯業地となっています。伝統的な柄だけでなく、シンプルでモダンなデザインやカラフルな装飾が増えており、現代的なライフスタイルに合った製品が多く登場しています。最新技術も取り入れられ、CADを使ったデザインや3Dプリンターによる原型作成など、伝統技法と現代技術が融合した製品づくりが行われています。
参考)波佐見焼(はさみやき)とは?主な特徴や歴史・起源から製造工程…

波佐見町では給食用の食器として1987年に開発された「ワレニッカ食器」も有名で、通常の磁器の3倍の強度を持ち、児童たちが安心して使用できる食器として全国の学校や病院に出荷されています。このように波佐見焼は、江戸時代の「くらわんか碗」から現代のワレニッカ食器まで、常に時代に合った暮らしの器を提供し続けています。
参考)やきものの町、波佐見町で“うつわに出合う”旅 - OnTri…

湯無田郷周辺の観光スポットと窯元巡り

湯無田郷とその周辺には、波佐見焼を楽しめる様々な観光スポットがあります。食品サンプルの日本美術や古陶磁美術館緑青など、ユニークな美術館も点在しています。古陶磁美術館緑青では、江戸初期から始まった波佐見焼の歴史や、1630年代に三股地区で生産が開始された上質な青磁鉱の作品を鑑賞できます。
参考)https://www.jalan.net/kankou/tow_423230020/

窯元や工房では、実際の製作工程を見学できる施設も多くあります。藍染窯では波佐見焼の一連の製造工程をコンパクトに見学でき、絵付け体験と合わせて15分程度の工房見学が可能です(要予約)。白山陶器の本社ショールームでは、全展示製品を来館特別割引で購入でき、ブルームシリーズやねじり梅、重ね縞の器など、波佐見を代表する製品を手に取ることができます。
参考)https://tou-nou-hasami.com/program/476

<表>波佐見町湯無田郷の主な施設

施設名 住所 特徴
波佐見町歴史文化交流館 湯無田郷1010-1

波佐見焼400年の歴史を学べる博物館
参考)波佐見町歴史文化交流館(波佐見ミュージアム)

白山陶器本社ショールーム 湯無田郷1334 有名ブランドの製品を特別割引で購入可能​
藍染窯 湯無田郷1026-3 工房見学と絵付け体験ができる窯元​
NO.1210 湯無田郷1210

窯元が営むカフェ&ショップ
参考)ショップ紹介 - aizengama - 波佐見から広がる、…

波佐見町の中でも中尾山地区は「陶郷」とも称される陶磁器生産の中心地で、レンガ造りの煙突や素焼き状態の磁器が並ぶ、まさに焼き物の町といった風景が広がっています。世界最大級の登り窯である中尾上登窯跡(長さ約160メートル、窯室33室)は、1640年代から1920年代まで「くらわんか碗」や「コンプラ瓶」などの磁器を大量に生産していた歴史的遺構で、国の史跡に指定されています。
参考)https://otonayaki.com/blogs/contents/hasamiyakitour

波佐見焼の分業制は「もやい窯」とも呼ばれ、「皆で協力する」という意味を持ちます。型屋、生地屋、窯元がそれぞれの専門技術を持ち寄り、高品質な製品を効率的に生産する体制は、江戸時代から続く波佐見焼独自の生産システムです。湯無田郷を訪れれば、こうした伝統的な分業体制と最新技術が融合した現代の波佐見焼づくりの現場を体感できます。​