
平戸松山窯は、元和八年(1622年)に三川内長葉山に開窯した高麗媼を祖先とする、400年以上の歴史を持つ窯元です。三川内天満宮に祀られる高麗媼の流れを脈々と今に引き継ぎ、江戸時代以来、三川内焼を代表する唐子の器を作り続けてきました。
参考)平戸松山
三川内焼は、十六世紀末に当時の平戸藩主・松浦鎮信公が朝鮮の役の際に平戸に連れ帰った陶工達に焼き物を作らせたのが始まりとされます。そのため三川内焼は別名「平戸焼」とも呼ばれています。江戸時代には平戸藩の御用窯として、産地全体で幕府や朝廷への献上品を制作していました。
参考)三川内焼の歴史
平戸松山窯では、御用窯自体の伝統や技術を受け継いで、染付・白磁に拘り三川内焼を製作しています。藩よりの保護を受け時間や技術・材料を惜しまず完成度の高い焼き物を追求してきた伝統は、現在も窯元の作品づくりに息づいています。
参考)ホームページのタイトルを入れてください
平戸松山窯の作品の主流は「染付」です。染付とは、焼物の焼成前の生地に焼き上げると藍色に発色する「呉須(ごす)」を用いて絵を描く技法のことを指します。呉須はコバルトを主成分とした絵の具で、描く段階では灰色のような暗い色をしていますが、焼きあがると鮮やかな青になる不思議な染料です。
参考)平戸松山窯 三川内焼について
三川内焼の染付技術は、細い筆先で繊細に線描きし、その後「濃み(ダミ)」と呼ばれる技法で色の濃淡を表現していきます。濃みとは、細い筆先で描いた線に、たっぷりと呉須を含ませた太い筆でボカシを入れていく技法です。この技法により、青一色で人間の表情や草木の瑞々しさを表現できるため、細やかで熟練した描写技術が必要とされます。
窯の温度は約1300℃まで上げられ、「アゲテミ」と呼ばれるテストピースで呉須の発色を確かめます。濃いところと薄いところで濃淡をつけることで立体感や遠近感を表現する濃みの工程は、三川内焼の一つの特徴といえます。真っ白の磁器に一筆ずつ筆を使って描いていく様子は、まるで水墨画を描いているようだと評されています。
参考)「三川内焼」絵画のような白い磁器
「唐子絵」は、江戸時代に「献上唐子図」と言われ、藩の命により「七人唐子図」が献上品として描かれていました。この唐子絵は、三川内焼の絵付けでは産地の特徴的な図柄として現在でも代表的な図として残っています。
唐子とは、中国風の服装や髪型をした子どもの姿を描いたモチーフで、三川内焼の中で最も知られています。中国では多くの男児に恵まれることが幸福の象徴とされており、唐の時代(8世紀)から工芸意匠に描かれていました。三川内では、寛文年間(1661年ころ)に御用窯の絵師である田中与兵衛尚俊が、明の染付から着想し、唐子を考案しました。
参考)https://narrative-platform.com/blogs/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/%E4%B8%89%E5%B7%9D%E5%86%85%E7%84%BC-%E3%81%A8%E3%81%AF-%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%82%84%E9%AD%85%E5%8A%9B-%E7%AA%AF%E5%85%83%E3%82%84%E9%99%B6%E5%99%A8%E5%B8%82%E6%83%85%E5%A0%B1-1
唐子の人数は、1人、3人、5人、7人などの奇数が一般的で、それぞれに意味合いがありました。「七人唐子図」は朝廷や徳川幕府への献上品として描かれ、大名へは5人、一般の武士には3人の唐子を描いて贈られたと言われています。江戸時代後期から末期にかけては、口縁に「輪宝(りんぼう)」と呼ばれる連続した文様を配し、松と太湖石(たいこせき)、牡丹をセットにした様式が主流になりました。
参考)うつわのおはなし ~麗しの三川内焼 (後編)~|ひいな
平戸松山窯では、伝統的な「献上唐子」を描いてきた一方で、現代に受け入れられる「創作唐子」にも挑んできました。明治以降、絵師によって唐子は個性が加えられ、その表情や姿も大きく変化し、親しみやすく楽しい唐子像も描かれるようになりました。
松山窯の絵柄としては、唐子絵のほかに、祥瑞(しょんずい)文様、唐草文様等がありますが、「新しい伝統」も着実に育まれています。染付の最上とされる「祥瑞」柄を松山窯独特のコントラストの強い染付で仕上げたマグカップや珈琲碗皿などが代表的な作品です。
参考)平戸松山 | みかわち焼 三川内焼- 総合サイト
平戸松山窯は細工も得意とし、獅子や象、唐子など古典のモチーフを新たな視点で生き生きと蘇らせています。繊細な筆使いや濃み(ダミ)で、一つ一つ丹念に絵柄を描き、そうした作業の積み重ねにより、白磁に秀逸で上品な図柄を表します。
参考)Japan Pottery Net / 窯元プロフィール_平…
作品は「染付」が中心で、約400年の歴史を持つ平戸松山窯で、現代の三川内焼を表現しています。青一色で、唐子絵、唐草文様や瑞々しい草花を描き、平戸松浦藩御用窯の三川内焼を代表する伝統の染付で仕上げた作品が多数あります。工房から少し坂を上ったところに展示場があり、可愛らしい唐子絵が描かれた器をご覧いただけます。
参考)窯元・作家リスト - 平戸松山窯 〜 和食器通販・引き出物・…
平戸松山窯の作品は、オンラインショップや展示場で購入することができます。窯元店舗(展示場)は平日・土曜日に営業しており、長崎県佐世保市三川内町901に展示場があります。展示場の電話番号は0956-30-8657、工房の電話・FAXは0956-30-7734です。
参考)三川内焼窯元・平戸松山窯オフィシャル
取り扱い店舗としては、陶香堂、THE COVER NIPPON、ホテルオークラ・ハウステンボス、雲仙観光ホテルなどがあります。三川内焼オンラインショップでも平戸松山窯の作品を購入でき、豆皿、フリーカップ、マグカップなど様々な商品が揃っています。
参考)キーワードによる検索
平戸松山窯公式サイト
窯元の歴史や作品、染付技法について詳しく紹介されています
現代では、平戸松山窯に長男として生まれた中里彰志さんが、制作に取り組む傍ら、地元の友人たちとYouTubeチャンネルを運営し、三川内焼の魅力を動画で伝える活動も行っています。器の背景や制作過程を動画で発信することで、新しい世代にも三川内焼の魅力を伝えています。
参考)動画で伝える、器の背景 / 平戸松山窯 中里彰志さん
平戸松山窯では、長い年月をかけて受け継がれた技術を守り、さらに発展させていく取り組みを続けています。伝統的な技法を継承しながらも、現代のライフスタイルに合わせた作品づくりに挑戦し、三川内焼の新しい可能性を探求しています。
参考)繊細な絵付けと細工物で魅せる「平戸松山窯」。肥前磁器の可能性…
平戸松山窯の作品は、白磁に藍色の染付という伝統的な美しさと、400年以上の歴史に裏打ちされた確かな技術により、現代でも多くの人々に愛され続けています。献上品として培われた高い技術力と、新しい伝統を育む姿勢が、平戸松山窯の大きな魅力となっています。