倉敷市立自然史博物館の鉱物展示と岡山の石たち

倉敷市立自然史博物館では岡山県の鉱石や化石を通じて、地域の地史と産業との深い関わりを体感できます。備前焼や北木石、銅山の歴史など、鉱石に興味がある方にとって見逃せない展示が揃っていますが、実際に訪れる価値はあるのでしょうか?

倉敷市立自然史博物館の鉱物展示

倉敷市立自然史博物館の主な見どころ
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岡山県の鉱物・岩石展示

5億年前のヒスイや世界新種のアマテラス石など、県内産の貴重な鉱物標本を展示

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産業と石の関係

備前焼の粘土、北木石の花崗岩、吹屋のベンガラ原料など、日本遺産に関わる石を紹介

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化石と触れる体験

ナウマンゾウや恐竜の化石に実際に触れることができる体験型展示

倉敷市立自然史博物館の鉱物コレクションの特徴

倉敷市立自然史博物館は1983年11月3日に開館した、岡山県で唯一の生物・地学を総合的に扱う自然史博物館です。館内の第1展示室「岡山県のなりたち」では、主に化石や岩石、鉱物を展示しており、岡山県の地史や地形、倉敷市の地質と岩石を理解できる構成となっています。約102万点という中四国トップクラスの収蔵標本を誇り、その多くが実物標本である点が大きな魅力です。

 

参考)倉敷市立自然史博物館 - Wikipedia

2025年9月7日から11月9日まで開催されている第34回特別展「くらしを支えた岡山の石たち」では、県内の岩石や鉱物約130点を展示し、古来から石器・金属資源・陶磁器原料・建築資材として活用されてきた岡山の石を紹介しています。特に注目すべきは、日本遺産に深く関係した石の展示です。備前焼の粘土とそのもとの流紋岩、花崗岩石材の北木石、吹屋の磁硫鉄鉱と黄銅鉱など、地域の産業文化を支えた鉱石が一堂に会しています。

 

参考)鉱石130点 産業との関係解説 倉敷市自然史博物館で特別展:…

鉱物愛好家にとって特に興味深いのは、5億年前のヒスイや世界新種のアマテラス石といった珍しい鉱物の展示です。アマテラス石は2020年11月に新見市の山中で採取されたヒスイの中から発見された新鉱物で、2024年11月に国際鉱物学連合から承認を受けた貴重な標本です。このような地元産の貴重な鉱物を実際に観察できる機会は非常に限られています。

 

参考)Instagram

倉敷市立自然史博物館で学ぶ岡山の鉱山史

岡山県は古くから鉱山資源に恵まれた地域であり、倉敷市立自然史博物館ではその歴史を詳しく学ぶことができます。特に注目すべきは、倉敷市内にあった帯江銅山(おびえどうざん)に関する展示です。帯江銅山は明治から大正にかけて操業していた鉱山で、黄銅鉱や珪孔雀石を産出していました。

 

参考)自然史博物館 特別展|倉敷市公式ホームページ(生涯学習部 自…

帯江銅山は8世紀頃から採掘が始まったとされ、1919年に操業停止するまで長い歴史を持つ鉱山でした。三菱合資会社や藤田組などが経営に関わり、岡山市東区犬島の犬島精錬所は、この帯江銅山が産出する銅の精錬を目的として建設されたものです。博物館では2019年9月1日に「銅鉱石の顕微鏡観察」というイベントを開催し、倉敷市の帯江銅山の銅鉱石を詳しく観察する機会を提供しました。

 

参考)特別展「地球の元素」関連イベント「銅鉱石の顕微鏡観察」

また、岡山県北部の高梁市吹屋地区の銅山に関する展示も充実しています。吹屋の吉岡銅山は807年に開かれたとされ、戦国時代には有力大名が銅山の争奪戦を行うほど重要な資源でした。江戸時代から大正時代まで、吹屋は日本三大銅山と言われるほど黄銅鉱、硫化鉄鉱が採掘されていた銅産地として栄えました。博物館の特別展では、この吹屋の磁硫鉄鉱と黄銅鉱が日本遺産「ジャパンレッド発祥の地」に関わる重要な石として紹介されています。

 

参考)日本遺産ストーリー|「ジャパンレッド」発祥の地 高梁市 −弁…

鉱山から産出される鉱石はベンガラ(弁柄)の原料としても活用され、陶磁器や漆器への着色、建造物・船舶への防腐塗料として全国に広く流通していました。このような産業と鉱石の関わりを実物標本とともに学べる展示は、鉱物愛好家だけでなく産業史に興味がある方にも貴重な学習機会となっています。

倉敷市立自然史博物館の化石展示と体験コーナー

倉敷市立自然史博物館の大きな魅力の一つは、実際に触れることができる化石展示です。館内に入るとまず目に飛び込むのが、動くナウマンゾウの親子の復元模型で、これは「私たち親子です」というタイトルで展示されている博物館の顔とも言える存在です。多くの来館者がマンモスと勘違いするそうですが、正しくはナウマンゾウで、氷河期にはこの地域にも生息していたことが分かっています。

 

参考)リアルに動くナウマンゾウがお出迎え 家族で楽しめる「倉敷市立…

第1展示室では、地元の瀬戸内海から見つかったナウマンゾウの化石がずらりと並び、その中には実際に触れることができる化石も用意されています。恐竜の足の骨やナウマンゾウの大腿骨の化石に直接触れる体験は、子供から大人まで楽しめる貴重な機会です。化石の重さや質感を実際に感じることで、古代生物への理解が深まります。

 

参考)倉敷市立自然史博物館の見どころをチェック!生物や地学の好奇心…

館内には化石だけでなく、約60万点以上の昆虫標本、約32万点の植物標本、約11万点の動物標本も収蔵されており、総合的な自然史の学習が可能です。特に1階の水槽では岡山の水辺に生息する魚や水生昆虫が展示されており、中でも希少な日本固有種の淡水魚アユモドキを観察できる点が注目されています。このように、鉱物や化石だけでなく、現生生物まで幅広く展示されているため、自然史全体への興味を深めることができる施設となっています。

倉敷市立自然史博物館で見る日本遺産の石材

倉敷市立自然史博物館の特別展では、日本遺産に深く関係した岡山県の石材が重点的に展示されています。その中でも特に注目すべきは、備前焼、北木石、吹屋のベンガラという三つの代表的な石材文化です。

備前焼は日本六古窯の一つとして知られる伝統的な陶器で、岡山県備前市伊部地区を生産拠点としています。備前焼の特徴は、ヒヨセ粘土という地元産の特徴ある原料を使用し、無釉焼き締めの技法を伝承してきた点にあります。博物館では備前焼の粘土とそのもとの流紋岩を展示し、この地域特有の地質が伝統産業を育んできた過程を理解できます。主要な粘土産地は「下り松」「観音寺」「大内」「福田」「磯上」「香登」などの地区で、これらの場所で備前焼に欠かせない粘土原料が確保されています。

 

参考)備前焼とは|岡山観光WEB【公式】- 岡山県の観光・旅行情報…

北木石は岡山県笠岡市北木島で採掘される花崗岩石材で、白色を主とした中粒の黒雲母花崗岩です。「中目」「瀬戸白」「瀬戸赤」「サビ石」の4種類があり、現在は中目と瀬戸赤のみが採掘されています。北木石は断層により比較的大きな固まりとして形成されたため、結晶の分布が均一で色調が安定しており、節理が発達していることから長尺材が切り出せる点に定評があります。光沢と粘りを特徴とし、墓石、建築、歴史的建造物など幅広い分野で使用されてきた優れた石材として、日本遺産「知ってる!?悠久の時が流れる石の島」に関わる重要な資源です。

 

参考)北木島の石材

吹屋のベンガラは、銅山で産出される鉱石を原料とした赤褐色の顔料です。特別展では吹屋の磁硫鉄鉱と黄銅鉱が展示され、日本遺産「ジャパンレッド発祥の地-弁柄と銅の町・備中吹屋-」に関連した石として紹介されています。これらの鉱石を加熱や粉砕など様々な工程を経て赤い粉末状のベンガラが作られ、全国に広く流通していました。

倉敷市立自然史博物館のアクセスと観覧情報

倉敷市立自然史博物館は、倉敷美観地区から倉敷中央通りを隔てた西隣に位置し、倉敷市立図書館や倉敷市立美術館とともに建ち並んでいます。JR倉敷駅から南へ約800m、徒歩約15分の距離にあり、公共交通機関でのアクセスも良好です。JR岡山駅からJR倉敷駅までは山陽本線または伯備線で約18分、JR新倉敷駅からは山陽本線で約10分の所要時間です。路線バスを利用する場合は「大原美術館前」で下車するとすぐです。

 

参考)倉敷市立自然史博物館 ご利用案内|倉敷市公式ホームページ(生…

開館時間は9時から17時15分まで(最終入館は16時45分)で、休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始(12月28日〜1月4日)です。臨時休館日が設定される場合もあるため、訪問前に公式ホームページで確認することをお勧めします。

 

参考)倉敷市立自然史博物館

観覧料は非常にリーズナブルで、一般150円(団体100円)、大学生50円(団体30円)、高校生以下と65歳以上は無料です。なお、1階部分は見学無料となっており、動くナウマンゾウの親子や水槽の展示を無料で観覧できます。このコストパフォーマンスの高さも、博物館が地域住民に親しまれている理由の一つです。

 

参考)https://www.jalan.net/kankou/spt_33202cc3290031810/

博物館は3階建てで4つの常設展示室と1つの特別展示室があり、岡山県の動植物や世界の昆虫・化石・隕石といった展示品が充実しています。自然史に関する資料の管理・展示と教養文化の向上を目的とし、自治体などからの依頼により研究も行っています。現建物は1983年に開館してから40年以上が経過しており、建物の老朽化に伴って倉敷市福田町古新田にあるライフパーク倉敷敷地内への新築移転の方針が示されていますが、現在も変わらず多くの来館者を受け入れています。

関連イベントも充実しており、特別展期間中には「岡山で利用されてきた石」や「岡山の珍しい石」といったテーマのスライド解説が開催されます。過去には「金銀銅の自然史」(2016年)といった鉱物に特化した特別展も開催されており、鉱石に興味がある方は定期的に訪れる価値があります。

倉敷市立自然史博物館公式ホームページ
最新のイベント情報や開館状況、特別展の詳細については公式サイトで確認できます。館内の展示構成や収蔵資料の紹介、研究活動の成果なども掲載されています。

 

倉敷市立自然史博物館展示案内
常設展示の詳細情報が掲載されており、第1展示室から第4展示室までの構成を事前に確認できます。岡山県のなりたち、いきもの、昆虫の世界、植物の世界といった各展示室のテーマと主な展示物が紹介されています。