苦灰岩のでき方と石灰岩からの変化過程や分布

苦灰岩は石灰岩がマグネシウムを豊富に含む海水と反応して形成される炭酸塩岩です。現在の海底では見られないこの岩石は、どのようなメカニズムで生まれるのでしょうか?

苦灰岩のでき方

苦灰岩形成の3つの特徴
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石灰岩からの変化

石灰岩中のカルシウムがマグネシウムに置き換わることで苦灰石を形成

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苦灰石化作用

海水や地下水との反応により進行する化学変化プロセス

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地質時代に形成

先カンブリア時代から各地質時代にかけて広く生成された堆積岩

苦灰岩の基本的な形成プロセス

苦灰岩は、主に苦灰石(CaMg(CO₃)₂)という鉱物から構成される白色から暗灰色の堆積岩です。この岩石の形成は、元々石灰岩として堆積した炭酸カルシウム(CaCO₃)の方解石や霰石が、マグネシウムに富む間隙水との反応によって、カルシウムの一部がマグネシウムに置き換わることで進行します。この化学的な置換反応は「苦灰石化作用」または「ドロマイト化作用」と呼ばれ、苦灰岩形成の中心的なメカニズムです。

 

参考)苦灰岩(クカイガン)とは? 意味や使い方 - コトバンク

興味深いことに、現在の海底には苦灰岩が堆積している例がほとんどありません。これは苦灰岩が主に地質学的な時間スケールでの続成作用や変成作用を通じて形成されることを示しています。世界各地の各地質時代、特に先カンブリア時代の地層に多くの産出が知られています。

 

参考)https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11191210_02.pdf

苦灰石化作用が進行するためには、大量のマグネシウムイオンを供給できる環境が必要です。海水中にはマグネシウムが豊富に含まれているため、石灰質堆積物が海水と長期間接触することで、カルシウムとマグネシウムの置換が徐々に進行します。

 

参考)苦灰石とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

苦灰岩の形成に関わる海水とマグネシウムの役割

苦灰岩形成における海水の役割は極めて重要です。石灰堆積層のカルシウム成分が海水中でマグネシウム化されるプロセスは、海水組成や温度、圧力条件によって大きく影響を受けます。堆積中における石灰質堆積物と海水との反応、または堆積後の石灰岩と地下水あるいは熱水溶液との反応という2つの経路が考えられています。

 

参考)苦灰石と苦土石灰 - saitodev.co

マグネシウムに富む海水(MgSO₄に富む海水)が石灰岩と反応することで、大規模なドロマイト化が進行することが研究によって明らかになっています。特に汎世界的な海水準の低下時には、海水によるドロマイト化作用が活発に起こったことが、酸素同位体組成の分析から示されています。

 

参考)https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/01445987221083758

実験的研究では、180~250℃の温度条件下で、マグネシウムを含む溶液とアラゴナイト(炭酸カルシウムの準安定相)を反応させることで、ドロマイトが生成されることが確認されています。この温度範囲は、埋没続成作用の過程で達成される条件と一致しています。

 

参考)https://www2.jpgu.org/meeting/2004/pdf/k038/k038-p010.pdf

ドロマイト化作用の詳細なメカニズムと貯留岩性状への影響について

苦灰岩と石灰岩の違いと鉱物組成

苦灰岩と石灰岩は外見が似ていますが、化学組成と物理的性質において明確な違いがあります。石灰岩は主に方解石(CaCO₃)から構成されるのに対し、苦灰岩は苦灰石(CaMg(CO₃)₂)を主成分とします。

 

参考)https://planet-scope.info/rocks/dolostone.html

物理的性質の面では、苦灰石は石灰石よりも肌理が緻密で割れ方が比較的鋭く、少し硬いという特徴があります。モース硬度は苦灰石が3.5~4であるのに対し、方解石は3です。また、石灰石に希塩酸をかけると激しく二酸化炭素の泡を発生させますが、苦灰石にかけても泡はあまり発生せず、海水や雨水の浸食に比較的強い性質を示します。

 

参考)苦灰石 - Wikipedia

色調についても違いがあります。純粋な苦灰岩は白色や灰白色ですが、塩化鉄を含むと黄ばみ、酸化鉄を含むと赤味を帯びます。苦灰岩は石灰岩に伴って産することが多く、ときには石灰岩に移り変わることもあります。また、岩塩や石膏などの蒸発岩に伴うこともあります。

苦灰岩の日本における分布と地質時代

日本における苦灰岩の分布は、石灰岩の分布域と比べて極めて少なく、主な分布域は限られた地域に集中しています。北海道から沖縄まで石灰石と同じ場所に分布していますが、その量は石灰岩よりもはるかに少ないのが特徴です。

 

参考)https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/116-pdf/+116-p032.pdf

国内最大の産地は栃木県佐野市北東部に位置する葛生地区で、ここは国内最大のドロマイト鉱床を有しています。葛生地域では中部苦灰岩部層が挟在するほか、上部・下部石灰岩部層中にも苦灰岩レンズが含まれています。また、レンズ状のものとしては大分県津久見地方に知られており、層状またはレンズ状の形態で産出します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt1933/56/2/56_2_199/_pdf

日本国内の苦灰石産地は559ヶ所が文献に記載されており、古生代の地質体に伴われる苦灰岩という岩石として産出することが多いほか、蛇紋岩中に白色の脈状をなすものもあります。交代変質岩、変成岩、堆積岩に副成分や脈として広く含まれることも知られています。

 

参考)https://trekgeo.net/m/e/dolomite1.htm

苦灰岩の埋没続成作用と温度条件

埋没ドロマイト化作用は、堆積同時性や初期続成過程でのドロマイト化作用とは異なり、続成過程後期に起こる重要なプロセスです。この作用は1980年代から本格的に研究が進められ、深部埋没環境における石灰岩の変質メカニズムとして注目されています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/mukimate2000/13/323/13_323_245/_pdf

温度条件は苦灰岩形成において決定的な役割を果たします。実験研究によれば、180℃以上の温度でドロマイトが全ての条件下で生成されることが確認されています。このような温度は、堆積物が数百メートルから数千メートルの深度まで埋没することで達成されます。

地下深部では、圧力の増加とともにCO₂分圧も変化し、これが炭酸塩鉱物の溶解度と再結晶化に影響を与えます。マグネシウムを含む地下水や熱水溶液が石灰岩の割れ目や孔隙を通って循環することで、長期間にわたって苦灰石化が進行します。基盤の海底地殻(海底火山)に起因する熱対流は、長期間にわたって安定しているため、大規模なドロマイト化作用を進行させることが可能と考えられています。

ドロマイトの形成過程と温度・圧力条件の詳細な研究

苦灰岩の産業利用と資源価値

苦灰岩は多様な産業分野で重要な資源として利用されています。主な用途としては、セメント原料、ガラス原料、鉄鋼精製用の耐火材料があります。耐火性に優れた性質から、ドロマイトれんがやドロマイトクリンカーの製造にも使われます。

 

参考)ドロマイト - Wikipedia

農業分野では、ドロマイトを焼成して作られる「焼成ドロマイト(苦土石灰)」が土壌改良剤として広く利用されています。これは土壌の酸性を中和し、カルシウムおよびマグネシウムを植物に供給する目的で、園芸や農業における石灰資材として重要な役割を果たしています。

 

参考)http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral/miner/Mg.html

さらに先端産業においても、電子部品原料としての利用や、食品添加物(飲料、ふりかけ等)としてのカルシウム・マグネシウム強化の目的でも使用されています。金属マグネシウムの原料としても重要で、軽金属合金の主要な成分として航空機などの部品に広く使われています。砕石や肥料としての利用もあり、多面的な資源価値を持つ鉱物資源といえます。

苦灰岩の名称は、フランスの地質学者デオダ・ドゥ・ドロミュー(D. G. de Dolomieu, 1750-1801)にちなんで命名されました1801)にちなんで命名されました。