コンスタンティノープルは、330年にローマ皇帝コンスタンティヌス1世が古代都市ビザンティオンを大改造し、自らの名を冠して命名した都市です。ボスフォラス海峡に面し、東西交易路の要衝として1000年以上にわたり繁栄を続けました。
参考)コンスタンティノープル - Wikipedia
1453年、オスマン帝国のメフメト2世がこの難攻不落の都市を攻略し、ビザンツ帝国を滅ぼしました。征服後、都市は「イスタンブール」と呼ばれるようになりますが、この名称は「都市へ」を意味するギリシャ語「イス・ティン・ポリン」に由来していたとされています。オスマン朝の人々も当初は「コンスタンティヌスの町」と呼び続けており、イスタンブールという名称が広く定着したのは後のことでした。
参考)イスタンブル
この都市の改名は単なる名称変更ではなく、東ローマ帝国からオスマン帝国へという文明の大転換を象徴する出来事だったのです。征服によって中世に終止符が打たれ、新たな時代が幕を開けたと言えるでしょう。
参考)「ローマ」を滅ぼし、中世に終止符を打った天才、メフメト二世|…
ビザンツ帝国時代のコンスタンティノープルでは、独特の陶器文化が発展していました。鉄分の強い赤土を使い、線刻による模様を施し、その上から薄い銅釉を掛けて焼くというシンプルな技法が特徴でした。この様式はギリシャ陶器やローマ陶器とは異なり、中国陶器やイスラーム陶器の華やかさとも一線を画するプリミティブな美しさを持っていました。
参考)第55回 ビザンティン陶器(下編)
11世紀から13世紀のビザンティン陶器には、褐地に白色スリップウェアを用いた器なども存在し、赤色胎土に白色スリップで仕上げられたシャープな造形が特徴的でした。マルマラ海の沈没船遺跡から引き揚げられた陶器も多く、当時の海上交易の活発さを物語っています。
参考)ビザンチン古陶 褐地白色スリップウェアの器, ビザンツ帝国(…
ビザンツ帝国の陶器様式は周辺文化のどれとも似ておらず、独自の発展を遂げました。簡素な施釉陶で線刻模様という統一された様式には、ビザンティン文化独特の意味があったと考えられています。古代ギリシャや古代ローマを基礎とし、キリスト教やペルシャ、イスラムの影響を受けた独特のビザンティン文化の香りを感じられる貴重な遺産です。
オスマン帝国の中心となったイスタンブールのトプカプ宮殿には、世界に類を見ない10万点を超える中国陶磁のコレクションが存在します。これは世界最大規模であり、特A級のクオリティを誇るコレクションとして知られています。中国の青花磁器や青磁、タイのセラドン焼きなどが、単なる飾り物ではなく実際に宮廷の食卓で使用されていました。
参考)トプカプ宮殿の魅力:歴史ある磁器コレクション展示室を徹底解説…
宮廷の食器には、それぞれの料理名が書かれていることもありました。例えば高価だったチキンケバブ用の皿には、その名が記されており、磁器の形状によってジャム用、スープ用などと使い分けがなされていました。大皿で出されるものを取り分けるスタイルが定着しており、欧風の個別サーブとは異なる独自の食事様式が発展していました。
参考)トプカプ宮殿の台所と皇帝の華麗な食卓|イスタンブール|りの
19世紀後半になると、ハーレムの女性たちも磁器を購入し自分の名前を刻んで寄付するなど、その金額が莫大になったため、1894年にユルドゥズ宮殿の庭にポルセレン工場が作られ、イスタンブールで磁器が製造されるようになりました。裏にはマイセンの印を思わせるような刻印が押され、ヨーロッパの技術を取り入れながらも独自の発展を遂げていったのです。
外国からの客人にはフランス・スタイルのテーブルセッティングが施され、洋風とオスマン風の料理が出されるようになり、サラダ皿、ディナー皿、パン皿などが揃ったヨーロッパスタイルのセット食器が使われるようになりました。
トプカプ宮殿の台所と食器コレクション - トプカプ宮殿の台所設備と各国から集められた豪華な食器類の詳細が写真付きで紹介されています
イズニックは、トルコ北西部のイズニック湖のほとりにある歴史的な街で、陶器に最適な良質な粘土が産出されたことから、9世紀頃から陶器作りが行われていました。古くは東ローマ、ビザンツ、ルーム・セルジューク朝時代から陶芸が行われ、14世紀には陶芸の中心地となり、340もの窯元が存在したと言われています。
参考)https://ameblo.jp/jyorogumo-tr/entry-12639645279.html
15世紀初めに花開いたイズニックタイルは、当初は白地に青系の絵柄が主流でしたが、16世紀半ばにエメラルドの緑、珊瑚の赤と呼ばれた鮮やかな色を出せるようになりました。ぷっくりと浮き出る赤色の表現が特徴的で、今日「トルコらしい」と思われている色鮮やかなタイルが生み出されたのです。オスマン帝国の宮殿やモスクにも多用され、イスタンブールのトプカプ宮殿やリュステム・パシャ・モスクの壁面を華やかに彩りました。
しかし、数十年ほどで鮮やかな色合い、繊細な模様、美しい肌理は失われていきました。赤色を出す原料の枯渇、キュタフヤ陶器の台頭、帝国の衰退による注文の減少など複数の要因があったとされ、18世紀にはイズニックの陶器産業は完全に消えてしまいます。タイルの技法はイズニックから門外不出だったため、エメラルド緑や珊瑚赤の発色手法も失われたことが、ちょっとしたミステリーとなっています。
1980年代から土に埋もれた窯の発掘や技法の研究が盛んに行われ、今ではイズニックにタイル職人が集まり、16世紀のものにかなり近い発色が可能になり、イズニック・タイルは復活を果たしました。現在もイズニック博物館には、1388年に建てられたニリュフェル・ハトゥンのモスク付き救貧施設の建物を使用し、イズニック・タイルとその発掘調査に関する展示が行われています。
イズニック陶器の歴史と現代 - イズニックタイルの技法の変遷と、現代の職人による復興の詳細が記されています
オスマン帝国時代のイスタンブールでは、中国磁器が宮廷文化において特に重要な位置を占めていました。その美しい青と白のデザインが特徴であり、トプカプ宮殿の中国陶磁コレクションには明の嘉靖期以降の陶磁器がかなりの数量存在していることから、高級品としての陶器の需要が中国陶磁器に押されていった時期があったことが分かります。
参考)トプカプ宮殿の歴史と芸術:磁器コレクション展示室で感じるオス…
中国磁器の影響は、イズニック陶器のデザインにも見られます。イズニック陶器が最も華麗な作品を生み出した16世紀中頃は、宮廷の嗜好を反映するかのように、中国の青花磁器の意匠を取り入れながらも独自の発展を遂げました。
オスマン帝国期に最大版図に達したトルコ世界は、料理の黄金時代と呼ばれ、特にイスタンブル征服後はさらに多様化し、宮廷料理の名のもとに上流階級にも食べられるようになりました。トルコ料理が世界三大料理の一つとして特別視されるようになったのは、このオスマン帝国期の宮廷料理の発展が大きく寄与しています。
参考)トルコ料理を詳しく知ろう~歴史的な発展から~ href="https://www.gurumetoruko.com/2023/07/05/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B3%E6%96%99%E7%90%86%E3%82%92%E8%A9%B3%E3%81%97%E3%81%8F%E7%9F%A5%E3%82%8D%E3%81%86%EF%BC%81%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%99%BA%E5%B1%95%E3%81%8B%E3%82%89/" target="_blank">https://www.gurumetoruko.com/2023/07/05/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B3%E6%96%99%E7%90%86%E3%82%92%E8%A9%B3%E3%81%97%E3%81%8F%E7%9F%A5%E3%82%8D%E3%81%86%EF%BC%81%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%99%BA%E5%B1%95%E3%81%8B%E3%82%89/amp;#8211;…
食器の使い方も中国文化の影響を受けており、大皿で出されるものを取り分けるスタイルが定着していました。中国からの食器が多く、アラビア語が書かれた中国製の食器も存在するなど、東西文化の融合が食卓の上で実現していたのです。
イスタンブールのお土産どころといえば、グランドバザールは外せません。入場口だけでも11カ所、総面積3万㎡以上、4000軒以上に及ぶ商店がひしめく市場は、常ににぎわっています。このバザールは、オスマン帝国初代皇帝ファティ・スルタン・メフメット2世の命により、コンスタンティノープルを征服してすぐの1455年から1461年にアヤソフィアへの収入を得るために建設されました。
参考)グランド・バザール(カパルチャルシュ)|おすすめトルコ観光地…
グランドバザール内では、トルコならではの柄が美しいイズニック陶器とキュタフヤ陶器を購入できます。イズニック陶器は16世紀ごろのオスマン帝国時代の様式を再現したもので、ブルーを基調としているため料理が映え、エスニック料理の器としても使いやすいのが特徴です。
参考)イスタンブールおすすめお土産7選!実際に現地で購入したお土産…
キュタフヤ陶器も伝統的なトルコ陶器として愛され続けており、個性的な模様が大きな魅力です。模様は職人たちがひとつずつ細かく描き込んでおり、手作りの温もりが感じられます。色鮮やかな陶器、きらめくジュエリー、香り立つスパイスなど、まるで異世界に迷い込んだかのような光景が広がっています。
参考)出奔旅行記5(トルコ/イスタンブール編)(完)|AHZ
バザールでは、陶器だけでなく絨毯、布地、日用雑貨、お土産品など所狭しと並べられており、トルコ各地の名産品やスパイス、ドライフルーツなどの食品も豊富に取り揃えられています。一度訪れた店舗に再び戻るのも至難の業であるため、事前のリサーチと買うと決めたら買ってしまう思いっきりのよさが大切になってきます。
参考)トルコ最大のバザールへ!グランドバザール
イスタンブールのお土産ガイド - グランドバザールでの陶器購入のコツと、実際に購入したお土産の詳細レビューが掲載されています