岡山県笠岡市北木島は、瀬戸内海のほぼ中央に位置する周囲18キロの島です。笠岡港からフェリーで約50分の距離にあり、古くから「石の島」として知られてきました。島には複数の採石場があり、現在では全国でわずか2社しか採石を行っていない希少な石材となっています。
参考)北木石(岡山)
採掘方法は山を掘り下げる独特のスタイルで、現在の採石場の深さは70メートルを超えています。これはビルの17階建てに相当する深さで、採石場内の高低差は100メートル以上にも達します。より良質な石を求めて、現在では瀬戸内海の海面下40メートル以上の深さで採石作業を行っているという驚きの事実があります。この命がけの採掘作業によって、品質の高い北木石が私たちの手元に届けられているのです。
参考)北木石のお墓/岡山県産の日本の銘石
北木石は白色を基調とした石材で、かつては中目・瀬戸白・瀬戸赤・錆石の4種類に分類されていましたが、現在採掘されているのは主に中目と瀬戸赤の2種類です。特に中目は錆びや色落ちがなく、墓石として最も適した品質を持っています。
参考)北木石の種類
鶴田石材の北木石採掘の詳細情報
北木島での採石の歴史や丁場の様子を詳しく知ることができます。
北木石墓石の価格は、国産銘石として高級な部類に入ります。具体的な価格例を見ると、9寸日光型先祖墓で121万円(税込・標準施工費・文字彫刻費含む)、洋型墓石では通常価格217万8000円のものが特価で121万円といった事例があります。
参考)https://www.kondosekizaiten.com/lineup/%E5%8C%97%E6%9C%A8%E7%9F%B3
墓石の価格は石材の品質だけでなく、墓石の大きさ、デザイン、施工方法によっても変動します。国産石材は一般的に外国産より高価ですが、北木石は瀬戸内三大銘石の一つとして、その価値に見合った価格設定となっています。昭和中期から後期には石不足により品質の良くない荒石が出回った時期もありましたが、現在ではきちんとした場所で採掘された石材のみが使用されているため、安心して選ぶことができます。
参考)お見積り
価格を抑えたい場合でも、墓石の大きさを見直すことで予算に合わせた選択が可能です。小さくても心のこもった墓石であれば十分に価値があるという考え方も大切です。見積もりを依頼する際は、施工費や彫刻費が含まれているかを必ず確認しましょう。
北木石の歴史は非常に古く、口伝によれば天正11年(1583年)に豊臣秀吉が大阪城を築城した際にすでに使用されていたとされています。確実な記録としては、寛永6年(1629年)に徳川家光によって建てられた大阪城桜門に、北木島で採石された巨石「虎石」と「竜石」が用いられました。これらの巨石は大阪城の巨石ランキングで第10位と第11位にランクされるほどの大きさです。
参考)北木石 - Wikipedia
大正から昭和初期にかけても、北木石は数多くの著名な建造物に採用されました。1914年(大正3年)の三越日本橋本店、1920年(大正9年)の明治神宮神宮橋、1932年(昭和7年)の靖国神社石鳥居と燈籠、1934年(昭和9年)の明治生命館などがその代表例です。1919年12月には、明治神宮の造営にあたって北木島の石工・鶴田蓑輔に北木石使用の依頼書が届いたという記録も残っています。
文化遺産オンライン - 北木島の石工用具
北木石の採掘や加工に使用された歴史的な用具について詳しく知ることができます。
内陸の道路網が未整備だった時代、北木島は船を利用した海運によって納期を厳守し、全国各地だけでなく海外にまでその名を知られるようになりました。良質な大材(大きな石)が採れることも、北木石が広く普及した大きな理由の一つです。このように北木石は、日本の近代化とともに歩んできた石材といえるでしょう。
北木石の物理的特性は、墓石として非常に優れています。圧縮強度は147.00n/mm²、吸水率は0.320%という数値を示し、この低い吸水率により水分による劣化に強い特性を持っています。光沢と粘りを特徴とし、硬度も高いため、長年の風雨にも耐え抜く耐久性があります。
参考)日本銘石物語|日本銘石のご紹介
かつて昭和中期から後期にかけて石不足が発生した際、品質の良くない荒石が市場に出回ったことで「北木石は錆びる」「色落ちする」という誤った認識が広まった時期がありました。しかし現在では、良質な採石場所から採掘された石材のみが使用されているため、適切に採掘された北木石は錆びや色落ちの心配がありません。
墓石のメンテナンスとしては、定期的な清掃が基本となります。柔らかいブラシやスポンジを使用し、墓石の表面を傷つけないように注意しましょう。強い洗剤は石材を傷める可能性があるため、中性洗剤の使用が推奨されます。春から夏にかけての湿度の高い時期は、カビや苔が発生しやすいため、墓石対応の除去剤を使用することで簡単に除去できます。
参考)春から夏にかけて注意したい墓石の劣化ポイントと対処法
お参りのあとは軽く水拭きやブラッシングをするなど、こまめなお手入れを心がけることで、墓石の美しさを長く保つことができます。周囲の木の枝を剪定して日当たりと風通しを良くすることも、カビや苔の発生を抑える効果的な予防法です。
北木石は花崗岩の一種であり、その主な構成鉱物は石英、アルカリ長石、斜長石、黒雲母、普通角閃石です。これらの鉱物の組み合わせと比率が、北木石特有の白みが強い美しい外観を生み出しています。花崗岩は産地によって造岩鉱物の色や量比、岩石組織が異なるため、同じ花崗岩でも見た目や特性が大きく異なります。
参考)石の紹介|国産の御影石 北木石ってどんな石なの?産地や歴史に…
結晶の違いによって、建築用と墓石用に区分されており、墓石用として選別されたものは特に品質が高く安定しています。白系の色調は関西以西で特に好まれ、墓相を重視する方にも人気があります。大きな玉石が採れる特徴を活かし、大型の墓石だけでなく鳥居やオブジェなどにも使用されています。
参考)墓地霊園(京都)の紹介・墓石販売 (株)石俊 山本石材店 —…
興味深いことに、花崗岩はタングステン、銅、亜鉛、鉛、錫、モリブデン、金、銀などの金属鉱床の生成とも密接な関係があります。花崗岩のマグマが固まる際、微量に含まれていた金属成分が水分とともに分離して濃集するためです。北木石が持つ優れた強度や粘りは、こうした鉱物組成と地質学的な生成過程によって生まれた特性といえるでしょう。
参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/igneousrock/granite.html
北木島では採石作業に欠かせなかった石切唄という伝統文化も生まれ、現在に受け継がれています。採石によって生まれた丁場湖という独特の景観も、石と共存してきた島の歴史を物語っています。このように北木石は、単なる石材としてだけでなく、地質学的価値や文化的価値を持つ鉱石として、鉱石愛好家にとっても興鉱石として、鉱石愛好家にとっても興味深い存在なのです。
参考)お墓でつかう日本の石材は良いの?