希土類磁石の国内市場では、信越化学工業が約20%のシェアで首位に立ち、ネオマグが18%、住友金属鉱山が14%と続いています。これら日本企業は世界市場でも存在感を示しており、生産量の約50%強を占めると推定されています。ただし、中国メーカーのシェアが80%以上に達しており、日本メーカーのシェアは15%前後まで縮小しているのが実態です。
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日本の主要磁石メーカーとしては、信越化学工業、プロテリアル(旧日立金属)、TDKの3社が中心的役割を果たしています。これらの企業は、1982年に住友特殊金属の佐川眞人氏らが完成させた日本発の技術を継承し、高性能なネオジム焼結磁石の製造を手がけています。
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世界の永久磁石市場における生産量では、原材料が豊富に利用できる中国が約70%を占めており、多くのメーカーが中国に支店を持ち、研究開発にリソースを投資している状況です。
希土類磁石には主に2種類があり、それぞれ異なる特性と用途を持っています。
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ネオジム磁石(Nd-Fe-B)の特徴
ネオジム磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とし、現在利用可能な永久磁石材料の中で最も強力な磁気特性を持っています。最大エネルギー積が非常に高く、同じサイズでサマリウムコバルト磁石よりもはるかに強力な磁場を生成できます。コストパフォーマンスに優れ、大規模生産により多様な形状やサイズで入手しやすいのが利点です。
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サマリウムコバルト磁石(Sm-Co)の特徴
サマリウムとコバルトを主成分とする磁石で、ネオジム磁石に次ぐ高い磁力を持ちます。最大の特徴は優れた耐熱性で、約300℃(572°F)までの高温環境で磁力を維持できます。ネオジム磁石が80℃以下での使用が条件なのに対し、サマリウムコバルト磁石は250~350℃の高温でも減磁しにくく、腐食にも強いため、医療機器やセンサーの部品に最適です。
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両磁石の性能比較では、磁気強度ではネオジムが優位ですが、温度耐性と耐食性ではサマリウムコバルトが圧倒的に優れています。保磁力については両方とも高い値を示しますが、サマコバは強い反対磁場や高温にさらされた場合でもより安定しています。
ネオジム磁石の製造は粉末冶金法を採用しており、複数の工程で構成されています。具体的には、(1)合金を作る、(2)合金を粉砕する、(3)粉砕粉を磁場中で圧縮成形する、(4)焼結・熱処理を行う、(5)各種加工を行う、(6)表面処理を施す、(7)検査・着磁を行う、という流れになります。
参考)磁石ナビ
粒界拡散技術の重要性
希土類磁石の性能向上には、結晶粒の粒界に重希土類元素を含む相を生成させる粒界改質技術が用いられています。磁石材料の表面に重希土類元素を含有する希土類合金を接触させた状態で加熱を行い、段階的に組成の異なる改質材を用いることで、効率的に磁石性能を高めることができます。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2020136343A/ja
結晶粒界相の制御
希土類磁石の微細構造では、白色結晶粒界相と灰色結晶粒界相の面積比が重要な役割を果たします。最大磁気エネルギー積(BH)maxと固有保磁力Hcjの合計が75を超える超高性能磁石を得るには、灰色結晶粒界相の面積比を2~4%、白い結晶粒界相の割合を1~3%に制御する必要があります。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2022510035A/ja
耐熱性を高めるためには、ディスプロシウムやテルビウムなどの重希土類を添加しますが、これらの元素は鉱石に少量の割合でしか含有されていないため、使用量の削減が大きな技術課題となっています。
参考)https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/rare-earth-magnet_thefirstpart_0.pdf
希土類磁石は、自動車等の輸送機器をはじめ、産業機器、風力発電、電子・通信機器、家電等、非常に幅広い用途に用いられるモーターの性能を決定付ける基幹部材です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/magnet/magnet_hoshin.pdf
電気自動車(EV)市場への展開
EVやハイブリッド車のモーターには、高い磁力と軽量化を両立するネオジム磁石が重要な役割を果たしています。ディスプロシウムを添加することで、高温でも磁力を保つ特性が得られ、モーターが長時間回転しても性能が落ちない設計が可能になります。2023年に販売されたプラグインハイブリッド車の平均モーター出力は156kW、バッテリー電気自動車は179kWで、平均モーター出力は経年的に増加しており、ネオジム磁石の需要に寄与しています。
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風力発電と再生可能エネルギー
風力発電の大型タービンには、強力な希土類磁石が不可欠です。風の力を電気に変えるには、磁石の回転で発電を起こす必要があり、安定した磁力を持つレアアース磁石が活用されています。風力タービン市場では、今後数年間で年間約110GWのオン・オフショア発電能力が追加されると推定されており、永久磁石を主に採用する見込みです。
参考)https://www.mdpi.com/2075-163X/13/10/1274/pdf?version=1695976648
産業用途と医療機器
産業ロボットやMRI(磁気共鳴装置)などの医療機器にも、レアアース磁石が使われています。これらの装置が高精度で動くのも、磁力の安定したレアアースの特性のおかげです。消費者電子機器分野では、コンピュータ、CD、DVDハードドライブ、携帯電話など幅広い製品に使用され、NdFeB磁石需要の約30%を占めています。
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希土類磁石の価格は、レアアース元素の調達状況に大きく左右されます。直近ではネオジムやジスプロシウムなど磁石向け元素の指標価格が上昇基調にあり、中国の輸出管理強化や検査の厳格化がスポット市況を揺らしています。
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コスト構造の詳細
ネオジム磁石の原価は、原材料比率が高く、歩留まりと加工で上下します。特にNdおよびDyやTbの添加量、粉末冶金工程の歩留まり、焼結後の機械加工ロス、メッキなど表面処理が主要なコスト要因です。中国政府によるレアアース資源の輸出規制が強化されており、磁石部材の調達リードタイムが従来の2倍以上に伸び、納期が3~6か月かかるケースも発生しています。
参考)https://www.sanshin-kk.co.jp/news/2025_rareearth.htm
リサイクル技術の展開
希土類磁石のリサイクル方法は、(1)希土類製錬の上工程に原料として戻す「素材再生法」、(2)磁石合金の原料へ再生する「合金再生法」、(3)磁気材料としてそのまま利用する「磁石再生法」に大別されます。使用済み製品からのネオジム磁石リサイクルは、レアアース元素の安定確保と環境負荷低減の両面で重要なアプローチとなっています。
参考)https://www.mdpi.com/2227-9717/9/5/857/pdf
代替材料と技術開発
レアアース削減には、磁石の粒界に重希土類を少量集中させる「粒界拡散法」や、結晶構造を制御し重希土類を使わない磁石開発が進んでいます。鉄窒化物などレアアースフリー磁石の研究も活発化しており、粉末状の強磁性窒化鉄を樹脂で固めたボンド磁石として、既にネオジムボンド磁石と同等の性能を持つ小型モーターが開発・実証されています。重希土・ネオジムフリーレアアース磁石の第一候補となるSm-Fe系磁石に適した粉末製造及び固化・成形技術といった製造プロセスの開発も進められています。
参考)https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/02-10_20231020_meti_8.pdf
希土類磁石の製品一覧と主要メーカー情報はこちら
主要メーカーの製品仕様や価格帯を比較検討できるサイトです。
経済産業省:永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針
政府の永久磁石供給戦略と省レアアース磁石開発の方向性が詳しく記載されています。
世界の主なネオジム焼結磁石メーカーの動向
グローバル市場におけるメーカーシェアと生産体制の詳細な分析が掲載されています。