結晶化ガラスの最も代表的なデメリットは、透明性が低下する「失透」と呼ばれる現象です。ガラスは本来、分子構造が不規則な非晶質状態であるため透明性を保っていますが、結晶化によってガラス内部に規則正しい結晶構造が形成されると、その結晶の界面で光が反射・散乱してしまいます。結晶の析出が進むほど緻密な結晶構造となり、透視性は大きく損なわれていきます。
参考)https://u.muroran-it.ac.jp/hydrogen/lec/Ceram06PPT.pdf
この透明性の問題は、結晶化ガラスを光学用途や装飾建材として利用する際の大きな制約となります。透明度を保ちながら機能性結晶を析出させることは技術的に非常に困難であり、析出結晶のサイズ制御や屈折率の調整など高度な技術が必要です。実際に、結晶化ガラスは若干色味がかっていることが多く、限りなく透明な製品はハイエンドモデルとして高価格で提供されています。
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通常のガラスと比較して、結晶化ガラスは結晶の析出量が極端に多い場合、耐熱性や強度も低下する可能性があることが研究で示されています。透明性と機能性の両立は、結晶化ガラス開発における継続的な課題となっています。
参考)https://www.tus.ac.jp/about/information/publication/forum/file/forum_no436_08.pdf
結晶化ガラスは通常のガラスと比べて製造コストが高額になる点が大きな欠点です。建材用途の結晶化ガラスの価格は、一般的なホワイト系で@29,000円/㎡から、高級なブラック系で@43,000円/㎡、特殊な模様が入った製品では@118,000円/㎡から@180,000円/㎡にも達します。天然石材と比較しても、結晶化ガラスは高価格帯に位置する建材といえます。
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製造コストが高くなる理由は、結晶化プロセスの複雑性にあります。非晶質シリカガラスから結晶化する場合、数百℃から千℃以上の高温過熱が必要であり、さらに精密に温度や不純物を管理した環境でなければ透明性の高い結晶化ガラスを製造できません。このため、自動車の現場施工ガラスコーティングのような一般的な環境では結晶化ガラス被膜の形成は不可能とされています。
キッチン用の耐熱結晶化ガラス製品でも、通常のガラス製品より価格が高く設定されており、特に業務用厨房向けの高性能製品は最も高価な選択肢となっています。製造には長時間の熱処理と複雑な温度制御が求められるため、量産してもコスト削減には限界があるのが現状です。
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建材用途においても結晶化ガラスには複数の制約があります。まず、最低注文量の制約があり、小口案件(30㎡未満)では割増料金が発生するため、小規模な施工には向きません。また、曲面板を製作する場合は原則として最低20㎡以上の注文量が必要で、さらに金型費が別途発生します。
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建材としての結晶化ガラスは1970年代からオフィスビル、商業施設、駅舎、地下道の壁、丸柱の化粧材として使用されてきましたが、天然石材と比較すると自然な風合いに欠けるという意見もあります。天然の御影石や大理石は結晶化ガラス建材より自然な質感を持ち、特に和風建築や伝統的な空間デザインには天然石の方が好まれる傾向があります。
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さらに、結晶化ガラス建材は共用部に使用される場合、マンションの住民が個人的に変更することができません。例えば、リビングからの景色が網ガラス越しで見づらいと感じても、結晶化ガラスへの変更には管理組合の許可が必要となり、個人の意向だけでは対応できないという制約があります。メンテナンスに関しては、日常的には水拭きや乾拭き、汚れが気になる場合はガラス用中性洗剤で清掃できますが、特別な手入れが必要な場合もあります。
参考)よくある質問
結晶化ガラスは、鉱物学的な観点から見ると天然の鉱石や岩石と興味深い類似性を持っています。建材用結晶化ガラスは大理石や花崗岩などの天然石材を目標として開発されており、白色度や拡散反射率が高い特徴を持ちます。実際に、結晶化ガラスの特性は天然石材と比較され、曲げ強度が天然石の約3倍を示し、ビッカース硬度が高く傷がつきにくいという優位性があります。
参考)https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/40-pdf/+40-p040.pdf
天然石材である大理石や花崗岩は、機械的衝撃で生じたクラックの成長が結晶粒の界面で阻止される機能を持ちますが、結晶化ガラスも内部に析出した無数の結晶によって同様の効果を実現しています。例えば、建材用結晶化ガラスでは内部に析出したβ-ウォラストナイト結晶が光を反射し、白色度89と高い値を示します。
参考)https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/2008_03_03.pdf
鉱物学では、かんらん石組成のガラスなど宇宙に存在するガラスの研究も行われており、結晶と同じ組成のガラスでも短範囲のユニット構造が異なることが明らかになっています。結晶化ガラスの研究は、鉱物の結晶化メカニズムを理解する上でも重要な知見を提供しており、地球科学と材料科学の両分野にまたがる研究テーマとなっています。特に、フレスノイト組成のガラスと結晶の密度差が小さいことは、ガラスの中距離構造が結晶に近いことを示唆しています。
結晶化ガラスは優れた耐熱性を持つ一方で、製造過程での温度管理の難しさという欠点があります。通常のガラスは「急激な温度変化に弱い」という弱点を持っており、ガラスのコップに熱湯を注ぐと割れてしまうことはよく知られています。しかし、超耐熱結晶化ガラスは、ガラス内部に熱を加えると収縮する物質をちりばめることで、熱膨張を相殺し極めて割れにくい性質を実現しています。
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耐熱結晶化ガラスは約800℃の耐熱温度を持ち、熱膨張率がほぼゼロという優れた特性を示します。この特性により、電子レンジのターンテーブル、電磁調理器のトッププレート、ストーブの前面窓、グリルのバーナーカバーなど高温環境での用途に広く使用されています。研究データによれば、結晶化ガラスは1000℃まで縮むことなく伸び続け、原ガラスと比較して明らかに高い耐熱性を示すことが確認されています。
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一方で、極端な高温と極端な温度変化には依然として弱いという限界があります。火事の際に窓ガラスが割れるのはこの温度変化の脆弱性が原因であり、結晶化ガラスでも急激な温度変動には注意が必要です。また、ガラスは結晶構造を持たないため、表面の小傷から亀裂が際限なく広がってしまう性質があり、物理的な衝撃に対する配慮も求められます。
参考リンク(結晶化ガラスの耐熱性能と製造技術について)。
日本電気硝子(NEG)- 超耐熱結晶化ガラスの技術解説
参考リンク(建材用結晶化ガラスの特性データと天然石材との比較)。
日本セラミックス協会 - 建材用結晶化ガラスの - 建材用結晶化ガラスの詳細情報