カルコゲン(chalcogen)という名称は、ギリシャ語に由来する科学用語です。χαλκό(chalkos)はギリシャ語で「銅元素」を表す語で、γενν(genno)は「造る」を意味します。この二つの語が組み合わさって「銅の鉱石を造る」という意味を持つようになりました。
参考)カルコゲンとは? 意味や使い方 - コトバンク
銅の主要鉱石が硫化物、たとえば黄銅鉱(chalcopyrite)CuFeS₂であることから、もともとは「銅の鉱石を造る」の意味であったものが拡張されて、これらの元素を造鉱物元素というようになったのです。黄銅鉱は銅と鉄と硫黄からなる鉱物で、産出量が多く、重要な銅鉱石として知られています。
参考)三重県総合博物館href="https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/82996046683.htm" target="_blank">https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/82996046683.htmamp;nbsp;黄銅鉱 Chalcopyrite
別の文献では、カルコゲンという名前はギリシャ語で「鉱物を生じるもの」という意味があるとも説明されており、鉱石形成に関与するこれらの元素の特性に由来しています。また、「石を作るもの」という意味のギリシャ語から命名されたとする解説もあります。
カルコゲンは周期表第16族に属する元素群の総称で、酸素O、硫黄S、セレンSe、テルルTe、ポロニウムPo、リバモリウムLvの6元素を含みます。これらは酸素族元素とも呼ばれます。
参考)「カルコゲン」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio…
各元素には固有の特徴があり、性質には大きな違いがあります。酸素は他の元素と性質がかなり異なるため、カルコゲンに含めない場合もあります。ポロニウムは放射性元素で天然における存在量が少なく、ウラン・トリウムの鉱石中に放射壊変生成物としてごく微量存在するに過ぎません。
参考)http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral/miner/zoku16.htm
特に硫黄、セレン、テルルの3元素は性質が似ており、金属元素と化合物を形成し種々の鉱石の主成分となっています。この3元素をさして親銅元素ということもあり、硫黄族元素と呼ぶ場合もあります。
カルコゲン元素は金属元素と化合して多くの特徴的な鉱石を作ります。硫黄は地殻では硫酸塩鉱物や硫化物として存在し、セレンはセレン化物、テルルは単体やテルル化物などとして、金・銀・銅・鉛・亜鉛の鉱床に存在します。
多くの金属鉱石はカルコゲン化物として存在します。カルコゲン化物とは、少なくとも1つのカルコゲン化物アニオンと少なくとも1つ以上の陽性元素からなる化合物です。カルコゲン化物という用語は、酸化物ではなく、硫化物、セレン化物、テルル化物、ポロニウム化物を指すのが一般的です。
参考)カルコゲン化物とは - わかりやすく解説 Weblio辞書
黄銅鉱は世界で採掘されている銅鉱石の最も主要な銅鉱物であり、化学式CuFeS₂で表される硫化物で、これから単体の銅を精錬します。三重県南部の熊野市紀和町にあった紀州鉱山では、黄銅鉱、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、磁硫鉄鉱などが主な鉱石鉱物として採掘されていました。
参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/mineral44/epx-mineral/henkouhanshakenbikyou-koumoku/oreminerals/chalcopyrite.htm
三重県総合博物館の黄銅鉱の解説ページ
紀州鉱山の歴史や黄銅鉱の特徴について詳しく説明されています。
カルコゲン元素は非常に多様な化学的特性を持ち、酸素のように電子受容体として作用したり、硫黄のように幅広い化合物を形成する性質を持ちます。これらの元素は共通して、外殻に6つの電子を持ち、様々な酸化状態を取ることができます。
ハロゲンに次ぐ陰性元素ですが、ハロゲンと同様に原子量の増加とともに陰性が著しく弱まります。単体の性質は、無色気体の酸素→黄色固体の硫黄→硫黄に似た赤色型とやや金属的な灰色型のあるセレン→灰色型セレンに似た銀灰色のテルル→銀白色金属性のポロニウムと変化します。
酸素と硫黄の物性の違いは大きいですが、硫黄とセレンの物性の違いは酸素と硫黄の差と比べると小さく、両者ともにd軌道を利用することができるため、セレンも幅広い酸化状態をとることができます。テルルでわずかに金属性を帯びはじめ、ポロニウムが金属性であることを除けば、一般にカルコゲンは非金属元素です。
参考)https://nitech.repo.nii.ac.jp/record/2997/files/ko0835.pdf
カルコゲン化合物は工業的に重要な役割を果たしており、多くの製品に使用されています。金属ジカルコゲン化物MoS₂(二硫化モリブデン)は一般的な固体潤滑剤として広く使用されています。
参考)カルコゲン化物 - Wikipedia
一部の顔料や触媒もカルコゲン化物をベースとしており、硫化カドミウムは黄色の顔料として使用されます。光伝導性のカルコゲン化物ガラスはゼログラフィーやテレビに用いられ、シドニー大学によって開発された受光素子としてカルコゲン化物を用いる光学処理チップが、光ファイバー網とコンピュータの間の接続を高速化できる可能性があります。
カルコゲン化物ガラスは、光伝導性、イオン伝導性、高速の非晶質-結晶相変化などの光誘起現象といった、同じ16族の酸化物ガラスでは見られない特性を持っています。遷移金属カルコゲン化物(TMC)は、金属元素の一種である「遷移金属」と「カルコゲン元素」の化合物で、ナノスケールで特異な物性を示す材料として注目されています。
参考)https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/35-03-kaisetsu5.pdf
また、遷移金属カルコゲン化物ナノ構造は、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、フレキシブルスーパーキャパシタなどの次世代エネルギー貯蔵デバイスのユニークな材料プラットフォームを提供します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10187023/
カルコゲン原子を含む複素環化合物の合成と反応
カルコゲン元素の化学的性質や反応性について専門的な解説が掲載されています。
カルコゲン元素、特に硫黄やセレンは生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしています。硫黄は生体内の酸化還元バランス、すなわちレドックス制御において重要な役割を果たし、超硫黄分子は活性酸素種を消去しつつジスルフィド結合の形成を促進します。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
セレン含有タンパク質であるチオレドキシンは、セレノール(セレン化水素の誘導体)を含み、超硫黄分子と化学的に似た性質を示しますが、両者の反応には明確な違いが存在します。セレン残基は自身の酸化によって親電子物質の結合を解除する一方、超硫黄分子が付加したシステイン残基は、ジスルフィドの還元による切り離しで親電子物質の結合を解除します。
興味深いことに、硫黄、セレン、テルルの水素化物は特徴的な臭いを持ちます。硫化水素(H₂S)は「腐った卵」のような臭いで知られますが、セレン化水素(H₂Se)やテルル化水素(H₂Te)は硫化水素以上にきつい臭いがします。臭いの強さは、テルル化水素>セレン化水素>硫化水素の順になります。
参考)硫黄とセレンとテルル|Gelate(ジェレイト)
カルコゲン元素は酵素の活性中心や抗酸化防御機構に関与しており、生命維持に不可欠な元素として機能しています。硫黄は地殻では硫酸塩鉱物や硫化物として存在するだけでなく、火山ガスにも含まれています。