関東ローム層は関東地方の台地や丘陵に広く分布する火山灰質粘性土で、赤褐色の特徴的な色をしています。この土壌は約1万年前から40万年前にかけて、箱根、古富士、赤城、榛名、浅間などの火山から噴出した火山灰が厚く堆積して粘土化したものです。関東ローム層の最大の特徴は、アロフェンと呼ばれる粘土鉱物によりリン酸固定力がきわめて強いことで、農業を行うにはリン酸質の肥料を多く施用しなければ、まともな作物の生産は望めませんでした。
参考)【関東ローム層とは】特徴をわかりやすく解説!!範囲や水はけ・…
関東ローム層は火山灰質粘性土であり、含水比が高く、かつ透水性も高いという特徴を持っています。一般的に粘性土は含水比が高く透水性が低いとされますが、関東ロームは適度に砂がまじることで、保水性も透水性もあるという矛盾する土壌性質を持っています。この特殊な性質により、水はけが良く作物の根が呼吸しやすい環境が整うため、畑作には適していると言われています。
参考)ロームとは?関東ロームの特徴 - 東京コンテック株式会社
南関東地方の関東ローム層は形成年代により、古い順に多摩ローム層(約13万年前~40万年前)、下末吉ローム層(約6万年前~13万年前)、武蔵野ローム層(約3万年前~6万年前)、立川ローム層(約1万年前~3万年前)に区分されています。これらの層は、箱根火山や富士山などの火山活動によって噴出した火山灰が堆積、風化してできたもので、各層には特徴的な軽石層やスコリア層が含まれています。
参考)関東ローム層
長い期間をかけて堆積した関東ローム層は、数万年単位の時間により強固な結合を持つ地盤となりました。自然の形では強固な地盤ですが、一度崩すと脆くなってしまうという性質も持っています。火山灰の降り積もった土地のため、土地自体に植物の生育に必要な栄養分が少なく、また台地や高台が多いこともあって農業用水の確保も難しいため、特に稲作は厳しい環境でした。
参考)関東ローム層|江戸っ子
関東ローム層の最大の農業上の課題は、リン酸固定力が極めて強いことです。アロフェンと呼ばれる粘土鉱物が多く含まれているため、作物の成長に必要なリン酸が土壌に固定されてしまい、植物が利用できない状態になります。この問題を解決するため、江戸時代から土壌改良の試みが続けられてきました。
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/101/mgzn10108.html
リン酸固定を防ぐ主な方法として、石灰資材の投入があります。消石灰や苦土石灰などの石灰資材を施用することで、土壌のpHをアルカリ性へ傾け、リン酸と結びつきやすい鉄やアルミニウムの溶出を防止し、不可給態リン酸の増加を防ぐことができます。また、水溶性のリン酸は土壌で活性化した鉄やアルミニウムと結合しやすいため、黒ボク土のようにリン酸固定の力が強い土壌では、植物の根から分泌される酸によりゆっくりと溶け出すく溶性のリン酸を施用すると固定化が起こりにくいとされています。
参考)黒ボク土の特徴とは?農業利用のポイントを解説 | コラム |…
高度経済成長期以降、リン酸肥料を主体とした土壌改良技術が確立され、黒ボク土の分布する地域でほとんどの農作物が栽培できるようになりました。土壌改良では、土地のリン酸固定力以上のリン酸を投入する必要があり、これにより関東地方の農業は大きく転換しました。過燐酸石灰液を用いた地盤強化の試験も行われ、地盤強度が3.5倍になるなどの成果も報告されています。
参考)https://www.juhinkyo.jp/wp-content/uploads/2013/12/4f3714caea8e477bd8b99f2f252a377d.pdf
農研機構による関東ローム層のリン酸固定に関する詳細な研究報告
関東ローム層は稲作には不向きですが、畑作には適した特性を持っています。ロームでありながら適度に砂がまじり、保水性も透水性もあるという特殊な土壌性質により、野菜栽培に向いています。土としては柔らかくてホクホクしているため、耕しやすいという利点もあります。
参考)教室博日記:黒ボク土−火山灰に由来する土
現在、関東ローム層の分布地域では多様な作物が栽培されています。栃木のいちご、千葉のらっきょう、群馬のキャベツなどは特に有名で、これらの地域の特産品となっています。また、リン吸収能力の高い作物の栽培として、深大寺の名産となったソバや、ダイコンなどのアブラナ科の作物栽培が注目されています。
参考)将軍綱吉の火山性不毛地帯「関東ローム層」との闘い:練馬大根の…
江戸時代には、関東ローム層での農業が大きな課題でした。徳川家康が江戸に来たことにより関東地域が開拓されましたが、この土壌は稲作には向いていませんでした。享保の飢饉の際、荒れ地でも耕作できるサツマイモを栽培し命をつないだ薩摩藩の事例を知った江戸の農学者青木昆陽が、関東の土壌でも採れるサツマイモを研究し、関東各地に種芋の栽培を奨励しました。
農林水産省による関東地方の自然と農業に関する情報
長い時間が経つと植物が生えて腐葉土となり、徐々に栄養豊かな土地になっていきます。武蔵野地域では、約400年近くにわたり雑木林の落葉を腐葉土にして土壌改良に使うことで、現在のような肥沃な黒ボク土の土壌となってきました。このような伝統的な土壌管理により、関東ローム層は農業に適した土壌へと改良されてきたのです。
参考)落葉堆肥農法 href="https://tomizawa-farm.tokyo/archives/1139" target="_blank">https://tomizawa-farm.tokyo/archives/1139amp;#8211; 冨澤ファーム
🔬 土壌の鉱物組成
関東ローム層を鉱物学的に見ると、非常に興味深い特徴があります。火山灰土壌には様々な火山性鉱物が含まれており、これらの鉱物が土壌の性質を決定しています。黄褐色や白色に見える地層は、主に西側の箱根火山の爆発的噴火によって空から降ってきた火山灰や火山礫が堆積したものです。
参考)関東ローム層|くずはの広場
🪨 軽石層と鉱物採集
関東ローム層には特徴的な軽石層が含まれています。鹿沼軽石層は約3万年前に赤城火山から吹き上げられ西風に運ばれたもので、1-2m大の軽石層を主とする降下堆積物で、特有の黄白色を呈しています。火山灰中の鉱物を観察するためには、標本を採取して洗浄を行うことで、泥に隠れていた鉱物の粒を観察することができます。
参考)https://www.sagami-portal.com/city/scmblog/archives/26964
⚡ 化学処理による安定化技術
関東ローム層の地盤強化には、化学安定剤を用いる方法も研究されてきました。過燐酸石灰液を自然流下させることで、ロームの地盤強度が3.5倍になる層ができることが確認されています。また、石灰と硫酸を使用して地中に石膏を形成させる方法や、塩酸と塩化第一鉄による固結法なども試験されており、土壌改良技術は多様な化学的アプローチで研究されています。
参考)https://www.gsj.jp/data/bull-gsj/23-01_07.pdf
| 土壌改良方法 | 使用材料 | 効果 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 石灰資材投入 | 消石灰、苦土石灰 | pH調整、リン酸固定防止 | 最も一般的な方法 |
| く溶性リン酸施用 | く溶性リン酸肥料 | 固定化が起こりにくい | ゆっくり溶け出す性質 |
| 過燐酸石灰法 | 過燐酸石灰液 | 地盤強度3.5倍 | 地盤強化に有効 |
| 腐葉土投入 | 落葉堆肥 | 有機物増加、栄養改善 | 伝統的な方法 |
🌿 園芸用土としての利用
関東ローム層は園芸用の赤玉土として広く利用されています。赤玉土は関東ローム層の土壌を乾燥させて粒状にしたもので、約35万年前からの火山灰が風化してできた土壌です。鉱石や鉱物に興味がある方にとって、関東ローム層は身近な火山灰土壌として、その形成過程や含まれる鉱物を観察できる貴重な地質資源と言えます。
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関東ローム層は地質学的に非常に価値のある地層です。約13万年~12万年前以降に堆積した関東ローム層は、火山灰や軽石、スコリアなどの火山噴出物に由来する細かい粒子をもととしています。河岸の崖などでは、粘土質の茶色い地層とそれに挟まる黄褐色や白色の地層がいくつも積み重なっている様子を観察できます。
河岸段丘の表層は火山灰(関東ローム層)で被われていることが多く、段丘面の表層に見られる火山灰層の上部の黒い部分が黒ボク土となっています。噴火から長い時間がたつと、イネ科草本を主体とする植物遺体が分解してできた腐植が厚く溜まり、やわらかくて黒みが強い土ができます。この黒ボク土は日本の国土の1/6を占めると言われており、土壌改良技術の発達により農業の大きな転換点となりました。
関東ローム層は流れる水の影響を受けない陸上で堆積したものです。川沿いに関東ローム層の上下を探ると、丸い礫からなる礫層があり、これらの礫層は過去に河原で堆積したものです。このような地層の重なりを観察することで、過去の環境変化や火山活動の履歴を読み取ることができます。
千葉県立中央博物館による黒ボク土と火山灰土壌の詳細解説
神奈川県の秦野盆地にある葛葉川では、峡谷をつくる河岸の崖に関東ローム層が観察でき、地質学習の貴重なフィールドとなっています。また、生田緑地公園や相模原市南区古淵の崖など、関東各地で関東ローム層の露頭を観察することができます。これらの観察地点では、土橋ローム層やウワバミ軽石などの特徴的な地層を直接見ることができ、鉱物学や地質学に興味のある方にとって貴重な学習の機会となっています会となっています。
参考)1.地域の自然:関東農政局