金山彦命(かなやまひこのみこと)は、日本神話に登場する鉱山や金属を司る神様です。『古事記』によれば、伊邪那美命(いざなみのみこと)が火の神である迦具土神(かぐつちのかみ)を産んだ際、火傷で苦しみながら嘔吐したものから化成したとされています。この嘔吐物が鉱石の原石や溶けた金属に似ていたことから、鉱山の神として信仰されるようになりました。
参考)金山彦神(かなやまひこのかみ)のご利益と神社
『日本書紀』でも同様の記述があり、「金山彦」という名前で伝えられています。「金山」は「鉱山」を意味し、「彦」は男性の神を表す言葉です。この神は単なる鉱山の神にとどまらず、鉱石を採掘し、それを水で選別し、粘土製のタタラ(製鉄炉)で精錬するという古代製鉄技術全体を象徴する存在と考えられています。
参考)金山毘古神かなやまびこのかみ|鉱山の男の神!伊耶那美命が火神…
火山噴火の表象とする説や、焼畑農業を反映する神、五行思想に基づく神など、古来より様々な解釈がなされてきましたが、鉱山・製鉄に関わる人々から篤く信仰されてきた点は共通しています。
参考)https://ameblo.jp/keith4862/entry-12563292675.html
金山彦命を祀る神社の総本社は、岐阜県不破郡垂井町にある南宮大社(なんぐうたいしゃ)です。社伝によれば、神武天皇東征の際に金鵄(きんし、金色のトンビ)を遣わして戦勝をもたらした霊験により、崇神天皇の御代に美濃仲山の麓に祀られたのが始まりとされています。古くは「仲山金山彦神社」と呼ばれ、国府の南方に位置することから「南宮大社」と称されるようになりました。
参考)神社人 - 金山系列社
全国各地には多くの金山神社が存在します。埼玉県秩父市の聖神社は「銭神様」として金運や商売繁盛を願う人々に信仰され、日本最古の流通貨幣「和同開珎」にちなんだ授与品が有名です。愛知県名古屋市の金山神社は地名の由来にもなっており、毎年11月8日には鞴(ふいご)祭りが開催されます。滋賀県には金山神社や金神社があり、それぞれ金山彦命や金山毘古神を主祭神としています。
参考)金山彦命(カナヤマヒコノミコト)のご利益や御祭神の神社 - …
意外なことに、トヨタ自動車は創業時に愛知に近い南宮大社ではなく、島根の金屋子神を勧請して神社を建てています。創業者が「金屋子神」を選んだ経緯は現在でも大きな謎とされていますが、製鉄・鍛冶技術への深い信仰を物語るエピソードです。
参考)2年夢見た、しまね旅(後編)
金山彦命の主な御利益は、鉱山や金属加工に関わる分野です。伝統的には鍛冶技術の向上、鉱山の安全、金属加工業の守護などが知られていますが、現代では「お金=金属」という連想から、金運・財運アップの神様として広く信仰されるようになりました。
参考)【神様紹介】金山毘古命(かなやまひこのみこと) 金運と商売繁…
具体的な御利益としては以下のようなものがあります:
✅ 金運・財運アップ
✅ 商売繁盛・事業繁栄
✅ 鉱工業・建築技術の守護
✅ 投資や金融に関するご加護
✅ 包丁など刃物の守護
特に京都の御金神社(みかねじんじゃ)では、金運の神様として多くの参拝者が訪れ、お財布を清めたり宝くじ祈願をしたりする姿が見られます。また、南宮大社の社伝では、神武東征時に金鵄を助けて戦勝をもたらした話から、優秀な鉄製武器の製造技術を背景にもつ「包丁の神」としての側面も伝えられています。
現代でも金属加工業や建築業、さらには投資や金融に携わる人々が参拝に訪れ、事業の成功や技術の向上を祈願しています。
金山彦命を祀る神社の多くは、実際に鉱山や製鉄が行われていた地域に建てられています。例えば、奈良県の雁多尾畑地区にある金山彦神社・金山姫神社の周辺からは鉄滓(てっさい、製鉄の際に出る不純物)が発見されており、古代にこの地域で製鉄活動があったことが確認されています。
参考)金山毘古神 href="https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/kanayamabikonokami/" target="_blank">https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/kanayamabikonokami/amp;#8211; 國學院大學 古典文化学事業
岐阜県の金生山では赤鉄鉱が採掘され、山中からは多くの鉱滓が見つかっています。太平洋戦争中には軍の注目を集め、昭和19年から25年まで採掘が続けられ、極めて良質な鉱石(第二酸化鉄91%)が八幡製鉄所に送られました。金生山の麓には金山神社が祀られており、製鉄の守護神として信仰されていました。
参考)http://www2.og-bunka.or.jp/lsc/lsc-upfile/columnPdf/00/24/24_1_file.pdf
石見銀山では、遠く岐阜の南宮大社から金山彦を勧請して祀っています。また、濃尾地方の丘陵地では褐鉄鉱の一種である「鬼板」を用いた製鉄実験が行われ、信州伊那谷でも地元産の褐鉄鉱で20回以上の製鉄実験が実施されました。これらの事例から、金山彦命への信仰が実際の鉱山開発や製鉄技術と深く結びついていたことがわかります。
参考)http://www.tcp-ip.or.jp/~amano-ta/ih/toukai_tetubunka2000.9.10/toukai-tetubunka-saguru2000.9.10.htm
南宮大社公式サイト
金山彦命の総本社である南宮大社の歴史や祭事の詳細が記されています。
金山彦命を祀る神社では、金運や商売繁盛に関する特徴的なお守りや御朱印が授与されています。埼玉県秩父市の聖神社では、日本最古の流通貨幣「和同開珎」を模した「銭神守(ぜにがみまもり)」が代表的なお守りで、金運招福・商売繁盛・事業繁栄などのご利益があるとされています。
参考)金運の聖地・聖神社の授与品ガイド|お守り・ご朱印・一粒万倍日…
また「和同開珎守り」は金・銀・銅の3種類のカード型お守りで、表面には見る角度によって「和同開珎」の文字と御神宝である雄雌一対のムカデが浮かび上がる特殊加工が施されています。特に「一粒万倍守り」は、吉日である「一粒万倍日」にのみ授与される特別なお守りで、「一粒の籾が万倍にも実る稲穂になる」という意味が込められています。
名古屋市の金山神社では、毎年11月8日の鞴(ふいご)祭りに特別御朱印としてゴールド紙(金紙)に筆で書いた御朱印が授与されます。ゴールド紙朱印は年3回(正月3が日・4月第二土曜開催龍神祭・ふいご祭り)のみの限定授与で、すべて書家の手書きのため50セットのみとなっています。
参考)金山神社の御朱印・アクセス情報(愛知県金山駅)
参拝の際は、鉱山や金属加工への感謝の気持ちを込めて、事業の安全や技術の向上を祈願すると良いでしょう。また、金運や財運を願う場合も、単なる金銭欲ではなく、金属資源への畏敬の念を持つことが大切です。
鉱石に興味を持つ人々にとって、金山彦命を祀る神社は特別な意味を持ちます。これらの神社は単なる信仰の場ではなく、日本の鉱山史や製鉄技術の発展を物語る歴史的スポットでもあるからです。
例えば、岐阜県の南宮大社周辺の伊吹山麓は「ねう地帯」として知られ、古代の製鉄技術革新の舞台だったと考えられています。周辺には金屋、丹生などの地名が残り、これらは製鉄や鉱山に関連する地名として注目されています。鉱石愛好家が神社を訪れる際には、周辺地域の地質や鉱物に注目することで、より深い理解が得られます。
また、出雲地方では金屋子神(かなやごかみ)という製鉄の神が信仰されており、「大粒の雨を降らせた神が名を明かすと、金山彦、天目一箇神(あめのまひとつのかみ)ともいう金屋子神である」と伝えられています。この伝承からは、金山彦命が単一の神格ではなく、様々な地域の鉱山・製鉄信仰と融合してきた複雑な歴史が見えてきます。
参考)http://www.tvt.ne.jp/~zhilaohu/tetunomichi/tatara1.html
鉱石愛好家が神社を訪れる際には、境内や周辺で鉱滓(こうさい)などの製鉄遺物を探すことも興味深い活動です。ただし、神社の敷地内での採取は禁止されている場合が多いため、観察にとどめるのがマナーです。神社の歴史と鉱山の関係を学ぶことで、鉱物への理解がさらに深まるでしょう。
國學院大學古典文化学事業
金山彦命の神話や各地の製鉄遺跡に関する学術的な情報が得られます。