開口数NA計算と分解能、対物レンズの選び方

開口数NAは顕微鏡で鉱物を観察する際の分解能や焦点深度を決定する重要な指標です。計算式や液浸レンズの使い分けなど、実践に役立つ知識を網羅的に解説します。この記事であなたの鉱物観察の質は向上するでしょうか?

開口数NA計算の基礎

開口数NAが決める顕微鏡性能
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集光能力

レンズがどれだけ多くの光を取り込めるかを数値化した指標

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分解能

微細な構造を見分ける能力を表し、鉱物の結晶構造観察に直結

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像の明るさ

開口数が大きいほど明るく鮮明な画像が得られる

開口数NAの計算式と構成要素

 

開口数NAは対物レンズの性能を決定する最も重要な指標であり、NA=n×sinθという式で表されます。この式において、nは対物レンズと標本の間にある媒質の屈折率を意味し、空気の場合はn=1.0、水の場合はn=1.33、イマージョンオイルの場合はn=1.52となります。θは物体から対物レンズに入射する光の最大角度であり、光軸と対物レンズの最も外側を通る光線とがなす角度を表します。

 

参考)開口数の関係式

開口数が大きいほどθが大きくなり、より多くの光をレンズに取り込むことができるため、鉱物標本の微細な構造をより鮮明に観察できます。一般的な対物レンズの開口数は0.1から1.6程度の範囲にあり、液浸系を使用することで1.0を超える高い開口数を実現できます。

 

参考)開口数(NA)とは何か?わかりやすく図解

計算において重要なのは、sinθの値は最大でも1となるため、空気中(n=1.0)では開口数の理論上の上限は1.0であり、実際には0.95程度が限界となることです。より高い開口数を得るには屈折率の高い液浸媒質を使用する必要があります。

 

参考)https://evidentscientific.com/ja/learn/support/learn/04/013

開口数NAから分解能を求める計算方法

分解能はレイリーの式により δ=0.61×λ/NA で計算されます。ここでδは2つの点を分離して識別できる最小距離、λは使用する光の波長を表します。可視光の代表的な波長である550nm(0.55μm)を使用する場合、開口数0.9の対物レンズでは分解能は0.61×0.55/0.9≒0.37μmと計算できます。

 

参考)https://evidentscientific.com/ja/learn/support/learn/04/009

この計算式から明らかなように、分解能は波長に比例し開口数に反比例するため、開口数が大きいほど分解能の数値は小さくなり、より微細な構造を識別できるようになります。鉱物標本の結晶粒界や包有物を詳細に観察する際には、高い開口数の対物レンズを選択することが不可欠です。

 

参考)https://microscope.jp/knowledge/01-4.html

実際の計算例として、開口数1.4の油浸対物レンズを使用した場合、分解能は0.61×0.55/1.4≒0.24μmとなり、空気中の乾燥系対物レンズと比較して約1.5倍の分解能向上が得られます。

 

参考)液浸レンズの使い分け

開口数NAが焦点深度に与える影響計算

焦点深度は開口数と密接に関係しており、NAが大きいほど焦点深度は浅くなります。焦点深度DOFは一般的に DOF=λ/(NA)² の関係式で表され、開口数の2乗に反比例します。この関係から、高倍率で高開口数の対物レンズを使用すると分解能は向上しますが、同時にピントの合う範囲が極めて狭くなるというトレードオフが生じます。

 

参考)顕微鏡の基礎知識

鉱物薄片の観察では、標本の厚さが30μm程度あるため、高開口数レンズを使用する際には焦点位置の調整が重要になります。開口数0.95の対物レンズでは焦点深度が約0.6μm程度となるため、標本の異なる深さ位置を観察するには微動ハンドルによる細かな焦点調整が必要です。

 

参考)光学顕微鏡の用語

逆に低倍率で開口数の小さいレンズを使用する場合、焦点深度は深くなり広い範囲がピントの合った状態で観察できますが、分解能は低下します。このため、観察目的に応じて開口数と焦点深度のバランスを考慮したレンズ選択が求められます。

 

参考)【光学】開口数とは href="https://www.mepinfo.net/%E9%96%8B%E5%8F%A3%E6%95%B0%E3%81%A8%E3%81%AF/" target="_blank">https://www.mepinfo.net/%E9%96%8B%E5%8F%A3%E6%95%B0%E3%81%A8%E3%81%AF/amp;#8211; Micro Edge P…

開口数NAと像の明るさの計算関係

光学系の明るさは開口数の2乗に比例するため、像面の照度EはE∝(NA)²で表されます。この関係により、開口数が2倍になると像の明るさは4倍に増加します。透過型顕微鏡で物体側開口数を考慮した場合、明るさはE∝(n sinθ)²/β²となり、倍率βの2乗に反比例します。

 

参考)顕微鏡システムの倍率・開口数(NA)・分解能

鉱物の偏光観察や反射光観察では、標本からの光量が限られるため、高い開口数の対物レンズを使用することで十分な明るさを確保できます。特に暗い鉱物や微小な包有物を観察する際には、開口数の大きいレンズが必須となります。

 

参考)顕微鏡観察で重要になるパラメータ|日本ジェネティクス株式会社…

開口数0.65のレンズと1.4のレンズを比較すると、明るさの比は(1.4/0.65)²≒4.6倍となり、同じ標本でも観察像の明るさに大きな差が生じます。ただし、光学系内部での反射や吸収による損失を表す透過率tも実際の明るさに影響するため、レンズのコーティング品質も重要な要素となります。

開口数NA計算における屈折率の役割

屈折率nは開口数計算の重要な要素であり、対物レンズと標本の間の媒質によって決定されます。空気の屈折率はn≒1.0ですが、水はn≒1.33、グリセリンはn≒1.45、イマージョンオイルはn≒1.52となり、媒質の選択によって達成可能な開口数の上限が変わります。

 

参考)光学システムの開口数を理解する

カバーガラスの屈折率もn≒1.52であり、油浸レンズで使用するイマージョンオイルの屈折率と一致させることで、光の屈折による損失を最小限に抑えられます。この屈折率整合により、標本からの光がカバーガラスとオイルの境界でほとんど屈折せず、設計値通りの開口数で結像できます。

 

参考)https://wraymer.net/faq/microscope/1557

エビデント社の浸液選択ガイド - 各浸液の屈折率と用途別の選択基準が詳しく解説されています
鉱物標本の観察では、標本の屈折率も考慮する必要があります。鉱物の屈折率は種類によって大きく異なり、方解石で約1.66、ダイヤモンドで約2.42となるため、液浸媒質との屈折率差が観察品質に影響します。温度変化により浸液の屈折率が変動するため、超高開口数レンズを使用する際には温度管理も重要です。

 

参考)対物レンズのラベル表記 href="https://www.leica-microsystems.com/jp/%E8%A3%BD%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC/%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA/%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A1%A8%E8%A8%98/" target="_blank">https://www.leica-microsystems.com/jp/%E8%A3%BD%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC/%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA/%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A1%A8%E8%A8%98/amp;#124; 製品紹介 href="https://www.leica-microsystems.com/jp/%E8%A3%BD%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC/%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA/%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A1%A8%E8%A8%98/" target="_blank">https://www.leica-microsystems.com/jp/%E8%A3%BD%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC/%E9%A1%95%E5%BE%AE%E9%8F%A1%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA/%E5%AF%BE%E7%89%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A1%A8%E8%A8%98/amp;#124;…

開口数NA計算の実践的な応用例

具体的な計算例として、倍率40倍でNA=0.65の対物レンズを使用し、波長550nmの光で観察する場合を考えます。分解能は δ=0.61×0.55/0.65≒0.52μm となり、この距離以上離れた2点を識別できます。同じ倍率でNA=0.95の対物レンズに変更すると、分解能は δ=0.61×0.55/0.95≒0.35μm に向上し、約1.5倍の細部まで観察可能になります。

 

参考)N.A.

マイクロスコープのような可変倍率の光学系では、最低倍率時と最大倍率時で開口数が変化します。例えば最低倍率時NA=0.014、最大倍率時NA=0.036のシステムでは、それぞれの分解能は23.9μmと9.3μmとなり、倍率変化に伴う分解能の変化を計算により予測できます。

 

参考)レンズの開口数と分解能

ミツトヨ顕微鏡基礎知識 - 開口数と分解能の関係を図解入りで詳しく説明しています
鉱物薄片を100倍の油浸対物レンズ(NA=1.25)で観察する場合、分解能は約0.27μmとなり、鉱物の劈開や双晶境界などの微細構造を明瞭に識別できます。コンデンサーの開口数を対物レンズの1.4倍に設定すると、最も高い分解能が得られることも計算により示されています。

 

参考)https://evidentscientific.com/ja/learn/support/learn/03/045

開口数NA最大化のための液浸技術

開口数を1.0以上に高めるには液浸技術が不可欠であり、対物レンズと標本の間を屈折率の高い液体で満たします。油浸対物レンズは屈折率n≒1.52のイマージョンオイルを使用し、最大で1.4から1.65の開口数を実現できます。水浸対物レンズは屈折率n≒1.33の水を使用し、開口数は最大で約1.2となります。

 

参考)顕微鏡用水浸対物レンズ(Water Dipping/Imme…

液浸レンズの選択は観察対象によって異なり、標本がカバーガラスに密着している場合は油浸レンズが最適です。一方、生きた細胞や厚みのある組織標本では水浸レンズが使用されます。鉱物薄片の観察では、標本がカバーガラスに接していることが多いため、油浸レンズが高分解能観察に適しています。

空気中の乾燥系対物レンズと比較すると、媒質による屈折が開口角を制限するため、開口数の上限は約0.95となります。液浸系ではカバーガラスと浸液の屈折率がほぼ一致するため、境界での屈折が抑えられ、より広い開口角が得られます。これにより物理的に可能な最大限の光を対物レンズに導入でき、最高の分解能を実現できます。

 

参考)顕微鏡の光学系

開口数NAと鉱物観察における特殊な考慮事項

鉱物標本の観察では、鉱物自体の光学特性が開口数の効果に影響を与えます。高屈折率の鉱物(例えばジルコンでn≒1.95)を観察する場合、標本内部での光の伝播が複雑になり、単純な開口数計算では予測できない現象が生じることがあります。複屈折性の強い鉱物では、偏光状態によって見え方が変化するため、開口数だけでなく偏光特性も考慮する必要があります。

鉱物の包有物や流体包有物を観察する際には、開口数の大きいレンズで高分解能を得ると同時に、焦点深度が浅くなることを利用して標本内部の深さ方向の情報を得ることができます。この技術は包有物の3次元分布を調べる際に有効です。

 

参考)https://www.ias-iss.org/ojs/IAS/article/download/641/544

反射光観察では、光が標本表面で反射するため透過光観察とは異なる光学特性を示します。金属鉱物や不透明鉱物の観察では、暗視野コンデンサーと高開口数対物レンズを組み合わせることで、表面の微細な構造や結晶欠陥を明瞭に観察できます。開口数1.2以上の油浸対物レンズを使用する場合、絞りの調整が必要となり、明視野観察では絞りを完全に開いた状態で使用します。

開口数NA計算における最新の研究動向

近年の光学技術の発展により、従来の開口数の限界を超える試みが行われています。メタレンズ技術では、ナノ構造を利用してほぼ1に近い開口数(near-unity NA)を実現し、従来のバルク光学系では達成困難だった性能を超薄型デバイスで実現する研究が進められています。この技術は将来的に顕微鏡の小型化や高性能化に応用される可能性があります。

 

参考)http://arxiv.org/pdf/1705.00895.pdf

誘電体マイクロスフェアを利用したマイクロスフェア支援顕微鏡法(MAM)では、微小球体が仮想像を形成することで実効的な開口数を増加させ、通常の対物レンズよりも高い分解能を実現できることが報告されています。この手法は低屈折率(n<1.5)と高屈折率(n>1.9)の両方のマイクロスフェアで有効であることが示されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9832005/

開口数と分解能の関係を最適化するための多項式開口の研究も進められており、点拡散関数(PSF)の計算と比較により、従来の円形開口よりも高い分解能を達成できる可能性が示されています。これらの研究は、鉱物の超微細構造観察など、より高度な分析への応用が期待されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8853206/

 

 


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