重要無形文化財と人間国宝の違い|指定と認定の仕組み

重要無形文化財と人間国宝は同じものだと思っていませんか?実は法律上の明確な違いがあります。陶器や食器を愛する人なら知っておきたい、文化財保護制度の基本をわかりやすく解説します。

重要無形文化財と人間国宝の違い

この記事のポイント
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重要無形文化財は「わざ」そのもの

演劇、音楽、工芸技術など形のない文化的所産のうち、国が特に重要と認めて指定したもの

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人間国宝は「わざを体現する人」

重要無形文化財として指定された技を高度に体得・体現している個人を認定したもの

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法律上の正式名称に注意

「人間国宝」は通称で、正式には「重要無形文化財保持者」という名称が使われる

重要無形文化財は「わざ」を指す

 

重要無形文化財とは、文化財保護法第2条第1項第2号に基づき、演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で日本にとって歴史上または芸術上価値の高いものを指します。重要なポイントは、重要無形文化財は「無形の『わざ』そのもの」であり、人物や団体ではないということです。
参考)「国宝」と「重要文化財」の違いとは? 文化財の分類や人間国宝…

文部科学大臣は、無形文化財のうち特に重要なものを重要無形文化財に指定することができます。この指定対象となるのは、芸能分野では能楽、文楽、歌舞伎などの伝統的な演劇や舞踊、音楽です。工芸技術分野では、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、和紙など多岐にわたる伝統工芸技術が含まれます。
参考)概要

令和3年時点で、芸能分野の各個認定は指定件数38件・保持者数54名、工芸技術分野の各個認定は指定件数33件・保持者数51名となっています。これらの数字は、重要無形文化財という「わざ」の種類と、それを体現する人物の数を示しています。
参考)https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/bunkazai_pamphlet/pdf/93821601_02.pdf

重要無形文化財の人間国宝とは何か

人間国宝とは、重要無形文化財の保持者として各個認定された人物を指す通称です。文化財保護法には「人間国宝」という文言は一切なく、正式には「重要無形文化財保持者」といいます。この通称が広く用いられているため、一般的には人間国宝として紹介されることが多いのです。​
文部科学大臣が重要無形文化財を指定する際には、同時にその「わざ」を高度に体現・体得している個人または団体を保持者または保持団体として認定しなければなりません。この認定方式には「各個認定」「総合認定」「保持団体認定」の3つがあります。このうち、個人として認定されている保持者のことを重要無形文化財保持者といい、一般には「人間国宝」と呼ばれています。
参考)人間国宝の職人は何人いる?人間国宝になるための認定の条件など…

人間国宝に認定されると、技の維持や後継者育成といった重要無形文化財保護のための活動費として、年間200万円の特別助成金が交付されます。また、工芸品の分野で人間国宝の認定を受けると、作品にブランド的な価値がついて売買価格が高くなるという特徴があります。
参考)無形文化財

重要無形文化財の指定と認定の仕組み

重要無形文化財の指定と保持者の認定は、明確に区別された二段階のプロセスです。まず文部科学大臣が文化審議会に諮問し、その答申を受けて「わざ」を重要無形文化財に指定します。次に、その指定された「わざ」を高度に体現できる個人や団体を保持者として認定するのです。
参考)https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/common/001653249.pdf

この制度が法律に規定されたのは1954年の文化財保護法第一次改正時で、実際に最初の重要無形文化財及び保持者(人間国宝)の指定・認定が行われたのは1955年2月15日でした。それ以前は国が保護策を講じなければ「衰亡の虞(おそれ)」のある無形文化財のみが保護の対象とされていましたが、この改正により制度が大きく変わりました。​
認定の基準として、文化庁は「重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現できる者または工芸技術を高度に体得している者」と定めています。より具体的には、「当該芸能・技術を高度に体現しうること」「現に中心的な担い手として活動していること」「後進の指導育成にも寄与しうること」などが選考基準として挙げられ、長年の研鑽と実績を積んだ巨匠クラスが認定される傾向にあります。
参考)人間国宝の条件とは?今泉今右衛門など骨董品で押さえておきたい…

重要無形文化財の工芸技術分野の保持者

工芸技術分野における重要無形文化財保持者は、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、和紙など多様な分野で活躍しています。2019年10月現在、人間国宝に認定されている人数は芸能分野が58名、工芸技術分野が59名(重複認定を除く実人員は58名)です。​
陶芸部門での人間国宝には、色絵磁器、鉄釉陶器、志野、瀬戸黒、萩焼、備前焼、唐津焼、染付、白磁・青白磁、琉球陶器、鉄絵、練上手、三彩、青磁、彩釉磁器、常滑焼、釉裏金彩、無名異焼、小石原焼などの陶芸家が名を連ねています。染織部門では、江戸小紋、長板中形、友禅、正藍染、型絵染、羅、精好仙台平、唐組、有職織物、献上博多織、紬縞織・絣織、佐賀錦、紅型、綴織、刺繍、首里の織物、芭蕉布などの技術を持つ染織家が認定されています。​
工芸技術において個人的特色が薄く、当該工芸技術を保持する人物が大勢構成員となっている場合は、重要無形文化財の保持者が団体に認定されることがあります。これが「保持団体認定」と呼ばれる方式で、総合認定や保持団体認定については個人に対しての認定ではないため、人間国宝とは一般的には通称されません。​

重要無形文化財と国宝・重要文化財との違い

国宝や重要文化財といった有形文化財と、重要無形文化財では保護の対象が根本的に異なります。有形文化財は、定まった形のある建造物や美術工芸品などの「もの」を指すのに対し、無形文化財は人間の技そのものを文化財として扱うのです。
参考)国宝とは〜人間国宝との違いは?|最新情報|骨董品買取・売却の…

古典芸能を演じる方や巧みな陶芸技術をされる方が「人間国宝」といわれることがありますが、この呼び名は通称で、文化財保護法上の「国宝」にはあたりません。国宝は有形文化財のうち特に価値が高いものに指定される名称であり、無形文化財の保護制度とは完全に別の仕組みなのです。
参考)【子どもでもわかる!】重要文化財と国宝の違いは?具体例を交え…

また、重要無形民俗文化財という似た名称の文化財もありますが、これも重要無形文化財とは異なります。重要無形民俗文化財は、衣食住、生業、信仰、年中行事などに関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術など、人々が日常生活の中で生み出し継承してきた無形の民俗文化財のうち、特に重要なものとして国が指定したものです。この指定制度は1975年の文化財保護法の改正によって実現し、1976年5月4日に第1回として30件が指定されて以来、2025年3月28日現在で合計337件が指定されています。
参考)重要無形民俗文化財 - Wikipedia

文化庁の無形文化財紹介ページでは、重要無形文化財の保持者や保持団体の詳細な情報が公開されており、制度の全体像を理解するのに役立ちます。
文化庁のパンフレットには、重要無形文化財の指定・認定制度の仕組みや、人間国宝への支援内容などが詳しく解説されています。