重晶石産地の特徴と世界の主要鉱山

重晶石は世界各地で産出される硫酸バリウム鉱物で、中国やインドが主産地として知られています。日本でも北海道や秋田で採掘されていた歴史があり、特別天然記念物の北投石も重晶石の一種です。重晶石の産地にはどのような特徴があるのでしょうか?

重晶石産地の特徴

重晶石産地の特徴
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世界の主要産出国

中国、インド、モロッコを中心に世界各地で産出される鉱物資源

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日本の産地の歴史

北海道や秋田の鉱山で採掘されていたが現在は閉山し全量輸入

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特別な重晶石産地

温泉沈殿物や美しい結晶が採れる特殊な環境も存在

重晶石産地の世界分布と生産量

重晶石は世界各地で産出される硫酸バリウム鉱物で、グローバルな鉱物資源として重要な位置を占めています。2010年時点での世界の重晶石生産量は約690万トンに達し、その中でも中国が360万トンと全体の52%を占める圧倒的な生産国となっています。1986年のデータでは世界生産量が約540万トンで、中国(20%)、ソ連(11%)、メキシコ(8%)、インド(7%)、アメリカ合衆国(6%)が主要生産国でした。

 

参考)重晶石 - Wikipedia

2017年時点では中国、インド、モロッコが主要な産出国として知られ、これらの国々からは宝石品質の重晶石も産出されています。重晶石鉱床は熱水プロセスを通じて形成されることが多く、中国、インド、モロッコ、米国、メキシコなどの世界各地に分布しています。

 

参考)重晶石の宝石:特性、意味、価値など

アメリカやカナダ、スペイン、ドイツ、フランス、ルーマニアなどのヨーロッパ諸国でも重晶石が多く産出されており、イギリス、イタリア、チェコ共和国でも採掘されることがあります。特にスペインのアストゥリアス地方のMoscona鉱山では、淡いブルーグレーの色合いと立体感豊かな結晶が産出されることで知られています。

 

参考)重晶石バライト|バリウム鉱石としての役割やセレスタイトとの関…

重晶石の日本産地と歴史

日本では北海道と東北地方を中心に重晶石鉱床が偏在していた歴史があります。北海道では札幌市手稲鉱山、小樽市松倉鉱山、南白老バライト鉱山、勝山鉱山などが主要な産地として知られていました。秋田県では鹿角郡小坂町の小坂鉱山、花岡鉱山が重要な産地で、これらの鉱山では黒鉱鉱床中に多量の重晶石を伴うことが特徴的でした。

 

参考)重晶石(ジュウショウセキ)とは? 意味や使い方 - コトバン…

日本国内では重晶石は唯一のバリウム鉱石として利用されていましたが、西日本では京都府の笠取鉱山が知られるのみで、産地は北海道・東北に集中していました。石川県の尾小屋鉱山、岩手県の鷲ノ巣鉱山なども産地として記録されています。重晶石は中温から低温の熱水鉱床中に脈石鉱物として産出し、火山付近の温泉環境や黒鉱鉱床に伴われることが多く、石灰岩中に含まれることもありました。

 

参考)https://mineral.imagestyle.biz/ryuusan/jyuushouseki.html

しかし、これらの鉱山は現在すべて閉山しており、2016年以降は全量が輸入で賄われています。日本の年生産額はかつて約2万トン程度でしたが、現在は鉱山の閉山により国内生産はゼロとなっています。

 

参考)http://jser.gr.jp/kaiin/JSER_BOOK/1989/10-368.pdf

重晶石産地の地質環境と鉱床タイプ

重晶石は主に低温から中温の熱水鉱床中に脈石鉱物として産出する特徴があります。火山付近の温泉環境や黒鉱鉱床に伴われることが多く、石英、方解石、方鉛鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱、閃亜鉛鉱、苦灰石などと共に産出します。

 

参考)301 Moved Permanently

火山岩の空隙や熱水鉱脈中に生成される重晶石は、温泉地帯に産出することがあるほか、粘土の団塊や堆積層の中の鉱脈などにも見られます。中温から低温熱水脈鉱床中や脈、堆積岩中、火成岩の空洞中などに、板状や柱状の結晶体として、またその集合体や粒状、塊状などで産出するのが一般的です。

重晶石鉱床は熱水プロセスを通じて形成されることが多く、地質学的に多様な環境で見つかります。石灰岩中に含まれることもあり、堆積岩環境での産出も報告されています。比重が4.5と非常に重い鉱物で、この特徴が英名Barite(ギリシャ語のbaros=重いに由来)の語源となっています。

 

参考)http://www.jiban-fluorite.com/mineral/brit01.html

重晶石の特別天然記念物産地と北投石

重晶石の中でも特に希少で学術的価値が高いのが、台湾の北投温泉と日本の秋田県玉川温泉からのみ産出する北投石です。北投石は鉛を含む重晶石の変種で、学術的には含鉛重晶石と呼ばれます。化学組成は(Ba,Pb)SO₄で、およそBa:Pb=4:1の割合で含まれ、放射性のラジウムを大量に含む温泉沈殿物重晶石です。

 

参考)https://www.akihaku.jp/digital/collection/contents.php?serial_no=267amp;category=5amp;lang=

玉川温泉は日本一の強酸性(約pH1)の温泉で、大噴と呼ばれる源泉からは98度の温泉水が毎分約9000リットルもわき出しています。北投石は、この温泉水の成分が沈殿し堆積したものです。放射性のラジウムを含むため放射能を持っており、世界でも台湾の北投温泉と秋田の玉川温泉の2か所からしか産出しない極めて希少な鉱物です。

玉川温泉の北投石は大正11年(1922年)に天然記念物に指定され、昭和27年(1952年)には特別天然記念物に指定されました。現在は採集が禁止されており、保護の対象となっています。秋田県河原毛では温泉沈殿物として重晶石が産出していたことも記録されています。

 

参考)https://www.naturaltown.jp/smp/freepage_detail.php?fid=6

重晶石産地の結晶品質と特徴

重晶石産地によって結晶の品質や形状に特徴があり、マダガスカルは良質な結晶が採れることで特に有名です。マダガスカル産の重晶石は、ロッククリスタルやアメジストのような角柱結晶が見つかることもあり、コレクターや鉱物愛好家から高い評価を受けています。

重晶石の結晶は斜方晶系に属し、比重は4.39~4.62と非常に重く、硬度は3~3.5、完全な劈開を持つという物理的特性があります。色は無色、白色、淡黄色、褐色、ブルーなど多様で、ガラス光沢から樹脂光沢を示します。無色、白、黄、淡青色、褐色など色調のバリエーションは広く、産地によって異なる色合いを呈することがあります。

中国四川省産の重晶石は最高品質として知られ、板状や柱状の結晶体で産出します。硫酸鉛鉱や天青石とは類質同像の関係にあり、それぞれとの間に固溶系列が存在することも鉱物学的な特徴です。酸に溶けないこと、劈開が菱面体ではないこと、重いことにより、方解石とは容易に区別できます。

スペイン産の重晶石は淡いブルーグレーの色合いと立体感豊かな結晶が魅力とされ、特にアストゥリアス地方のMoscona鉱山産は美しい標本として知られています。マダガスカルでは、マハジャンガ州以外にも南部のトゥリアラ州や中央部のアンタナナリボ州で産出され、ジオード(晶洞)の様な形状やクラスター(群晶)状で見つかることが特徴です。

 

参考)https://happygift.jp/products/40260

重晶石産地の用途と産業的重要性

重晶石産地から採掘される鉱石は、バリウムの主要な資源として私たちの生活に多岐にわたって役立っています。採掘される重晶石の約70%は石油や掘削に使用され、掘削泥に使用されることでドリルを潤滑して岩石を通り抜けやすくします。この鉱物は泥の重量を増加させ、掘削中に石油やガスが爆発するのを防ぐ重要な役割を果たしています。

バリウムはX線を通しにくい性質があるため、胃のレントゲン検査に使われる造影剤として医療分野で重要です。硫酸バリウムを豊富に含む重晶石は、X線やガンマ線放射を遮断する診断検査において重要な役割を果たし、解剖学的構造や異常の視覚化に役立ちます。化学的不活性やX線に対する高い不透過性などのユニークな特性により、医療用途に理想的な材料となっています。

 

参考)https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%87%8D%E6%99%B6%E7%9F%B3%E5%B8%82%E5%A0%B4-109719

工業用途としては、各種のバリウム塩や白色塗料、発色剤、紙・ゴムなどの増量剤、光学ガラスの原料として利用されます。建設、繊維、製紙、ガラス製造などの分野でも広く使用されており、重晶石から得られる炭酸バリウムは、コンピューターやテレビ画面などのLEDガラスの製造に使用されています。塗料およびプラスチックの充填剤、自動車の仕上げ塗装での平滑化と耐腐食性の向上にも利用されます。

 

参考)https://gemhall.sakura.ne.jp/gemus-bart.htm

かつては織物や紙などの重量を増すために混ぜて用いられたり、白色ペンキや塗料の原料、石油掘削用泥水にも使用されていました。重いことを利用した様々な産業用途があり、深海における酸素と硫黄の同位体分析、熱水噴出孔の年代の決定などの科学研究にも応用されています。

病院や医療センター内の放射線科、腫瘍治療センター、画像診断施設の建設にも建築グレードの重晶石が使用され、医療画像処理中に発生するX線放射線を効果的に遮蔽し、患者、医療従事者、訪問者の安全を確保する役割を担っています。このように重晶石産地から採掘される鉱物資源は、現代社会のインフラストラクチャーと医療を支える不可欠な存鉱物資源は、現代社会のインフラストラクチャーと医療を支える不可欠な存在となっています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2073-4352/11/10/1189/pdf?version=1632915947