硫黄酸化物人体への影響と陶器・食器焼成時の健康リスク対策

陶器や食器を焼成する際に発生する硫黄酸化物は、人体にどのような影響を及ぼすのでしょうか?呼吸器系への刺激や健康被害の症状、発生源と対策まで、陶芸愛好家や陶器工房で働く方に知っていただきたい重要な情報を詳しくまとめました。あなたの健康を守るための知識を得られるでしょうか?

硫黄酸化物の人体への影響

💨 硫黄酸化物が引き起こす主な健康問題
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粘膜への刺激

目のチカチカ、喉の痛みなど粘膜を刺激し不快な症状を引き起こします

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呼吸器系への影響

咳、ぜんそく、気管支炎など呼吸困難を起こし重篤な症状に発展する危険性があります

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全身症状

頭痛、吐き気、息苦しさなど日常生活に支障をきたす症状が現れます

硫黄酸化物は、石油や石炭などの硫黄分を含む化石燃料が燃焼する際に発生する大気汚染物質です。代表的な物質として二酸化硫黄(SO₂)があり、目には見えませんが鼻を突くような特有の臭いを持っています。これらの物質は人体に対して様々な悪影響を及ぼすことが知られており、特に高度経済成長期の日本では深刻な公害問題を引き起こしました。
参考)硫黄酸化物について|山口県 大気情報ポータルサイト

硫黄酸化物による人体への影響は主に呼吸器系に集中しています。二酸化硫黄は水に溶けやすい性質を持つため、主に上気道で吸収され、慢性気管支炎や喘息を引き起こします。実際に1961年頃から発生した四日市ぜんそくは、石油コンビナートから排出された硫黄酸化物が原因となった公害病として有名です。
参考)硫黄が人体に与える影響とは?

環境基準値は1時間値の1日平均が0.04ppm以下、かつ1時間値が0.1ppm以下と定められています。しかし、基準値以下であっても長期的な曝露は健康リスクを高める可能性があります。特に、敏感な人や既往症のある人は、より低濃度でも症状が現れることがあり注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7937788/

山口県の硫黄酸化物に関する詳細情報と環境基準

硫黄酸化物による呼吸器への刺激症状

 

硫黄酸化物は粘膜を刺激する性質が強く、様々な不快症状を引き起こします。最も一般的な症状として「目がチカチカする」「のどが痛い」といった粘膜刺激症状があり、これらは硫黄酸化物に曝露した際の初期症状として現れます。
参考)廃棄物焼却で発生するNOxとSOxとは?影響と削減対策につい…

呼吸器系への影響はさらに深刻で、咳、気管支喘息、気管支炎などの障害を引き起こします。硫黄化合物のガス、特に二酸化硫黄を吸入すると、目の痛み、喉の刺激から始まり、重篤な場合には呼吸困難や肺の炎症を引き起こすこともあります。これらの症状は短期的な曝露でも発生する可能性があり、高濃度の環境では急性症状として現れます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9115319/

長期的な曝露による影響も無視できません。慢性的に硫黄酸化物に晒されると、肺機能の低下を引き起こすことが知られており、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんのリスクを増加させる可能性があります。工業地帯や火山の近くに住む人々は、このような硫黄ガスに晒されるリスクが高く、適切な対策が求められています。​

硫黄酸化物曝露による頭痛と全身症状

硫黄酸化物の曝露は呼吸器系だけでなく、全身に影響を及ぼす症状も引き起こします。頭痛は硫黄酸化物曝露時の代表的な全身症状の一つで、吐き気や息苦しさを伴うことが多いです。これらの症状は、硫黄酸化物が血液中に取り込まれ、全身の臓器や組織に影響を与えることで発生すると考えられています。​
中毒症状として、めまいや頭痛、嘔吐などがあり、重篤な状態に至ることもあります。硫化水素や二酸化硫黄のような気体の形で存在する化合物は、人体に対して有毒で、呼吸器系や神経系に悪影響を及ぼすことが知られています。高濃度になると窒息の原因にもなり、生命に関わる危険性があります。​
毒性レベルは、硫黄化合物の種類や濃度、さらには曝露の時間によって変わります。濃度が高ければ高いほど、少ない時間で重篤な症状を引き起こす可能性があります。そのため、硫黄酸化物を扱う環境では、適切な換気設備や呼吸保護具の着用が重要となります。​

硫黄酸化物と四日市ぜんそくなど公害病の関係

四日市ぜんそくは、硫黄酸化物による健康被害の代表的な事例として歴史に刻まれています。1961年頃から発生したこの公害病は、石油コンビナートから排出された硫黄酸化物が原因となって引き起こされました。現在は濃度が減少していますが、人体に入ると気管支炎やぜんそくの原因となることに変わりはありません。
参考)https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=viewamp;ecoword=%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%CE%B2%EF%BF%BD%EF%BF%BD

高度経済成長期の日本では、大量に石油や石炭を燃やしたことで硫黄酸化物による大気汚染が急激に悪化しました。1992年の年平均値が0.059ppmだったものが、様々な対策や規制を設けた結果、平成6年度には0.008ppmまで著しく改善されました。この改善は、低硫黄原油の輸入、重油脱硫、排煙脱硫装置の設置など世界に例を見ない硫黄酸化物対策を実施した成果です。
参考)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h08/10037.html

二酸化硫黄による汚染大気は呼吸器を刺激し、せき、ぜんそく、気管支炎などの障害を引き起こします。四日市ぜんそくの経験から、硫黄酸化物の健康影響に関する研究が進み、環境基準の設定や排出規制の強化につながりました。現在でも工業地域では監視が続けられており、公害病の再発防止に努めています。
参考)二酸化硫黄(SO2)の概要、年平均値の推移|環境濃度の推移|…

独立行政法人環境再生保全機構による二酸化硫黄の概要と推移

硫黄酸化物の環境基準値と安全な濃度レベル

硫黄酸化物の環境基準は、人体への健康影響を防ぐために厳格に定められています。現在の基準では、1時間値の1日平均値が0.04ppm(40ppb)以下、かつ、1時間値が0.1ppm(100ppb)以下であることが求められています。この基準は、四日市ぜんそくなどの公害病の経験を踏まえて設定されたもので、呼吸器への悪影響を防ぐための重要な指標となっています。​
大気汚染の監視システムでは、測定局での1時間値が一定のレベルを超えると、段階的に「情報」「注意報」「警報」が発令される仕組みになっています。例えば、1箇所以上の測定局の1時間値が150ppb以上となり、その状態が継続すると認められるときに「情報」が発令されます。注意報は1時間値が200ppb以上の状態を2時間継続したときなどに発令され、住民への注意喚起が行われます。​
実際の測定結果を見ると、対策の効果が現れています。浜松市の例では、令和5年度に測定した全ての測定局で環境基準を達成し、年平均値は0.001ppmと極めて低い値を記録しています。しかし、基準値を下回っていても、敏感な人や既往症のある人は症状が現れる可能性があるため、高濃度時には屋外での激しい運動を避けるなどの対策が推奨されています。
参考)大気中の二酸化硫黄(SO2)/浜松市

陶芸窯焼成時の硫黄酸化物発生と工房での独自リスク

陶器や食器の焼成プロセスは、意外にも硫黄酸化物の発生源となり得ます。粘土には天然由来の硫黄成分が含まれており、高温で焼成する際にこれらが酸化して硫黄酸化物となって大気中に放出されます。特に石油陶芸窯を使用する場合、燃焼時に粘土からの鉱物の匂いが出て、粘土から硫黄、水素などの金属を腐食させるガスが発生すると指摘されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcersj1950/71/812/71_812_C417/_pdf/-char/en

焼成プロセスにおける硫黄酸化物の発生メカニズムを見てみましょう。粘土中に存在する硫化鉄などの硫黄化合物は、約450℃で硫化鉄と硫黄に分解し、硫黄は蒸留されてから二酸化硫黄、さらに三酸化硫黄になります。空気が充分に存在していると、硫化鉄は酸化第二鉄と硫黄の酸化物、あるいは硫酸鉄に変化します。これらの化学反応により、窯の周辺では硫黄のような臭気が漂うことがあります。
参考)http://www.houjyouan.com/WORK-SHOP/page7.html

陶芸工房における独自のリスクとして、作業環境の密閉性が挙げられます。隣家との距離が3mしかない場合など、住宅地に近い工房では周辺住民への影響も懸念されます。還元焼成を行う際には、窯から10~15cmぐらいの火ベロが出て、あたりに硫黄のような臭気が漂い始めることが知られています。このような環境で長時間作業する陶芸家や工房スタッフは、慢性的な硫黄酸化物への曝露リスクにさらされる可能性があります。
参考)隣の家が陶芸で石油陶芸窯を使用してます。燃焼すると粘土からの…

電気窯を使用する場合は、硫黄酸化物の排出が全くないため、環境にやさしい選択肢となります。一方、石油やガスを燃料とする窯では、適切な換気設備の設置と定期的なメンテナンスが不可欠です。陶芸愛好家や工房経営者は、作業環境の安全性を確保するため、換気システムの導入や呼吸保護具の使用を検討すべきでしょう。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/9519e603a2e70338b57415f2338ca715

硫黄酸化物発生源と工場・発電所からの排出

硫黄酸化物の主要な発生源は、工業施設における化石燃料の燃焼です。火力発電所、石油化学工場、製鉄所などが代表的な排出源となっており、これらの施設では石炭・石油・鉄鉱石等に含まれている硫黄分が燃焼することによって大量の硫黄酸化物が発生します。
参考)大気汚染防止対策(火力発電所の環境保全対策) 北陸電力株式会…

火力発電所における対策は特に重要です。発電所では、硫黄酸化物の発生を抑制するため、硫黄分の少ない燃料を使用しているほか、発生した硫黄酸化物を90%以上除去できる排煙脱硫装置(湿式石灰・石こう法)を設置しています。この技術により、かつては深刻だった大気汚染が大幅に改善されました。​
産業施設からの排出には厳格な規制が設けられています。大気汚染防止法により、排出口の高さに応じて硫黄酸化物の排出量の許容限度を定めるK値規制方式が導入されており、各事業者は定められた基準を順守する義務があります。さらに、大気汚染が深刻な地域では総量規制方式が適用され、地域全体での排出量管理が行われています。
参考)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/s51/2085.html

ビル暖房などの中小規模の燃焼施設も、季節的な大気汚染の原因となることがあります。このような施設に対しては、石油系燃料中の硫黄分を規制する燃料使用基準が定められており、低硫黄燃料の使用が義務付けられています。工場や発電所だけでなく、あらゆる燃焼施設が硫黄酸化物削減に取り組むことで、大気環境の改善が実現されています。
参考)排出物質:硫黄酸化物(いおうさんかぶつ)|わたしたちの生活と…