硼酸塩鉱物の一覧と種類、産地、特徴、工業利用

硼酸塩鉱物は乾燥地域の塩湖などで見られる鉱物群で、100種類以上が知られています。工業的に重要な種類から珍しい結晶構造まで、その多様な世界を分類や産地とともに詳しく解説します。あなたは硼酸塩鉱物の奥深さを知っていますか?

硼酸塩鉱物の一覧

この記事のポイント
🔬
硼酸塩鉱物とは

硼素と酸素が結合した硼酸イオンを主成分とする鉱物群で、100種類以上が確認されています

🌍
主な産地

トルコ、米国カリフォルニア州、南米アンデス高地などの乾燥した塩湖や蒸発鉱床で産出

⚙️
工業利用

耐熱ガラス、洗剤、防腐剤、原子炉冷却材など多岐にわたる産業用途があります

硼酸塩鉱物は硼素と酸素が結びついた硼酸イオンを主成分とする鉱物群で、現在までに100種類以上が知られています。硼素原子は酸素によって平面三角形または四面体的に配位される特徴的な構造を持ち、これらの構造単位は互いに重合して複雑な陰イオン基を形成します。炭酸塩鉱物と同様に三方対称を示し、結晶構造の類似性から炭酸塩・硼酸塩として一つのグループで扱われることが多い鉱物です。

 

参考)301 Moved Permanently

硼酸塩鉱物の代表的な種類

硼酸塩鉱物の中で工業的に最も重要な種類として、硼砂、コールマナイト、ウレキサイトが挙げられます。硼砂はNa₂B₄O₅(OH)₄・8H₂Oの化学組成を持ち、ホウ酸ナトリウム8水和物として知られています。コールマナイトは2CaO・3B₂O₃・5H₂OまたはCa[B₃O₄(OH)₃]・H₂Oという化学式で表され、5分子の結晶水を含むホウ酸カルシウム化合物です。ウレキサイトはNaCaB₅O₆(OH)₆・5H₂Oの組成を持ち、CaOとNa₂Oを含んだ16分子の結晶水からなる硼酸塩です。

 

参考)https://www.istone.org/carbonates.html

その他の代表的な硼酸塩鉱物には以下のようなものがあります。

 

硼酸塩鉱物の産地と生成環境

硼酸塩鉱物は主として乾燥気候下の山間盆地にある塩湖で生成します。現在、トルコ西部、アメリカ西部、中国青海省、南米アンデス高地などの塩湖や乾燥した塩湖(塩原)で生産されています。特にトルコのKırka鉱床やBigadiç鉱床は重要な硼酸塩産地として知られています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssj/70/1/70_1_15/_pdf

ウレキサイトは硼素を豊富に含むマグマ性流体から生成すると考えられ、砂漠の塩湖や蒸発残留堆積物からなる盆地で産出されます。これらの鉱物はアンハイドライト、コールマナイト、硼砂などを伴って産出することが多く、アルカリ性ラクストリン環境の蒸発鉱床に見られる特徴があります。

 

参考)テレビ石 ウレキサイト 何故テレビ石と呼ばれるの?

日本国内では岡山県備前市の布賀鉱山が重要な産地として知られており、五水灰硼石やシベリア石など多数の硼酸塩鉱物が産出しています。特に五水灰硼石(Pentahydroborite)は世界でも布賀鉱山のみで見られる透明・白色・淡桃色の非常に稀れで美しい結晶を成す世界的な産地です。

 

参考)http://cpustudy.net/minerals/fukadata.html

硼酸塩鉱物の結晶構造と分類

硼酸塩鉱物の結晶構造は非常に多様です。硼素は三配位と四配位の2つの配位形態を取り、基本構造である三角形型のBO₃³⁻イオンと四面体型のBO₄⁻イオンが多様な組み合わせで結合することで、300種類以上のホウ酸塩水和物が知られています。

 

参考)硼酸塩鉱物

硼酸イオンの重合度によって、ネソ硼酸塩鉱物、ソロ硼酸塩鉱物、シクロ硼酸塩鉱物などに分類されます。硼酸イオンの基本構造単位(FBU)の出現頻度を見ると、<△₂□>環(三角形2つと四面体1つからなる環)が圧倒的に高く、硼砂などの代表的な硼酸塩鉱物に見られます。

 

参考)https://zai-amano.or.jp/wp/wp-content/uploads/2024/12/12.kyono_.pdf

コールマナイトは単斜晶系に属し、柱状、均質、擬菱面体の結晶形態を示します。低温では焦電性および圧電性を持ち、それぞれ熱または機械的な圧力によって電気的に帯電する特性があります。このような結晶化学的性質は、硼酸塩鉱物が炭酸塩や硝酸塩とは異なったバリエーションを持つ要因となっています。

 

参考)http://mineralstreet.jp/Colemanite.html

硼酸塩鉱物の工業利用と用途

硼酸塩鉱物は重要なホウ素資源として、多岐にわたる工業用途があります。耐熱ガラスやガラス繊維の原料として最も広く利用されており、ホウケイ酸ガラスの製造に不可欠な材料です。原子炉の冷却材としても重要な役割を果たし、核分裂反応を制御するための中性子吸収材として使用されています。​
洗剤や防腐剤、目の洗浄剤や各種の消毒剤、写真の現像剤などにも用いられています。硼砂やウレキサイトから得られる硼素化合物は、陶器の釉薬として広く使われ、金属の融解や溶接の際のフラックスとして利用されています。また、コールマナイトは1930年代までホウ素の最大の供給源であり、2021年現在でも世界で工業的に使用されているホウ素鉱物の90%は、コールマナイト、ケルナイト、ウレキサイト、ティンカルが占めています。

 

参考)コールマナイト宝石:特性、意味、価値など

建設業界では、コールマナイト粉末をコンクリートに添加することで圧縮強度を向上させる研究が進められています。天然のコールマナイトを10%添加したサンプルでは、基準サンプルと比較して圧縮強度が39%向上したという報告があります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11730563/

硼酸塩鉱物の独自の光学特性

硼酸塩鉱物の中には、独特な光学特性を持つものがあります。ウレキサイトは「テレビ石」という俗称で知られており、下に置いた文字が上に浮かんで見える光ファイバー効果を示します。この現象は、結晶内部の微細な繊維状構造が光を伝達することで生じます。

 

参考)set-mclass

硼酸塩鉱物の種類は少なく、無色透明で白色のものが多いという特徴があります。しかし、不純物の影響により淡い黄色、ピンク、オレンジ、茶色などの色合いを示すこともあります。コールマナイトは通常無色、灰色、白色ですが、時として淡い色調を帯びた標本が見られます。​
β-BaB₂O₄などの対称中心をもたない構造の硼酸塩は、非線形光学結晶用の材料として注目されており、レーザー技術などの先端分野での応用が研究されています。硼砂の熱分解過程で出現する相は、必ず変化直前の相のホウ酸イオンの結合形態の一部を引き継ぐ特性があり、この性質を利用した材料開発も進められています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/54/2/54_68/_pdf

<参考リンク>
国立科学博物館が提供する硼酸塩鉱物の分類や結晶構造についての詳細情報
set-mclass
東京大学総合研究博物館の炭酸塩・硼酸塩鉱物標本リスト
https://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKoubutu/FShozou/5Tansan/recordlist.php
産業技術総合研究所による硼酸塩鉱物の解説ページ
硼酸塩鉱物