芳香族炭化水素一覧と構造・種類・反応性

芳香族炭化水素にはベンゼン環を持つ様々な化合物があり、その構造や性質は多岐にわたります。単環から多環まで、あなたは芳香族炭化水素の全体像を把握していますか?

芳香族炭化水素一覧と主要な種類

📋 芳香族炭化水素の分類
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単環芳香族炭化水素

ベンゼン、トルエン、キシレンなど1つのベンゼン環を持つ化合物群

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多環芳香族炭化水素(PAHs)

ナフタレン、アントラセンなど複数のベンゼン環が縮合した化合物群

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芳香族性の特徴

共鳴安定化により化学的に安定で、特有の反応性を示す

芳香族炭化水素は、分子中にベンゼン環を持つ炭化水素化合物の総称です。一般式はCnH2n-6で表され、他の炭化水素と比較して水素含有量が著しく低いという特徴があります。芳香族炭化水素は、構造の複雑さによって単環芳香族炭化水素と多環芳香族炭化水素(PAHs)に大別されます。

 

参考)http://db.kobegakuin.ac.jp/kobe-pharm/YUUKI/AROMATIC/aromatic01.htm

単環芳香族炭化水素の代表例として、最も基本的なベンゼン(C6H6)をはじめ、トルエン(C7H8)、エチルベンゼン(C8H10)、キシレン(C8H10)などがあります。これらは工業的にナフサ(炭素数の大きい炭化水素)の接触改質(リフォーミング)によって得られます。ベンゼンからスチレンまでは常温で液体であり、産業において重要な基幹化成品として扱われています。

 

参考)https://pigboat-don-guri131.ssl-lolipop.jp/641%20Aromatic%20hydrocarbon.html

多環芳香族炭化水素には、ベンゼン環が2つ縮合したナフタレン(C10H8)、3つが直線状に縮合したアントラセン(C14H10)、同じく3つの環が角状に縮合したフェナントレン(C14H10)などが含まれます。ナフタレン、アントラセン、テトラセンのように直線状に縮合したものは特に「アセン」と呼ばれます。多環芳香族炭化水素は常温で固体として存在します。

 

参考)芳香族炭化水素 - Wikipedia

芳香族炭化水素の代表的化合物一覧

 

芳香族炭化水素の主要化合物を分子式とともに以下に示します。

 

単環芳香族炭化水素

  • ベンゼン(C6H6):最も単純な芳香族炭化水素で、6個の炭素原子が正六角形の環を形成​
  • トルエン(C7H8):ベンゼン環にメチル基が1つ結合した化合物​
  • エチルベンゼン(C8H10):ベンゼン環にエチル基が結合した化合物​
  • o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン(C8H10):ベンゼン環にメチル基が2つ結合した異性体​
  • スチレン(C8H8):ベンゼン環にビニル基が結合した化合物​

多環芳香族炭化水素(PAHs)

米国環境保護局(EPA)は、ナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセンなど16種類のPAHsを重要監視物質として指定しています。

芳香族炭化水素の基本構造と特徴

芳香族炭化水素の基本となるベンゼンは、6個の炭素原子が正六角形の環状構造を形成し、すべての原子が同一平面上に存在します。炭素原子はsp²混成軌道を形成し、一重結合と二重結合が交互に並ぶように見えますが、実際には電子が非局在化した共役系となっています。

 

参考)https://sekatsu-kagaku.sub.jp/aromatic-hydrocarbons.htm

この電子の非局在化により、ベンゼンは共鳴安定化されており、単なるシクロヘキサトリエンよりもはるかに安定な構造を持ちます。実際、ベンゼンの水素化エンタルピーは、1,3-シクロヘキサジエンの値から予想される値よりも約150 kJ/mol小さく、この差が「芳香族安定化エネルギー」または「共鳴エネルギー」と呼ばれます。

芳香族炭化水素は以下の特性を持ちます。

  1. 閉じた共役系を持つ​
  2. 炭素はsp²混成軌道から成り平面構造をとる​
  3. 炭素-水素比が低く、燃やすと煤が出る​
  4. 脂肪族炭化水素のような求核置換反応を受けず、親電子置換反応を受ける​

芳香族炭化水素の化学的安定性は熱安定性にも現れており、高温処理によって得られた石油留分中には多く含まれていますが、原油中にはわずかしか含まれていません。

 

参考)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001560/1001673.html

芳香族炭化水素の物理的・化学的性質

芳香族炭化水素は、他の炭化水素と比較して比重と屈折率が高いという物理的特徴を持ちます。また、熱安定性がきわめて大きく、高温でもパラフィンやナフテン(シクロアルカン)より相対的に安定です。

 

参考)第1編第1章第1節 石油の組成と性質|石油便覧−ENEOS

化学的には、芳香族炭化水素は水素化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化などの反応を受けやすく、かなり活性に富んでいます。特に親電子置換反応において高い反応性を示し、これは芳香環の電子豊富な性質に起因します。

ベンゼン環に置換している炭化水素基は、光の存在下で塩素Cl2とフリーラジカル連鎖反応を起こします。塩素分子Cl2は、光のエネルギーにより反応性の高い塩素ラジカルClに解離し、これが炭化水素基の水素原子と反応して次々とクロロ化していきます。

芳香族炭化水素の溶解性については、一般に水に難溶または不溶であり、有機溶媒に可溶という特性を持ちます。芳香族炭化水素の分子内には極性が低いため、極性溶媒である水には溶けにくく、非極性溶媒である有機溶媒に溶けやすいのです。

 

芳香族炭化水素の反応性と置換基効果

芳香族炭化水素の反応性は、置換基の種類と位置によって大きく変化します。ベンゼン環に結合する置換基は、その電子的効果によって「オルト-パラ配向性」または「メタ配向性」を示します。

 

参考)芳香族化合物の化学(8)「多環芳香族炭化水素の反応」|のうむ

オルト-パラ配向性を示す置換基には、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシ基(-OH)、アルコキシ基(-OR)などがあり、これらは電子供与性の置換基として働きます。これらの置換基が結合したベンゼン環は、未置換のベンゼンよりも親電子置換反応を受けやすくなります。

一方、ニトロ基(-NO2)やカルボキシ基(-COOH)などの電子求引性の置換基は、メタ配向性を示し、ベンゼン環の反応性を低下させます。これらの置換基効果を理解することは、芳香族化合物の合成において非常に重要です。

多環芳香族炭化水素では、一置換ナフタレンの場合、置換基効果により反応の選択性(配向性)が決まります。ナフタレンの2つの環は電子密度が異なり、α位(1位、4位、5位、8位)とβ位(2位、3位、6位、7位)で反応性が異なります。一般にα位の方が電子密度が高く、親電子置換反応を受けやすい傾向があります。

芳香族炭化水素は、その化学的安定性から、様々な化学反応において結果的に芳香族のベンゼン環を保ったまま、共鳴エネルギーを保持するように反応することが多いです。この性質が、芳香族化合物を特徴づける重要な要素となっています。

 

参考)芳香族炭化水素の全容:環境への影響と対策についての包括ガイド…

鉱石との関連:炭化過程と芳香族炭化水素

芳香族炭化水素と鉱石の関係は、石炭や石油の形成過程において重要な意味を持ちます。石炭は植物遺体が地中で長時間かけて炭化作用を受けて形成された化石燃料であり、その炭化過程において芳香族構造が発達していきます。

 

石炭の炭化度が進むにつれて、脂肪族構造が減少し、芳香族構造が増加していきます。褐炭から瀝青炭、さらに無煙炭へと炭化が進むにつれて、炭素含有率が高まり、芳香族縮合環構造が発達します。この過程で、単環芳香族から多環芳香族炭化水素へと構造が複雑化していきます。

 

石油の形成過程においても、有機物が地下の高温高圧環境で熱分解を受ける際、芳香族炭化水素が生成されます。特に、石油の接触改質(リフォーミング)プロセスでは、ナフサ(炭素数が大きい炭化水素)から触媒を用いて芳香族炭化水素を選択的に生成します。

また、多環芳香族炭化水素(PAHs)は、有機物の不完全燃焼によっても生成され、化石燃料の燃焼、火山活動、森林火災などの自然現象によっても環境中に放出されます。これらのPAHsは土壌や堆積物中に蓄積し、長期間残留する性質があります。

 

参考)多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic …

鉱物油や石炭タールには、様々な種類の芳香族炭化水素が含まれています。これらは工業的に分離・精製され、化学工業の原料として利用されます。ナフタレンは染料中間物、合成樹脂、爆薬、防虫剤などとして使用されており、石炭タールから工業的に抽出される代表的な多環芳香族炭化水素です。

ENEOS石油便覧:石油の組成と性質についての詳細な解説
ボーケン品質評価機構:多環芳香族炭化水素(PAHs)の種類と分析方法

 

 


北川式・光明理化 ガス検知管 118SB 芳香族炭化水素と共存するベンゼン(校正証明書・試験成績書・トレーサビリテイ体系図 付) 11011810