ヒドロキシ基と水素結合のメカニズム:鉱物の特性を解説

ヒドロキシ基が水素結合を形成する理由は、酸素の電気陰性度と孤立電子対にあります。鉱物に含まれるヒドロキシ基の構造や、水素結合の強度、分子間相互作用について詳しく解説。なぜヒドロキシ基が強い極性を示すのでしょうか?

ヒドロキシ基と水素結合のメカニズム

この記事で分かること
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ヒドロキシ基の構造と電気陰性度

酸素と水素の電気陰性度の差が生み出す極性について

水素結合が生じる理由

孤立電子対と部分電荷が引き起こす分子間相互作用

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鉱物とヒドロキシ基の関係

珪酸塩鉱物表面における水素結合ネットワークの形成

ヒドロキシ基の構造と電気陰性度の役割

 

ヒドロキシ基(-OH)は、酸素原子(O)と水素原子(H)が結合した官能基で、この二つの原子の電気陰性度の大きな差が水素結合形成の鍵となります。電気陰性度とは、原子が電子を引きつける強さを示す指標で、酸素の電気陰性度は3.5、水素は2.1と大きく異なります。

 

参考)【高校化学】「水素結合」

この電気陰性度の差により、ヒドロキシ基のO-H結合は大きく分極し、酸素原子が部分的な負電荷(δ-)を、水素原子が部分的な正電荷(δ+)を帯びます。水素原子は、結合している酸素に電子を引っ張られることで電気的に弱い陽性となり、他の電気陰性度の大きい原子にも引っ張られやすい状態になります。

 

参考)エタノールがヒドロキシ基を持つことで水素結合をするのは何故で…

さらに重要な点として、酸素原子は2つの孤立電子対(非共有電子対)を持っており、この孤立電子対が水素結合を受容する役割を果たします。つまりヒドロキシ基は、水素原子で水素結合を供与しながら、酸素原子の孤立電子対で水素結合を受容することが可能な、両面性を持つ官能基なのです。

 

参考)ヒドロキシ基 - Wikipedia

yakugaku lab - 水素結合の基本原理と形成メカニズム
水素結合のドナー分子とアクセプター分子の関係性について詳しく解説されています。

 

ヒドロキシ基が水素結合を形成する分子間相互作用

水素結合は、電気陰性度の高い原子(F、O、N)に結合した水素原子が、別の電気陰性度の高い原子と引き合うことで生じる分子間力です。ヒドロキシ基の場合、部分正電荷(δ+)を帯びた水素原子が、隣接する分子の酸素原子が持つ孤立電子対(部分負電荷δ-)に静電的に引きつけられることで水素結合が形成されます。

 

参考)水素結合(Hydrogen Bond) - yakugaku…

この水素結合の強度は、一般的な分子間力であるファンデルワールス力の約10倍も強力です。具体的には、水素結合のエネルギーは5〜30 kJ/molの範囲にあり、これは共有結合やイオン結合よりははるかに弱いものの、分子間の相互作用としては非常に強力な部類に入ります。

 

参考)水素結合とは(水などの例・沸点・エネルギー・距離と強さの比較…

水(H₂O)が特に高い沸点を示すのは、1つの水分子が最大4つの水素結合を形成できるためです。同様に、ヒドロキシ基を持つアルコール類も、このような水素結合ネットワークを形成することで、炭化水素のみの化合物と比較して異常に高い沸点や融点を示します。

 

参考)https://ameblo.jp/kyushinjuku2/entry-11399017641.html

ヒドロキシ基を持つ化合物の特徴的な性質:

  • 水素結合により沸点・融点が上昇する
  • 水などの極性溶媒に溶けやすくなる
  • 分子間力が強化され液体状態を保ちやすい
  • 水素結合を切断するのに余分なエネルギーが必要

鉱物表面におけるヒドロキシ基と水素結合

鉱物、特に珪酸塩鉱物の表面には多数のヒドロキシ基が存在し、これらが水素結合ネットワークを形成することで、鉱物の表面特性や反応性を決定しています。珪酸塩鉱物を構成するオルトケイ酸Si(OH)₄は、4つのヒドロキシ基を持つ弱酸性の化学種で、ガラス(シリカ)の基本単位でもあります。

 

参考)https://resources.rigaku.com/hubfs/2024%20Rigaku%20Global%20Site/Resource%20Hub/Press%20Releases/Japanese/Rigaku_Press_Release_20211210_Sansouken_1.pdf?hsLang=ja

近年の研究では、オルトケイ酸のかご型8量体(Q₈H₈)を用いた水素結合性無機構造体(HIF: Hydrogen-bonded Inorganic Framework)が開発されています。この構造体では、Q₈H₈の8個の頂点に放射状に存在するヒドロキシ基が、隣接する分子と水素結合を形成し、1次元、2次元、3次元のネットワーク構造を作り上げます。

鉱物表面でのヒドロキシ基の役割は、単なる構造的な要素にとどまりません。例えば、グリシンなどのアミノ酸が鉱物表面に吸着する過程では、まずグリシンのヒドロキシ基の水素原子が鉱物表面のヒドロキシ基の酸素原子と水素結合を形成します。その後、グリシンの水素原子が鉱物表面のヒドロキシ基に移動し、最終的にグリシンの酸素原子が鉱物表面の珪素原子と結合を作ります。

 

参考)特定課題報告書印刷(Print out of Special…

産総研・リガク - 水素結合性無機構造体(HIF)の開発成果
オルトケイ酸のかご型構造と水素結合ネットワークについての詳細な研究成果が紹介されています。

 

ヒドロキシ基の水素結合と物理化学的性質の関係

ヒドロキシ基が形成する水素結合は、化合物の物理的・化学的性質に多大な影響を与えます。エタノールのような低分子アルコールでは、炭化水素鎖が短いためヒドロキシ基の影響を受けやすく、結果として強い水素結合を形成します。一方で、炭素数が増加するにつれてヒドロキシ基が分子内に占める割合が低下し、水に対する溶解性が減少します。

 

参考)官能基とは?その特徴と有機化学における重要性

水素結合の強度を他の化学結合と比較すると、その特殊性が明確になります:

結合の種類 結合エネルギー 特徴
共有結合 150〜400 kJ/mol 最も強固な化学結合
イオン結合 100〜300 kJ/mol 電荷間の静電気的引力
水素結合 5〜30 kJ/mol

F、O、Nを含む分子間に形成
参考)水素結合 - Wikipedia

ファンデルワールス力 0.5〜3 kJ/mol 一般的な分子間力


特にフッ素(F)、酸素(O)、窒素(N)と水素(H)の組み合わせでは、強い極性を持つ結合が形成されます。これらの元素は電気陰性度が特に高く、HF(フッ化水素)、H₂O(水)、NH₃(アンモニア)などの化合物は、分子量が小さいにも関わらず異常に高い沸点を示します。

分子内水素結合も、化合物の安定性に重要な役割を果たします。2-ヒドロキシ安息香酸アニオンでは、分子内でヒドロキシ基とカルボキシ基の間に水素結合が形成され、この分子内水素結合により共役塩基が安定化します。

 

参考)[院試頻出]有機化合物の酸塩基の強弱の見分け方を徹底解説!

ヒドロキシ基を持つ化合物の実用例と応用

ヒドロキシ基の水素結合形成能力は、様々な実用材料や生体分子で活用されています。消毒液として使われるアルコールでは、ヒドロキシ基内の水素結合を振り切るために余計な熱エネルギーが必要となり、これが沸点上昇の原因となっています。

 

参考)消毒液の話|二ヒコテ

生体系では、スフィンゴミエリン(SM)などのスフィンゴ脂質が重要な役割を果たします。SMはヒドロキシ基やアミド基など水素結合供与体や受容体を多く有するため、強い分子間相互作用を誘起し、細胞膜内で脂質ラフトと呼ばれる秩序立った膜領域を形成します。

 

参考)蛍光修飾したスフィンゴミエリン誘導体の脂質ラフト観察への応用

鉱物関連では、珪酸塩鉱物の表面に存在するヒドロキシ基が、様々な化学反応の触媒サイトとして機能します。鉱物表面でのペプチド形成反応において、ヒドロキシ基の水素結合がアミノ酸の吸着と反応を促進し、生命の起源に関わる化学進化の過程で重要な役割を果たしていた可能性が示唆されています。

ヒドロキシ基を持つ化合物の応用分野:

  • 💊 医薬品: 水溶性向上と生体適合性の確保
  • 🧪 触媒材料: 鉱物表面での化学反応の促進
  • 🔬 材料科学: 水素結合性構造体(HIF)による新規材料開発​
  • 🧬 生体分子: DNAの塩基対形成や脂質ラフトの構造維持

キチンやセルロースなどの天然高分子も、分子鎖間で形成される水素結合により強固な結晶構造を作り上げます。この水素結合ネットワークは非常に安定で、結晶性キチンを破壊するには水中で25 MPa、320°Cという極端な条件が必要です。

 

参考)キチン加水分解酵素は熱ゆらぎを利用して1方向に動きながら結晶…

ミネルバクリニック - 官能基の特徴と有機化学における重要性
ヒドロキシ基を含む各種官能基の物理化学的性質と生体内での役割について包括的に解説されています。

 

 


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