シーベルト(Sv)は、人が受ける被ばく線量を表す国際的な単位です。この単位は放射線を受ける側、すなわち人体に対して用いられ、シーベルトで表した数値が大きいほど人体への放射線の影響が大きいことを意味します。日常生活で受ける放射線の量は、ミリシーベルト(mSv)単位で表されることがほとんどです。
参考)環境省_被ばく線量の比較(早見図)
1シーベルト(Sv)=1,000ミリシーベルト(mSv)=1,000,000マイクロシーベルト(μSv)という関係があります。例えば、歯科レントゲン写真1回あたりの被ばく線量は約5μSv程度で、これは人体に有害な事象が起きる最小の実効線量である100mSvの20,000分の1にすぎません。
参考)https://www.r-info-miyagi.jp/r-info/column/column_2/
シーベルトという単位名は、放射線の生物影響や人への健康影響に強い関心を持ち、放射線照射と人体の受ける影響を測る単位の研究に取り組んだスウェーデンの物理学者ロルフ・シーベルト博士の業績を評価して採用されました。
参考)放射線防護に用いる量と単位~第2回 グレイとシーベルト~
グレイ(Gy)は、放射線の吸収線量を表す単位で、放射線防護の基本となる物理線量です。吸収線量とは、放射線を受けた物質が単位質量あたりで吸収したエネルギーから「被ばく線量」を表したもので、1グレイは物質1kgあたり1ジュール(J)のエネルギー吸収があるときの線量を表します。
参考)放射線の量と単位
国際放射線防護委員会(ICRP)は、人体の吸収線量について、特定の臓器や組織が吸収する放射線エネルギーをその重量で割って定義しています。グレイは放射線の種類や物質の種類に関係なく使用される普遍的な単位です。
X線を被ばくした場合、放射線荷重係数が1であるため、等価線量=吸収線量となり、1Sv=1Gyとみなすことができます。この関係性は、医療現場での被ばく線量管理において重要な知識となります。
参考)X線(エックス線)の単位|株式会社近畿レントゲン工業社|19…
被ばく線量の単位を正しく換算するには、いくつかの段階を経る必要があります。まず吸収線量(グレイ)に放射線加重係数を乗じて等価線量(シーベルト)を求めます。吸収線量が同じであっても、放射線の種類によって人体影響の度合いが異なるため、この補正が必要です。
参考)環境省_グレイからシーベルトへの換算
次に、人体各組織臓器の等価線量に組織荷重係数を乗じ、すべての組織臓器について和をとったものが実効線量となります。実効線量E(Sv)=∑(組織荷重係数W×等価線量H(Sv))という計算式で表されます。
参考)東北大学災害科学国際研究所「災害と健康プロジェクトユニット」
内部被ばくの場合は、摂取量(ベクレル)に預託実効線量係数を乗じることで内部被ばく線量を求めることができます。預託実効線量係数は、放射性核種の種類や年齢ごとに細かく定められています。なお、旧単位rem(レム)と換算すると、1Sv=100remという関係があります。
参考)環境省_内部被ばく線量の算出
実際の放射線測定では、実効線量を直接測定することは不可能であるため、「実用量」という概念が導入されています。実用量には「周辺線量当量」と「方向性線量当量」があり、それぞれ測定目的に応じて使い分けられます。
参考)6-2-1-11 放射線の量と単位|JEMIMA 一般社団法…
周辺線量当量は、直径30cmの球形状の人体等価ファントムに放射線が平行に一様に入射したとき、入射方向にある特定深さdでの吸収エネルギーで表されます。全身の被ばくに対応する場合には1cmの深さの値H*(10)が使われ、人の被ばく線量を測定する目的で1cm線量当量率という値(単位はμSv/h)で表示されます。
参考)放射能Qhref="https://monitoring.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/etc/qanda01.html" target="_blank">https://monitoring.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/etc/qanda01.htmlamp;A 放射線基礎知識編 |環境放射線測定結果
方向性線量当量は、半径方向深さdの位置における線量で、正面入射の70μm線量当量はH'(0.07)、3mm線量当量はH'(3)、1cm線量当量はH'(10)が使われます。これらの実用量は、実効線量の安全側の近似値として日常の測定に用いられています。
鉱物の中にはウラン(U)やトリウム(Th)といった放射性元素を含み、放射線を顕著に出すものがあり、これらを放射性鉱物と呼びます。数cm以下の大きさの放射性鉱物の放射能は、直近で0.数~数十μSv/h程度であることが多く、花こう岩は0.1μSv/h程度の放射線を発します。
ウラン鉱物やトリウム鉱物は、いずれも放射性を有し、α線を放出します。ウランはα線放射体であり、天然ウランの出すγ線やβ線はウランの壊変生成物から放出されています。数十万年から約100万年前より古い時代にできた鉱物は、ウランやトリウムが放射壊変してできたラジウム(Ra)、ラドン(Rn)、ポロニウム(Po)などの娘核種を含むため、放射能が強くなります。
参考)ウラン・トリウム鉱石に含まれる放射性核種 (04-03-02…
鉱石の放射能はガイガーカウンターやシンチレーションカウンターで測定しますが、まず空気中のバックグラウンドを測定し、その後鉱物を近づけて測定した値から差し引いた値が鉱物の放射能となります。個人の被ばく線量管理では、活動中の線量を管理するため、積算線量を表示し警報を出す個人警報線量計(電子式線量計)が必要です。
参考)https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/h23/2303/230318_2houdou/honbun/02.pdf
環境省の「グレイからシーベルトへの換算」ページでは、放射線加重係数と組織荷重係数を用いた実効線量の計算方法が詳しく解説されています
首相官邸の「放射線防護に用いる量と単位」では、グレイとシーベルトの定義と使い分けについて、図解付きでわかりやすく説明されています
量子科学技術研究開発機構の「放射線被ばくの早見図」は、医療放射線や自然放射線による被ばく、線量に応じた人体への影響を一覧で確認できる資料です