発光ダイオード(LED)は、p型半導体とn型半導体を接合したpn接合構造を持つ半導体素子です。p型半導体には正孔(ホール)が多く存在し、n型半導体には電子が豊富に含まれています。この2つの半導体を接合した境界部分が、光を生み出す重要な領域となります。
参考)発光ダイオード - Wikipedia
順方向に電圧をかけるとn型側の電子がp型領域へ、p型側の正孔がn型領域へと移動します。通常のダイオードではこの電子の流れが電流として機能するだけですが、発光ダイオードでは接合部付近で電子と正孔が出会い、再結合という現象が起こります。
参考)LEDの発光原理
この再結合の際、電子が持っていたエネルギーが光として放出されることでLEDは発光します。電子は伝導帯から価電子帯へと移動し、その間のエネルギー差(禁制帯幅、バンドギャップ)に相当するエネルギーが光に変換されるのです。この発光原理はエレクトロルミネセンス効果と呼ばれ、熱や機械的運動を介さずに電気エネルギーを直接光に変換できる効率的な方法です。
参考)発光ダイオード(LED)の発光の原理・仕組みや違いとは
発光ダイオードから放出される光の色(波長)は、使用する半導体材料のバンドギャップによって決まります。バンドギャップが大きいほど高いエネルギーの光、つまり波長の短い光が放出されます。例えば赤外線LEDに使われるガリウムヒ素(GaAs)のバンドギャップは1.4eVで波長885nmを発光し、青色LEDに使われる窒化インジウムガリウム(InGaN)は波長460nm程度の光を放出します。
参考)LEDの発光波長
各色のLEDに使用される代表的な材料を見ると、赤色にはアルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs、波長660nm)、橙色にはアルミニウムインジウムガリウムリン(AlGaInP、波長610-650nm)、緑色にはリン化ガリウム(GaP、波長555nm)が用いられます。同じ材料でも組成比を変えることで発光色を調整できることは、材料科学における興味深い特徴です。青色と緑色のLEDはどちらもInGaNを使用しますが、インジウムとガリウムの比率を変えることで異なる色を実現しています。
参考)LEDの基礎
発光波長λ(ナノメートル)は、バンドギャップエネルギーEg(電子ボルト)から次の式で計算できます:λ = 1240 / Eg。この関係式により、材料のバンドギャップがわかれば発光波長を予測することが可能です。
東芝デバイス&ストレージ - LEDの発光波長と材料の関係についての詳細な技術資料
発光ダイオードが発光を始めるためには、一定以上の電圧が必要です。この電圧を順方向降下電圧(VF)と呼び、一般的なシリコンダイオードと比較するとLEDは高い電圧を必要とします。色によって必要な電圧は異なり、赤外線LEDは約1.2V、赤色は2V、緑色は2.5V、青色や白色は3.2V程度が目安となります。
参考)発光ダイオードって、最低どのくらいの電流もしくは電圧で光るこ…
LEDの明るさは流れる電流によって変化します。しかし単純に電圧を上げればよいわけではなく、順方向電圧と順方向電流の関係はLEDの個体差や周囲環境によってばらつきがあるため、電圧固定では明るさが不安定になることがあります。そのため実際の回路設計では、抵抗を用いて電流を制御する方式が一般的です。
参考)https://unicraft-jp.com/article/led.shtml
ある電圧を超えると電圧上昇に対して電流の増加が急激になり、電流量に応じた発光が始まります。このため、LEDを安全に使用するには絶対最大定格より低い値で動作させることが重要です。また、LEDに逆方向の電圧がかかる場合は、並列に逆方向ダイオードを接続してLEDにかかる電圧を約1V以下に抑える保護回路が必要になります。
参考)http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H18/html/H1812A07_.html
白色LEDは単一の半導体材料だけでは作れません。最も一般的な方式は、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせる疑似白色タイプです。青色LEDから出た青色光の一部が蛍光体に吸収されて黄色光に変換され、残った青色光と混ざり合うことで白色に見えます。この方式の発光スペクトルには青色と黄色の2つのピークが現れます。
参考)【ひかりペディア】LEDの種類|ブログ -あかりと光の情報局…
より高品質な白色光を求める場合、青色LEDと赤色・緑色蛍光体を組み合わせる高演色タイプが使われます。この方式では青色LEDの光が緑色蛍光体と赤色蛍光体によってそれぞれ緑色光と赤色光に変換され、元の青色光と合わせて三原色による白色を作り出します。さらに、紫色LEDをベースに赤・緑・青の3色蛍光体を組み合わせる方式もあり、こちらはより自然な白色光を実現できます。
参考)http://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi315.html
蛍光体には希土類元素を含む材料が多く使われており、照明やディスプレイの用途で重要な役割を果たしています。青色LEDの開発成功は白色LED実現への道を開き、照明技術に革命をもたらしました。
参考)LEDの歴史・発明
パナソニック - 白色LEDの仕組みと蛍光体の役割についての解説
青色LEDの開発は、LED技術において最も困難な挑戦の一つでした。赤色や緑色のLEDは比較的早く実用化されましたが、白色光やフルカラーディスプレイに必要な青色LEDの実現には長い年月を要しました。
1985年に赤﨑勇氏と天野浩氏が青色LEDに必要な窒化ガリウム(GaN)の単結晶化に成功し、1989年に青色LEDを開発しました。その後、1987年から新技術開発事業団(現JST)の委託を受けた豊田合成株式会社が赤﨑教授らと共に実用化を目指し、窒化ガリウムを用いたpn接合の作成に成功しました。
参考)青色発光ダイオードを実用化|ナノテクノロジー・材料|事業成果…
中村修二氏によって1993年に高輝度青色LEDの量産技術が開発され、1995年に事業化されました。この成功により、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LEDが開発され、現在の照明市場を形成する基盤となりました。2004年には東北大学の川崎雅司氏らが酸化亜鉛を用いた青色LEDの開発に成功し、これは高コストの窒化ガリウムに代わる可能性として期待されています。
青色LED開発の意外な事実として、JSTが豊田合成に支出した開発費5億5,000万円に対して、実施料として約56億円が国家に還元されたという経済的成功も注目に値します。この技術革新により、LEDは低消費電力と長寿命という大きなメリットを持つ光源として、将来的にほとんどの照明を置き換える存在になると考えられています。

「電気、マジわからん」と思ったときに読む本